10,少年兵士の挑戦
名前 ティーダ
種族 アルティロイド
性別 男
年齢 17
階級 火の騎士
戦闘 2900/業火 3200
装備
E炎帝・ヴェルデフレイン
Eティーダ専用戦闘防護服
Eクマンバのマント
E火の聖獣エンドラ
名前 ケイン
種族 ヒューマン
性別 男
年齢 12
階級 ザードリブ兵士
戦闘 700
装備
E鋼の小剣
E鋼の長槍
E身軽な服
クマンバとの出会いから一日。歩き続けていると、さすがに寒くなってくる。シュネリ湖が近くなってきた証拠だ。
貰った食料と共に、生姜汁を飲み、体を暖めていく。包みは広げる事で、マントのように羽織る事ができた。
「これは……なるほど、ただの包みじゃないな。これを装備しているだけで、打撃に対する防御力は見込めそうだ」
ティーダはマントが気に入った。残った生姜汁の器は、あと二つ。残しておいても、いずれは冷えてしまう為に、後を考えずに胃袋に流し込んでいく。
一息つくと、もう少し先にあるはずの、シュネリ湖を見据える。
(――シュネリ湖、か……)
あまり良い気分ではなかった。そこはティーダにとって、忘れられないイコンのある場所だ。デュアリスとの再会から始まり、セレナとの死闘、そして――。
ティーダはそれ以上を思い出さないように、固く目を瞑る。あれから随分な時間が経つが、いまだ忘れられぬ記憶だ。
――そして数時間、ティーダはシュネリ湖へと到着する。
セレナが放った『氷結世界』の氷は、完全に溶けさり、今は元の状態に戻っている。制圧作戦時の慌ただしさが、嘘のように静まりかえっている。
(確か近場のレジスタンスは、ザードリブ、だったな)
ザードリブの長はラック。覚えていれば、ティーダの事は知っているはずなので、楽に内部に入れるはずだ。
ザードリブはシュネリ湖より、西の方角にある。そしてパーシオンと共に『支配解放大戦』に参加したレジスタンスだ。もしかしたら、何かの情報が得られるかもしれない。ティーダは、真っ直ぐにザードリブに向かう。
ザードリブにたどり着くと、目に入ったのは門番の兵士。ただ気になったのは、門番の兵士は子供のようだった。
「――貴方は?」
少年のような兵士が話しかけてくる。その声から、少年のような、ではなく少年である事がわかる。
「ティーダという者だ。このレジスタンスを束ねる、ラック兵士長はいるかな?」
「あ、貴方が、ティーダさん!?」
少年は異常な程の驚きと、輝いた目を向けてくる。
「あ、ああ、そうだが……」
「わあ、感激だ! ――あ、僕はケインと申します。貴方の活躍に憧れて、兵士に志願したんです!」
「兵士に志願って……お前、歳はいくつだ?」
「はい、現在十二歳です!」
ケインの年齢に、ティーダは絶句した。十二歳といったら、まだ子供といっても過言ではない。確かに自分自身も、物心つく前から兵士としての経験を積んでいたが、それはアルティロイドとしての話。
この少年――ケインは間違いなく人間だろう。だからこそ、驚きを隠せなかった。
(身の丈に全く合わない長槍……確かに突撃槍として使えば、下手な剣士は倒せるだろうが……)
ティーダが考えている間に、ザードリブ内から一人の兵士がやってくる。
「――客人か、ケイン?」
「あ、アスイさん。こちらティーダさんですよ!」
アスイという兵士は、ティーダの名前を聞き、目を丸くした。
「何、まさかあのティーダ殿か!?」
「間違いないですよね、あのティーダさんですよね!」
二人は勝手に盛り上がり始める。特にケインの興奮は凄まじい。
「それで、ティーダ殿は何用でここまで? 確か貴方は南のレジスタンスの方では……」
「色々とあって。それで、ラック兵士長はいるかな?」
「ああ、いますよ。ケイン、ティーダ殿を案内してあげなさい。見張りは私がやる」
