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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
使者~最後の団結~
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22,それぞれの行動

「――と、いうわけで、ワシらは遠路はるばるやってきた、という事じゃ」

 ノリヌは、やけに得意気に物事を言う。

 前にティーダが、エスクード城に世話になった際に、支配解放大戦の話をした事がある。ティーダがパーシオンに向けて、帰っていった後、ノリヌはフィーネと相談し、再び解放大戦を起こすべく、ここまでやってきたらしい。

「ですからノリヌ殿、大戦を指揮したのは、我々ではなく、サンバナという大きな町の町長なんですよ。我々には、大戦をしようと言っても、それを実行させる権力はありません」

 かなり困った表情で、眼鏡を掛け直すハリス。体調が悪いのか、顔色は青白い。

「むう……では、早速ながらサンバナ町長とやらに、話をつけに行こうではないか!」

「そんな……小規模レジスタンスを率いる私に、サンバナ町長と話せる器なんて……。小僧と言われ、門前払いが良いとこですよ」

 強引にでも前に進みたいノリヌと、テコでも動こうとしないハリス。両者はこのバランスを保ったまま、既に数時間が経とうとしていた。

 あの戦いから五日、怪我をした兵士達も、何とか動けるようになり、生き残ったエスクード兵士達は、とりあえずパーシオンにて、手伝いをしながら暮らしている。

 特筆すべきはカルマンであり、右腕を失うという大怪我をしながら、たった五日で歩き回っていた。

「――聞いても、良いですか?」

 問いかけたのは、フィーネである。

「ああ、何だ?」

 その問いを、ティーダが無愛想に受け止める。

「あの……カルマンという方、本当に人間なのですか!? あんな大怪我で……動き回っているなんて、とても信じられない……」

「だからタフな奴だって、言ったはずだ。さすがにタフさと、馬鹿さは負けるな」

 その回答に、複雑そうな表情をするフィーネ。その複雑な顔のまま、視線は動き回るカルマンを追っていた。

 どうやら、カルマンとオルテンシアが、バタバタと何かをしているようである。二人は性格的に気が合ったのか、意気投合している。

「ちょっとカルマン君っ! まだ重症なんだから、そんなに動いちゃ駄目だよっ、また傷が開いちゃうってば!」

 珍しくティオが、鬼のような表情で怒っている。ティオからすれば、怪我人が動いているのは、快く思えない事だろう。

 しかし怒るティオに反して、カルマンは元気そうに言う。

「大丈夫、大丈夫! そんなに無理はしないって。ほとんど動くのは、オルテンシアなんだからさ!」

「そういう問題じゃなくて!」

 やはり認められないティオ。そのティオの勢いにあやかり、オルテンシアも口を開く。

「こら、カルマン! 俺はお前のパシりじゃねぇぞ! 俺は誇り高きエスクードの騎士、鷹の――」

「わかったわかったって。パシりなんて考えてないってば、ちょっと協力してもらおうとしただけじゃんかよ」

 悪びれる様子もなく、満面の笑みで言う。右腕を失った事を、全く気にしていないようにも見える。

 それが良い事なのか、悪い事なのか。とりあえず元気なカルマンを見て、ティオは安心しておく事にした。

「何するのか、知らないけど……あまり無茶はしないでよね?」

 ティオの心配に、カルマンは親指を上に突き立て、大丈夫だという事を伝える。

 そしてそのまま、カルマンはオルテンシアと共に、パーシオンから出ていく。

 ――向かった先は、最近戦った場所、その跡地である。改めて見ると、リオのパルティナによる、砲撃の痕が色濃く残っていた。

 そんな中でも、特にカルマンの目を惹いたのは、物言わぬ残骸と変わり果てた、ロビンの姿である。

(ロビン……)

 残骸の前に立ち、何も言わずに立ちつくす。その表情には、パーシオンにて見せていた、明るい顔は無い。

「詳しくは知らないが、やけに明るいカルマンを見て、少しばかり違和感を感じていたが……」

「少しぐらいは、明るく振る舞っておかないと……あんたらの姫さんが、泣いちまうだろ?」

 意外な気配りに、目を丸くするオルテンシア。

「それに……そうしないと、俺の気持ちが潰されちゃいそうで……」

 カルマンの気持ちを汲み取り、ロビンだったもの、に手を合わせるオルテンシア。

「ありがとうな、そんな事をしてくれるとは、正直思ってなかった」

「当然の事だ。機械兵士……というのは、よくわからないが、共に戦った戦友である事に変わりない」

 しばらくそうしていると、カルマンは、落ちているロビンの腕を持とうとする。しかし、腕一本といっても、重さはかなりのもので、片腕しかないカルマンでは、持ち上げる事ができない。

