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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
ゼロの胎動~対極生命~
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21,本当の答え

「誰彼構わず、喧嘩を売るなって、いつも言ってるでしょ!」

「っるっせえな。お前だって、大声出すなって言ってあるだろ、城国の野郎に見つかっちまうぞ! ……まあ、ここはもう、知られてるけどよ」

 ティアナは、カルマンとシンラに、ラティオは、アイに合流した。合流した矢先の事態が、これだった。喧嘩するほど仲が良い、というべきなのか、半ば自然すぎて、絵に描いたような夫婦喧嘩、である。

「大体、見知らぬ人に殴りかかって、怪我でもしたらどうすんのさ!」

 止まる事を知らない、アイのラティオに対する口撃。ラティオはラティオで、耳の穴を掻いている。その態度が、更にアイの口撃に火をつける。

 その最中、シンラが小声で、

「もう怪我させられてるんだけどね」

 と言う。確かにそうだ。

 あれだけ派手に暴れられて、怪我をしない方がおかしい。その点では、素朴な女性アイも、人知を超えた暴れっぷりに慣れてしまい、普通の考え方から、少し離れてしまっているのかもしれない。見た目は、どう見ても常識人なのだが……。

「へっ、怪我もクソも、こんぐれえやらないと、俺が大怪我してたぜ! ……なあ?」

 途端、急に視線をティアナに向けてくる。話題をいきなり自分に向けられ、あたふたしてしまう。

「ラティオなんて、例えトンカチで殴っても、怪我なんてしないでしょ!」

 慌てたのは、ほぼ無意味で、アイによって話題は、ラティオに戻された。

「へへへ、そりゃお前、俺の打たれ強さの前には、トンカチ程度……」

「はい、大馬鹿決定!」

 夫婦喧嘩というより、夫婦漫才といった方が、適切な表現だったのかもしれない。ティアナ達は、そんな光景を見て、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

 この仲良し口論は、結果的に数分に及んだ。この二人は、いつもこんな事をしているのだろうか、と考えてしまう。

「お話は終わったかしら?」

 見るに見かねて、シンラが口を開く。こういう時、気にせずに話せる、シンラは心強い。

「あ、はい、どうもすみません!」

 アイは、ひたすら平謝りしている。こうしていると、いたって普通の人なのだが、どうもラティオと話し出すと、口調も変わるらしい。それはアイが、ラティオに対して、気を許している事にもなるだろう。他人事として見ても、仲が悪いから喧嘩をしているようには、とても見えないからである。

「とりあえず、みなさんにはラティオが、とんだご無礼をしましたので、私達が暮らしている場所へ、案内します。快適、とはいかないでしょうけど、少しでも旅の疲れを癒していただければ」

 アイの言葉に、カルマンが、

「それは助かるな。デスクロウム火山地帯を抜けたばかりで、少々の休憩が必要だと考えていたところでな」

 と、答えた。デスクロウム火山地帯だけではなく、黒騎士との戦い、ラティオの攻撃など、決して多くはないが、密度の濃い戦いを行っていて、予想以上の疲労があったのだ。

 それに元々は、ティアナの変調により、休む場所を探していたのである。結果だけを見れば、良い結果としてなっている。

「それでは案内しますね、私についてきてください! ラティオ、後ろはよろしくね」

 言われるままに、ラティオは後方へ移動する。理由を聞くと、城国兵の後ろからの奇襲を、警戒しての事だという。

 アイの後につき、二、三分程、歩いたところに、その集落はあった。村というには、あまりにもお粗末なものであるが、どこか豊かさを感じられる。大陸各地が、この数年の間で、ほとんどが壊滅させられ、残っているのは一部の町のみ、と言われているような時世に、これ程にダメージを免れているのも、ほぼ希少例といっても良いだろう。

 だが、全ての真相がわかってみれば、ここが何故無事だったのかは、すぐにわかる話だ。その大きすぎる一つの理由は、何故かはわからないが、アルティロイドであるラティオが、この集落に味方している事だ。これならば、城国兵が攻めてきても、何の苦もなく守りきる事ができるだろう。何よりこんな場所を、無理してでも壊滅させる必要性もない。

