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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
帰還禄~パーシオン~
49/97

10,少年兵士の挑戦

名前 ティーダ

種族 アルティロイド

性別 男

年齢 17

階級 火の騎士

戦闘 2900/業火 3200

装備

E炎帝・ヴェルデフレイン

Eティーダ専用戦闘防護服

Eクマンバのマント

E火の聖獣エンドラ


名前 ケイン

種族 ヒューマン

性別 男

年齢 12

階級 ザードリブ兵士

戦闘 700

装備

E鋼の小剣

E鋼の長槍

E身軽な服


 クマンバとの出会いから一日。歩き続けていると、さすがに寒くなってくる。シュネリ湖が近くなってきた証拠だ。

 貰った食料と共に、生姜汁を飲み、体を暖めていく。包みは広げる事で、マントのように羽織る事ができた。

「これは……なるほど、ただの包みじゃないな。これを装備しているだけで、打撃に対する防御力は見込めそうだ」

 ティーダはマントが気に入った。残った生姜汁の器は、あと二つ。残しておいても、いずれは冷えてしまう為に、後を考えずに胃袋に流し込んでいく。

 一息つくと、もう少し先にあるはずの、シュネリ湖を見据える。

(――シュネリ湖、か……)

 あまり良い気分ではなかった。そこはティーダにとって、忘れられないイコンのある場所だ。デュアリスとの再会から始まり、セレナとの死闘、そして――。

 ティーダはそれ以上を思い出さないように、固く目を瞑る。あれから随分な時間が経つが、いまだ忘れられぬ記憶だ。

 ――そして数時間、ティーダはシュネリ湖へと到着する。

 セレナが放った『氷結世界』の氷は、完全に溶けさり、今は元の状態に戻っている。制圧作戦時の慌ただしさが、嘘のように静まりかえっている。

(確か近場のレジスタンスは、ザードリブ、だったな)

 ザードリブの長はラック。覚えていれば、ティーダの事は知っているはずなので、楽に内部に入れるはずだ。

 ザードリブはシュネリ湖より、西の方角にある。そしてパーシオンと共に『支配解放大戦』に参加したレジスタンスだ。もしかしたら、何かの情報が得られるかもしれない。ティーダは、真っ直ぐにザードリブに向かう。


 ザードリブにたどり着くと、目に入ったのは門番の兵士。ただ気になったのは、門番の兵士は子供のようだった。

「――貴方は?」

 少年のような兵士が話しかけてくる。その声から、少年のような、ではなく少年である事がわかる。

「ティーダという者だ。このレジスタンスを束ねる、ラック兵士長はいるかな?」

「あ、貴方が、ティーダさん!?」

 少年は異常な程の驚きと、輝いた目を向けてくる。

「あ、ああ、そうだが……」

「わあ、感激だ! ――あ、僕はケインと申します。貴方の活躍に憧れて、兵士に志願したんです!」

「兵士に志願って……お前、歳はいくつだ?」

「はい、現在十二歳です!」

 ケインの年齢に、ティーダは絶句した。十二歳といったら、まだ子供といっても過言ではない。確かに自分自身も、物心つく前から兵士としての経験を積んでいたが、それはアルティロイドとしての話。

この少年――ケインは間違いなく人間だろう。だからこそ、驚きを隠せなかった。

(身の丈に全く合わない長槍……確かに突撃槍として使えば、下手な剣士は倒せるだろうが……)

