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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
北の大地~悲しき水と氷~
21/97

20,ザードリブのリコオ

 ――突然鳴り響いた空砲音を聞き、ティーダとカルマンは、お互いに顔を見合わせる。周囲を警戒し、一人身構えるカルマンに対し、特に気にする素振りも見せないティーダ。

「お、おい、一度ティオのいる所に戻った方が良いんじゃないか!」

 必要以上に大きな声で、ティーダに呼びかける。

(――今の空砲、かなり遠い位置からのものだ。方角の聞き取りは難しいが、恐らくは東からか……)

 ティーダは冷静に、空砲を解析している。

「おいっ!」

「……やれやれ。少しは落ち着け、静かにしろ! そんな大声で騒いでいたら敵に見つかるだろ?」

「もしかしたら、ティオが危険な目にあってるかもしれないんだぞ。何でそんなに落ち着いていられるんだよっ!」

 必要以上に騒ぐカルマンと、必要以上に冷静なティーダ。最も反対する理由も無い為、ティーダはカルマンに合わせようと考える。

「――そうだな、とりあえずシュネリ湖に戻ろう。ティオの安全確保と同時に、ソリディアの指示を仰ぐ」

「よし、そうしよう。……それとソリディア兵士長の事は、ソリディア兵士長と呼べ。呼び捨てにするな!」

「急ぐんだろう? いちいち細かい事に気を取られるな」

 ティーダは、カルマンにも追いつける程度の速さで走り始める。その後も文句を言いながらも、カルマンはティーダに続き、二人はシュネリ湖に戻っていく。警戒しながら探索した行き道と違い、目的地がはっきりとして、急ぎ足で戻る帰り道の方が、時間は大してかからなかった。

 ――シュネリ湖に二人が戻ると、元いた場所にティオが待機している。この時も、カルマンは急ぎ足でティオの無事を確認し、ティーダはティオを視認するとゆっくりと歩き始める。

「だ、大丈夫だったか、ティオ!? 怪我は無い?」

「うん、全然平気だよ。カルマン君達こそ無事だった?」

 この場にいないのはソリディア。ティーダは付近にソリディアの気配を捜すと同時に、ふとティオが視界に入る。

(……紐で結んでいない? 無くした……いや、まさかそんなはずは無い。あいつは赤い紐を何よりも大切にしていたはずだ――)

「――おい、ティ……」

「あれ、いつも馬の尻尾に束ねてたのに、一体どうしたのさ!?」

 ティーダが聞くよりも少し早く、カルマンは全く同じ内容を問いただしている。同じ事を聞く必要は無いと思い、ティーダは静かに口を閉じる。

「……あ、うん、ちょっとね。待ってる間に友達になった綺麗な友達にあげたんだ」

「綺麗な、友達?」

「う、ん、ほら動物、凄く可愛い動物に付けてあげたんだよ!」

 ティオは嘘をついた。デュアリスの存在を、ティーダとカルマンに知られては、まずいと判断したからだ。城国軍のデュアリスの存在を知られてしまったら、必要以上の警戒をする事になってしまう上に、もしかしたら、戦わなくてはいけないかもしれなくなってしまう。ティオとしては、できるだけ避けたい未来である。

(――動物。嘘だな、実際この周辺には、動物らしい動物が見られなかった。それに……)

 これも言葉に出さなかったが、ティーダはティオの左耳に付いているピアスを見る。

(あのピアスは……デュアリスのものだ。何故ティオが持っている? 答えは簡単だ、ティオとデュアリスは、俺達がいない間に接触したからだ。……だが仮にデュアリスならば好都合だ、あいつは戦いと殺しを心底好まない。現にティオが無事なのも、あいつのおかげと言っても良い)

 ティーダはティオの嘘を瞬時に見抜く。だが出会った相手が、非常に恵まれている事もあり、ここはあえて相手にせずに、無視をする事が最良だとティーダは判断する。

「――全員無事か!? 何事も無くて良かった、さっきの空砲を聞いて急いで戻ってきたのだが……」

 やや疲れた表情のソリディアが、遅れて姿を現す。目に見えた疲労がある為、三人はあえて心配の言葉をかけずに、その事に関しては流すようにする。

「周辺のレジスタンスの位置がわかったぞ。さっきの空砲も怪しいが、今は周辺のレジスタンスと合流し、その先の行動はそれから決めていこう」

 再び、ソリディア指揮の下で、シュネリ湖近辺のレジスタンスを探す事になる。

 ソリディアの戦友であるクリムが言うには、レジスタンスベースは西の方角にある。西の方角はティーダとカルマンが捜索していたので、更に西か、あるいは南西か北西という事になる。

 だがソリディアは東といっても、東南の方へ向かっているところにクリムと出会った。その位置から西に向かった場所と指示された為、南西に向かう事が確率的には高いと判断する。