「あの家で待っていてください。私は長に知らせてきますね!」

 アイに教えられた家は、この場所の雰囲気として見れば、随分と立派なものだった。木材でしっかりと作られた、正真正銘の家と呼べるものだ。大陸随一のサンバナの町でさえ、ここまで立派な家には、一部の地位を持った人しか、住んではいないだろう。

「お前らは先に行ってろ」

「ラティオさんは?」

「俺はもう少し、追手を警戒してる。近場に気配はないから、大丈夫だと思うけどよ、念のために、な」

 単純かと思えば、この辺の警戒の仕方は、実に用心深い。要所で見える、ラティオの経験値は、特筆すべき点だろう。決して馬鹿ではない、という事だ。

 テコでも動き出しそうにない為、仕方がなくティアナ達は、指定された家へと入らせてもらった。中に入ると、全てが木造による、自然の香りに心に安らぎを感じる。

「凄く良い匂いです!」

「ええ、そうね。この香りは、ラパッハの木ね。ラパッハの木は、その独特な香りと、頑丈さが特徴なのよ」

 シンラの豆知識に、ティアナとカルマンは、感心するばかりだ。

 一息ついて間もなく、アイとラティオが、家に戻ってくる。

「みなさん、お待たせしました! 何もない所で、お出しできるものも、ほとんどないのですが……」

 アイが、申し訳なさそうな顔で言う。

「いや、気にしないでくれ。勝手にお邪魔したのは、俺達の方だ。立派な建物の中で、休ませてもらえるだけで、十分にありがたいさ」

 カルマンの言葉に、ティアナとシンラも、同意する。それを見ると、アイの顔はパッと明るくなった。

「おい、ティア……とかいったか」

 和気あいあいとした雰囲気の中で、今まで黙っていたラティオが、口を開く。口調は真剣だ。ラティオにしては、だが。

「何ですか?」

「さっきの事だ。ちっと面貸してくれるな? おい、アイ。客の相手でもしててくれよ」

 アイは「言われなくても!」と言い、膨れっ面をしてみせた。

 ラティオは鼻で笑い、そのまま家を出ていく。ティアナも後を追い、家を出てみると、大股を開いて、お世辞にも上品とはいえない座り方をする、ラティオを確認した。

「さっきの続きだけどよ、お前もアルティロイドなんだろ? 隠さなくたっていいぜ、何となくだがわかるし、お前がアルティロイドだったとしても、別にどうこうするわけでもないからな」

「……私も確認させてもらいますけど、ラティオさんも、なんですよね?」

「そうだ。……俺もかつては城国に所属していて、城国王に命じられて爆炎の騎士として、その使命を全うしていた。……まぁ、今にして思えば、何故俺は好き勝手に地上の人間を殺していたのかは、皆目見当もつかないんだがな」

 ラティオの勢いの良い会話に、ティアナも頭の中での整理が追いつかない。このラティオの言っている事は、歴史上と見れば、ティアナの生まれる以前の事であり、その時代を体験していないティアナには、雲を掴むようなものである。

 とりあえず整理するとこうなる。

 ラティオは、かつて城国所属のアルティロイドであり、爆炎の騎士という名を持っていた。

 この内容からすると、爆炎の騎士として活動していた頃には、地上の人間を大量に殺戮したが、何故そのような事をしたのか、ラティオ本人にはわかっていないという事だ。

 この二点で、おかしな事は前者ではなく、後者である。自分の手で殺戮をしておいて、どうして行動したのかは、頭の中で把握していないというのだ。これ程ムシの良い話はないだろう。

「今は……今は、殺したいという気持ちはないんですか?」

 答えようによっては、怒りをこめてティアナは言う。

「今は、な。それどころか、今の俺には守りたいと思えてる。この場所も、人もな。あの時の俺は、地上の人間を殺す事が、全てのようだったよ……。まるで洗脳されたようにな」