ケインは元気よく、しかし慣れない敬礼をしながら、
「了解です!」
と言い、ティーダを案内する。
案内された先は、パーシオンと同じように設置されている、兵士用テントである。
「どうぞ、中へ!」
ケインは嬉しそうに、テントを開くと、ティーダを中へと誘導する。
「ラック兵士長、ティーダさんをお連れしました!」
その言葉に、テント内にいた全ての兵士が、視線をティーダに浴びせる。
その異様な視線の雨に、ティーダが困惑していると、ケインは、
「ここではティーダさんは、シュネリ湖を救った勇者様です」
と、小声で言ってくる。
「やれやれ……」
半ば呆れてため息をつくと、ラック兵士長がやってくる。
「本当にティーダ君か、久しぶりだな。元気にしていたかい?」
「まあ、程々に」
「そうですか。……それで、今日は一体どうしたのです? 君のいるパーシオンからは、そんなに気楽に来れる場所ではないでしょう」
「とある理由があり、支配解放大戦後は、東の砂漠地帯、エスクード城にいて……今はその帰り道だ」
「ふむ、という事は、ソリディアさんの事は?」
ティーダは首を横に振る。
「そうですか。理由は聞きませんが、東のエスクード城とは、随分と遠い所にいましたね。まあ、噂でしか聞いた事はありませんが。――ついでに質問させていただくと、支配解放大戦の情報は、耳に入っていないのではないかね?」
ティーダにとっては、願ってもみない話題だった。情報に関していえば、エスクード城に飛ばされたのは、一種の不運だった。エスクード城は支配解放大戦に参加していないが故に、その情報が決定的に不足していた。
「その事が聞きたくて、ここに寄らせてもらった。知る限りの事で良い、良かったら教えてほしいんだ」
「わかりました。最も説明できるだけの情報があるわけではないのですがね……」
ラックは、大戦に関する事柄が記された書物を部下に持ってこさせた。
「まずはこの『支配開放大戦』と銘打たれた戦いは、地上レジスタンス連合の敗北に終わりました。死者重軽傷者の詳しい数は、いまだにわかっていませんがザードリブで把握しているだけでも四千人は……」
その数の多さに、さすがのティーダでさえも驚く。
「四千? かつてのサンバナの戦いでさえも千五百人とかだったと思うが……」
「そのサンバナ戦の事は詳しくわかりませんが、多い、いや多すぎる事は確かです。しかも四千という数も、ご存じの通り、レジスタンス連合は北と南に分かれての編成でした。この四千という数はあくまでも北で把握している数です。
恐らくですが、城国の兵士達も入れるならば、間違いなく万単位は覚悟するべきでしょうね」
その話に、ティーダは絶句した。自分の知らないところで起きた、悲しき戦争の火種。その火種の犠牲になった人々の、あまりの悲痛な声が耳に届いてくるようだった。
「パーシオンは――パーシオンは、その後の連絡は?」
ラックは首を縦には振らなかった。
「いえ、あの戦い以来、パーシオンどころか近場のレジスタンスとも連絡がつきません。ただ……風の噂で聞いたのですが、南は城国からの報復攻撃が酷かったらしいです。とんでもない事ですよ……」
嫌な予感を感じていた。確かに支配開放大戦は、南のサンバナの町を拠点に勢力を拡大していた。そして数あるといえども、パーシオンはサンバナの町からは近い。攻撃される可能性は充分にあるのだ。
「君は、パーシオンに帰るのだろう?」
「そのつもりだ」
「ならば、できるだけ急いで帰ってあげた方が良い。今は支配開放大戦前(あの時)と違って、情勢があまりにも悪すぎる」
そしてラックは、こう付け足した。
「みんな……勇者の帰りを待っているよ」
