表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
砂漠地帯~砂城の姫君~
41/97

2,本物のティーダ

「――で、結局わかったのかね、この剣の事は?」

「一つ言えるのは、この剣に使用されている材質は、一般的な鋼鉄といったものではないという事です。古き言い伝えにある材質……」

「古き言い伝え……一体何だと言うのだ、それは?」

「はい、これは……神々が人間に与えたとされる、伝説の超金属――オリハルコンです」

 とある一室、ノリヌと学者の会話。そこにはティーダのヴェルデフレインがある。これは砂漠にて、ティーダ救出の際に回収されたもの。それをエスクード城に仕える学者が見て、材質に興味を持った為である。

「オリハルコン……しかし、ティーダの奴がそんな代物の武器を持っているなんて……あいつは鋼の剣で手一杯だった兵士じゃぞ」

「……経緯はわかりませんが、何かのキッカケで手に入れたか、あるいは……」

「あるいは?」

「あるいは、あのティーダは、別人か。いずれにしても、こんな超金属武器の持ち主を、一目で良いですから、身近に見てみたいですね」

 一人の学者が出した意見に、ノリヌは低い唸り声をあげながら、考えている。ティーダは別人なのか。ノリヌにとっては、それだけが気がかりになっている。何故なら、自分が見たティーダは、確かに知っている人物なのだ。姿形、声帯、性格のほとんどが、知っているソレと変わりない。あまりに同じすぎるので、唯一ある可能性は、ドッペルゲンガーとしか言い様がない。

「むむむ……。なぁ、例えばじゃがな、自分にそっくり……いや、瓜二つという人物は、はたして存在すると思うかね?」

 ノリヌは学者に問いただしてみる。

「……瓜二つ、ですか? そりゃ、例えば一卵性双生児とかなら――」

「違う違う! 双子とかを抜きにしてじゃ。全く知らない赤の他人として、瓜二つな人間はいると思うかと聞いておるんじゃ!」

「難しい質問ですが、太古の昔から、自分にそっくりな人間は、三人はいるって言いますしね。答えは出しにくいですが、そこまで同じ人間は、存在確率自体が低いと、私は考えていますが?」

 この学者の回答に、ノリヌは多少の参考意見として、受け止めていた。全く瓜二つの人物が存在する確率は、無いとはいえないが、極めて低い確率である。

「あい、わかった。……邪魔したのぅ、ワシはこれで撤退する。このオリハルコンの剣は、持っていくからな!」

「あぁ、そんな……。滅多にお目にかかれない材質が……。しかし、その剣を使っているであろう、ティーダは凄いですね」

 何が凄いのかわからない為、顔に「何が?」と書いてみると、それを察知した学者は喋り始める。

「伝説の超金属オリハルコンですよ。普通ならば、どんな武器でさえも、オリハルコンを傷付ける事なんてできないはずです。それが見てくださいよ!」

 学者に急かされ、ノリヌはヴェルデフレインの刀身を凝視する。

「何もわからんよ?」

「この剣、かなり痛んでいるんですよ。しかも手入れを怠っている様子も、見受けられないのにです」

「……つまり」

「そう、この剣の持ち主……ティーダかはわかりませんが、オリハルコンの強度を上回る、激戦をしているとわかりますね。それは必然的に、超凄いという事なのですよ!」

 いまいち実感のわいていないノリヌだったが、学者の言う通り、超凄いというのがわかる。

 だからこそ、砂漠で救ったティーダに、ちょっとした違和感を感じていたのだ。はたして自分が知るティーダに、そんなオリハルコンにダメージを与える程の、腕前があっただろうか。仮に自分の知らない所で、劇的なレベルアップを果たしても、人間がそこまでの存在になれるだろうか。答えは間違いなく否だ。

 そんな違和感を抱えながらも、ノリヌはティーダの元へと向かっていく。向かっている最中に、騎士二人が護衛に付く。その二人の内、一人はホークと呼ばれる鷹の目の騎士である。

「――ホークよ、ティーダ捜索をな……もうしばらく続けてほしいのだ」

「捜索を? 了解しましたが、一体何故です?」

「うむ……ちょいと老婆心がな。頼めるな?」

「お任せください。捜索を再開します!」

 そう言うと、ホークはもう一人の騎士に、護衛を任せて足早に駆けていってしまう。その身のこなしも、かなりのものだ。


 ――ティーダが寝かせてもらっている部屋は、フィーネ姫の一室らしく、姫はちょくちょく出入りをしている。何でも、その時の行事により、ドレスやアクセサリーを変えているらしい。

