2,かつての故郷で
名前 ティアナ
種族 Nアルティロイド
性別 女
年齢 15
階級 命の騎士
戦闘 2500
装備
E炎帝・ヴェルデフレイン
E鋼の剣
E戦闘用防護服
名前 カルマン
種族 サイボーグ
性別 男
年齢 31
階級 機械腕の男
戦闘 1700
装備
Eギガンティックアーム(右手装備)
Eスモールソード(左手装備)
E戦闘用防護服・改
ティアナとカルマンは、己の帰るべき場所を燃やし、旅の覚悟を固くする。
住んでいた場所から、南西の方角にある、サンバナの町が二人の向かう先となっている。歩き出してから数十分、ティアナは外の世界に目を輝かせていた。
実は十五年の間で、家の周囲からは出た事がない。カルマンが出させなかったのだ。出たいという気持ちもあったが、ティアナはカルマンの言い付けを、しっかりと守り続けた。
――暗闇を歩いていくと、そこにはかなり小規模だが、人の集落を発見する。明かりもある為、城国に潰されてはいないようだ。
「――ここは」
カルマンは小さな声で言った。
思い起こせば、ここには、いや正確には、この場所には覚えがあったのだ。
出発した家から、やや西寄りであり、サンバナの町とは丁度中間の位置にある。
そう、ここはかつての、
(旧パーシオンの跡地……俺の、全てが始まった土地)
感慨深いものがあった。その土地で過ごした、かつての記憶が、カルマンの脳裏で甦っていく。
もう、十五年も前の出来事だが、確かに思い出せる記憶達。
「――師匠っ、あそこに影が!」
ティアナの声で、現実に戻される。既に剣を構えて、謎の影の襲撃に備えている。この辺りは、さすがに鬼稽古の成果といったところだろう。
確かに視線の先には、大きな影がある。だが人間ではないと、人目でカルマンは推測する。その影は四足歩行をしていて、畑の上を歩いている。おまけに畑の食物を、食い漁っているようだ。
カルマンは小声で、ティアナに指示をする。
「落ち着いて見ろ、あれは野生の獣だろう。放っておけば害はない」
「でも畑がっ!」
「あいつも……生きる事に必死なんだ。ここの人間には悪いが、これぐらいは見逃してやれ。捕まれば、それがあいつの運命なんだ」
途端に、村中に火が灯り、そこから数人の村人が出てくる。男も女も、鍬や簑を持ち、影になっていた獣に向かっていく。
一瞬だが影の正体が見える。毛むくじゃらの本体、カルマンの予想通り、野生の獣に間違いはないようである。
村人がいきり立ち向かっていくと、獣は嘲笑うかのように、走り去っていく。あまりの速さで、目で追うのがやっとだ。到底、人間に追いつけるものではない。
「――何だ、あんた達はっ!?」
獣を追ってきた、村人の男に見つかる。獣騒動のせいか、目が殺気立っている。
「待って、私達は怪しい者ではないです!」
「俺達は旅の者だが……何かあったのか、協力できるのなら協力するが?」
旅の者、と聞いて男の目から、殺気が消えていく。
男は後ろに振り返り、
「捜索中止だ! 各自、家の中へ入れ!」
と言い、指示を出す。どうやら、村の中でも地位があるもののようだ。
「私の名前はエドガー。かつては兵士として、活動していた男だ」
「俺はカルマン。そして、こいつはティアだ」
「よろしくお願いしまーすっ!」
エドガーという男は、二人の事をよく確認する。当然だろう。城国兵が旅人に偽り、村の壊滅を狙っているかもしれない。事実、過去にそういった例も、数件だが確認されている。
ティアナに限っては、不釣り合いな体格に、携えられた剣に注目されるぐらいだったが、問題はカルマンだ。
そもそも体格が良いというだけでも、注目される的でもあるのに、その巨大な機械腕が、特に視線を釘付けにする。そして右眼の機械眼を隠す為の眼帯。既に、只者、という域を超えている。
「カルマン……さん、貴方のその腕は、一体……」
カルマンは、「さん、はいらない」と言うと、
