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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
レジスタンス~地上に住む人々~
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5,騎士の使命

 ――汚れ一つない白の壁。何者にも犯されない聖域のような間に、薄布のヴェールに包まれた場所がある。そこからは並々ならぬオーラが漂う。シャングリラキングダム、王の間である。

 そこにはヴェールに向こう側にいる王と、ジューク、デュアリス、ラティオの三人がいる。

「ジューク、貴様がいながらティーダの愚行を許したというのか……?」

「……はい、力を尽くしましたが、我ら三人では『火の騎士ティーダ』を止める事は叶いませんでした」

「……フン。まぁ良い、ティーダ一人いなかろうと、我が理想の世界を構築するのは容易い事だ。お前達三人がいればな」

 王の言葉に、ジューク達は軽く一礼をする。しかしこの、半ばティーダを諦めている王の発言に、ラティオは噛みつく。

「王よ、俺にティーダ捜索の命を与えてください!」

「ラティオ……!」

 ラティオのこの行動を、咄嗟の反応でジュークは止める。そんな二人の行動すら、ヴェールの向こうで表情が見えないにも関わらず、不敵な笑みを浮かべている、そんな事を想像させられてしまう。

「ほぅ……ラティオ。ティーダ捜索の命を与えてどうするつもりだ?」

「決まっています、兄貴……いやティーダを必ずや、連れて帰ってみせますっ!」

 ジュークはこの発言に無表情を貫くが、デュアリスは明確ではないが賛同する。

「ティーダを連れ帰ってどうするつもりだね?」

「……えっ、いや、四人で王の理想を叶えんと……」

「……必要ない」

 王は無慈悲に、そう言い切る。その言葉だけで、ラティオとデュアリスは圧倒される。

「ティーダはこの王から逃げ出した、出来損ないのアルティロイドだ。仮に地上で見つけたら迷わずに殺せ。この王が創造したモノに出来損ないは必要がない」

 王の発言に、ジューク達三人は、ただ沈黙する。そのまま王の話は終わり、ラティオとデュアリスは外に出されるが、ジューク一人だけが呼び止められる。

「ジュークよ。あの高さからの落下だ、ティーダは生きていると思うか?」

「……いえ、間違いなく死んだでしょう」

「……うむ、では奴の落下地点で最も、確率の高いのはどこだ?」

「はい、あの落下向き、風向きなどを考慮しますと、カザンタ山岳地帯が最も近い答えかと思われます」

「ふむ、ではジュークよ。お前がカザンタ山岳地帯へ赴き、ティーダの生死の確認をしろ」

 ジュークにとっては願ってもない言葉である。表情には出さなかったが、ティーダの安否を最も考えているのは、他でもないジュークなのだ。王には「間違いなく死んだ」と言ったが、同じアルティロイドだからこそ、ジュークはティーダの生存を信じている。

「シュネリ湖はデュアリス。サルバナ森林地帯はラティオに、それぞれ攻撃を開始するように伝えるのだ。いよいよ以て、アルティロイドをこの大地に放ってみせようぞ」

「……はっ! 王の命ぜられるままに……」

 王に一礼をした後、ジュークも王の間を後にする。

 

 ジュークが王の間から出ると、そこにはデュアリスとラティオが待機している。

「兄貴、王はあんな風に言っていたが、俺は……!」

「わかっている。ティーダ捜索の命は、僕に与えられた」

 デュアリスは静かに安堵の溜息をもらす。しかし、ラティオは解せないといった顔つきで、自分の拳を見ていた。

「……フッ。そう不満を出すな、ラティオ」

「いや、俺はただっ!」

「ラティオは納得いかないかもしれないが、ティーダの事は僕に任せるんだ。……デュアリスもね」

 この話題で時間を割きすぎるわけにもいかないので、ジュークは速やかに、王から命じられた事を話す。シャングリラキングダムから北の大地にあるシュネリ湖はデュアリスに、南の大地にあるサルバナ森林地帯はラティオに、それぞれ進軍するように伝える。

 三人はそれぞれの持つ武器を、掲げ力強く言い放つ。

「風の騎士、ジューク」

「水氷の騎士、デュアリス」

「爆炎の騎士、ラティオ!」

 そして、三人は同時に言う。

「我らの使命は、王の為に……!」

 アルティロイドを実戦に初投入する第一号作戦の開始となる。


 

 ――人間にして人間にあらず。この体はあらゆる手法によって生まれた究極の体である。内面も外面も生きた人間と見た限り大差はない。しかしその身体能力は、生身の人間の比ではない。全てにおいて人間の想像を遙かに超えるボディポテンシャルを持つ。

 ――人間にして人間にあらず。この心臓、いや核となる部分は、人間と高名な聖獣とで核融合させられ生まれた、この世に存在する造られた命である。

 ――人間にして人間にあらず。望む事のなかった、超強化された身体。核融合させられた生命。それが究極なる生命体(アルティロイド)

