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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
砂漠地帯~砂城の姫君~
45/97

6,焔竜の墓場

名前 ティーダ

種族 アルティロイド

性別 男

年齢 17

階級 火の騎士

戦闘 2900/業火 3200

装備

Eエクストリウムソード マークXX

Eティーダ専用戦闘防護服

E火の聖獣エンドラ


名前 オルテンシア

種族 キメラ

性別 男

年齢 24

階級 鷹の騎士

戦闘 1800

装備

Eエクストリウムレイピア マークX

E思念武装


「――姫様、これを」

 出発の朝、ノリヌは女性でも扱えるような、小型の短剣を渡す。

「これは?」

「優秀な騎士もおりますゆえ、その心配は無用と思っておりますが、万が一に備えてでございますじゃ」

 フィーネ姫は、渡された短剣を見つめ、決意の眼差しを以てノリヌを見る。

「自分の身は……自分で守れ、という事ですね?」

 その回答に、ノリヌも力強く首を縦に振り、返答する。

「女性といえども、こんな時代です。自身の身の守り方の一つぐらいは、覚えておくべきですぞ」

「はい、そうですね」

 フィーネ姫とノリヌが話している一方、ティーダとオルテンシアは、近場に驚異がないか確認に向かっていた。

(このシチュエーション……思い出すな、シュネリ湖の事を)

 いつかの出来事。ソリディア、カルマン、ティオの三人と共に、陣形を組ながらシュネリ湖を目指した。

「――ティーダ」

 オルテンシアの呼び掛けに、ふと現実に戻された。

 だがそれで良かったのかもしれない。もしも、このままシュネリ湖の事を思い出していたら、デュアリスの事を考えてしまっていただろう。

「どうした、ボーっとして?」

「あぁ、いや、何でもない」

「まぁいい、ノリヌ様から召集命令が見えた。警戒体制を解除し、一度戻ろう」

 適当に返事をして、エスクード城へと戻っていく。ここまで城国の兵士は、一人たりとも確認できない。それどころか現れる気配すらないのだ。

 支配解放大戦の影響か、あるいは勝ったのか、今のティーダには、その全てを知る事ができなかったのだ。

「――戻ってきたな、ホーク、ティーダ。お前たち二人の働きに期待しておるぞ」

 オルテンシアだけが、

「はっ!」

 と、答えてみせるが、ティーダは特に何も言わなかった。

「宜しくお願いしますね? ティーダ」

「あ、あぁ……」

 見かねてフィーネ姫も頼むが、ティーダの返事はどこが気の抜けたものだった。

 その理由は、昨日見た夢が少なからず影響していたのだ。

「では、行くとしよう!」

 送り出すのは、鷲の騎士バゼットのみ。

 ティーダ自身、前々から不思議に思っていた事だが、一国の姫が旅に出るというのに、見送りに一人だけという事に気にかかっていたのだ。仮にも極秘に進めていたにしても、数人の人が来ても良いのではないか。

「不思議か?」

 相当に気になる顔をしていたのだろう。内心を見抜いたかのように、オルテンシアが話しかけてきた。

「まぁな、余所者の俺が気にするべきではないが、こんな事は普通、あるべきなのか……」

「一般的な普通、と言われれば、これは無いな。だがエスクード城の普通にすれば、当たり前の事なのだ。――我がエスクードも、かつては何千人も住む大国だったらしい。しかし今では度重なる城国からの圧制により、事実上の壊滅。今では市民を含めて数十人が住むに留まっている」

「あの大きな城で数十人? 道理で……全く人を見ないわけだな」

 ティーダは、ここに運ばれてきた時の事を思い出していた。部屋の窓から、広場のような所にいた人々、あれでほぼ全てならと、納得してしまう。

「王族というが……今残っているのもフィーネ姫のみ。フィーネ姫の親であるエスクード王は、苦心からか王妃様と共に自殺を……せめて姫様だけには幸せをと思ったが、ティーダの戦場での死を確認。全くお手上げの状態だ……」

「――そうだな、どこもそうだ」

 オルテンシアとの会話によりわかった、エスクード城の内情。両親の自殺、恋人の戦死、徐々に崩壊していく母国。わずか十代の少女が支えるには、重すぎる重圧だ。

 気づかれないように、フィーネを見やるティーダ。そんな少女の顔は、ノリヌとの会話に弾んでいて笑顔を見せている。とても重圧など感じてはいなさそうにも見えるが、あるいは外に出すまいと懸命に耐えているのだろうか。いずれにしても、人の心に同情心だけで易々と踏み込むべきではない。

 だがティーダは考えてしまった。この少女は自分がここから去る時に、一体どうするのだろう、と。

 ここから離れる時、それは間違いなくフィーネに『エスクードのティーダ』の死亡を伝える時だ。彼女はその事実を知った時、その身にはあまりにも大きすぎる現実を受けきる事はできるのだろうか。

