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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
故郷を燃やして~母へ~
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1,旅立ち

アルティロイドⅢ~星屑の光のように~まで、お読みいただきありがとうございます。

ここからは、「理想郷」「覚醒スル命」のように、続編感覚で書いていきますが、一方でⅠとⅡを読んでない人が、Ⅲから読んでもわかるように、を目標として執筆していきたいと思います。

主人公がティーダからティアナに代わり、新たなアルティロイドとして読んでいただけたら嬉しいです。

では、どうぞご覧ください。

 ――十五年前の悲劇。人々は、支配解放大戦と呼んだ。この名の大戦は、二度行われ、それぞれ名前の頭に『第一次』と『第二次』と付けられた。

 大戦クラスの戦いは、過去の歴史で数回行われているのは、いうまでもない。特に現代から近しく、大きな犠牲者数を出した三つを紹介する。

 一つ目は、今から約三十五年前に起きた、『地上連合大戦』と呼ばれるものだ。戦いは熾烈を極めたが、数に勝る城国軍の、事実上の圧勝。地上軍の完敗である。

 ――だが、この大戦で名を残した戦士達がいた。『鬼神ソリディア』『軍神バース』『策略家クリム』という、英雄達の存在だ。完敗こそしたが、圧倒的な戦力差の城国軍と戦えたのは、彼等の活躍によるところが大きい。

 そして、二つ目が『第一次支配解放大戦』と呼ばれるもの。現在から十六年前に起きている。北と南の地上戦力を、一気に城国へ向けた、いわば総力戦。戦死者は連合大戦を大きく上回り、近年の大戦としては、最も最大の戦いとなっている。

 最大の痛手となったのは、前大戦の英雄――ソリディアとクリムを失った事にあるだろう。それともう一つ、この時期あたりから、人間離れした兵士の存在を、確認できるようになった。

 話は逸れるが、『サンバナ攻防戦』『シュネリ湖防衛戦』と、大戦外の戦いで確認されている。特筆すべきは、黒髪の少年である。名前は不明だが、あまりにも人間離れした動きは、それを見た者にとっては、記憶に新しいところだろう。

 話は戻り、この大戦も地上軍の敗北となっている。だが、あと一歩のところまで城国を追い詰め、次への期待を心待ちにした人間も、決して少なくはないはずだ。

 そして、最も近しい十五年前の『第二次支配解放大戦』は、歴代で最も、最悪な大戦と呼べたであろう。死者数自体は、不謹慎ながらも、過去の大戦よりも下回っている。

 しかし、神の天罰か、悪魔の断罪か、恐らくは後者であろう。この大戦には、悪魔が参加した。……詳しい事はわからないのだ。ただ悪魔が現れ、一陣の風を発生させ、多くの人間の命を奪っていった。地上、城国に関係なくだ。

 いずれにしても、この三つの大戦により、地上戦力は完全壊滅。第二次大戦が、最後の大戦といっても過言ではないだろう。

 人々は終わりなき、城国からの蹂躙と略奪の日々に耐え、始まりなき希望の未来を、待っているのだろうか。

「――よしっ、勉強終わり!」

 少女は勢い良く本を閉じ、固まった体を、うんと伸びてほぐす。

 少女は十五歳ぐらいだろうか、その歳の平均としては、やや小柄な体つきだ。綺麗な桃色で、ショートの髪型。そんな少女と不釣り合いなものは、その服装だろうか。いわゆる地上で使われるタイプの、戦闘用防護服と呼ばれるもの。現在、その防具部分は外されているものの、そんな少女と見比べれば、異常と考えても不思議ではない。

 木で作られた、小さな家。これが少女の住まいである。決して恵まれてはいないが、必要最低限の、生活必需品が揃えられている。

「さてっ、次は剣の稽古! サボると、師匠に怒られちゃうもんね」

 準備運動を兼ねて、適度に体を動かしながら、剣を取りにいく少女。向かった先には、数本の大小様々な実剣が置いてある。そしてその全ての剣が、何年も使い古したようになっており、所々に血が付着している。

 少女が手に取ったのは、その中でも大きい部類に入る、ロングソードである鋼の剣である。この世界では、最もポピュラーな武器であるが、小柄な少女には、あまりにも似合わない。

 そして鋼の剣を手に取った少女は、その隣に置いてある、刀身が深紅の剣を見つめる。

「――お父さん。私は、お父さんの領域に、近づけていますか?」

 決して悲しそうな瞳ではなく、何か目標を見定めるような、真っ直ぐな瞳が向けられている。

 まだ、あどけなさが残る少女には、これも不釣り合いな覚悟をもった表情をしている。

「ティアナ……剣の稽古はどうした?」

 突然、家の扉が開き、男が姿を現す。体格は非常に良く、貫禄に満ちた顔つき。何よりも、その男に目を見張るものは、その男の右眼と右腕だろう。人間のモノではなく、機械でできた眼と腕がある。右腕に関しては、ガタイの良い男でさえも不釣り合いとされる程に、大きなものだ。

