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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
砂漠地帯~砂城の姫君~
40/97

1,エスクード城

名前 ティーダ

種族 アルティロイド

性別 男

年齢 17

階級 火の騎士

戦闘 2900/業火 3200

装備

E深紅の剣ヴェルデフレイン

Eティーダ専用戦闘防護服

E火の聖獣エンドラ

 ――砂漠地帯。緑のほとんど無い、砂だらけの地平。ありとあらゆる命を奪っていく、砂のブラックホール。太陽は大地を灼熱にさせ、全ての水分を蒸発させていく。

「……み、ず……」

 支配解放対戦から数日。

 ティーダは一人、砂漠に倒れ付していた。最後の決戦、ラティオの放ったセカンドインパルスにより、ある意味で一命は助かっている。あのままインパルスの爆発が無ければ、間違いなく闇の騎士クリッパーの、鎌により首を跳ねられていただろう。

 爆発の衝撃に飛ばされるがまま行き着いた場所が、此処、ディザードゥ砂漠地帯である。だがクリッパーに命は取られなかったが、砂漠地帯の環境により、このままでは確実に命は終わりを迎えてしまう。

 ティーダは既に、自分の力では動き回れない程に、疲弊しきっていたのだ。アルティロイド独自の回復力も、ここまでのダメージを回復させるには、長い時間を要する事になる。しかし今は時間を長く見ている暇は無いのだ。このまま砂漠に倒れていれば、身体中の水分は広大な砂に飲まれ、灼熱の太陽により、その身を焼き焦がされるだろう。

(駄目、か……。俺はここで死ぬのか……ジューク、デュアリス、セレナ……ラティオ……そして――)

 思考が止まっていく。恐らく、ここで眠れば永遠の眠りになるだろう。だが意識とは関係なく、闇への誘いは急速に高まり、全てを飲み込んでいく。命を縛り付ける為の、重力という名の鎖から解き放たれていく。それは一種の解放という名の快感を、ティーダに与えていたのだ。

(――そうか、死ぬというのは、こんなにも気持ち良いものなのか。……このまま……死ぬのも良いかもしれない)

 死を受け入れ、そっと意識を遠ざけていく。あとちょっとで、あの世と呼ばれる場所に向かえるだろう。数々の強敵と戦い、死闘を演じてきたが、そんな戦士には呆気ない死に方だ。少なからずティーダは、そう思いながら死に絶えていく。

「……駄目……! では……ませんっ。……ティーダ……!」

 何者かが呼んでいる。男の声か女の声かはわからない。ただティーダの名前を、必死で呼んでいたのはわかった。

(誰だ……俺の名前を知っている? 俺も知っている奴なのか……ティオ……)

 薄れゆく意識の中で、その謎の声の呼びかけは聞こえたが、残念ながら深い闇へと吸い込まれていった。

 ただ一つ、その叫ぶ者から感じ取れた事は、心に沁みるような暖かさだった。


 ――歩き続けても、終わる事のなかった漆黒。無の世界と呼ばれるものだろうか。何も無いそこには、一瞬の閃光すら見えない。自分が立っているのか、座っているのか、あるいは寝ているのか、更にいうなれば生きているのかさえも、一切がわからない。

 だが、そんな長い漆黒も終わりを向かえ、降り注いだのは溢れんばかりの光と――見知らぬ天井だけである。

 無言でその天井を見つめる。どこか高級感のある内装、これだけでレジスタンス連中に、拾われたわけではない事がわかる。城国と同じく壁はレンガでできている。更に辺りを見回すと、綺麗な装飾品の数々が置かれた、机が目に入る。

「……ここは一体?」

 体には包帯が巻かれ、怪我の手当てがされているようだ。そのおかげか体の調子は思いの外、良好であった。

 軽く体を動かすと、フワッと甘く優しい香りが漂う。その香りの元がどこなのか、わかるのはすぐだった。それはティーダが寝かされていた、ベッドそのものからである。

(薄々わかっていたが……この部屋の持ち主は女か)

 部屋の窓から外を覗くと、遥か下の方に、たくさんの人が見える。どうやらこの部屋は、高い場所にあるらしく、外の様子から城であり、更に城の周りには見渡す限りの砂漠が目につく。よく見ると下にいる人間は、皆が兵士であるようだ。数も見渡せるだけでも百人はいるだろう。

