7,サンバナの町
名前 ティーダ
種族 アルティロイド
性別 男
年齢 16
階級 火の騎士
戦闘 3000
装備
E深紅の剣ヴェルデフレイン
E火の戦闘法衣(赤)
E火の聖獣エンドラ
名前 ティオ
種族 ヒューマン
性別 女
年齢 15
階級 一般
戦闘 100
装備
E赤いゴム紐
「――ではソリディアさん、お願いします」
「いや、困った時はお互い様ですよ」
見知らぬ人間が、兵士用テントから出てくる。見た目は戦いをする人ではない。三人ほどの警護兵を従え、その人間はキャンプを出ていく。
「……うむ」
「どうしたのですか、ソリディア兵士長?」
心なしか悩み顔のソリディアに、カルマンは話しかける。所詮、見習い兵であるカルマンは、テント内の話に立ち会えなかったのである。
「うん、カルマンか。さっきの人は、サルバナ森林地帯にある町の町長さんだ。どうやら最近になって城国軍からの進軍が激しくなっている為、救援要請が出た」
「サルバナ地帯の町っていうと、世界に数カ所しか残っていない町の一つ、サンバナの町ですよね?」
「うむ、よく知っているな、カルマン。そのサンバナの町に、最近になって人智を超えた兵士が出てきたらしい。その兵士を前にすると、ほとんどの者は何もできずに倒されるという……」
得体の知れない城国軍の兵士。サンバナの町はその兵士の軍団に、攻め落とされそうになっているという。
「で、でも兵士長。そんな化け物のような人間が、はたして常識的に考えているでしょうか?」
「うむ……」
(――確かに、そんな一人の存在で、戦況が変わる人間などいるはずはない。それは過去の戦いの歴史が証明している。人智を超えた、人間の力を超えた存在?)
ソリディアには心当たりがあった。いやその心当たりは確かなものではない。つい最近、体に染みついたものだ。
「とりあえず自分はいつでも出撃ができるように、万全に準備をします!」
カルマンは勢い良く走り去っていく。その若い背中をソリディアは、嬉しそうに見つめていた。
「……新しい時代は確かに育っている。私の役目は、少しでも早く支配の時代を終わらせる為に、全力を注いでいく事だけだ……」
時代は城国軍の王による支配の時代。地上で戦う者達は、自由という名の理想郷を求めて、戦い続けているのかもしれない。
「えへへ、これも使えそう!」
「……一体何なんだ、このガラクタは?」
ティーダはティオに付き合わされ、ベースキャンプから少し離れた森林に来ている。カザンタ山岳地帯に比べ、緑の量が圧倒的に多く、まるでジャングルのようでもある。意外にも人の手が入っていないのか、旧時代の兵器の残骸などが転がっている。その中から使えそうな物を、ティオが選別しティーダが持つ。
「私達のキャンプのシャワー用のボイラーが、そろそろ壊れちゃうから修理用のパーツとか取り揃えないといけないからね」
「好きにしろ。俺は興味がない」
「うん、だから荷物持ち、よろしくね!」
ティオは嬉しそうに前に進んでいく。大木が折れたものがあるなど、進行に難があるのだが、ティオはそれに関係なく進んでいく。
「……何で俺が荷物持ちなんて。おい、あまり先に行くと危ないぞ!」
「大丈夫だよ!」
少し遠くからティオの声が聞こえてくる。好きな事になった際の、運動神経の高さは特筆すべきものがある。
「何が大丈夫だ、良いからあまり先に行くな!」
「――だってティーダがきっと助けてくれるもの!」
わずか数秒で、ティオの声が更に遠くから聞こえてくる。
「ん、ったく……。全くな、俺は一体何をしてるんだ?」
ティオに追いつく為、ティーダは一足飛びをしながら、ティオとの距離を詰めていく。木々の間から溢れてくる太陽の光が美しく感じられる。だが森林の中の生命の存在が少なく感じられる。
(――これも城国軍の支配のせいなのか? 幼き日より、地上に生きる人間は大地の生命を食いつぶす、生命のクズだと言われ続けてきたが……。だが、本当にそうなのか? 少なからずこの馬鹿を見ている分には、そうは思えない)
少し急いでみると、すぐにティオに追いつく。遠いように感じたが、そこまで距離は離れていなかったようだ。洞窟のように育ちきった森林地帯が、声を反響させ遠く感じさせたのだろうか。
「はい、ティーダ。これもお願いね!」
「おいティオ。いい加減にしておけよ、こんなにガラクタ拾ってどこに置くんだ?」
「どこかに置いておけるよ、きっと! それにこの子達はガラクタじゃない、まだ生きてるんだよ?」
「……はいはい。相変わらずマイペースな奴だな」
飽きる事無く、馬の尻尾にまとめた桃色の可愛らしい髪を揺らし、弾むように歩いていく。まるで森林の中に生きる、命の鼓動と会話を楽しんでいるようにも見える。ティオを見張っているのも楽ではないが、明るいティオを見ると、ティーダ自身もくすぐったいような気持ちになる。他人との関係に無関心だったティーダにとって、この経験は初めてのものだった。