 ――ソリディアの読みは的中し、シュネリ湖から南西に向かった所に、レジスタンス集落はあった。

「油断はするな。レジスタンスといっても、中には仲間意識の無い連中もいる。そうなったら突然攻撃してくる場合もあるからな」

「そんな連中がいるんですか、兵士長!?」

 ソリディアの言葉を、問いただしたのはカルマンだ。

 レジスタンスは仲間意識が強いという、先入観があった為、カルマン、そしてティオも驚いている。

「まぁな、全員が全員、仲間意識が強いわけでもないさ。それこそ人それぞれ、レジスタンスそれぞれの考えや、そこに至る歩みがあったのだからな……。誰もそれを否定する事はできはせんよ」

「でも……一緒に地上で暮らし、一緒に戦っていかないといけないからこそ、私はできる事なら一緒に手を取り合っていきたいと思います……」

「ふふふ、そうだな」

 ソリディアは優しく笑うと、ティオの頭にその大きな手を乗せ撫でた。どこか恥ずかしいような、くすぐったい表情で、その行為を受ける。

 レジスタンスベースの大きさは、外見上はパーシオンと大差はないようにも見える。そうなると具体的な兵士も数も、多いとはいえないところだろう。

「……君、すまんが……」

 ソリディアは一人、そのレジスタンスに近づき、見張りの兵士と話をしている。穏やかに話をしているのを見ると、話自体は順調に進んでいるようである。

「せっかくここまで来たんだから、ベース内に入れてもらえると良いね」

「どうだろうなぁ、やっぱり見ず知らずの人間を内部に入れるのは、少しぐらい抵抗があるだろうしな」

「うん、そうだろうけど……」

 待っている間に、ティオとカルマンは適当な事を喋っている。ティーダは城国軍の兵士の気配を、探り続けている。

 すると、ソリディアの呼ぶ声がした為に、三人は走ってレジスタンスの出入り口へと走っていく。出迎えたのは、元々いた見張り兵と、ソリディアと同じぐらいの年齢の兵士長である。

「自分がこのレジスタンスベース『ザードリブ』の兵士長、ラックだ。遙々遠い場所からよく来てくれた……というべきか。今は少しタイミングが悪かったようだ」

 ザードリブのラック兵士長は、歓迎したいのは山々だが、といった感じで話を続ける。

「今は城国軍が攻めてきていてね。どうやら狙いはシュネリ湖の統治らしく、その為に我々のような近辺に住んでいるレジスタンスを、根絶やしにしようと侵攻している」

 驚くティオとカルマンに対して、それぞれの解釈があったものの、ティーダとソリディアは冷静だった。ソリディアはクリムからの情報。ティーダは、ティオのピアスからデュアリスの存在を察知した為だ。

「都合の良い話だが、もし宜しければ我々に貴方達の力を貸していただきたいのだが……。勿論だが強制はしないつもりだ」

 そのラック兵士長の申し出に、ソリディアが答える。

「それは我々も同じレジスタンスとして協力したいな。しかし申し訳ない話だが、我々は我々のするべき事がある。その事を終わらせたら、すぐに戻るつもりなのだ」

「そうか……仕方がない事だな。貴方達には貴方達の帰る場所もある事だ。そうすべきだ……」

「だが、もしもだ。もしも我々の事が終わる前に城国軍との攻防になってしまった時は、それ相応に協力はさせていただきたいと思う」

 ソリディアの返答に、ラック兵士長は嬉しそうに答える。

「ありがとうございます、十分すぎる言葉です。さぁ立ち話も過ぎました、どうぞお連れの方も中へ入ってください」

 ラック兵士長の先導により、ティーダ達はザードリブのベース内を進む。

 外観はパーシオンと同じぐらいと感じられたが、内部に入ってみると、パーシオンよりもやや小さな印象を受ける。城国軍の侵攻が激しさを増している為か、そこに暮らす人々には活気はなく、最低限の緊張感が支配している。