 ソリディア兵士長に、一応のベースキャンプ滞在の許可をもらったティーダ。しかしキャンプ内は、ティーダからすると異様な活気に溢れている為、それを嫌って一人、近場の小さな川の流れる場所まで移動する。小さな土手があるので、そこに腰を落ち着けて座り込む。

「…………」

 だが何をするわけでもなく、ただ無言のまま、流れる川を見続ける。

「――あ、ここにいたんだ」

 上の方から声がする。辺りを見回しても、誰もいなかった為、この声の主は自分を呼んでいるのだ、と判断する。とりあえず上を見てみると、顔中に包帯やら薬草を巻き付けた少女がいる。太陽の光を浴びた、桃色の髪の毛が美しいとさえ感じさせる。

「……誰だお前は?」

「あれ、私の事、覚えてない?」

 ティーダは一応、簡単に頭の中で過去の事の検索をかけてみるが、やはり少女の事に記憶はない。

「……知らん!」

「……覚えてないのかぁ……」

 少女は包帯越しからでもわかるぐらいに、寂しそうな表情を見せる。しかし途端に気を取り直したのか、明るい表情でこう言う。

「じゃあ、自己紹介しましょう!」

「――自己紹介?」

 ティーダは明らかな嫌で、面倒だと言わんばかりの顔をするが、目の前の少女は全く気にする事もなく、勝手に自己紹介を始めだす。

「私はティオです。機械いじりというか、工作が得意な十五歳です!」

「……ティオ」

 その名前で思い出す。ティーダが一応助けた少女の名前はティオである。

「もう怪我は良いのか? 随分と暴力を受けていたみたいだが?」

「はい、何でかわからないけど、私って回復力が凄いらしくて……」

 ティーダの問いに、ティオは何故か照れた表情で返事をする。確かにティオ本人が言うように、昨晩は相当な外傷も目立ったが、今は見る限りそうでもない。手当ての際の包帯が、大げさすぎると言えるようなものになっている。あるいは手当てした人間の腕が良いのか。

「……それでさ」

「――何だ?」

「いや貴方の自己紹介」

 適当にはぐらかして誤魔化そうとしたが、ティオは鋭く指摘してくる。これ以上は誤魔化すネタも無いので、ティーダは仕方がなくティオの言うとおり、自己紹介をする事にする。

「……ティーダだ」

「うん」

「…………」

「あの……、他には?」

「無い」

 これは事実の話だ。ティーダは理由はどうあれ、事実上の扱いは、城国軍の兵士である。本人は思っていなくても、敵対するレジスタンスでこの事を言うわけにもいかない。そうなるとティーダにとって、まだ得体のしれないティオに、話せる事は良い所で名前ぐらいである。

「むぅ……、じゃあ年齢は?」

「……年齢?」

 ティーダは自分の年齢を思い返してみる。普段から全く年齢の事など、関係のない毎日を送っていた為、自分が生まれてから何年経ったのか、咄嗟に思い出せないでいる。

「……十六だな」

「十六歳? じゃあ、私の一つ年上だね!」

「あぁ、これからはティーダ様と呼んで良いぞ」

「それでティーダ君は、何か趣味とかは無いんですか?」

「……。お前、毎日が楽しいだろうな。……趣味は無い」

「……ふぅん」

 それでティオの聞きたい事は終わったのか、しばらく無言のまま二人で川の流れを見つめる。川の水が流れる音。水の勢いに耐えきれず、転がった石と石がぶつかる音。風が通り抜ける音。草が揺れる音。その全てがティーダは心地良いと思っていた。そんな自分自身の意外な好みに、自分自身が最も吃驚(びっくり)していたのだ。

「……よいしょっ!」

 そんな感慨に浸っていると、ティオが急に立ち上がる。

「私、もう行きますね」

「……あぁ」

「寂しくはないですか?」

「……早く行け!」

 ティオはそのまま土手の斜面を駆け上がっていく。

「この川、私のお気に入りなんです。良かったら毎日見に来てくださいね。夜にはホタルがまだ見れるめずらしい場所なんですよ!」

「ホタルって何だ?」

 そう問いかけた時には、既にティオの姿は無かった。

(……ったく。言うだけ言ってどっかに行っちまうのかよ)

 心の中で悪態をつきながらも、どこか悪い気はしていなかった。そのまま、土手の斜面に体を預ける。空を見上げると、青い空と白い雲、そして雲に隠れながらも、太陽が見える。しばらく風景を楽しんで、ティーダはベースキャンプへと戻っていく。


 ベースキャンプに戻ると、相変わらずの騒がしさがある。良い言い方をすると活気があるのだが、ティーダにとってはただ騒がしいだけである。

「おい、ヨソ者!」

 後ろから何者かに呼ばれる。だがティーダはその相手が誰なのか、薄々とわかっている。振り向くと案の定、カルマンが不機嫌な顔で立っている。

「――何だ?」

「何だ、じゃない! お前ヨソ者なんだから、少しはキャンプのみんなの手伝いでもしろよ!」

「必要ないんじゃないのか? 見ると、別に手が欲しいわけでもなさそうだ、それに素人が下手に手を出せば、逆に迷惑がかかる」

「……むっ!」

 もっともらしい意見を言われ、とりあえず黙るカルマン。言いたい事も無さそうなので、ティーダはカルマンから離れるように歩く。

(奴につきまとわれると、ただでさえキャンプが騒々しいのに、余計にうるさくなる……)

