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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
故郷を燃やして~母へ~
77/97

7,無差別殺人者

 サンバナの町に戻ってきた。

 ティアナとロミは、真っ直ぐにサンバナ町長である、ハインズを訪ねようとしたが、二人揃って場所がわかっていなかった為、パーチャの道具屋に行き道を聞く。

 ハインズの屋敷は、町中の建物の中でも大きく、わかりやすい位置に存在する為に、ティアナとロミも迷わずにたどり着けた。

「凄いね……ここが、ハインズさんのお屋敷なんだ」

「僕……引き取ってもらえるかな?」

 心配そうに、ロミは呟いた。

「大丈夫だよっ、きっと引き取ってくれるよ。お姉ちゃんに任せて!」

 自分の胸を叩いて、堂々とした態度を見せる。

 そんなティアナの姿勢に勇気づけられ、ロミも少しだが表情が明るくなる。

 ――そして立派な扉をノックしてみる。すると中から女性の声で「はーい、ちょっとお待ちくださいね」と、声が聞こえてくる。

「お待たせしました。……えと、どちら様で?」

 中から出てきたのは、赤ん坊を三人も抱き抱えた、綺麗な女性だった。その周りには、ロミよりも少しだけ年下であろう、子供達がいる。

「あ、ごめんなさい、忙しいところを……。実は、この子を引き取ってもらいたいのです」

 紹介されたロミは、差し支えないぐらいの、小さなお辞儀をする。

 それを見た女性は、やや困った顔で言う。

「多分……ハインズは申し入れを受けると思いますけど、今は生憎と留守にしていまして……」

「――良いではないか、ルーカ」

 と、ティアナ達の後ろから、貫禄のある男の声がする。咄嗟に振り向くと、スキンヘッドで白毛が混じった、髭面の中年男性が立っていた。

 直感的にわかる。この男がハインズであると。

 その直感は当たりだったようで、ルーカと呼ばれた女性は小声で、

「あれがハインズですよ」

 と、耳打ちしてくれる。

 近年起こった、三度の大戦を経験し、生き残ってきた男だ。そして壊滅状態にあるとはいえ、事実上の地上軍幹部である。

 纏う風格が、一般的な兵士達とは段違いである。町長などではなく、首領という言葉がよく似合う。

「申し遅れたね。私の名はハインズ……少年、君のような子がここにいるという事は、身寄りを亡くしてしまったのかね?」

「ロミといいます。僕は、その……パ、父さんを戦争で亡くして、母さんはつい最近、城国兵から僕を守ってくれて……死んでしまいました。僕には……行く宛がありません。もし宜しければ、僕を……ここに置いてくださいっ、お願いします!」

 頭が地面についてしまうのではないかと思えるぐらいに、勢い良く頭を下げる。

 まだ十歳前後の少年には、あまりに似合わない行為である。

 そして、そんな姿勢を見たハインズは、ロミに向けてにっこりと微笑んだ。

「ご丁寧にありがとう、ロミ君。君がここに来る事を歓迎しよう」

「そ、それじゃあ……?」

「君も私達の家族だ。少し不自由な暮らしになってしまうかもしれないが、共に未来を見ていこうではないか」

 ロミは、今日何度目になるのかわからない、涙を流していた。これは悲しみの涙ではなく、嬉しさの涙である。

 そんな光景を見たティアナも、自分の事のように嬉しく思い、気が付けば涙を流していた。

「ルーカ、みんなにロミ君の紹介を。――さぁ、ロミ君。ルーカに付いていきなさい」

 ロミは元気良く「はいっ」と答えると、駆け足でルーカの下まで移動した。

 そして振り返り、真っ直ぐにティアナを見る。

「お姉ちゃん、短い間だったけど……ありがとう! お姉ちゃんのおかげで、ひとりぼっちになっていた僕だけど、小さな勇気が出たよ!」

 大きく手を振り、その言葉を贈る。そしてロミは、ルーカに連れられ、屋敷の中へと姿を消す。

 これで少年――ロミとの別れになる。

「ありがとうございました、ハインズ町長さん。これで、あの子も幸せになれると思います」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。それと本当の意味で、幸せになれるかは、最終的にはロミ君自身にかかっている」

