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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
ゼロの胎動~対極生命~
83/97

13,ゼロが生まれた日

 ――六年前。

「どうだ、ゼロの様子は?」

 城国――シャングリラキングダム。そこは薄暗く、筒状の入れ物に謎の液体の入ったカプセルのようなものが、所狭しと並べられた一室。よく見るとカプセルの中に入っているのは、液体だけではない。

 人だ。いや人も含めた数々の動物が、そのカプセルの中に入っている。恐らくは、アルティロイドやキメラといった、生命体を造る為の部屋なのだろう。

「はい、とても順調にきています。この調子ならば、もうまもなく……といっても宜しいかと」

 一つのカプセルに、数人の学者の姿が見える。そしてそれを取り囲んでいる人間。城国を統治し、その力を使い、人々を常に弾圧、陵辱をしてきた存在――そう、城国王の姿も見える。

 長きに渡り、城だけでなく世界を牛耳ってきた王だが、その容姿は非常に若い。その理由は、他人の肉体への寄生により、常に若い肉体へと乗り移ってきた為である。そして今の姿は、かつて風の騎士と称されたアルティロイド、ジュークの肉体を奪ってのものだ。

 ジュークという人間は、非常に線が細く、とても整った顔立ちをした若者だった。しかし今のジュークは、あまりにも老いている。王に乗っ取られた為による後遺症なのかはわからないが、綺麗な黄緑がかった髪は、既に多数の白髪が交じっている。

 いや、それだけではない。顔つきも酷くやつれているのだ。これではまるで、余命幾ばくもない重病人のような顔である。頬骨が出っ張り、青白く、ガリガリになった肉体。何よりも、その見た目から生力を感じない。

 ――だが、そんな疲れ切った深緑の王よりも、不思議な事がある。それは、王がゼロと呼んだもの。

 王や科学者達が見つめるカプセルには、何の個体も見えない。人間もいなければ、何かの動物もいない。当然、植物らしきものもない。この部屋の中にならばどこにでもある、やや緑がかった不思議な液体があるだけなのだ。

「……王様っ!」

「で、できたのか?」

「はい、無からの誕生です。おめでとうございます」

 無からの誕生。王は、生命が誕生するのに必要な、母体というものを使用せずに、新しい生命を誕生させたのである。

 誕生のコンセプトは、真の究極の生命体。アルティメットアルティロイドである。このゼロという存在は、今までのアルティロイドとは違う。最初の個体ティオティアナから始まり、最後の個体であるクリッパーまでは、元は人間だった存在を改造する事により、誕生させていたいわばC(コーディネイト)型アルティロイドである。

 元は普通の人間だった子供達から、それぞれに見合った改造内容の適任者を捜し出す。C型アルティロイドとして、集められたのは幼い日の、ティオ(ティアナ)、ジューク、ティーダ、デュアリス、ラティオ、リオ、クリッパーの七人である。余談だが、この子達の本名はもっと別にある。今の名前はあくまでも、改造コードのようなものなのだ。

 C型アルティロイドでさえも、充分すぎるぐらいの戦闘能力を有している。それは過去の戦歴を見てもらえば、ご理解頂けるだろう。ただ、C型アルティロイドの強さは、本来のアルティロイドが持つ戦闘能力の、およそ半分にしか満たないのである。

 その大きな理由は、C型アルティロイドというのは、元々は備えていなかった能力を、上乗せした為である。普通の人間としては、実現不可能な身体能力を持つ、そしてそれを扱う。ある程度の制御がなければ、これを行う事は到底無理な話なのだ。

 ――しかし、今までの既存のC型とは別の個体が、九年前に誕生したのである。この時代より九年前、そう、第二次支配開放大戦である。当時存命していた零番目のC型アルティロイド。ティアナと呼ばれた個体は、その持てる能力の暴走開放を引き起こした後、静かに絶命をしている。

 このティアナが持っていた能力というのが、命を司る能力、である。肉体改造における後遺症で、大半のアルティロイドは、遺伝子を後生に残す、という生命ならば誰もができたであろう能力が欠けてしまっていたのだ。だが、この零番目のティアナのみが、その肉体を母胎とし、新たな生命を誕生させるという力を持っていたのだ。

 この九年前の第二次開放大戦の渦中、それまでの常識を覆してしまう出来事が、水面下で起きていたのだ。それは、N(ナチュラル)型アルティロイドの誕生である。人間から、アルティロイドへの変化という、無理を生じさせて造った肉体ではない。生まれた瞬間からアルティロイドなのだ。いわば純血種となるアルティロイド。