「お、おい待てよっ、こういうのはな、できるできないじゃなくて、気持ちが大切なんだよ!」

「……そうだな、一理ある意見だ」

 ティーダはベースキャンプ出入り口を目指し、歩き出した。

「おい、どこに行くんだ!?」

「気持ちが大切なんだろ? 俺は俺の仕事をしてくる」

「あっ、おい!」

 構っていたらキリがないと判断し、ティーダはカルマンを相手にせずに、ベースキャンプを出ていく。行き先は昨晩のカザンタ山岳地帯である。夜に見られなかったクレーターの規模、そしてそこに何かの見落としが無いかを確認したかったのだ。

 人間の成人男性なら、ベースキャンプから三十分、あるいは四十分で行ける距離だが、アルティロイドとしての身体能力を使えば、約五分でカザンタ山岳地帯まで行ける。まるで物語に出てくる忍者のような動きで、木と木の間を抜け、大地を蹴り、あっという間に山岳地帯へたどり着いた。

(……夜では明かりが全く届かない為か、見通しの悪い場所だと思ったが……。なるほど、昼間に来ると見通しが良すぎるな。ここからでもクレーターの規模がわかる……。しかし乾燥しているからか、砂埃がひどいな……)

 ティーダが城から抜け出した際に、落下してできたクレーターは、今いる場所から約30M程の距離の場所にある。クレーターの中も確かめる為に、ティーダは歩いていく。昨夜殺した兵士二人も、どこかに隠さなければ、城国軍から戦力を送り込まれてしまう可能性もある。そうなってしまっては、この山岳地帯から恐らく近い場所にあるティオのいるレジスタンスは真っ先に襲われ、キャンプは全滅してしまう可能性もある。勿論、今こうしている間にも、キャンプが襲われている可能性もあるのだ。

(……って、おいおい。何を真面目にレジスタンスの兵士をやっているんだ、ティーダ)

 クレーター内部にあるはずの、兵士二人の死骸を確認する。するとそこには二つの死骸の他に、何者かが一人立っている。見た感じでは剣士のようである。砂埃のせいで、細かい確認ができない。

(……しまった、先に発見されたか。どうする、口封じの為に殺すか……?)

 ティーダは腰に備えた、深紅の剣ヴェルデフレインを、いつでも抜ける気構えをする。

「――フッ。いるんだろ、ティーダ? 隠れていないで出てくるんだ」

「……っ!? その声、ジュークか?」

 そこにいたのは、ティーダと同じアルティロイド、風の騎士ジュークである。ジュークはその場で、浮遊し始めると、真っ直ぐにティーダの目の前まで来る。

「生きていたか、良かったよ、ティーダ」

「一体何の用だ。お前一人で地上を攻めに来たわけでもないだろう?」

「僕がここに来た理由は、ティーダの生存確認さ」

「……生存確認? 王の命令か、冷静なお前一人の判断ではないし、王は俺達アルティロイドを決して地上に出させはしなかった。……まさか!」

「そう、そのまさかだ。王は理想郷実現に向けて、我らアルティロイドを地上に放ったのだ」

 ジュークの言葉が本当だとすると、非常に厄介な事になるとティーダは考える。何故ならアルティロイドの戦闘能力は生身の人間の比ではないからだ。

「……それで、お前は俺の生存確認をしてどうする? 俺を城へ連れ戻し、一緒に地上の支配をさせようっていうのか?」

「いや、残念ながら王の意志は違う」

「……何だと?」

「王はティーダの事を出来損ないのアルティロイドだと言った。 そしてその生存を確認したら始末するように伝えられている」

 その言葉を聞いて、ティーダはヴェルデフレインに手をかける。

「早まるな、ティーダ。僕はお前を殺そうなどど考えてはいない」

「……では何だと言うんだ?」

「僕には僕の考えがある。だが今はまだその時ではない。……だが僕にも王への立前がある、剣を構えてくれ、ティーダ!」

 風の騎士ジュークは、その腰に下げた深緑の剣フルーティアを鞘から抜き構える。

「結局はそれか、わかっているとは思うが、俺は手加減はしないぞ?」

「わかっているよ、僕も手加減されるのは好きじゃない」

 同じくティーダも、深紅の剣ヴェルデフレインを鞘から抜く。ティーダの漆黒の瞳が深紅へ変わる。

「ティーダの中の、火の聖獣エンドラがヴェルデフレインの封印から解かれる為だ。相変わらず美しい深紅だ……」

「くだらん美意識は、戦いの中に持ってくるものではないぞ、ジューク!」

「わかっているさ、ティーダ。さぁ行こう、風の妖精フーガ!」

 ――ジュークと妖精フーガが作り出した一陣の風が、荒れ果てた大地に吹き荒れる。

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