「この腕は友の形見だ。俺は昔、レジスタンス兵でね、この辺りで活動をしていたんだ」
「なるほど……貴方も、いろんなものを失いながら、今という時代を生きているのですね……。良かったら、今夜はここに泊まっていきませんか?」
「――泊まらせる代わりに、あの獣を退治しろ。そういう事だな」
エドガーは、一瞬だけ反応すると、少し考え込むように俯く。そして腹が決まったように言う。
「そういう事になります。貴方達は、見たところかなりの腕をお持ちだと、お見受けします。どうか……あの化け物を退治していただけないでしょうか? このまま農作物を食われると、私達の生活がままなりません」
カルマンは考えた。予定では、今日の夜の内にサンバナの町まで、到達したかったからである。
この出来事は、道端に落ちている小石に等しい。大して疲れもない為、泊まる必要もなければ、助けてやる義理もないのだ。無駄な消耗は、避けるが良し。
「――悪いが」
「受けますよ、そのお願い!」
カルマンが言うよりも早く、ティアナが口を開く。
その言葉を聞き、エドガーは、
「良かったっ、助かります! では、少々汚いですが、あちらのテントをお使いください」
と言って、一足先に村に戻っていく。他の村人にも報告する為だろう。
指定されたテントは、一番端にあった。確かにお世辞にも綺麗といえず、埃が舞いそうな見た目をしている。
もっとマシかものはなかったのか、カルマンは率直にそう思った。
「ティアナ、何故受けたんだ? 俺達の旅の目的を忘れたのか?」
その問いに、ティアナは少し間を空けて話始める。
「世界に希望の灯を見せる。……だから、困っている人の力になるんです!」
「そうする為には、目の前の小さな石は無視しろ、そう言っているんだ」
「――嫌です!」
普段はカルマンの言い付けを、しっかりと守る少女であるが、たまに自分の意思を押し通す事がある。
カルマンは、そんなティアナの反応に、目を細め動向を推察する。
「希望の灯を見せる旅だからこそっ、目の前の困った人達を救っていくんです。一部が見放されて……大衆が救われるなんて、あってはならない事なんです!」
そんな言葉にカルマンは、はっ、とさせられる自分がいる事に気付かされる。
気にする様子もなく、「先に行きまーす!」と、足取りも軽く、指定されたテントへ向かうティアナ。そんなティアナを見ながら、軽いため息を吐き出す。
「これが歳を取った……という事か。真剣なつもりでも、どこか冷めたように見てしまう。……昔の俺は、もっと馬鹿でいられたはずなのにな」
一人呟き、テントへと移動していく。
中に入ってみると、やはりボロボロで小汚ない。しかし客用に指定するだけあって、最低限の物は揃っている。
やる事も無いので、二人は眠りにつく事にする。
――そして、次の日の朝を迎える。
朝になり、辺りが明るくなると、村の輪郭が見えてくる。十五年も経過した事により、かつてのパーシオンの形は、全く見えない。
畑がメインの村なのだろう。村の中心が畑になっており、それを囲うように、人の住まいとなっているテントがある。規模はパーシオンほどではなく、むしろ小さい。最小限の土地で、城国に見つからないように暮らすには、最善の環境だろう。
「さて……望まぬ宿泊ではあったが、一応あのエドガーという男に、挨拶でもしに行くか」
まだ寝ているティアナを起こさぬように、そっと立ち上がり、自分が使っていた薄布をかける。左手で頭を優しく撫でると、女の子らしいさらっとした柔らかい髪質を感じられる。
――テントから出ようとすると、村の中心部でエドガーと数人の男が話している。遠すぎて何を喋っているかまではわからないが、あまり穏やかな雰囲気ではない。
それもそうだろう。エドガーが話しているのは、城国兵士である。
(まさか、俺達の事を……!? いや、それはないか、俺達の存在を城国に教えてどうなるわけでもない。……少し、盗み見をさせてもらおうか)
