表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
サンバナの町~爆炎の暴れ馬~
8/97

7,サンバナの町

名前 ティーダ

種族 アルティロイド

性別 男

年齢 16

階級 火の騎士

戦闘 3000

装備

E深紅の剣ヴェルデフレイン

E火の戦闘法衣(赤)

E火の聖獣エンドラ


名前 ティオ

種族 ヒューマン

性別 女

年齢 15

階級 一般

戦闘 100

装備

E赤いゴム紐

「――ではソリディアさん、お願いします」

「いや、困った時はお互い様ですよ」

 見知らぬ人間が、兵士用テントから出てくる。見た目は戦いをする人ではない。三人ほどの警護兵を従え、その人間はキャンプを出ていく。

「……うむ」

「どうしたのですか、ソリディア兵士長?」

 心なしか悩み顔のソリディアに、カルマンは話しかける。所詮、見習い兵であるカルマンは、テント内の話に立ち会えなかったのである。

「うん、カルマンか。さっきの人は、サルバナ森林地帯にある町の町長さんだ。どうやら最近になって城国軍からの進軍が激しくなっている為、救援要請が出た」

「サルバナ地帯の町っていうと、世界に数カ所しか残っていない町の一つ、サンバナの町ですよね?」

「うむ、よく知っているな、カルマン。そのサンバナの町に、最近になって人智を超えた兵士が出てきたらしい。その兵士を前にすると、ほとんどの者は何もできずに倒されるという……」

 得体の知れない城国軍の兵士。サンバナの町はその兵士の軍団に、攻め落とされそうになっているという。

「で、でも兵士長。そんな化け物のような人間が、はたして常識的に考えているでしょうか?」

「うむ……」

(――確かに、そんな一人の存在で、戦況が変わる人間などいるはずはない。それは過去の戦いの歴史が証明している。人智を超えた、人間の力を超えた存在?)

 ソリディアには心当たりがあった。いやその心当たりは確かなものではない。つい最近、体に染みついたものだ。

「とりあえず自分はいつでも出撃ができるように、万全に準備をします!」

 カルマンは勢い良く走り去っていく。その若い背中をソリディアは、嬉しそうに見つめていた。

「……新しい時代は確かに育っている。私の役目は、少しでも早く支配の時代を終わらせる為に、全力を注いでいく事だけだ……」

 時代は城国軍の王による支配の時代。地上で戦う者達は、自由という名の理想郷を求めて、戦い続けているのかもしれない。



「えへへ、これも使えそう!」

「……一体何なんだ、このガラクタは?」

 ティーダはティオに付き合わされ、ベースキャンプから少し離れた森林に来ている。カザンタ山岳地帯に比べ、緑の量が圧倒的に多く、まるでジャングルのようでもある。意外にも人の手が入っていないのか、旧時代の兵器の残骸などが転がっている。その中から使えそうな物を、ティオが選別しティーダが持つ。

「私達のキャンプのシャワー用のボイラーが、そろそろ壊れちゃうから修理用のパーツとか取り揃えないといけないからね」

「好きにしろ。俺は興味がない」

「うん、だから荷物持ち、よろしくね!」

 ティオは嬉しそうに前に進んでいく。大木が折れたものがあるなど、進行に難があるのだが、ティオはそれに関係なく進んでいく。

「……何で俺が荷物持ちなんて。おい、あまり先に行くと危ないぞ!」

「大丈夫だよ!」

 少し遠くからティオの声が聞こえてくる。好きな事になった際の、運動神経の高さは特筆すべきものがある。

「何が大丈夫だ、良いからあまり先に行くな!」

「――だってティーダがきっと助けてくれるもの!」

 わずか数秒で、ティオの声が更に遠くから聞こえてくる。

「ん、ったく……。全くな、俺は一体何をしてるんだ?」

 ティオに追いつく為、ティーダは一足飛びをしながら、ティオとの距離を詰めていく。木々の間から溢れてくる太陽の光が美しく感じられる。だが森林の中の生命の存在が少なく感じられる。

(――これも城国軍の支配のせいなのか? 幼き日より、地上に生きる人間は大地の生命を食いつぶす、生命のクズだと言われ続けてきたが……。だが、本当にそうなのか? 少なからずこの馬鹿(ティオ)を見ている分には、そうは思えない)

 少し急いでみると、すぐにティオに追いつく。遠いように感じたが、そこまで距離は離れていなかったようだ。洞窟のように育ちきった森林地帯が、声を反響させ遠く感じさせたのだろうか。

「はい、ティーダ。これもお願いね!」

「おいティオ。いい加減にしておけよ、こんなにガラクタ拾ってどこに置くんだ?」

「どこかに置いておけるよ、きっと! それにこの子達はガラクタじゃない、まだ生きてるんだよ?」

「……はいはい。相変わらずマイペースな奴だな」

 飽きる事無く、馬の尻尾にまとめた桃色の可愛らしい髪を揺らし、弾むように歩いていく。まるで森林の中に生きる、命の鼓動と会話を楽しんでいるようにも見える。ティオを見張っているのも楽ではないが、明るいティオを見ると、ティーダ自身もくすぐったいような気持ちになる。他人との関係に無関心だったティーダにとって、この経験は初めてのものだった。

