表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
ゼロの胎動~対極生命~
90/97

20,放出される力

(勝ちたいっ、勝ちたいっ、勝ちたいっ! 負けないようにしなくちゃ、もう負けないように。どんな人が相手でも、勝てる力がほしいっ!)

「な、何だってんだよ、一体!?」

 男はただ気圧されていた。ティアナから発せられる、得体の知れない、不安定な何かによって。

「ぐ、うっ、うぅ……!」

 ゆっくりと立ち上がるティアナ。その振る舞いは、いつもの彼女のそれとは、火を見るより明らかな程に、他人のように感じられる。

 相手を倒す事のみに、特化した闘気である。しかし、その割には酷く情けない闘気。目的が定まらないような、気迫に男は圧されていたのである。

「……初見からそうだったけどよ、お前、どう見ても変な奴だよな? 下手すっと、俺に近いもんか……いや、そりゃないか」

 男は、圧されている割には、まだ余裕を伺わせる。アルティロイドであるティアナと、真っ向から戦える戦闘力といい、戦闘慣れした雰囲気といい、男も常識からかけ離れた何かを、持っている事実は明確だろう。

「絶対にっ……負ける、もんか!」

 ティアナが、一気に駆け出した。今までの速さが、嘘のような速さ。それでいて速いだけでなく、力強さも兼ね備えている。

 男もこれを迎撃せん為に、構えをとる。構えといっても、ほとんどノーガードに近い。

(速いな……まるで、あいつみたいだな。いや、下手すっと、あいつより速いか)

 第二幕、最初の一撃は、ティアナの攻撃から始まった。先程のお返しと、言わんばかりの、気迫のこもった右ストレート。

 だが、この攻撃は、当然とばかりに、男が難なくかわしてみせる。更に間髪入れずに、フォローの左ストレート。大振りだが、一撃自体が鋭すぎる為に、避けるのさえ集中する。

(さっきの掌打と違って、確実に俺を倒しにきてるな。……面白ぇ)

 ティアナの連続する、右と左の攻撃を避けきり、反撃の一打を与えにかかる。「……パンチってのはな、こうやって打つんだよ!」

 男は、ティアナの右ストレートに合わせて、カウンターの右を腹部に放つ。

 確かな手応え。男性とは違い、女性の、まして少女の柔らかい腹部に、拳をめり込ませた。さすがに男も、軽い罪悪感を感じざるをえなかった。

 ティアナも悶絶しているのか、あるいはこの一撃で、気絶してしまったのか、体の動きがぴたりと止まってしまった。

「悪ぃな、痛かっただろ? でもな、喧嘩を売るあ……っつあ!?」

 男が喋っている途中、急に男は後方に吹き飛んだ。ティアナの攻撃が、男に命中したのが理由である。

「な、何!?」

「――勝つんだ、勝つんだ、勝つんだっ!」

 狂ったように、その言葉を発し続けるティアナに、うっすらと桃色の膜のようなものが、纏っているのが見える。

(何なんだ、あの女。急激に攻撃力が上がりやがった。いや、攻撃力だけじゃねぇな、俺の拳は間違いなく致命打だった。するってぇと、防御力もアップしてると見て、間違いはなさそうだ。それに……あの桃色のオーラ……)

「勝つん、だっ!」

「はっ……」

 再び攻撃に転じた、ティアナの速度は、一つ前の攻撃時を、遥かに凌駕していた。この世界に、過去これ程の速さで動いた生物は、間違いなくいないだろう。

 ただ振り回すように放った、右の拳だが、確実に男を捉え、大きく後方へ弾き飛ばした。

「ぎっ……!」

 吹き飛んだ男に、追撃を与える為、ティアナは一足で大地を蹴り、爆発したような衝撃と共に、飛翔する。

(な、んて、一撃、だよっ、コンマ何秒か、気絶しちまった、この俺がだ! あの女、ただじゃ……いっ!?)