「……そう、ですね。――あ、あの、ハインズ町長さんに伺いたい事があるのですけど」

 ハインズは、見た目の割に優しい顔で「何だね?」と答える。

 結局の本題である、母親であるティオの墓への行き道。町の構造に悩まされ、一人ではたどり着けないと判断し、ハインズに聞く事にしたのだ。

 一般の人間に聞いても、邪険に扱われてしまうが、全てに公平な立場であるハインズならばと、ティアナは考えた。

 そして予想通り、ハインズは墓の行き方を教えてくれた。だがやはり言うのは、あまり快いとは思えなかったようである。

「――何故、君のような子が、ティアナの墓について聞いてきたのかは、不問とするが……あの一帯には注意したまえよ」

 それまで優しかったハインズの表情が、みるみると険しくなり始める。

「一体……何に注意しろと仰るのですか?」

「うむ。君は――黒騎士というのを存じているかね?」

 知っている名前だった。

 それはロミから聞いた名前だ。ロミを襲ってきた、城国兵を殺したとされる人物。

 卓越した剣腕と、身体能力を有していると、推察している。

「私達は黒騎士の事を、クロディアンと呼んでいる。こいつは危険人物だ、用心した方が良い」

 確かに芸術性が垣間見える程の、殺人技術を持った相手だ。危険人物と言っても、過言ではないのかもしれない。

 しかし同時に、ロミの命を救ってくれた人物でもある。地上の人間の命を救ってくれたが、地上の人間に危険人物扱いをされている。

 それにティアナは、どこか納得できない感情があったのだ。

「その黒騎士……クロディアンは、一体何が危険なのですか?」

「人間離れした戦闘力もそうだが、何よりもこいつが危険なのは――狙う相手が一貫していない事だ」

 思わず「えっ……!?」と、聞き返してしまう。

 狙う相手が一貫していない――つまりは、城国、地上に関係なく、攻撃を加えているという事だ。

 それではロミを救ってくれた恩人などではなく、ただの無差別殺人者である。

「とにかく、ティアナの墓に行くならば、クロディアンには気をつけてくれ」

 そう言って、ハインズは屋敷の中へと入っていった。

 墓の他にも、危険な情報が聞けてしまったが、いずれにしても、ティアナの目的はティオの墓へ向かう事だ。

 黒騎士――クロディアンに会わない事を祈りながら、ティアナはサンバナの町から、西に行った位置にある、正式名称――ティアナの墓、を目指す。

 空はすっかり、漆黒の夜空へと変貌を遂げていた。


 墓へ到着した時には、完全に夜と言える頃合いだった。

 そこから見える町の灯りが、どこかか細く寂しげであり、そう感じさせる静かな美しさがある。

 綺麗だ。漆黒に映える、生活という名の、生命の夜景だといえる。ふと、空を見上げると、そんな町の灯りとは一味違った光が見える。

 星だ。遮るものがない為に、星の光がよく見える。目を瞑ると、今日起きた色々な出来事が浮かんでくる。

