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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
帰還禄~パーシオン~
48/97

9,ありがとうの言葉

名前 ティーダ

種族 アルティロイド

性別 男

年齢 17

階級 火の騎士

戦闘 2900/業火 3200

装備

E炎帝・ヴェルデフレイン

Eティーダ専用戦闘防護服

E火の聖獣エンドラ


名前 クマンバ

種族 キメラ

性別 女

年齢 99

階級 熊の婆ちゃん

戦闘 1300

装備

E笑えるぐらいに細い腕

 ――エスクード城を出てから、およそ七日間が過ぎる。広大な砂漠地帯は、突破するのに予想以上の時間を費やされてしまう。

 砂漠を抜けると、特有の暑さも無くなり、砂しかなかった大地に、少しずつ緑が見えるようになってくる。

 やはり人間――いや、動物としての本能か。緑を見ると、心が休まりつつある自分に、ティーダは気づかされる。

(渡された食料も、徐々に底をついてしまう。そろそろ補給が必要だが……)

 ティーダは一足飛びで上空に飛び上がると、軽く辺りを見回してみる。しかし近場にレジスタンスあるいは村に該当する、いわゆる集落は見当たらなかった。

(城国さえもてっぺんが少し見える程度、か。確かシュネリ湖からは、城国が確認できる位置だった。――という事は、シュネリ湖までは、まだまだ時間がかかるという事か)

 あらゆる偶然の重なりか、元を正せばラティオの放ったセカンドインパルスにより、エスクード近場の砂漠まで飛ばされた。

(改めて見て思うが……これは飛ばされすぎだろう)

 深いため息と共に、仕方がなく歩き続ける。まず目指すのは、北の大地シュネリ湖。そしてそこから南下し、パーシオンへ。

 何事もなければ、こういう気ままな旅も良いと思うが、残念な事に、今はそこまでゆっくりしている暇もない。だからこそ、ティーダはただ黙々と、目的地を目指して歩くしかない。


 それから二日間ほど歩くと、すっかり砂漠の様相は無くなり、シュネリ湖のような薄暗い森林に入る。

 シュネリ湖みたいに、突き刺さるような寒さはまだなく、砂漠と湖の間で、丁度良い涼しさになっている。

(まだかかりそうだな……。食料も底を尽きた、いよいよもって……)