カルマンは右眼に備えられている眼帯を外し、その下の機械眼をあらわにさせる。望遠レンズによる読唇術である。
「――お願いします!ここ最近では化け物が、この周辺を襲うようになっていて、城国への貢ぎ物が追いつかないのです」
「へっへっへ、そんな事は知るかよ。俺達はいつでもここを叩く事はできるんだぜ? 貢ぎ物をするから、ここへの攻撃をやめてほしい、と頼んできたのは、あんた達だ。そうだろ、エドガーさん?」
「は、はい……その通りでございます……」
土下座までして、頼み込んでいるエドガーに対して、汚い薄ら笑いをする兵士達。
そんな城国兵士を見て、カルマンは胸糞の悪さを覚える。聞こえはしないが、聞こえるように強い舌打ちをする。
「まぁいい……。俺達はティアナのような悪魔ではないつもりだ、もうちょっとだけ待っててやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
更に深々と土下座をするエドガー。それを尻目に城国兵は立ち去っていく。
完全にいなくなったのを確認し、カルマンもエドガーに接近していく。
「今のは城国兵だな? 貢ぎ物とは、ここにある農作物の事か」
「あ、貴方は、カルマン、さん……でしたね。聞いていたのですか?」
「そんな事はどうでも良い。貢ぐ為の農作物が、昨夜の獣に食われ、ノルマを達成できていない……そういう事なんだな?」
「はい、仰る通りで。前にあの化け物を殺そうと、男手を使い立ち向かったのですが……あの化け物は強いのなんのって、返り討ちにされてしまいました。なので強い方の力を借りて、化け物を何とかして殺そうと……」
カルマンの苛立ちは最高潮に達していた。貢いで貢がれてを繰り返す、村人と城国兵に。かつてのパーシオンの土地で、こんなにも情けない事が行われている事実に。人間が作り上げてしまった、こんな大地にも、文句一つ言わずに必死に生きている獣に、化け物と連呼し続けるこの男に。そして――自分達のやっている事実には、目もくれず気付かず、ティアナを悪魔と称する人間に対して。
自然と左拳は握られ、目の前で情けなく座り込んでいるエドガーを、力の限り殴りつける。突然の事で、受け身も取れずに横転するエドガー。そしてそれを見ていた村人の、数人がテントの中から出てくる。
「それ以上、エドガーさんに暴力を振るうなら、容赦しないぞ!」
そんな発言が、更にカルマンの苛立ちを加速させる。
(何でそんな風に、城国兵に言えねぇんだよっ、いつから地上は城国の犬になっちまったんだよ……!)
カルマンには、その気になれば、ここにいる全員を殺せるぐらいの、戦闘力がある。
だが燃え立つ苛立ちの割に、拳は全く出ようとはしない。感情のままに攻撃しない事、それが今の自分にできて、昔の自分にできなかった事だろう。
「――ちょっと、みなさんで何をやっているんですか!? 武器を納めてください!」
「先に手を出したのは、その男だ! 私達は自衛する為に武器を手にしているっ!」
「し、師匠……?」
ティアナはカルマンを見るが、その表情からは全く真意が掴めない。
殴られたエドガーも、相当なダメージなのか、足にきてしまっていて、いまだに立ち上がる事さえできないでいる。
「聞けっ、エドガー! てめえの言う化け物とやらは、今夜には退治してやる。但し、退治できたら、お前達は城国への貢ぎを止めろ! 地上の誇りを失ったお前達に、のうのうと生きていて良い権利はねぇっ、わかったか!」
カルマンの態度に、村人達は驚き竦み上がる。誰一人として、言い返す事もできない。客用テントに下がっていくカルマンを追い、ティアナも駆けていく。
去り際に頭を下げていったが、間違いなく印象は最悪だろう。
「――師匠、さすがにあれは言い過ぎじゃ……」
「そうだろうな。言い過ぎだとわかって言った」
これに、意味がわからない、といった顔を見せるティアナ。カルマンもそれを見て、意を決したように話し出す。