 喜怒哀楽。ある意味で全ての感情を出したのかもしれない。それも悪くない――そう思える自分が好きだった。

「――お母さん」

 風が吹いた。静かで涼しくて、優しい風だ。こんな風は、滅多に体験する事はない。

 夜景と風に揺れる少女の姿は、どこか神々しいとさえ思える。

 ――今、まさに母親の墓の前に立っている。そこに母の骨は無いが、ティアナには包まれている暖かさを、感じる事ができた。

 まるでティオが優しく抱きしめているかのようだ。あるいは、それは真実だったのかもしれない。

「これは……」

 ふと目に入ってきた物がある。殺風景といえる墓に、白い花が揺れている。

 それはワセシアの花。非常に稀少な種類であり、持ち主には幸せが訪れるという、一種の伝説のある花だ。

 ティアナという悪魔の存在に、これ程までに稀少な花を備える人間がいるのだろうか。

 答えはノーといえるだろう。人々はこの墓を、荒らす事もしなければ、浄める事もしない。我関せず――それがティアナという悪魔に対する、暗黙の了解になっているのだから。

「一体誰が……!?」

 その白い花に、ティアナが触れようとした時、見えない力がそれを拒んだ。

「痛っ……この力、そっか、この花は私でさえも触れないぐらいに、大切な花なんだね。ごめんなさい、お母さん」

 今度は、両手の平を使い、包み込むように触れようとする。本当に触れるのではなく、手から感じ取るという事の方が正しいかもしれない。

 触れる事は拒まれたが、その白い花からは、暖かな優しさを感じ取れた。それは誰よりも、何よりも強かった。

 たったそれだけだったが、自分の母親がどんな人間だったのか、わかったような気がしたのだ。

「お母さん、もうそろそろ行くね。みんなを待たせてるから」

 もっと色々な事を伝えたかった。だが随分と遅くなってしまった事もあり、心配させまいとして、今回は町に戻る事を優先する。

 ティオが笑って手を振っている気がした。でもどこか寂しげな表情にも見える。

「大丈夫、きっとすぐにここへ来るから! その時は、カルマン師匠も一緒だよ。シンラさんっていう人とも出会えたんだよ。……だから、もう一度来るから、今は『またね』しよう」

 漆黒の中に白く輝く美しい花が、風が吹いて揺れる。

 少しの間だったが、墓参りを終えたティアナは、カルマンとシンラの待つ町へと戻っていく。行き道の大変さの割に、帰り道はすんなりと戻ってこられた。

 朝と昼のような熱い活気に満ちた町並みも良いが、サンバナの町というのは夜になると、どこかアダルトな雰囲気が漂う、静かで妖しさを放つ町になる。

 大きな町の為か、空は暗くとも町内としては非常に明るい。その理由としては、先ほどティアナが見たように、人々の生活による灯りが多い為だ。建物の中から漏れてくる、暖かな光である。

 ――だが戻ってきたは良いが、肝心のカルマンとシンラが見つからないでいた。夜になって町並みも少しは落ち着いたとはいえ、人通りはいまだに多く、特定の人物の発見には、非常に手を焼く状態にある。