 男の視界に、ふと入ったものは、自身の右手に桃色のオーラを、溜めているティアナの姿だった。そのままティアナは、掌を男に向ける。

「……っの、馬鹿野郎がぁっ!」

 と、言ったか言わないかのタイミングで、ティアナの掌から、集約されたオーラが放たれた。桃色のオーラが、男を飲み込まんばかりに、包み込んでいき、そして激しい衝撃波が、辺りを襲った。

 砂埃が、一帯に撒き散らされる。その中で一人立つティアナは、文字通りの無表情だった。表情豊かな、ティアナという名の少女には、あまりない表情だといえる。

 男も砂埃の中から、立ち上がってくる。見た目からは、派手なダメージは無さそうだが、問題なのは内面である。ティアナの攻撃は、確実に男の体力を奪っている。

「……っぺ。なるほどな、その剣といい、強さといい、お前はかなり、スペシャルな存在らしいな。……本気でやっちゃるよ」

 そう言うと、男からも闘気が放たれる。やはりこの男は、ただ者ではない。ティアナのように、身に纏う不思議なオーラこそ無いが、放たれる闘気量だけならば、簡単にティアナを越えている。

「俺を本気にさせちまった、お前が悪いんだぜ? ……行くぞ、こらぁっ!」

 男とティアナの、常人離れした、第三幕が始まる。



 ――一方、元いた場所では、気絶していたカルマンとシンラが、目を覚ましていた。

「……つ、つ。大丈夫か、シンラ?」

「ええ、貴方が心配してくれるなんて、嬉しいわね」

 こんな状態でも、悪戯な態度は変わらない。

 そろそろ慣れてきたのか、カルマンも相手にしない。

「しかし……」

 辺りを見回すと、怪物が暴れまわったような惨状と、化していたのだった。

 カルマンの過去の記憶から、アルティロイド、あるいは一部のキメラになら、ここまでの破壊を行えると、考えていた。アルティロイドは、言うまでもなくティアナであるが、だとしたら相手は誰であろうか?

 これも十中八九、あの男である。だが問題はそこではない。本当の問題点は、アルティロイドであるティアナと戦い、辺りをここまで破壊する事ができる、男の正体である。戦い慣れたカルマンに、キメラであるシンラを、一瞬で倒してみせた。つまり最低でも、シンラクラスの能力者を、簡単に倒せるだけの、戦闘力を持った、キメラという事になる。

 いくら強くたって、普通のヒューマンが、キメラやアルティロイドと戦える程に、強いわけがない。戦闘における、根本的な部分が、ヒューマンはキメラとアルティロイドに、敵わないのである。

「最悪、敵は――」

 と、言いかけて、何者かの気配を感じる。邪悪な気配ではなく、むしろ純粋な気配の為、カルマンとシンラは、大した警戒もしないでいる。

「――ごめんなさい!」

 近づいてきた気配は、第一声にその言葉を出した。若い女の声である。

 目で見て確認すると、声の通り女である。ただ声質が、若干幼さを含んでいた為に、女の子かとも思えたが、立派な女性がそこに立っていた。やや茶系の髪の毛に、腰の長さ程ある、少し長めの三つ編みが特徴的である。その風貌から、何故かどこか懐かしい、カントリーな感覚を垣間見える。

「いや、あんたは誰だ?」

 無愛想に問いかけるカルマンだったが、女性は気にせずに、自己紹介をする。

「私はアイ。ラクスタナ・エルボンレーテ・ムジェッロ・ホォンク・メキタナ・アイ・ストレンティエーネ、です」

 カルマンもシンラも、ただ絶句していた。あまりにも長い、その呪文のような名前に、だ。

「そ、それで、何でそのアイさんが、俺達に謝るんだ?」

「あっ! そうでしたそうでした。一応、聞いておきますけど、旅人さん達は、野蛮そうで口の悪い男のせいで、こんな事になっちゃったんです?」

 この言葉を聞き、シンラは含み笑いをしながら、カルマンをチラっと見ている。

「あんたの言う男かは知らんが、確かに男にやられた……えらい強さだ、あれはあんたの……」

 と、言いかけた時、

「すぅぅぅー……、ラティオぉぉぉぉぉっー!」

 素朴で純情そうな外見に似合わず、アイは馬鹿みたいに大きな声を、腹の底から発した。

 アイは、ラティオ、と呼んだ。カルマンとシンラを、軽々と倒してしまった、あの男の名前なのだろうか?


「――オラオラオラオラオラッ!」

 機関銃ならぬ、機関拳のような、男の猛烈な連打。既に出される拳は、端からは見えない。

 だがそれを、防御と回避を上手く使い、見事に致命打をもらわないティアナ。ティアナの顔からは、完全にいつもの明るさは、消え失せてしまっている。まるでとり憑かれたように、戦っているのだ。

