15,旧パーシオンにて
「――遅いぞ」
「そんなに遅かったかな」
実際は、そんなに待たせてはいないはずだ。ティオはすぐにティーダを追いかけている。これはいわゆる「お決まりの流れ」的なものである。
「とりあえず行こうか」
「うん」
歩いていくと、見張りをしていた兵士が話しかけてきた。よく見ると、兵士はサンバナ戦時に共に戦った、タムサンだった。
「おや、お二方。お出かけかい?」
(しまった……存在をすっかり忘れてた……)
「はい、タムサンさん。ちょっとサンバナの町まで」
「そうかい、ティーダが一緒なら大丈夫でしょ。ゆっくり……とまではいかないだろうけど、楽しんでおいで」
「はい!」
張り切った返事をするティオ。
最近は本当に元気が無かったのだろう。そんな元気なティオの表情を見たタムサンは、そんな反応に驚きと安堵が入り交じった顔を見せる。
「いってらっしゃい」
タムサンに見送られ、少し歩いていくと、ティーダとティオが再会した場所へとやってくる。パーシオンの仲間達が眠る、墓のある場所だ。
「他の人はわからないけど……ソリディア兵士長のお墓は、本当の故郷に還してあげたいな」
「本当の、故郷?」
「うん。後で知った事だけどね、ソリディア兵士長、マルシャナっていう奥さんがいたらしいんだ。解放大戦前の戦いで、死んでしまったらしいけど……」
複雑な心境で、これを話すティオ。
「色々と、あったみたいだけどね。ソリディア兵士長……天国でマルシャナさんに会えたのかな?」
「さあな、そもそも天国があるのかさえも怪しい」
「もうっ、すぐそういう事を言う!」
少し怒ったように喋るティオ。これに対し、ティーダもあまり気にした様子もなく、軽く謝った。
「とりあえず、だ。あの男は、何よりも強かった男だ。何があったかは知らないが、きっと後悔の清算もできているだろう」
「うん、そういうもんかな」
「そういうもんだよ――」
二人でソリディアの墓に手を合わせ、そして歩き出す。
そこから数分程歩くと、カザンタ山岳地帯らしい、何もない場所へと移動できる。白の戦広野である。
「ティーダ、覚えてる?」
「何が?」
あまりに突発すぎるティオの質問だが、ティーダはわかっていて疑問を投げ掛けた。
白の戦広野は、ティーダとティオが初めて出会った場所。そして再会の地だ。
「ここで、初めて出会った事だよ」
「あ、ああ、そうだっけ?」
「そうだよっ、あの時、私――」
ティオは、そこまで言って、言うのを止めた。当の本人には、出会えた事の嬉しさもあるが、嫌な記憶も甦ってしまったからだ。
勿論、ティーダもそれを思い出していた。普段は思い出そうとしても、思い出せないのに、どうでも良い事を覚えている、自分の頭を密かに笑った。
「まあ、良いさ。早く行こうか、日帰りしたいんだろ?」
「あ、うん、そだね」
そのままにしてても、気まずい沈黙になってしまうので、ティーダは一早くフォローする。
「――そういえば」
カザンタから、まずは旧パーシオンへの行き道。ティオがそんな切り出しから、ティーダに話しかける。
「まだ聞いてなかったけどさ、大戦の後、どこにいたの?」
「聞きたいのか?」
と、ちらりと横目でティオを見ると、「聞きたい」といった好奇心に溢れた目が、一直線に向けられていた。
「まずは……砂漠だ」
「砂漠?」
「ああ、とある理由あって、俺は城国から東の地にある、エスクード城近辺の砂漠に落とされた」
「落とされた、よく生きてたね!?」
「いや、落下の衝撃よりも、砂漠の暑さの方が地獄だったな」
「砂漠ってそんなに暑いんだ? 暑いとは聞いた事があったけど……」
本で読んだ記憶を遡るように、うーんと考え込むティオ。
「そこの砂漠のエスクード城で、一人の姫さんに会ってな」
「お姫、様……」
やや嫉妬のようなものが混じったような声。
「いや、何もないからな、断っておくけど!」
「いや、何も聞いてないからね、断っておくけど」
ティーダは『あの事』を喋らなかった。自分ではない、エスクードのティーダは、フィーネ姫に口づけをした。自分ではないが、体は自分だ。
「それから色々あって、ここに至るわけだよ」
「略しすぎ! ザードリブの方達は元気だった?」
「ああ、活きの良い奴も増えていたしな」
「そっか。東のエスクード城、それに北のシュネリ湖、そして今から行く、南のサンバナの町。この戦争が終わったら、ゆっくりと世界を回りたいな!」
「……そうだな、それも良いかもしれないな」
ティオは突然小走りし、ティーダの前に来ると、今までの楽しそうな表情から、少し真剣な表情に変わる。