「――ティアちゃん、こっちよ!」

 聞き覚えのある声が、耳に入ってくる。声の主はシンラである。見ると大きな宿屋の前で手を振っていた。

 更に遠くから見ると、改めてわかるカルマンのゴツさ。確かに知らない人が、注目するのもわかる話である。貫禄のある顔も、一つのスパイスになっている。

「遅いぞ、何をしていたんだ、墓に行くぐらいの事で」

「えっと……色々と」

 本当に色々とあったのだ。まさか帰りがここまで遅くなるとは、ティアナ本人だって思いもしなかった事である。

「まぁ、良いじゃない。とりあえず中に入りましょうよ。お話はそれからでも良いでしょ?」

 余程心配していたのだろう、帰りが遅かった事に、不機嫌になっているカルマンを、説得するようにシンラが言う。

 カルマンも大きなため息を吐き出し、

「そうだな、話は中に入ってからにしよう」

 と言い、一足先に宿屋に入っていく。

「大事にされているのね。貴女が帰ってくるまで、ずっと心配していたのよ」

「はい、すみません……。気をつけます」

「うふふ、良いのよ。――さて、お腹空いたでしょう? 美味しいスープでもいただきましょう」

 シンラはティアナの小さな肩を抱き、宿屋の中へと誘導していく。

 宿屋の中は、見た目通りの広さがある。それに見合った人数がそこにいて、各々が食事をしたり、仲間と話し合ったりしていた。

 まるで昼間の町の雰囲気が、そっくりそのまま建物の中に入ったように感じられる。

 ティアナ達も食事を済ませ、その宿屋に備え付けの風呂も堪能した。そして予約してある、専用の部屋まで案内される。

「混んでいて二部屋は確保できなかった。一緒の部屋になるが、我慢しろよ」

「私はいつも一緒に寝ていたから大丈夫ですけど……シンラさんは平気ですか?」

「ティアちゃんがいるから、変な真似はできないでしょ。――大丈夫よ、彼は変な下心に負ける人でもなさそうだしね」

 三人は部屋に入る。大きなベッドが、二つ備えられていた。必然的に、カルマンが床になったのは、言うまでもない事だろう。

 風呂で暖まった体のまま、布団に入ると眠くなってしまいそうになる。特にティアナは非常に眠そうにしていた。

「さて、ティアナ。どうして遅くなったのかは、この際聞かん。だが早めに戻れるように努力しろ、わかったな?」

「はいっ、本当にすみませんでした、師匠! ――あ、でも一つ、気になる事を耳にしたんです」

 そう切り出したティアナに、カルマンとシンラは注目し、聞き耳を立てた。

 話の内容とは、黒騎士――クロディアンの事である。ティアナは、クロディアンに関する事を、簡潔に説明してみせた。

「黒騎士ね、割と有名な戦士よ」

 ティアナの話を聞き、シンラは口を開いた。

「知っているのか?」

「噂で、だけどね。城国、地上を問わずに、人を斬り殺していく漆黒の剣士ね」

「ティアの言っている情報が正しければ、確かに無差別殺人だな。こいつの意図がまるでわからん」

 低い唸り声を出しながら、カルマンは考えている。だが、真っ当に考えたところで、黒騎士の意図がわかるはずがないのだ。

 それは何故か。無差別に攻撃を仕掛けたところで、黒騎士が利益を得られるわけではないからだ。

 城国の支配開放を望むのならば、地上に人々を殺す必要はない。逆もまた然りであり、城国の体制を良しと思うのならば、城国兵に攻撃を仕掛ける必要もないのだ。

 あるいは第三勢力として、存在しようとでもいうのだろうか。それこそ最も馬鹿馬鹿しい答えになる。そんな独りよがりな戦いをしても、世界は動くはずもない。

「これも噂だけどね、黒騎士はその時の弱い戦力には、攻撃を仕掛けないみたいよ」

 このシンラの発言に、カルマンはありったけの力を込めて言う。

「はぁっ!? 何だそれは、正義の味方にでもなったつもりかっ!」

「私に文句を言わないでよ。そういう噂を耳にした程度の事なんだから。大体は城国が地上の人を弾圧している事が多いから、黒騎士って城国兵を殺す印象のが強いようだけど……たまに形勢逆転して、地上の人が城国兵を、数人で攻撃する事があるみたいね。その時だったらしいわ、黒騎士が地上の人を攻撃したのは」

 ティアナもカルマンも沈黙する。理由はあるとはいえ、無差別殺人者であり、正義の味方を気取っている。異常な人物としか言いようがない。

 ロミの事でさえ、もしも立場が逆転していたら、少年のロミにさえ無慈悲な剣を振りかざしていたのだろうか。そう考えただけで、ティアナは恐ろしいと感じられた。

「――まぁ何にしてもだ、得体の知れなさすぎる黒騎士の事は、ひとまず置いておこう。……シンラ、お前が昼間に酒場で言っていた事の続きでも、話してはくれないか?」

「えぇ、そうね……」

 黒騎士の事とは、また違った真実。

 シンラが複合生命体――キメラであり、旧パーシオン跡地にできた村で戦った狼である事。そしてその発言の真相を、ゆっくりと話し始めた。

「心配する男」


シン「それにしても、ティアちゃんがいない間の、あの人は面白かったわね」


ティ「え、どんな風にですか?」


シン「ティアはまだか!? ティアはまだなのか!? ってずっと同じ事を言っているのよ」


ティ「師匠は心配性なとこがありますからねぇ」


シン「それにしたって、あの見た目で立派にお父さんしてると、何だか面白いわ」


ティ「あははは、それは確かにそうかもしれないですね!」


カル「――聞こえてるぞ、貴様等」

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