 予測でしかないのだが、N型アルティロイドは、C型アルティロイドと比べても、その能力は比べ物にならない程に強い。例えば三番目の個体「火の騎士ティーダ」を例に見るとする。このティーダは、かつての幼少時から火の能力が使えたわけではない。元々なかったところに、火の能力、というものを上書きしているに過ぎない。それ故に、その火の能力を使う際に、様々な制約があったのである。

 更に例え話だが、このティーダが使う中でも、最大級の必殺技がある。それはエクスプロージョンという技であり、火の能力を最大まで高めて剣に纏い、その膨大なエネルギーを一気に相手に叩きつける技である。だが、このエクスプロージョンは、その最大級の威力に見合った、高いエネルギー消費があったのだ。それこそティーダのエネルギーでは一発、あるいは二発放てるかというぐらいの代物だ。

 しかしN型アルティロイドならば、恐らく五発以上は放っても、エネルギーが底を尽きる事がないだろう。何故ならば、N型にとって火を扱うのは、呼吸をするのと同じ事だからなのだ。生き物はすべからく呼吸をするが、一部のものを除いて、呼吸をする事に制約があるだろうか。呼吸とは、大して意識をしなくても行える行為ではないだろうか。もう一度言うが、N型にとって火を扱うとは、そういう事なのだ。

 長く例える事となったが、この新たに誕生したゼロという個体は、上記のN型に該当するといっても過言ではないのである。いやN型を意図的に造り上げたU(アルティメット)型のアルティロイドといっても良いのではないだろうか。

「お前達、厳重にチェックを欠かすな」

 学者達は、気合いの入っていないような声で、各々返事をする。最も、学者で体育会的な返事をする人は、少ないだろう。

 王は薄暗い部屋から出て行くと、突然現れた太陽の光に目を痛める。

「ゼロ、か。いよいよ私の夢が実現するか……」

「――王様の夢って何ですか? キャハハハ!」

 独特な甲高い笑い声、その正体は五番目のアルティロイドにして、光の騎士であるリオだ。そして双子の弟であり、六番目のアルティロイド。闇の騎士クリッパーの姿も伺える。

「リオ、控えろ。王に対して失礼だ」

 リオとは違い、寡黙なクリッパー。王も疲れた目でクリッパーを見ると、静かに頷いてみせる。

 結局、話はそれで流れてしまう。口には出さなかったが、内心、リオはつまらなかった。クリッパーも立場上は止めてみせたが、王の夢、というものに、興味は持っていたのである。

「お前達……その後の経過はどうなのだ?」

 王の問いに、クリッパーが答える。

「はい、上々です。新しい肉体にも、大分慣れてきたところです」

「ふむ……。クローン体といえども、その肉体性能はかつてのオリジナルを超えている。大事に使え」

 クローン体。リオとクリッパーは、九年前の第二次解放大戦にて、とある理由からティーダと共に、ティアナと戦っている。

 圧倒的な戦闘力を有するティアナの前に、リオとクリッパーの二人は敗北し、肉体的な死を迎えるところまできていた。

 王はギリギリで、死亡寸前の二人を回収。以前より用意していた、二人のクローンボディへと移した。魂というものを、移動させるという魔法のような機械を、既に開発していた城国にとって、オリジナルに憑依している魂を、クローンに移す事は難しい事ではない。

 最も難しい事は、本人達が魂を移動したという、ショックラグへの対応。そしてクローンとはいえ、別の肉体に移動した際の、一種の違和感の克服に、とても長い年月をかける事になる。

 その証拠にショックラグと違和感の克服に、費やした時間は九年間。それだけの時間を使っても、ようやく人並みの運動をするに至る。

「――ただ、俺達も是非知りたいものがあります」

 クリッパーは普段から、特に深入りはしないタイプである。それが王に対するものならば、尚更の事である。

「何だ? 今は気分が良い。答えてやろう」

「大した事ではないのですが、あの部屋で一体何をしておられるのですか?」

 事実、大した事はない。それは城国に所属している、という条件ではある。

 リオも、あの薄気味悪い部屋の事と、その中で王が熱心になっている事に、少なからず疑いに近い興味を持っている。その証拠に、普段口数が多い――もとい五月蝿いといっても良いリオが、黙って王の言葉を待っているのだ。