「おい、ここはお前の部屋なんだろう、なら俺がここに寝てたら迷惑なんじゃないか?」

「平気ですよ。私用の部屋は他にも三部屋ありますからね。ティーダが寝てても問題ありませんよ。それに早く良くなってもらわないと」

 優しい天使のような笑顔を見せる。とても作り笑いとも思えず、これは天性のものだと判断できる。その笑顔を見ていると、どこか心に安らぎを覚える。

「……どうかしましたか?」

「あ、いや……」

 どうやら、その笑顔を見てぼーっとしていたらしい。つまりは見とれていたのだ。だが実際に、そういう魅力のある姫だ。

「……ティーダ」

 突然名前を呼ばれ、逸らした視線を元に戻す。すると今しがたの笑顔は無く、そこにはどこか悲しそうに見つめる、姫の顔がある。

「記憶喪失……早く治してくださいね。私、貴方との結婚をずっと待っていますから……」

 そう言うと、フィーネ姫は足早に部屋から出ていってしまう。

「結婚……か。俺とは違うティーダと、あの姫はそういう間柄か。……だが残念だが、俺はそれではない」

 そんな言葉を、小さな声で吐き出していると、フィーネ姫と入れ替わりに、ノリヌが部屋に入ってくる。

「どうかね、元気にやっとるか、ティーダ?」

「まぁ程々にな。それで、今回は何の用なんだ?」

 問いただすと、返ってきたのは言葉ではなく、愛剣のヴェルデフレインであった。

「これは……お前が持っていたのか」

「うむ、悪いとは思ったが、めずらしい装飾の剣だったからな……ちょっと調べさせてもらったよ。伝説の超金属、オリハルコン……の、武器らしいじゃないか?」

 何も隠さずに、ティーダは「そうだ」と答える。但し余計な事は言わなかった。事細かに答えてしまっては、いずれは元城国の兵士であると、わかってしまうかもしれない。そうなると色々と面倒である。

「ふむ……実はな、前まではお前の事を、知っているティーダであると思っていたのだが……最近は違うのではないかと考える時がある」

「ほぅ、それは一体何故だ? あまりにも突然すぎる言葉だ」

「ただの勘というやつなのだがな。ただ、そう思わせる事柄もある。……改めて聞いてみたい、君は一体何者なのか、はたして記憶喪失のティーダか、あるいは別人なのか、そして砂漠で倒れていた理由などを、できたら聞いてみたいのじゃよ」

「ようやくか、そう言ってくれる人間が現れてくれるのを、待っていた」

 ティーダは、ここまでに起きた出来事を、必要最低限だけ話した。パーシオンというレジスタンスの事と、支配解放大戦の事だ。そして重要なのは、自分が別のティーダであるという事を、理解してくれる者を増やす事。

「なるほどのぅ……お前はパーシオンというレジスタンスの兵士で、数日前にあった戦争に参加していたと言うのじゃな。しかし……城国に攻めいるなどと、自殺行為に等しい。それ程の軍力が揃っていたのかね?」

「それなりにはな。だが、はたして集まった軍力が、現在の時点で一体どの程度減ってしまったのかは、俺にもわからないな」

「そりゃそうじゃ。お前は砂漠でのたれ死んでいたのじゃからな」

「……とりあえず。俺はそういう理由もあり、早くパーシオンに戻りたい。そろそろ俺を、この城の外へ出してくれないか?」

 抜け出そうと思えば、いつでも抜けられたが、手荒な真似はしたくなかったのだ。それにそうした場合、フィーネ姫の事が、どうにも気がかりにだったのも事実である。いっそ誰かの「はい」の言葉を貰い、気持ち良くこの城を去りたかったのかもしれない。

