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さくら

作者: さくら

思いつくままにさらさらと書いた話しです。

また今年も桜の季節がやってきた。


あの人と出逢った…。



私は花の中でも桜が一番好きだった。

あの人も好きだって言ってくれた。

君と見る桜は綺麗だと…。

昼間見たときと、夜見たときと違う顔を見せてくれるから。


でも、いまは一番嫌いかも知れない。



だって、毎年一緒に見ようと約束したあの人が逝ってしまったから…。



どうして…。


急に逝ってしまったの。

私を残して…。


出来ない約束はしないでよ…。



あの日は私の誕生日だった。

話したいことがあるからと…。

約束したレストランで待っていたのにいつまでたってもあの人はやって来ない。


心配して、電話してもコールはするけど、出てくれない。


どうしたんだろう。

あの人から逢いたいって、約束したのに…。


何時間待っても来ないから、家に帰った。


その日は眠れなかった…。

付き合って3年になるけど、こんなこと、初めてだったから。



何があったんだろうか。

もしかして、他に好きな人が…!


話したいことって、そういうことなのかしら。




でも、それならなぜ来なかったのかしら。


分からないわ…。

連絡なしでドタキャンするような人じゃないのに。


真面目過ぎる人だから。

私が時々からかいたくなるくらい。


ああ…、何の話しか聞いておけばよかった。


逢ったときに話すよ。

電話で言うことじゃないから…。



そう言うから聞かなかったけど…。

聞いておけばよかった。



結局、聞けずじまいだったから…。





あの日から3日後、突然、あの人のお母さんから電話があった。

本当に突然に…。




その内容が信じられなかった。

あの日、交通事故に遭って逝ってしまった…。


嘘、

嘘、

嘘だ。

そんなことあるわけない…。


だって、あんなに元気だった人が…。




でも、信じるしかないの…。


だってお葬式の日に呼ばれたんだもの。



あの人のお母さんは泣いていた…。


ごめんなさい。

もっと早く伝えないといけないのだけど、あの子に止められて…。


心配をかけたくないから。

まだ伝えていてはないけれど、将来の僕の奥さんになる人だから…。




どうして。

こんな形では聞きたくなかった…。


直接あの人の口から聞きたかったのに…。


それに、お母さんから渡された指輪…。


綺麗なダイヤモンドの指輪…。


あの子があなたに渡すつもりで買ったものだから、形見だと思って受け取ってちょうだい。


こんな、

こんな、

綺麗な指輪…。


肝心なあの人がいないのに、受け取れないよ…。


あの人から貰ったらどんなに嬉しかったか…。


この涙は、

悲しい涙…。


嬉し涙だったら良かったのに…。



私は、

あの人が好き。


誰よりも…。


心配をかけたくなかったなんて…。

優しい人だったけど、憎らしい…。


少しでも側にいたかったのに…。

こんな私の気持ちがわからないなんて…。




あれから一年、またさくらの季節がやって来た。


あの人はいないのに、さくらは綺麗に咲くのね…。


あの人と出逢った季節。

そして、私の生まれた季節。


あの人を失った季節。


いつか、このさくらがまた好きになれることがあるかしら…。




好きになったら、あの人を忘れたってことかな?


ううん、きっと忘れないわ…。


だって、あんなに好きだった人だもの。

ううん、いまでも大好きな人…。


こうして、目をつむったら、あの人の笑顔が、言葉がいつでも蘇ってくる…。


目を開いたら消えてしまうけど…。



「…さん、玲子さん。」



誰、私を呼ぶのは…?



目をそっと開くと逝ってしまったあの人と同じ顔の人が…。




いえ、違うわ。

よく似ているけれど、この人はあの人の二つ違いの弟。



「また、兄貴を思い出していたの?もう一年だよ。」

彼によく似た顔で皮肉そうな声で尋ねます。



私は寂しそうに笑って、

「ええ。まだ忘れられないみたい。」



「そっか…。兄貴も罪なことをしたもんだね。」



「罪だなんて…。いい思い出をたくさんもらったわ…。あ、いけない。早く行かないと、遅刻するわよ!」

そういうと私は思わず、あの人の弟を急かして走り出しました。



「なんだよ。玲子さんが思い出に浸っているせいじゃないか…。」

不満げに彼の弟はぶつぶつ言いながら、一緒に走り出しました。


「ちょっと、会社に着いたら玲子さんは止めてよ。」


「なんで?」



「当たり前でしょ!あなたは新入社員で、私は先輩なのよ。」



「いいじゃん。そんな細かいこと。」

口を尖らせてあの人によく似た顔であの人の弟が言います。



「良くないわよ。よくそれで入社試験通ったわね。」

私は睨みつけるように言い返します。



「そりゃあ昔から要領だけはいいですから。」

あの人の弟はニヤリと笑って答えます。



それを聞いた私は、あの人と大違いね。

真面目だけが取り柄だったあの人。


この弟と本当に兄弟なのかしらね。


でも、この生意気な弟といるとまるであの人が戻ってきたような気になるから不思議よね…。




玲子さん、

ホントは僕、

頑張ったんだよ。


兄貴がいるからダメかもしれないけどあなたと同じ会社に入るために…。


でも、もう兄貴はいない!


期待してもいいかな…。




「ほら!行くわよ。

新入社員、遅刻したら恥よ!」

私は時間がないあまり、あの人の弟の手を思わず掴んで走り出しました。



彼の気持ちも知らずに…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 題名にひかれて読ませて頂きました。 好きだったものが、好きだった人によって嫌いになってしまう。 個人的ですがもの凄くわかります。 そしてさくらの季節が来る度に思い出す、複雑ですよね。 と…
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