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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
覚醒スル命~第二次支配開放大戦~
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27,第二次開放大戦

 ――決戦前夜。サンバナの町には、異様な活気が満ち溢れていた。

 それもそのはずだ、明日が地上最後の日といっても、過言ではないのだ。各自が思い思いの事をしている。これはその結果なのだ。

「ティーダ!」

 呼びかけたのは、カルマンである。既に腹は決まっているのか、迷いのない顔をしている。

「ちょっと前によ、アルティロイド、の話をしただろ。あれさ、もしも明日の大戦に勝って、お互いに生きてたらさ……もっと教えてほしいんだよ」

 その予想もしていなかった言葉に、珍しくティーダが、驚きの表情を見せる。

「何故だ? それに教えるといっても、俺は俺の体験談とかしか教えられない。技術とかといったものは、全くわからないぞ」

「体験談、そういうのがほしいんだよ! ……俺さ、戦争が終わって、平和な時代が来たらさ、ティーダやオルテンシア、バゼットみたいな、城国に身体を弄られた犠牲者の為の、孤児院みたいなのを作りたいって思っててな」

「孤児院……?」

「あぁ、きっと支配の時代が終わっても、アルティロイドやキメラっていうのが、迫害される。人間って、よくわからないけど、そんなもんだ。……でも、俺はそんな奴等の暮らしていける場所を、作ってやりたいと思うんだっ! 一方的な自己満足かもしれないし、偽善なのかもしれねぇけど……ソリディア兵士長が、みんなにパーシオンを与えてくれたように、俺も誰かに場所を与えてやれるような、そんな男になりてぇんだ!」

 相変わらずの馬鹿正直で、真っ直ぐしか知らない、確固たる意思を秘めた瞳。嘘のつきようのない、全力の瞳がティーダに向けられる。

「……わかった。参考にならない意見かもしれないが、それでも良いのなら」

「――サンキュ! ったく、信じられないよな、会ったばかりの頃には、想像もつかない事だよな。お前とこんな話するなんてよ」

 恥ずかしそうに話すカルマンを見て、ティーダも鼻で笑いながら言う。

「そうだな、でも不思議と良く思える」

「お前は、将来的にはティオと結婚か?」

 茶化し混じりに、聞いてみるカルマン。だが本心としては、真面目な問いかけでもある。

「――何を馬鹿なっ!」

 面白いぐらいに動揺するティーダ。最も、これはカルマンだからこそわかった、動揺なのかもしれない。普通に見ても、微弱な変化だからだ。

「それにアルティロイドは、後世に遺伝子を残す事はできない。仮にも、ティオと結婚したとしても、子供はできない……」

「良いじゃねぇか、子供ができなくてもよ。最終的に、お互いが幸せなら……」

「……そういう、ものか」

 自分が求めているもの。掴めそうで掴めないそれは、いまだにティーダの心の中で、一つの課題として残っている。開放大戦の後に、その課題の答えは見つかるのか、ティーダの頭の中に奔走し続ける。