「――ねぇ、ティーダ!」

「どうした、そんなに慌てた声を出して?」

 楽しそうに弾んでいたティオが、急に身を隠すように、体を小さくする。ティオが見る先には、数人の人間がいる。とても楽しんでいる雰囲気ではなく、三人は城国軍、二人の内一人は兵士、もう一人は一般人だろうか。いや、その周囲に注意してみると既に二人の兵士が殺されている。三人の警護兵がいたが、内二人は殺されている。最後の一人も、既にどこかを怪我させられたのだろうか、動きが心なしか鈍い。

「お願い、ティーダ。あの人達を助けてあげて」

「……そうだな。お前はここに隠れていろ!」

 ティーダは疾風の如き速さで、一気に間合いを詰めていく。


「くそっ、俺の命に代えても、町長の命はとらせはしないぞ!」

 町長を守る警護兵は、利き腕である右腕を斬りつけられている。その為、腕に力が入らず、剣の重さに腕を振るわせている。

「へっ、そんな偉そうな格好をしちゃってよ。生意気なんだよ、地上の人間共が!」

「良いから、斬られてしまえよ。大地を食いつぶすお前達は死んだ方が良いんだよ、実際」

 好き放題に、城国軍の兵士は、町長と警護兵を言葉で(なぶ)っていく。既に人を殺す事を快楽としている顔である。

「き、君達も同じ人間なのだぞ、一体何故、君達は私達を見下すのだ!?」

 町長は、城国兵士が与えてくる死の緊張感を振り払おうと、必至の形相で声を荒げる。

「大地を食いつぶすクズのような地上の人間と、天に伸びる誇り高き我ら城国の人間を、一緒にしようと言うのか? 愚かな……、我らとお前達とでは人間としての品格が違うのだ!」

「ば、馬鹿な、何だその理不尽な理屈は……」

 町長の顔からは、みるみる生気を失っていく。城国兵士の言葉に、絶望しきっている。

「理不尽はどっちだ! ゴミのような人間が、我々高貴なる人間と対等になろうとはっ!」

「人間のクズめっ、死をもって償うが良いっ!」

 城国兵士は、その手に持つ剣を振り上げる。その行動に、人を殺すという迷いは微塵も無い。

「う、うわぁぁぁ、町長逃げてぇぇ!」

 警護兵は、震える腕で剣を構えたまま、後ずさりしてしまう。それでも町長の盾になり、命を散らせる覚悟を見せつける。

「死ぬがいいっ、地上に生きるゴミめ!」

「――お前がな」

 目にも止まらぬ速さで、走り抜け剣を抜刀する。剣を振り上げた城国兵士の腕を、両腕とも一刀両断してみせる。はじけ飛ぶ鮮血。

「うっ……あああぁぁぁ……っ……!?」

 轟く断末魔。そして断末魔の途切れと共に、その兵士の首が宙を飛ぶ。噴水のように血を降らせる。そのままの勢いで、一番近くにいる兵士に向かう。

「何者だ、貴様!?」

 相手兵士も容赦なく、鋼の剣をティーダに振るう。

「……ッハァ!」

 攻撃を仕掛けてくる兵士の剣と、その本体を紙切れのように、真っ二つに斬ってみせる。兵士の胸部から上が、大きく後方へ吹き飛ぶ。その兵士は声を出す暇も無い。即死だった。

「ざ、斬鉄を、いとも容易く……!?」

 電光石火の速さで、最後の兵士の首を斬り飛ばす。この兵士も、声を出す事もなく即死する。緑に包まれた大地は、赤き鮮血を浴び、鮮血化粧をする。

 ティーダは、二人の安否を確認する為、振り向き近づいていく。

「や、やめろっ、町長には手を出すなっ!」

 警護兵の手には、剣は無かった。しかし無い事にも気が付かず、剣の構えをとる。

「……それだけの根性があれば兵士として合格だ。安心しろ、俺は多分、お前達の味方だ」

「……み、味方? しかし、これは……、これが人間のできる事なのか?」

 町長も警護兵も、その惨劇の大地を見て、意識が途切れそうになるのを、必至で堪えている。

「目の前に敵がいるのなら……斬り殺すまでだ」

「そ、そんな……」 

 警護兵は、自分とは全く違う次元の男を見て、頭の中が真っ白になる。

「――ティーダ、二人は無事!? ……うっ!」

 赤く染まった森林を見て、ティオは体からこみあげてくる物に耐える。

「あぁ、兵士の方は腕を怪我しているらしい、手当てしてやってくれ。……どうした?」

「うぅ……気持ちが悪い……」

 相当に気分が悪くなったのだろう。ティオは座り込んでしまう。

(……やれやれ、やはり人間というものは面倒なものだな……)