「あそこにいるのはな、過去未来、全ての歴史を見ても、最高の破壊神だ」

「破壊神? あの部屋で造っておられるものですか?」

「そう、ティアナという我が最大の誤算……その誤算を無きものにする。究極のアルティロイドだ」

 究極のアルティロイド。この言葉に、クリッパーはムッとした表情を見せる。

 およそ十五年前、アルティロイドの中で最強と呼ばれていた、火の騎士ティーダの存在。クリッパーは、そんな最強の火の騎士を超えるアルティロイドとして造られた。数回に渡る戦闘の末、ティーダとクリッパーの決着はつかずにいる。クリッパーという騎士は、常に最強という称号を、火の騎士から奪う事だけを望み、日々邁進してきたのである。また当時、王からの信頼も厚かった。

 だがそんな王から、最高の破壊神、究極のアルティロイド、などという単語が出てきては、クリッパーとしては良い気はしないのは当然である。

「ふっふっふ、クリッパー。そんなにいきり立つな。究極のアルティロイドは対命の騎士専用のものだ。命の騎士が相手では、いかにお前といえども相手が悪かろう?」

「否定はしません。ですが、王が行けと命じられれば、俺は例え命の騎士が相手でも、全力でその首を狩りに行きましょう」

 深緑の王は、この言葉に笑い声を上げた。今の身体の具合は、笑っただけでも響く程の悪さだ。それ故に、ここ最近の王は滅多に笑う事がなかった。

「だからこそ、私はお前を頼りにしているのだ。その曲がる事のない忠誠心こそ、私は気に入っている」

「ありがとうございます」

 クリッパーは深々と頭を下げてみせる。それと共に、リオも頭を上げる。

「今日はもう一人になりたい。私の護衛はここで良い」

 クリッパーとリオの二人は、「はい」と返事をすると、静かに王の後ろ姿を見送る。


「うっ、ゴホッ……ゴホッ……!」

 玉座に倒れるように座り込んだ深緑の王は、そのまま激しい咳を続ける。口元を手で押さえ、咳の度に痛む心臓を、鷲掴むように握る。手を見ると、大量の吐血が確認できる。

「ふん……ジュークめ。何を企んでおるのかは知らんが、ゼロが育てば貴様の野望も、全てはゼロになる」

 再び激しい咳と吐血。それと共に襲ってくる激しい痛み。

 王の、このような体調不良が現れ出したのは、第一次開放大戦の最中になる。いや正確には、第一次大戦のほんの少し後である。

 第一次支配開放大戦時、反逆したアルティロイド、風の騎士ジュークは王を暗殺しようと企てる。その暗殺は成功したかに思われたが、殺せたかに思えた王の肉体は、王が造り上げた痛みを感じなく、治癒能力を高め、肉体の限界改造を施されたいわば人形だったのである。

 その際に油断したジュークは、王による浸食行為を受け、その肉体と精神を乗っ取られてしまう。これによって深緑の王が誕生したのである。

 では何故、ジュークの肉体を乗っ取った王が、これ程までに衰弱しているのか。それは再び、第一次開放大戦の渦中へと戻る。

 大戦の中で、ジュークは自分の意志と、その思念を同じくする同士を集めていた。城国内部からの反逆者でもある。数では圧倒的不利なジューク達は、その体内に爆弾を飲み込み人間爆弾となる。特攻する事によって、城国内部の戦力の低下と混乱を狙ったのだ。この作戦による多くの被害者は出たものの、戦果としては多大な貢献をし、時代の裏舞台として一役買っていたのだ。

 当然、ジュークの身体の中にも、これと同じ爆弾が入っている。第一次大戦から、約十年、身体の中に入り続けている爆弾は、今でもジュークの肉体を蝕み続けているのである。

「だが……この謎の衰弱は良い。問題なのは、何故私の魂が、この肉体から離れないのか、だ」

 王は自分の魂を、他人の身体に憑依させる事ができるわけだが、勿論、抜け出す事も出来るのだ。それらの行動は、基本的には王の判断により、好き勝手に行えるものだったのだが、今回の肉体だけは何故かできなかったのだ。

「まぁ良い……ゼロが育てば良いのだ、ゼロが育てば……。こんな苦しみからも解放させられる……」

 今にも死にそうな顔だが、野望に満ちた笑みを浮かべ、深緑の王は天を仰いだ。

 そしてゼロという究極のアルティロイドが誕生してから、六年が経過。第二次開放大戦から見ると、十五年が経過したのである――。

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