 カルマンは、残った左手でティーダの肩を叩くと、

「俺はもう寝る。俺も前線に出られない代わりと言ったらアレだけど、ここで補助の補助要因として頑張るつもりだ。お前は前線に出るし、大役なんだろ? もう、寝ておけよ」

 と、ティーダの体調も気遣い、一足先に部屋に戻っていった。

 時間にすれば、深夜は確実に回っている時間だろう。それでもサンバナの町の、活気という名の炎は消える気配を見せなかった。

 ティーダも休もうと思ったが、疲れの感じられる体とは裏腹に、睡魔は無く、むしろ目はとても冴えている。

 明日が決戦、という事実。ティーダはいまだに、その事実を実感できないでいる。決して緊張してるわけでもない。だがやはり、ある一種の予感が拭い切れないでいた。

「どうしたティーダ。眠れないのか?」

 ティーダが振り向くと、そこにはオルテンシアとバゼットがいる。バゼットはともかく、オルテンシアは相当な酒を飲んだのだろう。顔が赤くなり、酒臭い。

「フィーネ様とノリヌ様は、既にお眠りになった」

 酔っぱらっているオルテンシアの代わりに、バゼットが言う。

「そうか……お前達は寝ないのか?」

「勿論、そろそろ眠りにつくつもりだ。だが酔っぱらいを一人にしておくわけにもいかないだろう?」

「……大変だな」

「そうでもない。いや、そうだな。大変だ。しかし、オルテンシアとは城国時代から一緒にいた、今となっては慣れた事だ」

 足に力が入らないのか、一人で立っていられないオルテンシアに、肩を貸しているバゼット。仕方がなさそうに、担いでいる男を見る。

「――じゃあ、私達はこれで。ティーダも早く睡眠を取るんだ。眠れないのならば、横になって目を瞑っているだけでも良い」

 そう言って、バゼット達も自分の休むべき部屋に、移動していく。

 気が付くと、あれほど活気に満ちていたお祭り騒ぎも、徐々に静かになっていた。サンバナの町から、灯が次々に消されていき、最低限の炎だけが残された。

 ティーダもとりあえず、自分の停まっている宿屋の部屋に戻り、ベッドの上で横になる。すると、今まで冴えていた瞼も、急激に重くなり、一気に睡魔に飲み込まれていく。

 ――決戦の朝を、ついに迎える。第二次支配解放大戦と銘打たれた、最後の決戦が始まる。


 昨晩――時間的には、昨晩といって良いのかはわからないが、それとは違う活気がそこにあった。

 人々の声は呼応し、怒号の歓声を繰り出す。これが最後の大戦、そんな思いを誰もが秘めて、これに臨んでいる。

「本当に始まっちまいましたね、ハリス兵士長」

「あぁ、そうだね。何か思い起こせば、エスクードの方達が来てから、色々な事が起きて……あまりに一瞬でここまで来てしまって、大戦当日なのに、あまり実感が無いんだよ」

「って、マジですか、ハリス兵士!? 兵士長は前線に出るんでしょ、しっかりしてくださいよ? ……なんて言っても、俺にも何か実感が沸かないんですけどね」

 ハリスは南側第三波攻撃部隊に配属されている。そしてカルマンは、前線部隊への配属はされず、衛生兵や医者の補助をする事になっている。

 その他、ティーダは第二波、同じくバースも第二、オルテンシア、バゼットは第三、ラックは北側第一部隊となっている。

「――こんな時に、ごめんね……ティーダ」

 南側第一波攻撃部隊は、既に進軍を開始していたが、第二部隊のティーダには、まだ時間があった。ティオはティーダを呼び止める。

「あの……頑張ってね」

「そのつもりだ」

「えっと……」

 あまりにぎこちない会話になってしまう。ティオはティーダに、言いたい事が山ほどあった。事実、昨晩は、その言いたい事の整理と練習で、やや寝不足気味である。

 一方で、ティーダも聞きたい事があった。それはティオ=ティアナの事実確認。知ってどうなるわけでもないが、知らなくてはいけない事だと、何故かティーダの直感が告げている。予感はいまだに拭えていないのだ。

「ティーダ――あっ!」

「ティオ――あっ……」

「どうしたの?」

「どうした?」

 ティーダもティオも、顔を赤らめる。ただこの時、お互いに顔を見ていなかった為、赤面は見られていない。

「先、良いよ」

「俺のは大した理由じゃない、ティオが先に言えよ」

「わ、私のも大した理由じゃないよっ、ティーダが先に言ってよ」

 譲り合う両者、そのまま譲り合って、いつまで経っても話が進展しない。その内、気まずくなって、同じタイミングで同じように黙る。

 それを繰り返している内に、誰ともつかない人の声がして、

「南側第二波攻撃部隊所属の方々は、至急お集まりください! 繰り返します――」

「あ……召集、命令」

 どこか悲しそうに言うティオ。来るべき時が来てしまった。再び巡り会う時なのか、今生の別れの時なのか、それを知るのは、まさしく神のみ。

「行ってくる。ここには、城国の攻撃はこないと思うが、万が一にも――」

「ティーダっ!」

 ティーダの言葉を打ち消すように、俯きながらも大きな声を絞り出す。

「すぅー……はぁー……、――絶対に、生きて帰ってきてね。絶対だよ。私ね……私、まだティーダとしたい事がいっぱいあるんだっ、前にも約束した……世界を回る事もそうだけど、それ以上にっ、もっとしたい事があるんだ! 平和な世界で、貴方と……」