「やっぱ……重いな……」

「片腕では無理だろう? それを持っていく気なら、俺が持っていってやろう」

「あぁ、頼むよ。てか、その為にあんたを誘ったんだけどね」

「ったく、調子のいい奴だな」

 やれやれ、といった感じで、ロビンの腕を持ち上げる。キメラといえども、ロビンの腕は、なかなか重い。

「――しかし、腕なんか持ち帰って、どうするつもりなんだ?」

「へへへ、秘密」

 他愛のない話をしながら、パーシオンに戻る、カルマンとオルテンシア。二人がここに来ている間に、パーシオンでは、ある取り決めが行われていた。


「――何にしても、まずはやってみないと、始まらんじゃろう?」

 カルマン達が出かけている現在も、ノリヌとハリスの話し合いは続く。この場にいるのは、他にもティーダとフィーネがいる。

 最も、フィーネは話し合いに参加しているというよりも、ノリヌの押しに、困り果てているハリスに対し、申し訳なさそうに俯いている。

 隣にいたティーダは、小声でフィーネに話しかける。

「お前が一言出せば、どんな方向にだって、すんなりと行けるんだぞ?」

 ほぼ崩壊しかけている、エスクードの姫でも、姫は姫だ。並の人間よりも、その権限や価値は高い。

 何よりも、このノリヌの説得も、最終的にはフィーネと、サンバナ町長のハインズが、対話をする事に意味がある。

「でも……それを決めるという事は、また大きな戦争が始まるという事。私には……今更ながら、それを決める覚悟が無かったのかもしれません……」

「本当に、今更だな」

 平和の為にと言えども、その一言でたくさんの人々が死ぬ事実。それを一人の少女が決断するには、荷が重すぎるのではないだろうか。

 それをわかっていながらも、ティーダは呆れ口調で言う。

「――とりあえず、サンバナという町まで連れていってもらえれば、あとはワシらでどうにかするわい」

「うぅむ……しかし、私はここを離れるわけにはいきませんし……。副兵士長が今は負傷中ですし」

 副兵士長、つまりはカルマンの話題が出ると、フィーネは責任を感じ、更に俯いてしまう。

「……では、他に誰が道案内を頼める人物はいませんのかな?」

「俺が行こう」

 いつまで経っても決まらなく、同じ事を延々と繰り返す事に、業を煮やしたティーダは、自ら道案内役をかって出た。

 その発言に、その場にいた誰もが、ティーダを見る。

「おぉ、ティーダ! やってくれるのか!?」

「但し道案内だけだ。交渉の成功は、当然ながらあんた達にかかっているからな? ハリスもそれで良いだろう?」

 ハリスは「あぁ、うん」と、何とも煮えきらない発言をする。

「よし、そうと決まれば早速出発じゃ! 良いですか、姫様?」

「え、えぇ……そうしましょうか」

 ハリスと同じく、フィーネも煮えきらない。

 カルマン、オルテンシアは外出中。ティオは怪我人の手当て。その結果、サンバナの町へ向かうのは、ティーダ、フィーネ、ノリヌ、バゼットの四人になる。

(……また、サンバナの町か。ここまでくると、余程の縁があるんだな)

 思い返せば、ティーダは一度サンバナの町へ行くと、続けて行く事が多い。事実、最近でもティオと共に向かい、戻ってきたばかりだ。

 気合い十分のノリヌ。乗り気ではないフィーネ。それに従うバゼット。行き飽きたティーダ。あまりに珍妙な違いを見せる、四人は急ぎサンバナの町へ向かっていった。


 パーシオンから、サンバナの町まで、およそ一時間。エスクード城から、ここまで歩いてきた疲れを、多少なりとも見せながらも、フィーネは頑張って歩き続けている。

 だが、サンバナの活気を見た瞬間、そんな疲れも忘れてしまったようだ。フィーネだけでなく、ノリヌまでも年甲斐もなく興奮している。

「これは凄い……まさかまだ地上に、これ程の集落があったとは……」

 冷静沈着なバゼットも、サンバナの町を見て驚いている。ある意味で、これが初見の反応なのかもしれない。

「ここが大戦の敗北によって、城国に襲われていなければ、もっと活気があっただろうにな。――町長がいるのはこっちだ」

 本来の目的を忘れてはならないとして、ティーダは淡々とした口調で、道案内をしていく。

 フィーネとノリヌは、辺りをキョロキョロと見回し、後ろから歩くバゼットは、二人が迷子にならぬように、見守っている。

 ――町長がいる建物に到着すると、特にノリヌは身だしなみを、気にかけ始める。この辺りが、王族に使えていた為のものだろうか。

 扉を叩くと、以前と変わらずに、美人秘書が姿を現す。

「あら、確か貴方は――パーシオンのティーダさん、だったかしら?」

 秘書が覚えていた事に驚きながら、

「よく、覚えているな。今日はハインズ町長に客を連れてきた。会わせてもらえるかな?」

 と、フィーネ、ノリヌ、バゼットの事を紹介する。

「少し……お待ちいただけますか? 現在はレジスタンス――コロセオンのバース様が御目見えになっていまして……」

「……だそうだが、どうする。待っても平気か?」

 誰に、というわけでもなく、ティーダは問いかける。そして、その問いにフィーネが答える。

「お客様がいるのなら、仕方がありません。宜しければ待たせてもらっても、大丈夫でしょうか?」

 ティーダに答えながら、今度は秘書に問いかける。

「えぇ、大丈夫です。では中にお入りください。入って右手に待合室がありますので、そこでお待ちください」

 秘書は物腰穏やかに、案内すると、足早に自分の仕事に戻っていく。中の様子から、大分忙しそうだ。

 そして次にティーダ達、四人が呼び出されたのは、数十分後の事である。


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