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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
北の大地~悲しき水と氷~
20/97

19,親友と戦友と

 ――ティーダ達は探索に出る。ティーダとカルマンは西へ、ソリディアは東を探しに行く。

 近辺に三人がいなくなったのを確認すると、ティオはゆっくりと湖の水を手に触れさせてみる。

「ソリディア兵士長は、意外と暖かいと言っていたけど……うぅ、やっぱり冷たい。確かに外の気温に比べて、水は温かいけど、それでも完全に水の中に入ったら風邪をひいちゃうよ……」

 水浴びは断念し、ティオは持ち物の中から手拭いを取り出し、それを水に濡らし全身を拭いていく。

「こうするだけでも、全然違うもんね!」

 一通り自分の体を拭き終わると、清々しい気分になる。ティオは湖の(ほとり)に腰掛け、水に足をつけながらティーダ達の帰りを待つ。

 シュネリ湖の水は、透き通るような青である。ただ眺めているだけでも、その目を釘付けにされてしまう。

「それにしても広いなぁ、一体どこまで続いてるんだろう?」

 一人そんな事を喋りながら、水面を眺めていると、突然その水面が揺れ、そこから一人の少女が現れる。

「……はぁ!」

 少女はティオに気づいていない。今まで湖で泳いでいたのだろうか、気持ちよさそうな溜息を吐く。

「だ、誰!?」

 黙っていようかと思ったが、咄嗟にティオは目の前の少女に話しかけていた。話しかけられた少女は、とても水上にいるとは思えない動きで、ティオの方を向き、その湖と同じような綺麗な青い髪を振り乱しながら、険しい表情でティオを睨んだ。

「……女の子?」

「えっ!?」

 お互いに、その姿を確認すると呆気にとられてしまう。お互いが自分と同じぐらいの年頃の、一人の少女だったからである。

「ま、待って、私は武器とかは持ってないよ!」

 ティオは咄差に言葉を出して、手をぶらつかせて、敵意が無い事を示す。

「貴方……地上の人、レジスタンス?」

「え、えぇ、この辺の人間ではないけど……一応レジスタンスです」

 少女は警戒心を解かずに、ゆっくりとティオに近づいていく。

 ティオも高く手を挙げ、戦う意志が無い事を、強調する。そして少女の目を真っ直ぐに見つめた。

「……不思議な感覚。貴方を見てると、何かに包まれるような、優しい感覚を覚える……」

「えっ……!?」

 少女は湖から上がり、その美しき体を(あら)わにする。下着だけで泳いでいたのか、目立った装備は、見つからない。耳に付けている、少女の髪と同じ、綺麗な青をしたピアスが特徴的である。

「先に言っておきます。私は城国軍の兵士です……」

 少女はゆっくりと、その言葉を出した。これに対して、身構えたのはティオだ。

「うふふ……心配しないでください。城国軍ですけど、私は元々戦いは好みません。それに格好を見てもらえればわかりますけど、ほぼ丸腰です」

 今度は少女が、ティオと同じように、敵意が無いという風に、手を振った。

「私はデュアリスです。貴方は?」

「あ、私はティオ。ごめんなさい、勝手な偏見かもしれないけど、城国軍の人は襲ってくる印象しかなくて……」

「……否定は、できませんね。それに私も、地上にいる人間は、大地を汚染するゴミだとばかり教育されてきましたから……。でも一目見ただけで、おかしな話かもしれないですけど、私はティオさんを見て、とてもそんな人には見えません」

 これがティオとデュアリスの、お互いを見た際の意見。身構えていたティオだが、デュアリスのその穏やかな物腰に、いつの間にか警戒が解かれていた。

「……綺麗な花。何という花ですか?」

 デュアリスは、ティオの頭に付けられたワセシアの花を見る。

「あ、これは、ワセシアの花っていうの。地上では稀少な花だけど、割と知られてる花なんだよ」

「そうなんですか、城国では見られない花……。とても似合ってるよ、ティオさん」

「ありがとう。それと私の事はティオで良いよ、デュアリスさん」

「わかりました。では……ティオ、私の事もデュアリスで良いです」

「じゃあ……デュアリス……さ、ん」

 ティオの反応に、デュアリスは優しく笑う。それにつられてティオも、恥ずかしげに笑った。

「うふふ、急には無理でしたか?」

「うん……何でだろう? デュアリスさんの方が年上っぽいからかなぁ」

「そうかしら? 私は同い年だと思いますけど……私は十五歳」

「……あれ、同じだ、私も十五歳」

「ほら、同い年です」

 絶えず朗らかに笑うデュアリスに、ティオもその笑顔に惹かれている。その物腰の柔らかさが、ティオに年上と錯覚させたものであろう。

「同い年、か。……では、デュアリス、ちゃん」

「デュアリス、ちゃん?」

「ごめんね。私にはこれが限界かも、もしも嫌だったら止めるよ?」

 デュアリスはそれに対して、首を横に振る。

「ううん、とっても嬉しいです。では私はティオ。ティオはデュアリスちゃん。これで決定です」

 二人はレジスタンスと城国軍。そんな事に関係なく笑い合った。お互いが持っていた偏見も、話し合っている内に全く感じなくなっていたのだ。

 それから湖に畔に腰掛け、二人は同じ歳同士という事もあり、話を弾ませる。お互いが近しい歳の、女友達というものが初めてできたのだ。それ故に普通ではどうでも良いような、他愛もない話をした。