「ティアナ……ここはな、かつてはパーシオンと呼ばれたレジスタンスベースだったんだ」
ティアナが、「パーシオン?」と聞くと、
「そうだ。お前も資料で読んだかもしれないが、鬼神ソリディアが指揮を取っていたレジスタンス。そして、ガキの頃の俺や、お前の母さんが暮らしていた場所でもある」
「えっ……お母さんが!?」
「この土地はな、ソリディアさんや、俺や、ティオ……お前の母さんが頑張って生き抜いていた土地だ。だからこそ、この土地に住んでおきながら、沈んでしまった地上人を見る事が、無性に腹立たしかったんだ」
普段、感情をあまり表に出さないカルマンが、あまりにも意外で、ティアナにとってはどことなく複雑な感情があった。そして、今自分がいる所が、自分の母親が暮らしていた土地だと知り、小さな嬉しさもあったのだ。
「――そういう、事だったのですか」
テントの向こう側で、突然の声。すぐに声の主は、エドガーだと判断できる。
「立ち聞きとは……まぁ、俺も人の事は言えないか」
エドガーはテントの中に入らず、外で立ち続けている。テント越しで影しか見えないが、ふらついているのがわかる。
ティアナが入るように促したが、エドガーはそれを拒んだ。
「ここの以前の集落……名前は知りませんでしたが、存在は知っていましたよ。実は私もね、ソリディアさんに憧れて兵士を目指した口でね、何度も門を叩こうと思いましたよ」
エドガーの独白に、ティアナとカルマンは黙って聞いている。決して作り話などではないと、判断できた為である。
「だからこそ、この場所にあったレジスタンスが、十五年前に襲われ、壊滅してしまった時は悲しかったもんです。何よりも同胞の仇討ちがしたいと、若いくて馬鹿ながらに願ったりもした。ここに村を建てたのも、ソリディアさんのようになりたかったからだ。……でも、現実はそうもいかなかった。カルマンさんの言う通り、私達はただ生き続ける事に慣れてしまい、戦う事を忘れてしまったみたいだ……」
「安心しろよ、夜の獣は必ず倒してやる。だからお前は、ソリディアさんのように、ここの連中を率いてやるんだ。好きか嫌いか、やれるかやれないか、ではなく戦う事に意味があるんだ」
カルマンの言葉を聞き、エドガーは深々と頭を下げ、走り去っていく。少しは吹っ切れたのだろう、走り方にどことなく覇気が見える。
ティアナは、そんなカルマンを誇らしく思えていた。
「さっすが、師匠!」
「そんなんじゃない、ソリディアさんが偉大だったからできた事だ。俺個人の力ではない」
相変わらず不器用な言葉だったが、ティアナは嬉しかった。そんな偉大なソリディアという英雄を、追いかけた結果が、今のカルマンを生み出している。
だからこそ、目の前の男を「師匠」と呼べるから、それが何よりも嬉しいのだ。
「さて……あの巨大な獣が現れれば、今夜は戦闘になる。体を休め、武器を手入れしておけよ、ティアナ?」
「はいっ、わっかりました、師匠!」
「や、やけに元気だな……」
――そして、夜を迎える。
巨大な獣の咆哮が、闇夜を裂きこだまする。
「母の故郷」
ティ「~~~♪」
カル「どうした、嬉しそうだな?」
ティ「嬉しいですよ、お母さんが住んでいた場所にいるんですよ!」
カル「母の……故郷、か」
ティ「そういえば、師匠のご両親は?」
カル「む、俺の両親か。詳細はわからん、何せ勘当同然で家を飛び出してきた。もう本当の故郷がどこにあったのかも、わかった話ではないよ」
ティ「どうして、家を……?」
カル「ん、あぁ、エドガーという男と同じように、俺は当時のソリディア兵士長に憧れててね。門を叩いて弟子にしてもらいにいったのさ」
ティ「へー、じゃあ、師匠はソリディアさんの最高の弟子ですね!」
カル「な、何故だ?」
ティ「だって、私にいろんな事を教えてくれた師匠ですよ、優秀だったはずです!」
カル「っ……。(耳が痛いな……)」