 その瞬間、ティーダの鼻に良い匂いが感じられる。すぐにそれは食べ物の匂いだとわかった。

 さすがのアルティロイドといえども、食には勝てず。その匂いの元を求めて、走り出す。――匂いの元は、森の中に一軒だけたたずむ家だった。

「何故こんな所に家が? 一体どんな奴が――うっ!?」

 突然の気配を感じ、その方向を向くと、あまりにも重い鈍撃が襲う。何かによる攻撃は、きっちりと防御するが、遥か後方まで飛ばはれてしまう。

「誰だっ!?」

 炎帝・ヴェルデフレインを構える。

「――誰だ? それはこっちのセリフじゃよ」

 そこにいたのは、白髪頭の老婆。しかも腕や首など、ちょっと捻れば、すぐに折れてしまいそうだ。

 ティーダは油断しなかった。見た目はどうあれ、軽く人を飛ばせる力の持ち主だ。

「悪かったな、俺の名はティーダ。――旅の途中で、偶然ここを見つけた」

 簡単に説明しながらも、細心の注意を払う。

「ほぅ、旅の……随分と若いのに、数多くの修羅場をくぐり抜けておるな。しかし妙じゃな」

「……?」

「――お前、城国の臭いがするね」

 その言葉を聞き、ティーダはいつでも老婆の首を、斬り飛ばせる体勢をとる。

「物騒な考えを起こすんじゃない! ――まぁ最も、お前みたいに生まれながらにして、戦いが共にあった存在には無駄じゃろうがね」

「お前――、一体?」

「ワシかぇ、ワシも城国――いや元と言っといた方が良いね。名前はクマンバ」

「クマンバ……」

 クマンバは、ティーダの剣を睨み付けて言う。

「わかったら、その物騒な物をとっととしまっておくれ!」

「いや、まだだ。俺を軽々飛ばした、お前の力の秘密がわからない。それにどうして俺が城国と言う?」

 クマンバは独特な高笑いの後、言葉を出す。

「――とりあえず、家の中に入らんか? 年寄りにあまり立ちっぱなしにさせんでくれんか」

「――良いだろう」

 少し考えたが、そう答えを出す。

 家の中に入ると、クマンバが椅子に腰掛ける。

「どうした、座るが良い」

「俺は遠慮する」

 座ってしまうと、仮にもクマンバが襲いかかってきた際に、反応するのが鈍ってしまう。基本は立ち姿勢。

「ふむ、では話を始めようかね。まずはワシの秘密じゃね。複合生命体――の事は知っておるかえ?」

「あぁ、丁度良く数日前に世話になっていた所にも、複合生命体がいてね。キメラ――と総称してるとか」

「なら話が早くて助かるね。ワシは人間と熊のキメラさえ。おかげで、こんな細腕でも、大男のような腕力を持てるわけじゃがな」

 クマンバは、エスクード城の騎士。鷹のオルテンシアと、鷲のバゼットと同じ、複合生命体キメラ。

「ちなみにクマンバという名前は、熊と婆ちゃんを足した名前じゃえ」

「いや、そんな事はどうでもいい。――という事は、俺から城国の臭いを感じ取ったのは……」

 クマンバは「うむ」と、首を縦に振る。

「まあ、お前さんの事を聞く気はないよ。こんなババアが、若いお主の物語に入ってはいけんからな」

 クマンバは立ち上がり、調理中の鍋の様子を見る。とても美味しそうな匂いの正体は、間違いなくこれだろう。

「食べるじゃろ? 腹が減ったから、ここに来た。違うかい?」

 ティーダは無言でクマンバを見ていたが、そんな態度とは裏腹に、腹の虫がなく。

「ひえっひえっひえっ、体は正直じゃの。いっぱい食べていくと良い。大丈夫、毒は入っていないよ」

 誘惑に負けたティーダは、クマンバの料理に口をつける。独特な臭みのある料理だが、何ともいえない濃厚な味付けだ。具材に肉のようなものが入っている。

「これは何を使っているんだ?」

「ああ、それかい。その辺に落っこちてた、人間の肉じゃよ」

「――うっ!?」

「冗談じゃよ。それは魚じゃ。熊の力が入ったからか、こんな時代でも食べ物探しに不便しなくてね。むしろこんな便利な能力を与えてくれた城国に、感謝したいぐらいじゃよ」

「物は使いよう、か」

「そういう事じゃね。こんな時代だから、悲観的になるのはわかるけど、ちょっと知恵を使えば何とかなるもんさ」

 そう言ったクマンバの表情は、どこか懐かしいものを感じさせた。この日は、クマンバの家に泊めてもらい、次の日の朝をむかえる。


「――!」

 ティーダの目が覚めると、外が騒がしい事に気付く。どうやらクマンバが、複数の人間と言い争っているようだ。

(何だ、近隣同士の喧嘩か? ……それにしては荒れているが)

 窓からそっと様子を伺うと、予想通り数人と言い争っていた。ただ、その争っている人間に、いや正確には格好に覚えがあった。

「――あいつら、城国兵か」

 そう、城国兵士がクマンバと言い争っていたのだ。相手は三人、普通に見れば老婆相手に三人では、成す術もないが、クマンバならば問題ない。

 事実、三人の兵士は言い争ってはいるものの、戦闘意欲は無いらしく、むしろ腰が引けている。

 何かあったら飛び出す準備だけして、ティーダは流れを傍観していた。

 ――しばらく見ていると、兵士が諦めたのか、渋々といった感じで引き返していく。

「おや、起こしてしまったかい?」

 中に入ってきたクマンバは、申し訳なさそうに言うと、ティーダに暖かい液体を渡す。

「生姜汁じゃえ」

「ショーガジル?」

「古い書物に伝わる、料理書物の一品さえ。体が暖まるよ」

 ティーダは一口飲むと、すぐに体が暖まってきた。

「なるほど。――奴ら、一体何を言ってきたんだ?」

「何、いつもの事さ。何故かは知らんが、城国にワシが必要になったんじゃと。だから、ふざけるなっ、と言ってやったよ」

「懸命な判断だな」

「奴らにとっては、他人の命など子供をあやす玩具程度にしか、考えておらんのじゃろうて。――心配はいらないよ、キメラのワシに、所詮は人間が来ようと勝てはせんよ」

 そう言うと、筋肉の無い腕で、ガッツポーズを決めてみせる。

「じゃが……奴ら、最後に何か言っておったの。『こちらには、お前を殺せる兵器がある』とな」

「兵器に関するものは、城国に関してハッタリは無い。少しでも良い、用心はしておくんだ」

「わかっとるわかっとる。ワシも元城国、奴らのえげつないやり方は心得ているよ」

「――そうか。このショーガジル、旨かったよ」

 ティーダは立ち上がり、身支度を整える。

「もう……行ってしまうのかい?」

「あぁ、できるだけ早く帰りたい場所がある」

「そう、か……あんたにも、帰る場所があるんじゃね」

「――それを確かめる旅なのかもしれない」

 あらかたの身支度を整えると、クマンバは小さな包みをティーダに渡す。

「食料は一日分しか無いけど、生姜汁は三日分は入ってる。あんたの歩いてきた方角からして、向かうのはシュネリ湖じゃろ? 寒くなるから持っておいき。包みはそのまま気休め程度の、防寒具になるよ」

「良いのか、クマンバにも生活があるだろう」

「こんな婆さんに、一晩とはいえ夢を見させてもらったからね。まるで孫と暮らしているようじゃったよ」

 クマンバは満面の笑みで言い、ティーダに荷物を渡した。

「すまないな、貰っていくよ」

 ティーダは荷物を受け取り、出入口まで歩を進めた。

「――ティーダ!」

 と、クマンバが呼ぶ。

「お世話になったら――ありがとう――だよ」

 まるで、お婆ちゃんが優しく教えてくれるように、

「――ありがとう、クマンバ」

 ティーダも教わった事を返した。

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