「そういえばティオのポニーテールは可愛いね」

「え、ポニーテール?」

「うん、ほら髪型の事です」

 デュアリスは、ティオの髪型を指す。

「ポニーテールなの? 馬の尻尾じゃなくて?」

「馬の尻尾? 地上ではそう呼ぶのですか?」

「うん、私達は馬の尻尾って呼んでるよ。城国ではポニーテールっていうんだね。……何だかそっちの方が可愛いなぁ」

「馬の尻尾、も、何というか奇抜ですよね?」

「デュアリスちゃん、それフォローになってないよ……」

「うふふ、ごめんなさいね」

 再びデュアリスが、ティオのポニーテールを見ると、ティオがポニーテールを形成する為の、アイテムである「赤いゴム紐」が目に入る。

「……その紐、凄く綺麗な赤をしてますね」

「これね、私もお気に入りの赤なんだ。……デュアリスちゃんの耳に付けてる青いピアスも、凄く綺麗だよ」

「そう、かな? ……ねぇ、もし良かったらなんですけど……」

「このゴム紐と、そのピアスを、交換?」

「はい、どうでしょう?」

 ティオは少し考えた後、その答えを出した。

「うん良いよ、これは私とデュアリスちゃんの友達の印、ね!」

 髪を束ねていた赤いゴム紐を、ティオは外す。今までポニーテールで纏められていた、ティオの肩よりも少し長い、桃色の髪が下ろされる。同じく、デュアリスも両耳に付けられていたピアスの内、左耳のピアスを外す。

「ピアスの付け方、わかりますか?」

「全然わからないよ……。一回も付けた事が無いんだもん」

「付けてあげます。このピアスは穴を開けなくても付けられるものです」

 デュアリスは優しく微笑しながら、そのピアスをティオの左耳に付ける。

「……う、ん。耳に付いてるのはわかるけど、自分で見れないからよくわからないね」

「凄く可愛いよ、ティオ」

「ありがとうね。今度は私がデュアリスちゃんの髪を結んであげるね」

 ティオ程ではないが、セミロングのデュアリスの髪を結ぶ。

「馬の尻尾でお願いしますね?」

「了解、任せて!」

 手慣れた手つきで、デュアリスの髪型を馬の尻尾にしていく。美しいデュアリスの青い髪に、赤いゴム紐が目立つ。

「これも私にはどんな風になっているのか、わかりませんねぇ……」

「大丈夫、とっても似合ってるよ」

「ありがとうございます」

 一通り笑い合った後、一呼吸置いてデュアリスが話し始める。

「……こうやって、城国もレジスタンスも無く、お互いが笑いあえる世界ができれば良いのですけれどね……」

「デュアリスちゃん……? うん、そうだね。私達は立場上敵同士なのかもしれないけど、お互いにこうやって平和を望んでいる人がいるってわかった。それだけでも凄い事だよね?」

「……ティオ。はい、その通りです」

「デュアリスちゃん! 私達ががんばって良い方向に持って行けるように、がんばっていこうよ! 今は……今は、小さな存在なのかもしれないけど、諦めずに平和に向けて戦っていこう!」

 ティオの言葉に、デュアリスも同意を示す。小さな二人が、小さな誓いをした。お互いに違う条件下で、同じゴールを目指す為に。

 ――その時、空に乾いた空砲の音が響いた。レジスタンスのものなのか、城国のものなのか、小さな発砲音は、シュネリ湖にいるティオ達でさえ僅かに聞こえる程度のものである。

「な、何だろう、今の音は……?」

「……ごめんね、ティオ。私はもう行かなければいけません」

 その言葉を聞き、咄嗟にティオはデュアリスが、軍人なのだという事に気づく。デュアリスは来た道を戻るように、湖の中に入り込む。

「ティオ……」

「どうしたの、デュアリスちゃん?」

「この赤いゴム紐……絶対に大切にする!」

「デュアリスちゃん……。私も、私もこの青いピアスを絶対に大切にするからっ、この青いピアスと、その赤いゴム紐が、私とデュアリスちゃんが再会する時の、巡り会う為のアイテムだよ!」

「……うん、うんっ。……ティオ、私達はまだ短い付き合いかもしれないけど、友達だよね?」

「そうだよ、私達は友達っ! 世界が平和になって、戦争が終わったら、私達はもっと沢山の話をして、沢山遊ぶんだよ……!」

 ティオもデュアリスも、いつの間にかに涙が流れていた。デュアリスは、ティオの言葉に静かに頷くと、その清蒼の湖へと姿を消した。そこに残ったのは、デュアリスの残り香と、清らかに青く光る、ピアスだけであった。