「前にも言ったが、俺は勇者なんかじゃない。俺の手は……数多くの命を奪い、血を浴びてきた。勇者なんて、そんな物語のような産物とは、程遠い存在だ」
すると、ティーダの言葉をかき消すように、静かに話を聞いていたケインが叫んだ。
「――それは違います!」
「何がだ?」
「ティーダさんが勇者じゃないという事がです。貴方の事は、よく聞きます。確かに貴方の手は、血に染まっているのかもしれない。でも、それでも、救えた命はあるはずです。僕は貴方を、貴方が勇者であると信じたい!」
しばらく無言のまま、ティーダとケインは視線を交えた。真っ直ぐで純粋な瞳。根負けしたのはティーダだった。
「……信じるのは勝手だ」
「はいっ、勝手にします! あ、それと、ティーダさん」
「何だ?」
「突然ですが……もし、宜しかったら、僕と手合わせしていただけませんか?」
その言葉に驚かされる。この少年には、驚かされっぱなしだと、ティーダは思う。
ラックに確認をとると、
「見かけはまだまだ子供ですが、才能は確かなものです。侮ると痛い目をみますよ?」
相当な自信がある事が伺える。
「……良いだろう。誰か剣を貸してくれないか?」
「あれ、その腰に下げた剣は使わないのですか?」
「自信を持つのは大切だが、過剰な自信は身を滅ぼすぞ」
このティーダの言葉に、敬礼をしながら言う。
「はい、わかりました! アドバイスをありがとうございます!」
「……調子の狂う奴だな」
――ひょんな事から、ザードリブの若すぎる兵士、ケインの手合わせを受ける事になる。
炎帝・ヴェルデフレインを使うわけにもいかないので、ティーダは適当な鋼の剣を貸してもらう。
対するケインは、初見の時に確認した長槍ではなく、今度は小さな身の丈に合った小剣を装備している。その身のこなしから、フットワークは軽そうだ。
(なるほど、ラックの言う通り、侮ると痛い目をみそうだな)
「では、いくぞ! ちっちのちっ!」
やや変わったラックの合図で、ティーダとケインの組み手が始まる。
最初に仕掛けようとしたのはケインだ。最も、ティーダは自分から攻撃をしかけようとは考えていない。しかし予想通り、ケインのフットワークは非常に軽い。これならば、大人の兵士でも並の相手ならば、その動きに翻弄されてしまうだろう。
「――はっ、やっ、せいっ!」
その素早い動きと、小剣による小回りで、怒涛の攻めを見せるケイン。
(良い動きだ。この歳で、これだけの動きができる……才能があるのかもしれないな)
それが手合わせをした、ティーダの率直な感想。
今度は攻撃の隙を見て、ティーダも攻撃を仕掛ける。
「くっ……!?」
(防御できるか。体格的に仕方がないが、攻撃を受ける毎に体がブレている。攻撃はなかなかだが、防御はまだまだだな)
――約十分間、ティーダとケインの組み手は終了する。
端から見ると、終始ケインが圧倒した戦いだった。だがそこにいた兵士達は、ティーダの強さを見せつけられた。
「……はあっ、はあっ!」
肩で荒い呼吸をするケイン。
「その歳で、そこまでの戦いができるとはな、大したものだ」
「あ、ありがとうございます……!」
「だが防御能力には、まだ難があるな。お前はこれから体格もできてくるだろう。改善どころか、もっと強くなる」
「ティーダさん……ありがとうございました!」
深々とお辞儀をした後、ケインはそのまま倒れ、眠り込んでしまう。
「ティーダ君。急いでいるのに、手間取らせて申し訳ないね」
「いや構わない。あいつは良い兵士になる、大事に育ててやるんだな」
「うむ、そうしているよ」
「――では、俺は行く。大戦の情報をありがとう」
「いやいや、大した役にも立てなかったがね」
ラックと数人の兵士に見送られ、ティーダはいよいよパーシオンに帰還する。
だが、そこに一つの真実が待ち受けている事を、ティーダはまだ知らない。