「あ、カルマン師匠! 大丈夫です、今からやるとこですよ」

「ふむ……まぁ、お前はサボるような奴ではないし、嘘をつくような奴でもないのは、わかっているつもりだ。――俺は食料確保に行ってくる、決して手を抜かないようにな?」

「はいっ、わかりました! 気をつけて行ってきてください、師匠!」

「ふん……誰に向かって言っている」

 決して怒っているわけではなく、不器用に言い、男は出かけていく。

 少女の名はティアナ。師匠と呼ばれる男の名は、カルマンという事がわかる。

「――やっ、はっ、せいっ!」

  それからおよそ二時間は経過しただろうか。休む事なく、教わった通りに剣を振り続ける。流れる汗が何故か美しく、清らかに見えてしまう。

 激しく動き回っているのに、その静寂漂う森のように、少女の存在は、静かに激しい。洗練された――というべきなのか、やはり十五という歳の割には、一言で凄いとしか言い様がない。

 鋼の剣を鞘に納めると、ティアナは丁度良い大きさの切り株に腰掛け、一息をつく。

(……木や草、生き残った動物達の声。そうだよね、同じ大地に住む生き物同士、争ってちゃいけないよね。……うんっ、もう少しだけ待っててね、私、頑張るよ!)

 まるで自然と同化したように、ティアナの存在は、まさしく自然にそこにあった。神秘性などもそこになく、感じさせるものもありはしない。

 流れる汗が伝い落ちると、足音が聞こえる。とてもずっしりとした、重い足音だ。

「二時間の稽古時間、しっかりとこなしたか?」

 その足音の正体はカルマンである。左手には、袋一杯になった、食料が詰め込まれている。

 そしてまた、その重い一歩を踏みしめ、ティアナに近寄っていく。

「おかえりなさいっ、師匠! しっかりと稽古はこなしましたっ、安心してください!」

「安心も何も、手抜きして後々困るのはお前だ。……っん?」

 カルマンは、抱えていた袋を、ティアナに渡す。すると訝しげな表情で、ティアナの髪の毛を見つめる。

 その理由がわからずに、ティアナも上下左右を確認するが、その正体はわからない。

「――髪が長くなってきたな……切っておけ。それと旅立ちの準備をしておけ! 今夜、ここを発つぞ」

「あ、はいっ……!」

 不器用で口が悪い男だが、今のは明らかに少しばかりの悪意があった。決して嫌がらせなどではなく、過去のトラウマのようなものから、カルマンの口調を荒くさせる。

 ティアナもこれが初めてではない為、そこまで気にした様子もなく、素直に返事をする。

「――って、えっ、今夜ですか?」

「そうだ、そろそろ頃合いだと判断した。まずはここから南西にある『サンバナの町』を目指す」

 半ば強引ながら話を終わらせ、カルマンは家の中へと入っていく。

 そんなカルマンが家に入っていくのを見て、手渡された袋の中から万能ナイフを取り出す。そのナイフを使い、器用に伸びた自分の髪の毛を切っていく。落ちていく髪の毛の長さは、ほんの数ミリ程度だったが、その度にカルマンに注意されていた。

 最初は髪の毛が長いと、動きに支障が出る為だと思っていたが、どうやら別の理由があるようだ。その理由を、過去に数回ほど聞いた事があったが、それこそカルマンの怒りに火をつけてしまうようで、ここ最近では全く聞いていない。

「……こんな感じかな?」

 手探りで自分の髪の毛の長さを調べ、大体で調節する。切る前と大差はなかったが、気持ち短くなっている。

 ナイフに付着した髪の毛を、軽くはたき落とし、それを収納する。

 袋の中に入っている食料は、お世辞にも多いとはいえないが、この世界この時代を考えれば、恵まれているといえる。そして食料を、今食べるものと、旅に持っていくものとに分けていく。

「旅立ち、かぁ」

 不思議な気持ちを持っていた。期待と不安の入り交じったような、心音が跳ねるような気持ちだ。

 遊びに行くわけではなかったが、そんな気持ちを隠せずにはいられなかったのだ。


「――ちっ、またあんな事を言っちまった」

 ティアナを外に残し、家の中に入ったカルマンは、やや強めの舌打ちをする。

 その原因はティアナの髪の毛のせいでもあり、決してティアナ本人に苛立っているのではない。

「ふぅ……ったくな!」

 タルの中に貯蔵してあった水を、小さな容器に一杯入れ、それを一気に飲み干す。喉も渇いていた為、その水の冷たさと潤いが心地良い。

 気分を落ち着けると、椅子に座り込む。右腕の巨大な機械腕が、総体重を重くしているのだろう、椅子が軋む音を立てた。

 カルマンは一瞬ながら、過去の記憶を思い出していた。第一次および第二次大戦の渦中、カルマンは成人に満たない少年兵であった。お世辞にも才能があったとはいえなかったが、負けたくない一心で色々と無茶をしていた過去の自分がいる。カルマンには、戦闘においても恋愛においても、負けたくないとして一方的ながら、ライバルと見ていた男がいた。