 洗脳されたように、その言葉がティアナの頭に、引っかかる言葉として残った。

 だがそれ以上に、ラティオの口から出てきた、守りたい、という言葉に、心が暖かくなるのを、感じられたのである。

「……で、他人様にここまで話させたんだ、そろそろ俺の質問に答えてくれないか?」

「あ、はい。……えと、何でしたっけ?」

 ラティオは溜め息を一つ。

「お前がアルティロイドなのかって事だ」

「え、ええ、そうです、ね」

「煮え切らない返事だな、アルティロイドって事で良いのか?」

 これにティアナは、

「はい……多分」

 と、返事をした。

 これに、苛々を含んだ溜め息を一つ。

「多分、ってのは何だ? お前はアルティロイドなんだろ。どういう経緯でなったのかはわからねえが、お前も俺と同じで、生身の肉体を改造された、アルティロイドのはずだ」

「……いいえ、私は生まれながらにして、アルティロイドなんです。いや、だからわからない、私はアルティロイドと言って良いのだろうか、と」

「生まれながらの、アルティロイド。……つまりは自然発生した。確かに、それをアルティロイドと言って良いのかは、わからないところだな。どうりで、お前には俺と同じ匂いがしたが、どこか俺とは根本が違うと、感じられたのはそういう事か」

 ラティオは、低い唸り声を発しながら、何かを考え込むように、目を瞑っている。

 元来、普通の人間だったアルティロイド達は、幼い時にその身を改造された。その方が、肉体的な負担も小さく、成長の過程で、アルティロイドとしての肉体に、本来の肉体が慣れていくからだ。それは全てのアルティロイドが、同じ事である。

 かつて零番目のアルティロイドとして、この世に生きていたティアナ、当時のティオも、この行程を経ている。勿論、後々に続いた、ジューク、ティーダ、デュアリス、ラティオ、リオ、クリッパーも、この過程に基づく。皆、元は普通の人間の、幼子だったのだ。

 だが、現在のティアナだけは、この過程から逸脱した存在だ。元が人間ではなく、元からアルティロイドである。いや、だからこそ、アルティロイドと分類して良いのか、今こそ疑問視できる。

「――ま、良いんじゃねえのか、お前がアルティロイドでも、さ?」

「え、そんな簡単に、結論出しちゃって良いんですか!?」

 苦笑いを浮かべながら、ラティオの言葉に返答するティアナ。

「そんなもんだろ? お前がヒューマンだろうと、アルティロイドだろうと、お前がお前である事実には、何の変わりもねえわけだろ。問題は他人がお前をどう思うかじゃない、自分が自分をどう思うか、だ」

「自分が自分を……どう思う、か」

「そうだ、お前はどうなんだ? 俺は元ヒューマンだが、今はアルティロイドだ。……だが、今はそれで構わないと思っている。アルティロイドとしての自分を、憎んでもいないし、むしろ感謝しているくらいだぜ。だからこそ、今、俺はこうしてアイ達を守っていける強さがあるんだからな」

 今のティアナには、理由はわからなかったが、心を雷に打たれたような衝撃があった。

「私は……」

 そこまで言葉を出して、その後は無言。喉まで出かかったものが、ギリギリのところで出てこない。

「……へっ、まあ良いんじゃないのか? そんな答えも無理に出す必要もねえよ。そういう答えは、勝手に出てるもんだと、俺は思うぜ」

 ラティオの一笑を合図に、この会話は終わりを向かえた。

 自分が何者なのか。自分は何の為に戦っているのか。外面的な頭の理解と裏腹に、内面的な精神の理解は、できていなかったのかもしれない。

 自分の前身であるティアナも、アルティロイドであり、そのティアナから生まれた自分自身も、アルティロイドだと思っていた。事実、常人を遥かに凌駕する肉体の力を、生まれながらに有していた。

 自分の師匠であり、育ての親でもあるカルマン。そのカルマンの教えで、城国を倒さねばならないと、倒さねば地上の人々は不幸になると、そう教えられてきて、気がつけばその事に、何の不満も疑いも持たなかった。

 生まれながらにあったもの。それがあって、当たり前になっていたもの。ラティオとの出会いは、既に盲目と化していた自分に、光を見せられる出来事になっていた。

(結局こいつは……自分の力は何なのか以前に、自分が何者なのかさえ、理解していなかったって事か。――俺を圧倒してみせた、あの不思議な力、この答えは当分は聞けそうにないな)

 ラティオは、

「さ、中に入れよ」

 と、ティアナに促した。

 デスクロウム火山地帯の突破から、名も無き集落へ。その合間にあった、黒き騎士との戦闘。一連の騒動は、ようやく終わりを向かえようとしていた。ティアナ達は、ラティオとアイの暮らす集落にて、一日の滞在をする事にする。

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