「――ねぇ、ティーダ!」
「どうした、そんなに慌てた声を出して?」
楽しそうに弾んでいたティオが、急に身を隠すように、体を小さくする。ティオが見る先には、数人の人間がいる。とても楽しんでいる雰囲気ではなく、三人は城国軍、二人の内一人は兵士、もう一人は一般人だろうか。いや、その周囲に注意してみると既に二人の兵士が殺されている。三人の警護兵がいたが、内二人は殺されている。最後の一人も、既にどこかを怪我させられたのだろうか、動きが心なしか鈍い。
「お願い、ティーダ。あの人達を助けてあげて」
「……そうだな。お前はここに隠れていろ!」
ティーダは疾風の如き速さで、一気に間合いを詰めていく。
「くそっ、俺の命に代えても、町長の命はとらせはしないぞ!」
町長を守る警護兵は、利き腕である右腕を斬りつけられている。その為、腕に力が入らず、剣の重さに腕を振るわせている。
「へっ、そんな偉そうな格好をしちゃってよ。生意気なんだよ、地上の人間共が!」
「良いから、斬られてしまえよ。大地を食いつぶすお前達は死んだ方が良いんだよ、実際」
好き放題に、城国軍の兵士は、町長と警護兵を言葉で嬲っていく。既に人を殺す事を快楽としている顔である。
「き、君達も同じ人間なのだぞ、一体何故、君達は私達を見下すのだ!?」
町長は、城国兵士が与えてくる死の緊張感を振り払おうと、必至の形相で声を荒げる。
「大地を食いつぶすクズのような地上の人間と、天に伸びる誇り高き我ら城国の人間を、一緒にしようと言うのか? 愚かな……、我らとお前達とでは人間としての品格が違うのだ!」
「ば、馬鹿な、何だその理不尽な理屈は……」
町長の顔からは、みるみる生気を失っていく。城国兵士の言葉に、絶望しきっている。
「理不尽はどっちだ! ゴミのような人間が、我々高貴なる人間と対等になろうとはっ!」
「人間のクズめっ、死をもって償うが良いっ!」
城国兵士は、その手に持つ剣を振り上げる。その行動に、人を殺すという迷いは微塵も無い。
「う、うわぁぁぁ、町長逃げてぇぇ!」
警護兵は、震える腕で剣を構えたまま、後ずさりしてしまう。それでも町長の盾になり、命を散らせる覚悟を見せつける。
「死ぬがいいっ、地上に生きるゴミめ!」
「――お前がな」
目にも止まらぬ速さで、走り抜け剣を抜刀する。剣を振り上げた城国兵士の腕を、両腕とも一刀両断してみせる。はじけ飛ぶ鮮血。
「うっ……あああぁぁぁ……っ……!?」
轟く断末魔。そして断末魔の途切れと共に、その兵士の首が宙を飛ぶ。噴水のように血を降らせる。そのままの勢いで、一番近くにいる兵士に向かう。
「何者だ、貴様!?」
相手兵士も容赦なく、鋼の剣をティーダに振るう。
「……ッハァ!」
攻撃を仕掛けてくる兵士の剣と、その本体を紙切れのように、真っ二つに斬ってみせる。兵士の胸部から上が、大きく後方へ吹き飛ぶ。その兵士は声を出す暇も無い。即死だった。
「ざ、斬鉄を、いとも容易く……!?」
電光石火の速さで、最後の兵士の首を斬り飛ばす。この兵士も、声を出す事もなく即死する。緑に包まれた大地は、赤き鮮血を浴び、鮮血化粧をする。
ティーダは、二人の安否を確認する為、振り向き近づいていく。
「や、やめろっ、町長には手を出すなっ!」
警護兵の手には、剣は無かった。しかし無い事にも気が付かず、剣の構えをとる。
「……それだけの根性があれば兵士として合格だ。安心しろ、俺は多分、お前達の味方だ」
「……み、味方? しかし、これは……、これが人間のできる事なのか?」
町長も警護兵も、その惨劇の大地を見て、意識が途切れそうになるのを、必至で堪えている。
「目の前に敵がいるのなら……斬り殺すまでだ」
「そ、そんな……」
警護兵は、自分とは全く違う次元の男を見て、頭の中が真っ白になる。
「――ティーダ、二人は無事!? ……うっ!」
赤く染まった森林を見て、ティオは体からこみあげてくる物に耐える。
「あぁ、兵士の方は腕を怪我しているらしい、手当てしてやってくれ。……どうした?」
「うぅ……気持ちが悪い……」
相当に気分が悪くなったのだろう。ティオは座り込んでしまう。
(……やれやれ、やはり人間というものは面倒なものだな……)
「森が……泣いてる……」
気分も悪そうだが、ティオは悲しそうな表情で、鮮血に染まった木々や草を見ている。
「泣いてる? そうかもしれないが、自分の感性でそういう事を言うものではない」
「ううん、泣いてるよ。木も草も……貴方の心も」
「…………」