 ティーダが考えている間に、ザードリブ内から一人の兵士がやってくる。

「――客人か、ケイン?」

「あ、アスイさん。こちらティーダさんですよ!」

 アスイという兵士は、ティーダの名前を聞き、目を丸くした。

「何、まさかあのティーダ殿か!?」

「間違いないですよね、あのティーダさんですよね!」

 二人は勝手に盛り上がり始める。特にケインの興奮は凄まじい。

「それで、ティーダ殿は何用でここまで? 確か貴方は南のレジスタンスの方では……」

「色々とあって。それで、ラック兵士長はいるかな?」

「ああ、いますよ。ケイン、ティーダ殿を案内してあげなさい。見張りは私がやる」

 ケインは元気よく、しかし慣れない敬礼をしながら、

「了解です!」

 と言い、ティーダを案内する。

 案内された先は、パーシオンと同じように設置されている、兵士用テントである。

「どうぞ、中へ!」

 ケインは嬉しそうに、テントを開くと、ティーダを中へと誘導する。

「ラック兵士長、ティーダさんをお連れしました!」

 その言葉に、テント内にいた全ての兵士が、視線をティーダに浴びせる。

 その異様な視線の雨に、ティーダが困惑していると、ケインは、

「ここではティーダさんは、シュネリ湖を救った勇者様です」

 と、小声で言ってくる。

「やれやれ……」

 半ば呆れてため息をつくと、ラック兵士長がやってくる。

「本当にティーダ君か、久しぶりだな。元気にしていたかい?」

「まあ、程々に」

「そうですか。……それで、今日は一体どうしたのです? 君のいるパーシオンからは、そんなに気楽に来れる場所ではないでしょう」

「とある理由があり、支配解放大戦後は、東の砂漠地帯、エスクード城にいて……今はその帰り道だ」

「ふむ、という事は、ソリディアさんの事は?」

 ティーダは首を横に振る。

「そうですか。理由は聞きませんが、東のエスクード城とは、随分と遠い所にいましたね。まあ、噂でしか聞いた事はありませんが。――ついでに質問させていただくと、支配解放大戦の情報は、耳に入っていないのではないかね?」

 ティーダにとっては、願ってもみない話題だった。情報に関していえば、エスクード城に飛ばされたのは、一種の不運だった。エスクード城は支配解放大戦に参加していないが故に、その情報が決定的に不足していた。

「その事が聞きたくて、ここに寄らせてもらった。知る限りの事で良い、良かったら教えてほしいんだ」

「わかりました。最も説明できるだけの情報があるわけではないのですがね……」

 ラックは、大戦に関する事柄が記された書物を部下に持ってこさせた。

「まずはこの『支配開放大戦』と銘打たれた戦いは、地上レジスタンス連合の敗北に終わりました。死者重軽傷者の詳しい数は、いまだにわかっていませんがザードリブで把握しているだけでも四千人は……」

 その数の多さに、さすがのティーダでさえも驚く。

「四千? かつてのサンバナの戦いでさえも千五百人とかだったと思うが……」

「そのサンバナ戦の事は詳しくわかりませんが、多い、いや多すぎる事は確かです。しかも四千という数も、ご存じの通り、レジスタンス連合は北と南に分かれての編成でした。この四千という数はあくまでも北で把握している数です。

恐らくですが、城国の兵士達も入れるならば、間違いなく万単位は覚悟するべきでしょうね」

 その話に、ティーダは絶句した。自分の知らないところで起きた、悲しき戦争の火種。その火種の犠牲になった人々の、あまりの悲痛な声が耳に届いてくるようだった。

「パーシオンは――パーシオンは、その後の連絡は?」

 ラックは首を縦には振らなかった。

「いえ、あの戦い以来、パーシオンどころか近場のレジスタンスとも連絡がつきません。ただ……風の噂で聞いたのですが、南は城国からの報復攻撃が酷かったらしいです。とんでもない事ですよ……」

 嫌な予感を感じていた。確かに支配開放大戦は、南のサンバナの町を拠点に勢力を拡大していた。そして数あるといえども、パーシオンはサンバナの町からは近い。攻撃される可能性は充分にあるのだ。