「フィーネ様が気になるか?」

 どうも鋭すぎる勘を持つオルテンシアに、ティーダはわざと聞こえるように舌打ちをする。オルテンシアも大人な対応を見せ、微笑しながらその舌打ちを流した。

「気になったわけではない。……ただ俺がここを離れ、真実を告げられた時、あいつは一体どうするんだろう、とな」

「それを気になるというのだが、まぁいい。あの方は強い心の持ち主だ、間違ってもご両親の末路を辿る事はしないだろう。仮にも、そうなろうとするのならば、それを阻止する為に我々もいるのだ」

「身内からの期待は、何よりも身を滅ぼす最大のキッカケになるぞ?」

「そうだな、そうかもしれない……。だが、まだ幼いとも言える姫様に、例え忌み嫌われようと……誤った方向には進ますまい、それが私達エスクードの騎士の誓いでもある」

 それ以上は、ティーダも何も言わなかった。

 しばらく歩いていると、オルテンシアが後衛につき進行するようになる。『あの時』の実質的なパートナーはソリディアだった。その実力に不安も不満も無かったが、今のパートナーは更に安心できていた。複合生命体キメラである鷹の騎士オルテンシア。その実力に文句はない。

「ティーダ、記憶喪失は治りましたか?」

 辺りの気配に集中していると、突然フィーネ姫が話しかけてくる。

「――まぁ、な」

 曖昧な返事をする。はい、とも、いいえ、とも言えなかったからだ。どちらにしても、この少女を悲しませる結果となる。そしてそのタイミングは今ではない。

「そうですか……でも、少しは回復しているのがわかりますか?」

「……あぁ」

「そうですか、良かったです。……ごめんなさい」

「どうして謝る?」

「だって、私ったら、ちゃんとティーダの事を看てあげられなくて……本当にごめんなさい。辛いのはティーダなのに」

 落ち込んだ表情を見せるが、決して涙は見せなかった。それがこの少女の、皮一枚の強さなのだろうか。いずれにしても耐え続けられるものではない。

「――あまり無理はするな」

「えっ……!?」

「お前は一国の姫なのだろう。確かに国民の為に耐える事も必要かもしれないが、それでも無理はするな。いつしかそれが耐えられなくなった時、いや決してそんな時を迎えてはいけないんだ」

「ティーダ……はい、わかりました」

「わかったら、とっとと後ろに下がれ、敵はいつどこから来るかわからない」

 フィーネは丁寧に了解の意を示すと、言われた通りに後ろに下がり、ノリヌと共に歩く。

(来るかもわからない『その時』を信じて耐えて待つ、か。……女はいつの時代も強いというが、信じたくなった)

 ――砂漠を歩き続け、一日目。特に何事もなく、その日が終わっていく。

 見張りはティーダとオルテンシアが交互に行うという事で、フィーネとノリヌは深い安息の闇へと入っていった。

「じゃあ、頼むぞ?」

「……あぁ、三時間後に起こす」

 先に休憩を取るオルテンシアと合図を取り、ティーダは一人、星空が瞬く空を眺めていた。

(星の輝きは命の光と言うが、この何千、何万にも及ぶ生命が、この戦いの犠牲になり死んでいったのだろうな……。俺も、一体いくつの命を星に変えたのだろうか?)