 その男の名前はティーダといい、歳は同い年。なのに戦闘の腕は、カルマンと雲泥の差があった。

 そしてティーダには負けたくないと思える戦いが、もう一つあったのだ。それはティオという少女の存在。少年時代のカルマンは、当時、英雄として名を馳せたソリディアという男に憧れ、その男が作ったレジスタンスチーム『パーシオン』に所属していた。そのパーシオンに来た際に、ティオに一目惚れをした事が全ての始まりだった。

「うむ……歳をくったな、昔の事ばかり思い出しちまう……」

 座っていると思い出してしまう、良い事も悪い事も。カルマンは立ち上がり、自身も旅立ちの準備をしていく。鞄や袋に使うべき物を入れていく。巨大な機械腕と、体格の良さからは意外だが、カルマンは非常に手際良く荷物をまとめていく。

 ――すると勢い良く扉が開き、ティアナが入ってくる。

「師匠、食料の仕分けが終わりましたよ!」

「ティアナ、扉は静かに開けなさい。……俺に構わずに、先に食べていろ。準備が出来次第、すぐに出発するからな」

 右手を高々と掲げ、「はーいっ!」と非常に元気よく返事をする。

 そんな元気いっぱいのティアナと対照的に、黙々と荷物の仕分けをするカルマン。数分してから荷物の整理が終わり、ティアナの用意した食料を口に運ぶ。調理などしていない為、美味しいとは言えないが、素材独自の味を楽しめる為、カルマンはよく生のままで食事をする。

 ――窓から空を覗くと、夕焼けが空に広がっていた。全てを燃やすような赤い空を見て、カルマンは嫌な事を思い出す。

「よし、そろそろ出発するぞ。夜になると色々と面倒だからな……。刃物は最低限で良いんだぞ、ただでさえ嵩張(かさば)って重いからな。あと……ヴェルデフレインを忘れるな?」

 言うべき事だけを言って、カルマンはさっさと家の外へと出て行ってしまう。

 ティアナは言われた通りに、ヴェルデフレインを手に取る。――深紅の刀身のヴェルデフレイン。普通の剣とは違い、材質にオリハルコンが使われ、刀身が生きているように熱い剣である。

 これ程の剣が、何故ここにあるのかさえ、ティアナは知らなかった。師匠であるカルマンの繋がりである事は、容易に想像できるが、それ以上にティアナには感じ取れていた。

 ――その剣に宿りし、悲しみの記憶を。

 ティアナは、使い慣れた鋼の剣と、深紅の剣ヴェルデフレインを、腰に携えて家を出る。家から出ると、予め用意していたものだろうか、枯れ木や枯れ草が家の周りに置かれている。

「師匠……何を?」

「下がっていろ!」

 そう言い、カルマンは火のついた枝を数本、家に向かって投げた。一瞬にして炎が燃え広がり、その夕焼け空と同じように、辺りは真っ赤に染まっていく。

「師匠っ、一体何を!?」

「……必要ないのだ」

 燃える家を見つめながら、重く言葉を放つ。全く表情を変えずに、燃えていく家を見つめるカルマンに、ティアナは言葉をかけられないでいた。

「俺達の旅は……ただの旅じゃない。混沌となったこの大地に、希望という名の小さな灯を見せていく旅だ。俺達に帰る場所は必要ない。人々が安心して故郷に帰られるようになる、その日まで……俺達は戦い続けるんだ」

 燃えていく轟音と共に、小さな嗚咽がカルマンの耳に入ってくる。横でティアナが涙を流していた。

「……泣くなっ、俺達は――」

「――泣きますっ!」

 泣き声だったが、カルマンの声を消すように、頑張って大きな声を出す。

 どうしても譲れないものが、その心の内に秘められているからだ。

「泣きたい時に泣けない人間がっ、人の故郷は守れません!」

「――ティアナ!? ……そうだな、今は、思い切り泣け」

 その瞬間、今まで耐えていた涙が、ティアナの眼から溢れて流れた。泣き終わる頃には、家が全て燃えて、灰となっている。夕焼けはすっかり夜という、闇の世界へと変貌を遂げていた。

 星が泣いているように見えた。いつもよりも多く光り輝いていると感じられる。

 無数に輝く星達の中で、一際強く大きく輝く星が、ティアナとカルマンを照らしている。

「行くぞ、ティアナ。まずはサンバナの町へ」

「……はいっ!」

 名もない場所から、二人の旅は始まる。

 光り輝く星は人で、それを映す空は大地だ。二人の存在はとても小さく、星屑の光のようかもしれないが、確かな輝きが一歩を踏み出した。

※キャラの名前の頭二文字にて、略されています。


「名前」


カル「ティアナ」


ティ「何ですか、師匠?」


カル「今まではお前の事を、ティアナ、と呼んでいたが……以降はティアと呼ぶ」


ティ「……? 一体突然どうしたんですか?」


カル「何、簡単な事だ。今の世の中ではな、ティアナの名前を出すだけで、邪険にする者が多いというだけの事だ。お前だって、好んで嫌な思いはしたくはなかろう?」


ティ「そりゃそうですよ!」


カル「と、いうわけだ。以降はティアと呼ぶ、わかったな」


ティ「わかりましたっ!」

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