 外の様子を見ていると、部屋の扉前に気配を感じる。一人ではなく、三、四人はいるだろう。何が起きても良いように、ティーダは身構える。そうさせたのは、その数人の内の二人だ。とても人間とは思えないような、存在感を放っているのがわかる。そしてその存在感を隠そうともしていない。絶対の自信の表れだろう。

 扉が開かれると、最初に目についたのは、金色の髪をなびかせるように備えた、美しくも可愛らしい女性である。ドレスを纏っているところを見ると、この女性が姫君であろう。

「――まぁ!」

 そして姫であろう女性は、ティーダの顔を見ると、顔つきが非常に晴れやかになり、突然走ってきて思い切り抱きついてくる。

「……って、おい!」

「良かった……本当に良かった。無事に意識が回復してくれて……ティーダ」

 恐らくは、薄れゆく意識の中に聞こえた声は、この女性のものだろう。しかしティーダは、この娘を全く知らないのだ。

「ちょっと待て、人違いじゃないのか? 俺は確かにティーダという名だが……恐らく、お前の知っているティーダとは別人だ」

 この言葉に、目の前の女性の表情が陰る。泣く程に落ち込んではいないようだが、悲しそうに俯く姿を見て、どこか申し訳なく思う。

(――酷な話だが、こういうのはさっさと言ってやった方が良い。盛り上がってしまってから、言う方がショックが大きいだろうしな)

 これはティーダなりの優しさだ。それに、現状を早く確認したいという思いもあった。

 風の騎士ジュークを、乗っ取り自分の物とした王と、光と闇の騎士、リオとクリッパーの動向。救援に来てくれたラティオの生死。共に支配解放大戦を戦った、戦士達の安否。――そしてパーシオンや、ティオの存在が、何よりも気になっていた。この事もあり、得体の知れない場所に、いつまでも留まっているわけにはいかない。今のティーダには、パーシオンという帰る場所があるのだ。

「――記憶喪失、なのね……ティーダ」

「………………はっ?」

 目の前の娘は、俯きながら突然そんな事を言い出す。勿論、記憶喪失なんてものにはかかってもいないし、間違いなく人違いなはずなのだ。

「可哀想に……きっと余程、怖い目にあったのね。でも大丈夫、ここにはもう怖い事は無いわ」

優しく頭を撫でながら、そう言う。スラッとした割に、温かく柔らかい手だ。

「あのなぁ……」

「――姫様、お時間です。ティーダの事はまた後程で、お願いします」

 一人の老人が入ってくる。ややきつそうな印象だが、悪い人ではないだろう。さしずめ娘の世話係といったところだろうと予想できる。そして老人の言葉から、やはり国の姫なのだとわかる。

「はい、ノリヌ。……ではティーダ、また後で来ますね。それまでゆっくり休んでください。……貴方は一応は重症なのですから」

 姫は足早に部屋を後にする。そして姫と入れ替わりに、ノリヌと呼ばれていた老人と、二人の騎士が入ってくる。恐らく、扉の向こうで存在感を放っていたのは、この二人であろう。

 だが、この二人の騎士を見て、ティーダはどこか違和感を見出だす。見た感じは人間と同じなのだが、人間にしては持っているプレッシャーのようなものが、強すぎると感じる。いや、この表現は正しくないのかもしれない。もっと正確にいうのならば、野性的、である。そして眼光も人間とは思えない程に鋭く、正に鷹の目という言葉が当てはまる。武器はレイピアと呼ばれる、細身の剣である。

「よく無事に帰ったな、ティーダよ」

「……アンタは?」

 ノリヌと呼ばれていた老人が、やたら上から目線で話しかけてくる。

「覚えておらんのか? ワシはノリヌ。このエスクード城の大臣兼姫の世話係じゃよ。しかしまさか記憶喪失なのか?」

 やはり老人ノリヌは、姫の世話係。更に大臣らしい。

 そしてノリヌは、この城の名をエスクード城と言った。エスクード城とは、大陸の遥か東に位置しているディザードゥ砂漠にある、世界でも数ヶ所しかない城の一つである。元々は、そんなに強い兵力を保有していたわけではなかったが、ここ最近では、城国軍からの攻撃を退ける強さを持っている。