 自問自答しながら、その星空を見る。美しく輝くその光は、殺した者に対する怨念の光なのだろうか。

「デュアリス……お前も、その星の中に入れたのか?」

 そんな言葉を星空に向かって問いかけてみるが、勿論、返事が返ってくる事はない。ただ、一際大きく輝く星の光が、一人の戦士を照らすように燃え盛ったのかもしれない。


 ――二日目の朝。まだ太陽が出ていない内から歩き出す。

 当然、敵の目が薄いだろう時間を狙い、そしてなるべく早く焔竜の骨を持ち帰り、ヴェルデフレインの修復へ当てたかった。

「ティーダ! 気持ちはわかるが、急ぎすぎだ」

 振り向くとフィーネとノリヌは、暑さに体力を奪われて遥か後方を歩いている。

 それを無言で見ていると、オルテンシアが言葉をかける。

「暑さでイライラしているのか、あるいはお前の故郷への焦りか、何にしても今は着実に進むしかない。もう少し落ち着いていこう」

「……あぁ、すまない」

 ティーダを説得し終わると、オルテンシアは正に鷹の如く飛翔し、二人を護衛しながら歩いてくる。

 確かに焦りと暑さで苛立っていたのかもしれないと、ティーダは思う。それに砂漠での全く変わらない風景も、更に苛立ちを加速させていたのだろう。

「ごめんなさいね、ティーダ。私達が足手まといなばかりに……」

「ふはぁ、ふはぁ、年寄りにはきついわい!」

「いや、大丈夫だ。――先を急ごう」

 二日目も何もなく終わっていく。二人の疲労からか、初日よりも歩行距離が少ない事は確かだった。

 やはり炎天下による体力の消耗度は著しかった。予定では三日で到着だったが、このままでは四日はかかってしまうだろう。

「仕方がない事だ、この暑さではな。あまり無理をすると日射病になってしまうし、下手をすると死んでしまう」

「無理もないか、俺達でもこの暑さは堪える」

 事実、暑さは日に日に増しているようにも感じられる。暑さによる体力の消耗から、ティーダでさえも思わず息を荒くする。

「さすがのアルティロイドさんも、自然の脅威には勝てないようだな?」

「そうみたいだな……所詮は人が造ったもの、自然や神のレベルのものには勝てないさ」

「では願いたいものだな……」

 ティーダが「何が?」といった顔をすると、

「王がこの先、自然や神に匹敵するものを造りださないように、だ」

 と、答えた。

 自然や神に匹敵するもの。いくら莫大な技術力があったとしても、人間がこの二つに勝つ事は不可能だろう。

「まぁ、そんなに考えこむな。あくまで例え話だよ」

 オルテンシアは、すかさずフォローする。

 唯一、気にすべき事は、進行がやや遅れているという程度である。この日も、ティーダとオルテンシアが交互に見張りをしていく。

 そしてティーダの見張り時、眠っていたはずのフィーネか起きて、ティーダに話しかける。

「――ティーダ」

「何だ、眠れないのか?」

「ちょっと……嫌な夢を見ましたから」

「嫌な夢?」

 フィーネはこくりと頷くと、ゆっくりと夢の内容を話始めた。

「ティーダが――死んでしまった夢」

 その言葉に、一瞬だが体を強張らせた。

「夢の中で、ティーダが死んでしまって、私は……泣いて、貴方の名前を呼び続けて……でも貴方は目を覚ましてくれなくて。こんなのは嘘なんだって、全てを否定した瞬間に目が覚めて、その視線の先に貴方がいた」

「俺は――死なない」

 それは、どっちのティーダの言葉なのだろうか。

「では、私も頑張れます。貴方がいてくれる限り、私は頑張り続けられます」

「……もう、寝ておけ」

「……はい」

 ティーダは思うようになった。半端なりに、この少女の内情を知ってしまった。もう赤の他人として、この少女の前から去る事はできないだろう。

 だが、考えたところでどうしようもない現実がある。下手に手を出しても出さなくても、これは簡単な問題ではない。

「……もう一つあったか、女はめんどくさい……」

 この日も、空いっぱいに輝く星に向かって愚痴を溢した。そんな愚痴を一言呟くと、頭いっぱいにティオの姿が浮かんでくる。そして振り回される日常を思い出す。

「やめようかな……帰るの」

 また一つの愚痴を溢した。


 そして続く三日目を過ぎ、エスクード城を出てから四日目の昼。ついに目的の場所に近づいてきていた。

「ここが焔竜の墓場か……噂に名高いが、実際にお目にかかるのは初めてだな」

 珍しくオルテンシアが、目を輝かせている。だが確かにここは、そんな神秘的な雰囲気を醸し出している。正に焔竜の絶対領域。

「コホッ、コホッ……!」

「大丈夫ですかな、フィーネ姫?」

「えぇ、ここに来た途端、ちょっと喉が乾いてしまったらしくて、コホッ……」

 確かに焔竜の墓場の乾燥率は異常だ。水気が全く無いといっても過言ではない。

「恐らくは骨の中で自然発火しているという、焔竜の骨の影響だろうな。燃え盛る火炎が、この周辺の水分を蒸発させてしまうんだろう」

「とんでもないものだ。竜なんてにわかには信じられなかったが、この有り様を見て信じたくなった」

「そうだな……死してなお、大地にダメージを与える焔竜。こいつが生きていなくて良かったと思うぜ。こんなのが相手では、命がいくつあっても足りんからな」

 ティーダとオルテンシアが話している間に、焔竜が封印された建物の鍵を開けるフィーネ。

 封印しているだけあり、壁の材質は何か特殊なものでできており、大昔に存在したとされる呪法が使われている。

 そして鍵を開け終わると、扉を開けようとするフィーネを、オルテンシアが急いで静止する。

「どうしたのじゃ、ホーク?」

「この扉は危険です、下がっていてください。私が開けます」

 フィーネとノリヌを後ろに下げると、ゆっくりと扉を開けていく。すると建物内部に蓄積されていた熱気のせいだろうか、扉の前が一瞬にして炎の渦に覆われる。

「ひぇぇ、あれは危険じゃわい!」

「止めてくれなければ、私はあの炎に焼かれていた……ありがとう、オルテンシア」

「姫を御守りするのが我が使命。これぐらいの事、当然です。――さて、ティーダ。そろそろ大丈夫だろう、焔竜の骨を!」

 オルテンシアに支えられた扉を潜り、ティーダは建物内部へ侵入する。中は熱く、並の人間では、この熱さで蒸発してしまうだろう。

「誰も中に入るな! 入ったら死ぬぞ」

 それだけ言い、辺りを見回すと、まるで山のようにそびえ立つ、焔竜の骸骨があった。

「これが、焔竜……!」

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