ティオは真っ直ぐにティーダを見つめる。その目は何か惹かれるものがあり、ティーダは一瞬ながら、ティオに全てを奪われていた。
「あ、あの……申し訳ないのですが、お二人は一体……?」
護衛兵を休ませ、町長自らが話しかけてくる。既に落ち着きを見せている。もしかしたら、このような事態に陥る事は慣れているのかもしれない。
「あ、ごめんなさい」
気持ち悪さを堪えながら、町長の問いかけに答えようとするティオ。話し合いにおいては、最初からティーダは当てにしていない様子である。
「私達はここから少し北にある、ベースキャンプのレジスタンスグループ『パーシオン』の者です」
「おぉ、君達はパーシオンの方達なのか。実は私達はパーシオンからの帰り道だったんだ」
町長にとっては知った言葉が出てきた為か、少しばかりだが顔つきが明るくなる。
「何か重要な用件があったのですか?」
「いやな……最近になってサンバナの町の周辺が城国軍に襲われてね……。被害は我が町にも出てきているのだ。そこで城国軍の侵攻を食い止めようと、サンバナ周辺のレジスタンスグループに救援を求めていたのだよ。まぁ詳しい話は、パーシオンに帰ったらソリディアさんに聞いてもらいたい」
自分で話しておいて現実に引き戻されたのか、町長の顔は再び思い悩み、暗い顔へと変わっていく。随分と切羽詰まっているようにも見える。
「――そんなに凄いのか? いくら軍力に勝る城国軍でさえ、レジスタンス達を陥落させるのは苦労するはずだ」
「……いえ、軍力自体は大したものでもないのです。ただ……、恐らくは軍団長なのでしょうが、一人だけ異常なまでの強さを持つ者がいるのです。見た目は年端もいかぬ少年なのに、レジスタンス数人をものの数秒で皆殺しにされてしまいました……」
町長は悲しそうにそれを言う。後ろで休んでいる護衛兵も、恐らくは同志を失ったのだろう。悔しそうに握り拳を作り嘆いている。
「そんなっ、そんな人間がいるはずが……!」
「…………」
ティーダには城国軍の、その存在に思い当たる節がある。城国軍の兵士でそこまでの強さを誇っているのは、十中八九アルティロイドだ。
(――数日前にジュークは地上に降りた、こいつがサンバナを攻める確率は低いとみて良い。と、いう事はデュアリスか、あるいは……)
そこまで考えたが、ティーダの思考は停止する。
(地上に降りた際の、落下衝撃の影響か。一部、記憶の欠損が見られるな。……まぁ良い、その内思い出せるだろう)
「……とりあえず、ここからサンバナの町までもう少しです。宜しければ、立ち寄ってみてはいかがでしょうか?」
サンバナの町はここから南に数百メートルの位置にある。ここからベースキャンプに戻るより、距離は近いのだ。
「良いんですか!? ……あ、でも、どうしよう?」
ティオは興味津々な顔をするが、護衛してくれているティーダに悪いと思い、町長の誘いを辞退しようとする。
「……ごめんなさい。やっぱり……」
「――良いんじゃないか、ティオ」
「えっ、ティーダ!?」
「後日、戦闘になるかもしれない。地形の把握の為にも、見ておくのも良いかもしれないしな。そのついでにでも、お前はお前の用件を済ませれば良い」
「ありがとう、ティーダ!」
町長の誘いを受け入れ、ティーダとティオはサンバナの町へ移動する事にした。
――自然と人が一体化している町、サンバナの町。中には大木をくり抜いて、家にしているものもある。ティオ達のベースキャンプよりも明らかに規模は大きく、その人口は恐らく三倍はあるだろうと思われる。
「この宿屋をお使いください。お食事から入浴まで完備してありますので」
「ありがとうございます。町長さん!」
「それと……これは我が町で使われている通貨です。ここでは買い物という形で、その通貨を使います。具体的な事は現地の店で……。それでは私はここで」
町長から1000マーネを貰う。ティーダもティオも、通貨というものを持った事がない為、アイテムを貰っても素直に喜べないでいる。
「とりあえず、お買い物……してみようよ!」
ティオは今日一番の笑顔を見せる。明らかに楽しみでしょうがない表情だ。
「ティオ、遊びに来ているわけでもないんだぞ」
「あ、うん……。そうだよ、ね」
顔には出さないが、その声は非常に寂しげである。
「……だが元々はお前のガラクタ集めの付き合いだからな。今日いっぱいはお前に付き合ってやるよ」
「……っうん! じゃあ早速見て回ろうよ!」
無邪気な子供のように、町中を駆け回っていく。
「ふっ、やれやれだ……」
二人はサンバナの町を歩く。町の活気を見ていると、城国軍との戦争が嘘のようにも思えてしまう。だからこそ人々は全力で今を生きている。いつこの生が尽きてしまうともわからない、だからこそ悔いを残したくないのだ。いつかくる平和を信じている。