「――あ、ここにいたんですか、ティーダさん。早くこちらへ! 第二陣は貴方がいなければ、ささっ、こちらへ!」

 黙って聞いていたティーダだが、そのティオの言葉は、誘導兵士に遮られてしまう。仕方がないといえば、それまでの話だ。作戦は、迅速かつ的確に行わなければならない。

「あ……ティーダ……」

 連れていかれるティーダを、ただ黙って見送るしかできないティオ。俯き、全ての感情を胸に押し込めようとする。

 ――ドクン。鼓動が動き出した。

「ティオ!」

 ティーダの言葉が、耳に入る。

「俺はっ、必ずお前の前に、戻ってくる! だから……聞かせてくれ。お前の話の続きをっ、必ず!」

 ティオは遠目に見えるティーダにも、わかるように大きく頷き、小さな体で大きく手を振り、戦場へ向かう戦士を送り出した。

 ――ドクン。ドクン。鼓動は加速する。

「あの子、君の彼女? 可愛い子だねぇ、素朴な感じでさ」

「そんなんじゃない……俺とあいつは、まだそんなんじゃ」

「そうなの? でもね、男だったら『かもしれない』女でも、ガッチリと掴んで離さないぐらいじゃないとダメだよー、女だっていつまでも待っちゃくれんよ」

 やけに馴れ馴れしい、もとい気さくな中年兵士。恐らくは緊張した兵士の、不安を取り除くのが仕事なのだろう。

 だが緊張は取り除けないだろう。ティーダの相手は、間違いなくクリッパー。それにリオ、深緑の王となったジューク。難題は多い。前大戦では共に戦った、ラティオも来てくれるかはわからない。

「おうっ、ティーダ! 勝っても負けても、これが最後の大戦だ、気張っていこうぜ!」

「あぁ、そのつもりだ!」

 ――そして、いよいよティーダの所属する、第二波攻撃部隊が進軍を開始する。


「ついにバースさんとティーダの、第二波攻撃部隊が出撃したんだってよ!」

 どこからともなく、ティオの耳にそんな声が入ってくる。

(そっか……ついに出撃したんだ、ティーダ)

 ――ドクン。ドクン。ドクン。感じられる命の鼓動は。

(せめて……私は貴方の勝利を願います。神様……どうかティーダを生きて返してください、お願いします)

 両手を握りしめ、神に祈りを捧げる。ティオは滅多にこういう事はしないが、ティーダの為に、祈りを捧げる。

 ――ドクン……命は、おトヲ立てテ、コワれタ。

「あっ……あぁ……そ、んな……」

 ティオは突然、膝をつき倒れる。その体は遠目で見ても震え、目は常軌を逸している。繰り返す嘔吐と、滲み出す血液。その異様な姿に、誰もが近づこうとしない。

「ティ、ティオちゃん、どうしたんだい!?」

 それを発見したハリスは、急いでティオに駆け寄る。

「ティオちゃん、しっかりするんだっ! ……何をしている、救護班早く呼べっ!」

 そうしている間にも、止まる気配のない、ティオの異様な行動。どうすれば良いのかわからず、ハリスもただ名前を呼ぶ事しかできない。

 そして――。

「駄、目……もっ、う、みんな……離れ、て……離れないと――……みんな、みんな……殺してやるっ!」

 ティオの体から、黒桃色のような、オーラが漂い、その瞬間――サンバナは光に包まれた。

 途切れる事のない断末魔、悲鳴、泣き叫ぶ声。

 ティオはゆっくりと上空へ浮遊し、黒桃色のオーラで形成された、あまりにも巨大で、禍々しい翼を広げる。

 それを見た人々は言う、「あれは悪魔の子」だと。

 世界の全てが、その彼女へと視線が向けられた。黒桃色の翼は、怨念に満ちた命の輝き。

「――ハハハ、アッハッハッハッハ、アーッハッハッハッ! ありがとうと言わせてもらうよ、ティオという名の、もう一つの私の人格よ……。――世界よ、聞けっ! 私の名は、ティアナ……世界を崩壊させ、愚かな人類に裁きの鉄槌を下す! ……これは、手始めとなる、裁きの一つだ!」

 ティオ、いやティアナは、軽く腕を振ってみせた。その瞬間、城国を掠めるように、大地が大爆発を起こす。腕を振っただけの衝撃波で、前線にて戦っていた多くの人間が、わけもわからず何もわからず、その命を散らしていく。

「さぁ、人間共よ、そして私を造った王よ、懺悔するがいい!」

 悪魔の咆哮と、悪魔の翼が世界を包む。


「――なっ、まさか……ティアナだとでもいうのか……?」

 一人、その存在を認識している、深緑の王。

「王よ……あれは一体何なのですか!?」

 その姿をただ事ではないと判断した、クリッパーとリオも、軽い混乱を起こす。

「あれは……数十年前に、私が造りあげた、アルティロイドの原型にして、破棄したはずの、真の……最強のアルティロイド。……まさか……失敗に終わったと思ったが、よもや完成し覚醒するとは……」

「か、覚醒って……何があるっていうんですか、王様!?」

 リオは完全に、パニックになっている。無理もない、ただ見ているだけでもわかる、聞く必要もない。あまりにも次元が違いすぎる。

「無理だと思うが、クリッパー、リオよ。あやつの、ティアナの迎撃に行くのだ!」

 深緑の王は、無理だとわかって命じた。

 クリッパーとリオは、ティアナの元へと急ぐ。

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