「やるじゃねえかっ、俺をここまでマジにさせたのは、そう多くねえぜ!」

 男は、戦闘そのものを、楽しんでいるように見える。まだついさっきの方が、紳士的に見えてしまう。

 この男もティアナも、共通して言える事は、戦う前とは雰囲気そのものが、違うという事だ。これではまるで、別人そのものである。

「私は……もう、負けない!」

 男の連打とは違い、ティアナはオーラを拳に溜めての、一撃の破壊力で戦っている。

「もう負けない、か。お前も大分、敗北の味を知っているみてえだな。でもよ、そんな台詞は、切羽詰まってる奴が、言う言葉だぜ!」

 男の拳が、ティアナの顔面を捉え、後方へよろめかせる。男の攻撃力も相当なものだが、それ以上にティアナの防御力が高く、決定的なダメージにならない。

 この桃色のオーラが出てから、ティアナの攻撃力、防御力、共に従来よりも、底上げされている感がある。しかし、この二つよりも、凄いと思わせるのは、殴られても何事もなかったようにさせる、圧倒的な回復力である。

(一発もらっても、まるでへっちゃらってか。この女、打たれ強いにも程がありすぎるぞ。……だが!)

 一発で駄目なら、二発、三発と、容赦のない拳を、ティアナに当てていく。普通ならば、死んでしまうようなものだが、ティアナは平然として受けている。

 それでも男が形成する、拳の弾幕の厚さに、反撃の糸口が見出だせないでいる。例え謎の力により、戦闘力そのものが底上げされていても、この辺りの対応力の無さが、経験不足を露呈している。

「――ラティオぉぉぉぉぉーっ!」

 と、その時、突然の横やりと言うべきか、大砲のような声がこだました。

 これには男もティアナも、途端に我にかえる事になる。

「あれ……私は……」

「ちっ、良いところだったのにな。ありゃあ、アイの声だ。ったく、城国の奴らに見つかるから、大声は出すなって、言ってあるのにな……」

 盛り上がった遊びを、邪魔された子供のように、男はわかりやすい態度を見せた。対して、ティアナは今の今まで、何をしていたのか、まるでわかっていないようだ。

「ま、なんだ、お前さ、結構強ぇじゃないか」

「あ、はあ……?」

「意味不明な部分もあるが、お前の強さの秘密、直に戦ったからこそ見えたもんがあるっ。その辺のとこを、落ち着いて話したいからな、俺についてきな」

 男は、偉そうな手招きをしている。だが、妙に様になっている。

 何が何やら、の状態のティアナは、とりあえず男に従うしかない。記憶にノイズが走っていて、何故自分が、こんな状況になっているのか、頭を整理していく。思い出せたのは、目の前の男に、カルマンとシンラを倒された事だ。

(わからない。その後、私はどうしたんだっけ? 師匠とシンラさんが、やられて……あ、二人は無事かな? えっと……そうだ、私はこの人と戦ったんだ、でもこの人は、とても強くて……。ここから先がわからない)

「おい、考え事してる最中に悪いんだけどよ」

 ティアナの考え事は、男の突然の呼びかけに、中断せざるをえなかった。

「あ、はい、何ですか?」

「俺はラティオってんだ」

「あ、ティア……です」

 急な自己紹介。ティアナはうっかり、自分の事をティアナと言いそうになったが、ギリギリで踏みとどまり、決められていた愛称を教える。

 男の名前はラティオ。ティアナは知る由もなかったが、かつては城国に所属し、爆炎の騎士と命名された男である。つまり――。

「ご丁寧にサンキュな。……さて、回りくどいのは嫌いでな、単刀直入に聞かせてもらうけどよ」

 ティアナは「はい……」と、相槌を打つ。

「お前、アルティロイドだな」

 ティアナに言い知れぬ、衝撃が走った。まさかアルティロイドという単語が、こんな辺境の地で、出てくるとは思いもしなかったのだ。しかも、問いかけは正解である。

 だからこそ迷った。素直に「はい」と言うべきか、とりあえず誤魔化すか。何にしても、ラティオの問いの真意が、全く見えてこない。

 答えに悩んでいるティアナを見かねて、ラティオは言う。

「心配すんな、俺もお前と同類だ」

 この言葉も、ティアナにとっては、衝撃の二文字しかなかった。単刀直入すぎて、逆に悩んでしまう。

「え、えっと、同類というのは……?」

「ああ、ここまで言ってわからねえのか? 見た目の割には、馬鹿だなお前」

 ティアナは不思議と、嫌な気分にはならなかった。ラティオのさっぱりし過ぎる性格が、そう思わせるのか。

 それに「見た目の割には」という言葉が、遠回しにくすぐったかったのだ。裏を返せば、頭が良さそうに見える、という事だからだ。

「俺もアルティロイドだ。だから安心しな」

「ああ、そういう事ですか! なんだ安心……って、えっ!?」

 ティアナはラティオに、驚かされっぱなしである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