「森が……泣いてる……」

 気分も悪そうだが、ティオは悲しそうな表情で、鮮血に染まった木々や草を見ている。

「泣いてる? そうかもしれないが、自分の感性でそういう事を言うものではない」

「ううん、泣いてるよ。木も草も……貴方の心も」

「…………」

 ティオは真っ直ぐにティーダを見つめる。その目は何か惹かれるものがあり、ティーダは一瞬ながら、ティオに全てを奪われていた。

「あ、あの……申し訳ないのですが、お二人は一体……?」

 護衛兵を休ませ、町長自らが話しかけてくる。既に落ち着きを見せている。もしかしたら、このような事態に陥る事は慣れているのかもしれない。

「あ、ごめんなさい」

 気持ち悪さを堪えながら、町長の問いかけに答えようとするティオ。話し合いにおいては、最初からティーダは当てにしていない様子である。

「私達はここから少し北にある、ベースキャンプのレジスタンスグループ『パーシオン』の者です」

「おぉ、君達はパーシオンの方達なのか。実は私達はパーシオンからの帰り道だったんだ」

 町長にとっては知った言葉が出てきた為か、少しばかりだが顔つきが明るくなる。

「何か重要な用件があったのですか?」

「いやな……最近になってサンバナの町の周辺が城国軍に襲われてね……。被害は我が町にも出てきているのだ。そこで城国軍の侵攻を食い止めようと、サンバナ周辺のレジスタンスグループに救援を求めていたのだよ。まぁ詳しい話は、パーシオンに帰ったらソリディアさんに聞いてもらいたい」

 自分で話しておいて現実に引き戻されたのか、町長の顔は再び思い悩み、暗い顔へと変わっていく。随分と切羽詰まっているようにも見える。

「――そんなに凄いのか? いくら軍力に勝る城国軍でさえ、レジスタンス達を陥落させるのは苦労するはずだ」

「……いえ、軍力自体は大したものでもないのです。ただ……、恐らくは軍団長なのでしょうが、一人だけ異常なまでの強さを持つ者がいるのです。見た目は年端もいかぬ少年なのに、レジスタンス数人をものの数秒で皆殺しにされてしまいました……」

 町長は悲しそうにそれを言う。後ろで休んでいる護衛兵も、恐らくは同志を失ったのだろう。悔しそうに握り拳を作り嘆いている。

「そんなっ、そんな人間がいるはずが……!」

「…………」

 ティーダには城国軍の、その存在に思い当たる節がある。城国軍の兵士でそこまでの強さを誇っているのは、十中八九アルティロイドだ。

(――数日前にジュークは地上に降りた、こいつがサンバナを攻める確率は低いとみて良い。と、いう事はデュアリスか、あるいは……)

 そこまで考えたが、ティーダの思考は停止する。

(地上に降りた際の、落下衝撃の影響か。一部、記憶の欠損が見られるな。……まぁ良い、その内思い出せるだろう)

「……とりあえず、ここからサンバナの町までもう少しです。宜しければ、立ち寄ってみてはいかがでしょうか?」

 サンバナの町はここから南に数百メートルの位置にある。ここからベースキャンプに戻るより、距離は近いのだ。

「良いんですか!? ……あ、でも、どうしよう?」

 ティオは興味津々な顔をするが、護衛してくれているティーダに悪いと思い、町長の誘いを辞退しようとする。

「……ごめんなさい。やっぱり……」

「――良いんじゃないか、ティオ」

「えっ、ティーダ!?」

「後日、戦闘になるかもしれない。地形の把握の為にも、見ておくのも良いかもしれないしな。そのついでにでも、お前はお前の用件を済ませれば良い」

「ありがとう、ティーダ!」

 町長の誘いを受け入れ、ティーダとティオはサンバナの町へ移動する事にした。


 ――自然と人が一体化している町、サンバナの町。中には大木をくり抜いて、家にしているものもある。ティオ達のベースキャンプよりも明らかに規模は大きく、その人口は恐らく三倍はあるだろうと思われる。

「この宿屋をお使いください。お食事から入浴まで完備してありますので」

「ありがとうございます。町長さん!」

「それと……これは我が町で使われている通貨です。ここでは買い(ショッピング)という形で、その通貨を使います。具体的な事は現地の店で……。それでは私はここで」

 町長から1000マーネを貰う。ティーダもティオも、通貨というものを持った事がない為、アイテムを貰っても素直に喜べないでいる。

「とりあえず、お買い物……してみようよ!」

 ティオは今日一番の笑顔を見せる。明らかに楽しみでしょうがない表情だ。

「ティオ、遊びに来ているわけでもないんだぞ」

「あ、うん……。そうだよ、ね」

 顔には出さないが、その声は非常に寂しげである。

「……だが元々はお前のガラクタ集めの付き合いだからな。今日いっぱいはお前に付き合ってやるよ」

「……っうん! じゃあ早速見て回ろうよ!」

 無邪気な子供のように、町中を駆け回っていく。

「ふっ、やれやれだ……」

 二人はサンバナの町を歩く。町の活気を見ていると、城国軍との戦争が嘘のようにも思えてしまう。だからこそ人々は全力で今を生きている。いつこの生が尽きてしまうともわからない、だからこそ悔いを残したくないのだ。いつかくる平和を信じている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