「――記憶喪失もなにも、俺はアンタ達の知っているティーダじゃない。間違いなく人違いのはずだ」

ノリヌは独特な笑い方をする。

「ぬっほっほ、この鬱陶しい長い黒髪、目付きの悪さ、そして無愛想な喋り方、どれを取ってもワシらの 知っているティーダそのものじゃわい」

 大きな溜め息をつく。どうやら、エスクード城にいたティーダという人物と、全くの瓜二つらしいのだ。見た目も性格も同じという事に、にわかには信じがたいところもある。

「どうすれば信じてもらえる……俺は俺で帰らなければならない所があるんだ」

「お前さんの帰る場所は、ここエスクード城じゃよ。何、今は記憶喪失なだけじゃ、治れば安心するわい」

 話が一向に進展しなかった。説明しようにも、記憶喪失の一言で片付けられてしまう。

「だからな、じいさん……」

「ま、早く良くなって……フィーネ様を安心させて守ってやってくれ。一兵士と姫様の結婚、反対する者もそりゃおるが、今の時代だからこそ幸せになってもらいたいもんだわい。戦いを終わらせる為に、と言って、城から出ていってしまったお前さんを想い、フィーネ様は毎晩嘆き悲しみ、毎日教会に行き、神に祈りを捧げておったのだぞ、この幸せ者が!」

「そりゃ大層な事だな」

 確かに凄いと思ったが、結局は赤の他人の事なので、あまり深入りはしないようにする。更にノリヌの話より、姫の名前はフィーネである事がわかった。

「ノリヌ様、そろそろ……」

 二人の騎士の内の一人が、ノリヌを呼びに来る。白髪を後ろで纏め、長い馬の尻尾にしている。何よりも特徴的なのは、首に下げた鳥の爪のようなネックレスである。あまりに精巧な作りであり、まるで本物の爪なのではないかと思える程だ。

「おぉ、そんな時間か。――ではティーダ、ゆっくり休んで早く治しなさい。フィーネ様に気苦労をかけんようにな」

 そう言うと、ノリヌは部屋から出ていく。その護衛についていた騎士も、出ていこうとするが、その内の一人、今しがたノリヌを呼びに来た騎士と目が合う。二人の騎士の内、この男の眼光が特に、鷹のような目をしている。ホークアイとはよくいったもので、この言葉は、この男の為にあるのではないかとも思えてしまう。

「これ、どうしたホーク。呼びに来たお前が、そこで突っ立っていても、しょうがないだろうに」

「はい、申し訳ありません、ノリヌ様。ただいま向かいますゆえ……」

 その男はホークという名前、何かの暗号名だろうか、まさか本名のはずはないだろう。

 ノリヌとホーク、そして一人扉の前で待機していた騎士は、何処かへと歩いていく。最もティーダは、傷がある程度治ったら、すぐに出ていくつもりだったので、特に深追いしようとも思わなかった。厄介事に巻き込まれて、帰還が遅くなるのも避けたい。

(さて……どうしたものかな。フィーネ……だったか。あいつは俺の事を人違いの、ティーダだと思っている。説得しても納得はしてくれないだろう。……そうなると抜け出すか)

 このような結論に至ったが、すぐに考えを止める。

(――いや、そもそもここが具体的にどの辺りなのか、まずはそれを知らないといけないな。そうなると、やはりこの城で情報を集めないといけないか……)

 いずれにしても、まずは傷を治さないといけない。この城で何をすべきかは、今は考えないようにする。

 そうなると、ここに来てからの現状確認になる。まずここは、東の砂漠地帯にあるエスクード城。そして城の姫はフィーネ。更に側近にノリヌと騎士ホーク、名前はわからないが、もう一人騎士がいる。あまりにも現状を判断するには、材料が少なすぎる。

 支配解放大戦以降の情報が、不足しすぎているのだ。まるで再び一から始まる冒険のように、新たな道を進まなければならない。

「……考えても仕方がないか。今は自分にできる事を、一つ一つこなしていく事が大切だ」

 たくさんの考え事はあったが、割り切って一つに集中する事にする。そして、そう思った矢先に、一つの重要な事柄に気がついた。

「――ヴェルデフレインは、どこだ?」

 部屋中をくまなく探しても、ティーダの愛剣、深紅の剣ヴェルデフレインは見つからなかったのだ。

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