「君は、パーシオンに帰るのだろう?」

「そのつもりだ」

「ならば、できるだけ急いで帰ってあげた方が良い。今は支配開放大戦前(あの時)と違って、情勢があまりにも悪すぎる」

 そしてラックは、こう付け足した。

「みんな……勇者の帰りを待っているよ」

「前にも言ったが、俺は勇者なんかじゃない。俺の手は……数多くの命を奪い、血を浴びてきた。勇者なんて、そんな物語のような産物とは、程遠い存在だ」

 すると、ティーダの言葉をかき消すように、静かに話を聞いていたケインが叫んだ。

「――それは違います!」

「何がだ?」

「ティーダさんが勇者じゃないという事がです。貴方の事は、よく聞きます。確かに貴方の手は、血に染まっているのかもしれない。でも、それでも、救えた命はあるはずです。僕は貴方を、貴方が勇者であると信じたい!」

 しばらく無言のまま、ティーダとケインは視線を交えた。真っ直ぐで純粋な瞳。根負けしたのはティーダだった。

「……信じるのは勝手だ」

「はいっ、勝手にします! あ、それと、ティーダさん」

「何だ?」

「突然ですが……もし、宜しかったら、僕と手合わせしていただけませんか?」

 その言葉に驚かされる。この少年には、驚かされっぱなしだと、ティーダは思う。

 ラックに確認をとると、

「見かけはまだまだ子供ですが、才能は確かなものです。侮ると痛い目をみますよ?」

 相当な自信がある事が伺える。

「……良いだろう。誰か剣を貸してくれないか?」

「あれ、その腰に下げた剣は使わないのですか?」

「自信を持つのは大切だが、過剰な自信は身を滅ぼすぞ」

 このティーダの言葉に、敬礼をしながら言う。

「はい、わかりました! アドバイスをありがとうございます!」

「……調子の狂う奴だな」


 ――ひょんな事から、ザードリブの若すぎる兵士、ケインの手合わせを受ける事になる。

 炎帝・ヴェルデフレインを使うわけにもいかないので、ティーダは適当な鋼の剣を貸してもらう。

 対するケインは、初見の時に確認した長槍ではなく、今度は小さな身の丈に合った小剣を装備している。その身のこなしから、フットワークは軽そうだ。

(なるほど、ラックの言う通り、侮ると痛い目をみそうだな)

「では、いくぞ! ちっちのちっ!」

 やや変わったラックの合図で、ティーダとケインの組み手が始まる。

 最初に仕掛けようとしたのはケインだ。最も、ティーダは自分から攻撃をしかけようとは考えていない。しかし予想通り、ケインのフットワークは非常に軽い。これならば、大人の兵士でも並の相手ならば、その動きに翻弄されてしまうだろう。

「――はっ、やっ、せいっ!」

 その素早い動きと、小剣による小回りで、怒涛の攻めを見せるケイン。

(良い動きだ。この歳で、これだけの動きができる……才能があるのかもしれないな)

 それが手合わせをした、ティーダの率直な感想。

 今度は攻撃の隙を見て、ティーダも攻撃を仕掛ける。

「くっ……!?」

(防御できるか。体格的に仕方がないが、攻撃を受ける毎に体がブレている。攻撃はなかなかだが、防御はまだまだだな)

 ――約十分間、ティーダとケインの組み手は終了する。

 端から見ると、終始ケインが圧倒した戦いだった。だがそこにいた兵士達は、ティーダの強さを見せつけられた。

「……はあっ、はあっ!」

 肩で荒い呼吸をするケイン。

「その歳で、そこまでの戦いができるとはな、大したものだ」

「あ、ありがとうございます……!」

「だが防御能力には、まだ難があるな。お前はこれから体格もできてくるだろう。改善どころか、もっと強くなる」

「ティーダさん……ありがとうございました!」

 深々とお辞儀をした後、ケインはそのまま倒れ、眠り込んでしまう。

「ティーダ君。急いでいるのに、手間取らせて申し訳ないね」

「いや構わない。あいつは良い兵士になる、大事に育ててやるんだな」

「うむ、そうしているよ」

「――では、俺は行く。大戦の情報をありがとう」

「いやいや、大した役にも立てなかったがね」

 ラックと数人の兵士に見送られ、ティーダはいよいよパーシオンに帰還する。

 だが、そこに一つの真実が待ち受けている事を、ティーダはまだ知らない。

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