「客人用のテントです。少々狭いですが……」

 ラック兵士長はそう言ったものの、中は思った以上に広く、そして綺麗だった。そこに荷物を置き、ひとまず休息を取らせてもらう。

「……ソリディアさん、ティオさん、ちょっと良いですか?」

 ラック兵士長に呼び出され、ソリディアとティオはテントの外へと出る。

「お話は聞きました、この北の地を代表する医者をお捜しとか……?」

「うむ、どこか心当たりは無いですかな?」

「心当たりも何も、その医者はこのザードリブにいます。名はリコオ。あの兵士テントとなっている大きなテントのすぐ隣にある、小さな白いテントがそうです」

 ラック兵士長が指差した場所には、確かに大きなテントと、その隣には小さな白いテントがある。中でも目を惹くのは、白のテントには目立つ赤十字である。

「迷惑がかからない程度でしたら、中は自由に見て回っていただいても構わないです」

「ありがとう、ラック兵士長殿」

「あ、それとソリディアさん」

 突然の呼びかけに、疑問の表情でラック兵士長を見る。

「もし宜しければ、リコオの用件が済みましたら、一度兵士用のテントに寄ってはいただけないでしょうか? 貴方の戦略としての考えをお聞かせ願いたい」

「わかりました。ご迷惑をかけさせていただている礼にさせてもらいます」

 ラック兵士長は、一礼をした後、足早に大きな兵士テントへ駆けていく。

「さて、待ちぼうけさせてすまないね、ティオ。まずはティオからリコオさんに診断してもらいなさい」

「はい……でも兵士長、どこか体の具合でも悪いんですか?」

「はっはっは、何も無いよ。私も歳だから軽い健康診断でも受けようと思ってな」

 嘘をついた。いや真実を打ち明けられなかったのだ。

 ラルク医師の診断は不治の病、仮にここにいるリコオが診断したところで、この病は治りはしないだろう。何よりも自分の体だからこそ、ソリディアは自分の体の状態を一番把握している。

「では、お言葉に甘えさせてもらいます!」

「あぁ、行っておいで。終わったらティーダとカルマンのいるテントへ先に帰っていなさい」

 ティオは小気味好い返事をすると、リコオのテントへと走っていく。


 リコオのテント前にて挨拶をすると、その返事にラルク医師とはまた違った、中性的な声が聞こえてくる。

「……入んな」

「入ります、失礼します」

 テントの中はラルク医師と大した差は無かった。得体の知れない薬品と、変な異臭が漂っている。

 リコオはボーイッシュな短髪である。後ろ姿だけ見ると男だと判断できるが、顔を見合わせると、ティオの考えは一瞬にして白紙に戻る。ラルク医師とはまた違った中性的な顔をしているからだ。美少年なような、美少女なような、ラルク医師が大人の男性、いや女性、だとするならば、リコオとはそんな印象なのだ。

「それでどうした? ……ん、見ない顔だな。ま、そんな事はどうでも良いけどな」

「あの……実は時々、左胸が凄く痛んで……って、えぇ!?」

 ティオは思わず声を上げた。何故なら喋ってる最中に、リコオはティオの左胸を掴んだからだ。触ったというよりも、鷲掴みにした、という方が近い。

「ふむ……特に異常は無いな。発育には難があるぞ、お前さん。歳の割に胸が小さい!」

 ティオは怒りよりも、小さなショックを受ける。何よりもこんな所で、小さい、と言い切られるとは思ってもみなかったのだ。

(ラルク医師は歳の割には、発育が良いって言ってたのに……)

「ほら、診断は終わりだ。とっとと出ていきな!」

「そ、そんな、もうちょっとちゃんと診断してください!」

 いきなり胸を鷲掴みにされ、失礼な事まで言われ、出た言葉が異常無しの診断だった為、さすがのティオも食い下がった。

「ちゃんとも何も、異常が無いんだからしょうがないだろう?」

「私の住んでいる所にはラルクさんという医者がいます。その人も異常は無いと言っていましたけど、それでも私の左胸は何故か痛み続けます。……だから腕の良い医者がいると聞いて、ここまで来たんですよ……」

 リコオは、ティオの言葉の中の、一つの単語に反応する。

「ラルク……そうか、お前はラルクの患者か。なら俺には治せないね」

「どうしてですか!?」

「あいつは俺の方が腕が良いと言ったのか? だったらそれは間違いだ、ラルクに治せないものはリコオには治せない。ラルクは俺が知る中で、最高の技術と知識を持った医者だからだ」

 ティオは言い返す事はできなかった。つまりは現在知っている二人の最高の医者を以てしても、ティオの左胸の痛みの原因はわからないのだ。

「……ま、大方だ。左胸が痛い年頃の女の理由は恋じゃないの?」

「それ、ラルク先生も言っていました」

「だろうね。ラルクはこういう恋愛話好きだからね、良い歳して何やってんだかな……」

 心の底から呆れたように、話を進めるリコオ。

「とりあえずそんな感じだ、悪いけどな。診断結果は異常無し、あるとすれば恋の病だろう」

「そう、ですか……」

 ティオとしては、また納得のいく答えは出してもらえなかったのだ。恋の病にしては、大きすぎる痛み。

 ばつの悪そうな顔で、リコオは言う。

「悪いな……せっかく頼って来てもらったのに、力になれなくてよ」

「いえ、お忙しいのに、どうもありがとうございました!」

 診断内容はともかく、ティオは努めて明るく礼を言うと、リコオのテントを出る。

 結果的に、この北の大地へ足を運んでも、左胸の痛みの原因は掴めないままであった。

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