「ティーダも……一緒に来てくれる? 私と一緒に、世界を回るの」
「……そうだな、お互いに生き残れたらな」
「うんっ! ティーダ気をつけてね」
「何で俺なんだ?」
「前線で戦う人だから、何があるとも限らないでしょ……」
今度は心配そうに言う。ころころと変わるティオの表情に、ティーダは慌ただしさと、安心を覚えた。
――ティーダの今までの話をしながら、歩いていくと程なく旧パーシオンに着く。
「あ、そうだ、ちょっと思い出した」
「あ、おい、一人で歩き回るな――」
「大丈夫!」
ティーダは軽いため息をついた。
「まあ、結局は俺が面倒見るんだよな……」
愚痴を溢しながら、ティオを追いかける。方角からすると、レジスタンスから少し離れた位置にあった、ラルク医師のテントだろう。
「――むっ!?」
追いかけている最中、突然の気配を感じる。完全な敵意を感じた為、ティーダはすぐに物陰に隠れた。
物陰から相手の姿を伺うと、そいつはすぐに発見できた。その相手はなんとアルティロイドの一人、光闇の騎士リオだった。
優雅に空を飛び、この辺りを見回すように眺めている。
(まずいな……あそこからだと、ティオが見つかる可能性が高い。それにあいつがいるという事は、闇の騎士クリッパーもいる可能性も高い。……さて、どうする)
気配を消し、物陰に隠れながらティオを捜す。先にティーダが見つかっても、ティオが見つかっても、いずれにしても厄介になる。
今は相手を倒す事よりも、早くここから離れる事を優先する。敵の数が不確定な時点で、迂闊な戦闘は避けるべきだからだ。
「いない……つまんない」
リオは、報告にあったティーダを捜しに来ていた。当然だが、クリッパーも共に来ている。
「――見つかったか?」
「いないわよ、もう帰ろうよ、いい加減に飽きてきちゃった」
「ふむ……しかし、火の騎士の気配を感じたのだがな」
「キャハハハ! あんた、兄様とデキてんの、それヤバ、でもウケるわ」
小馬鹿にするリオだが、クリッパーは相手にする様子もなく、ひたすらに気配を探っていた。
「もういいよ、クリッパー。早く帰ろ? これだけ捜していないんだから、勘違いがなんかだよ」
「……仕方がない。一時、撤退しよう」
クリッパーも賛同し、二人は城国方面へと飛んでいく。
それを移動しながらも、物陰から確認したティーダは、すっと立ち上がると、ラルク医師のテントへ走る。しばらく走ると、横道から声をかけられる。
「――ティーダ!」
「ティオ、無事だったか」
ティオは草むらに隠れていたようで、身体中に葉っぱをまとわりつかせている。
「さっきのは……?」
「ああ、あいつらはちょっとな」
「あの二人……酷く嫌な感じを受けたよ。純粋でもない邪悪でもない、何か……生命として、とても不愉快になるもの……」
ティーダは、黙ってティオの話を聞いていた。
(そうか、こいつは前にも一度、敵の気配が明確にわかっていた事があった。強すぎる気配の、あの二人にはティオも敏感に察知したという事か)
「ティーダ……?」
「いや、何でもない。用事は済んだのか?」
ティオは首を横に振った。その反応に、ティーダは小さく微笑みながら言う。
「そうか、なら急いで済ませよう。またいつ二人が来るかわからないからな」
「――あ?」
「どうした!?」
ティオが驚いたような顔を見せた為、ティーダは辺りを警戒しだす。
「あ、ごめん、なんでもない」
「……状況が状況だからな。あまり、ややこしくするなよ」
「ごめんね」
ティオは、ラルク医師のテントへ走っていく。それを警戒しながら追っていくティーダ。
(ティーダ、笑った)
頭の中には、小さくといえども、笑ったティーダの顔があった。何をするにも、基本的には無表情で、感情を表に出す事をしないティーダにとって、これは、とてつもなく大きな事件である。
――ラルク医師のテントの用は、予備の治療備品だ。かなりの数のストックがあった為、一度には運び出せず、何回かに分けて取りに来ているのだ。
「最近ここに来たばかりだろ、もう無くなったのか?」
「違うよ、ちょっと手違いしちゃって、必要な物を取り忘れただけだよ」
ティーダには意味もわからない、薬品や道具の数々。それを袋に詰めていく。
「――これでよし。さて、次はサンバナの町だね」
「今度は忘れ物はないな? またここに来るのは、さすがに勘弁してほしいからな」
「さすがにそれはないよ」
苦笑いしながら、返答するティオ。
次は旧パーシオンより、南下した場所にある、サンバナの町だ。