 しかし、ノリヌからの言葉は、求めていた答えとは逆の言葉が出てくる。

「駄目じゃ。確かに少しは君の事も信じよう。しかしワシ達からすれば、もしかしたら記憶喪失の可能性も無いとは言えんのじゃ。もう少しだけ、ここにいてもらいたい」

 その答えに、心の中で舌打ちをする。とにかく早く帰りたいティーダには、苛立たせられる回答だ。

「ここだけの話にしておいてほしい。絶対に姫には内緒にしておいてほしい話があるんじゃ」

「わかった、考えておく。……それで?」

「現在、エスクード城の探索部隊が、ティーダ捜索に全力をあげている。念の為だ。もしも、形はどうあれ姿を確認できれば、君を解放しよう」

 形はどうあれ、つまりは死体の場合も、考慮しているという事である。

「一応聞いておくが、見つからなかった場合はどうなるんだ?」

「一概には言えんが、場合によりけり此処に留まってもらう。ワシはそこまでの決定力は無いから、何とも言えんがな……」

 ティーダからすれば迷惑な話だが、エスクード城側からすれば、当然の判断だろう。ここは、こちらでいうところの「本物のティーダ」が、見つかってくれる事を願うしかない。だがもしも見つからなく、ここに拘束されるような事があれば、強行的にでも出ていく覚悟をつける。

「ま、そういうわけじゃから、気長に待っといてくれんか。ワシ達も早めに見つかるように、全力を尽くしてみる」

「そうしてほしいものだな……」

 半ばため息混じりの返答。その返答を聞くと、苦笑いをしながらノリヌは、部屋から出ていく。

 当面はエスクード城のティーダが見つかるまで、動く事ができない。傷の治りも、完治とは言い難い為、しばらくはここにいる事にする。

(これからの戦い……当面の相手は、あのクリッパーとリオになるだろう。俺も万全の状態にしておかないと……特にあの闇の騎士クリッパーは、要注意人物だ。……そして)

 一人の男を思い出す。それは風の騎士ジュークであり、明かされた一つの真実、ティーダの実の兄である。――しかし今は、王に寄生され乗っ取られた男。

 なまじ肉体がアルティロイドになってしまい、戦闘能力が上がってしまった。元々、地上軍の方が戦力は低かったが、ここまでくると一方的である。何故ならば事実上、ティーダしかこの三人と戦える者がいないからだ。今までのジューク、デュアリス、ラティオといった者達との戦いとは違い、今の相手は容赦無く、攻撃を仕掛けてくるだろう。そうなった時に、ティーダ一人で戦い抜けるだろうか。答えはすぐに出てくる。

 共に戦ってくれる、強き存在が必要になってくるのだ。そして藁にもすがる考えで、思い出した事がある。

(そういえば、ジュークは命の騎士ティアナを探せと言っていたな。結局、支配解放大戦の際にも、捜す事はできなかったが……こんな時だ、捜すならば今しかないか)

 何度か断念していた、命の騎士ティアナの捜索。都合の良い考えだが、こんな時だからこそ、一人でも多くの戦力がほしかったのだ。

(しかし、結局都合の良い時に出したところで、ティアナに関するヒントが相変わらず、ほとんど無い現状だ。いくら何でも本格的な捜索活動に、時間を割くわけにはいかないな)

 ティアナ捜索の前に、やる事がたくさんありすぎるのだ。やはり、念頭に置いておきながらも、偶然的な遭遇に頼るしかないのだ。

 何にしても、これらの考えが実行に移せるようになるには、まずはエスクードのティーダ発見が第一だ。何もする事が無い苛立ちが、ティーダに襲いかかっていた。


 ――そして数日が経ったある日の事。ついに秘密裏に捜索されていた、エスクードのティーダ発見の報告が成されたのだ。しかしその結果は、大臣ノリヌの耳には悲しい事実である。

「申し上げます。ティーダと思われる人物を発見、至急確保しましたが……その……」

「何じゃ、早く言わぬかっ! 年寄りをあまり待たせるでない!」

「では……見つけたのは私とは違う兵士でしたが……見つけた時には、既に死んでいたそうであります」

「な、何と……!? し、死んでいた……じゃと。遺伝子鑑定などは済んだのかね!?」

「……はい。調べた結果、ほぼ確実にティーダのものと一致しました……」

 その報せを受けたノリヌは、途端に体に力が入らなくなり、その場に崩れ落ちた。そしてゆっくりと口を開く。

「……この事は、フィーネ姫様には内密にするんじゃ。あの方は今でも一途に待ち続けておる……いずれは話すつもりじゃが、今は絶対に姫様の耳には入れぬようにな?」

「了解しました。徹底します!」

 一礼をして、兵士は下がっていく。ノリヌはいまだに体に力が入らなく、べったりと床に座り込んでいる。

(戦場に出たんじゃ、死ぬ可能性が高い事は、百も承知している……しかし、まさかこれ程に悲しい事とは……)

 一人の男の死に、一人の男が涙を流していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