 ――時は少し戻り、シュネリ湖近辺にあるというレジスタンスグループを探す為、ソリディアは一人、鬱蒼と生い茂る森林を歩いている。

(……ふむ、なかなか見当たらんな。ここは一回ティオの元へと戻るべきか)

 探し始めて数十分は経過した。探索範囲も時間の割には、広範囲にわたって探したつもりだが、一向に見つかる気配は無い。

(そういえばティーダとカルマンは大丈夫だろうか。腕に心配はないが、喧嘩などしていなければ良いが……)

 集中力も途切れてきて、考え事をしているソリディアは、遥か前方の方に人影を発見する。森の中が薄暗く、尚かつ距離が遠い事もあり、その人影がティーダとカルマンのものなのか、レジスタンスのものなのか、最悪の場合は城国軍の兵士という可能性もある。

(いやティーダとカルマンは無いな。人影は一人、いくら喧嘩が絶えない二人でも、まさか別々に行動するような馬鹿な真似はすまい……)

 草むらと木を利用し、身を隠しながら近づいてくる人物の確認をする。少しずつ見えてきたその人影は、城国軍の鋼鉄の鎧を装備しているようだった。

「ちぃっ……!」

 望まぬ存在に、知らずの内に舌打ちをする。戦いを避ける事は可能だが、レジスタンスの探索という目的がある手前、城国軍の兵士に彷徨(うろつ)かれると、厄介な事にも変わりはない。ソリディアは武士道には反すると思いながらも、奇襲をかけ、この兵士を一瞬で殺す事を考える。

 そのまま息を潜め、城国軍兵士が自分の間合いへ入り込むのを待つ。――そして間合いに入り込むと、一気に動き出し、防御の甘い首を一瞬で刈る為に力を一点に注ぎ込む。

「――いやああぁぁぁ!」

「な、何だぁ!?」

 ここで一つの誤算が生じてしまった。奇襲をかけたソリディアの一撃に、この兵士は反応し、攻撃を受け止められてしまったのだ。城国軍兵士は、このソリディアの攻撃を弾き返し、間合いを一気に離した。

「くっ、そ、まさかな……」

 病魔が自分の体を蝕んでいた為か、ソリディアの体は思った以上に動けなくなっていた。

「おいおい、待ちなさんなって……。ったく穏やかじゃねぇなぁ」

「……む、まさか、その声は……?」

 その城国軍兵士の声に、ソリディアは聞き覚えがあったのだ。

「……お前、まさかクリムか!?」

「……へっ!? ……あれ、お前さんよく見たらソリディアじゃねぇか? 何でお前がこんな辺境の地にいるんだよ」

「……は、はっはっは、危ない所だった。私は危うく昔の戦友を手にかけてしまいそうだった……」

 その場に崩れ落ちるように、力無く笑うソリディア。

「はっはっは、じゃねぇよ、ったく。……それに腕が鈍ったんじゃねぇか? あんな程度の斬撃じゃ、ガキも殺せねぇ」

 クリムという男は、悪態をつくように言い放つと、剣を納めソリディアの元へと歩んでいく。クリムは、かつての大戦時に、ソリディアとバースの二人と共に戦った戦友である。

「そう言うな……うっ、ゴホッ、ゴホッ!」

 ソリディアは咳と共に、初めて吐血した。それを見たクリムは慌てて、ソリディアに駆け寄っていく。

「お、おい、お前どこか怪我でもしてんのか!?」

「……いや、悪性の病魔に冒されているらしくてな。もう長くはないと診断されている」

「悪性の病魔……。あとどれぐらいなんだ?」

「長くて一年、早いと半年、あるいはもうちょっと早いか……」

「そう、か……。気の早い話だが、また一人戦友を失っていく事になるとはな……」

「馬鹿者、少しは病人の気も考えてくれ、昔から配慮が足りないのは相変わらずだな」

「馬鹿野郎、それが俺の良いとこだろうが」

 クリムは軽く笑うと、ソリディアを安全な場所まで誘導していく。木を支えにする事により、ソリディアは幾分か楽になる。

「……まぁこの際、お前がどうしてここにいるのかは聞かない。それよりもだ、もしかしたらもうじき、城国へ直接攻撃をかけられるタイミングが来るかもしれねぇ」

「……何、それはどういう事だ?」

「今、城の中は微妙に荒れているんだ。簡単な話、兵士の士気が纏まっていない混乱状態になっている。理由は簡単だ。俺が内部を乱しているからな」

「それは良いが、仮に内部事情が乱れても、外にいる我々には攻め時が全くわからんのだぞ?」

「それは大丈夫だ、ほらよ!」

 クリムは小さな黒い物体を、ソリディアに手渡す。

「これは?」

「無線機と呼ばれるものだ。城国の中では割とポピュラーなアイテムなんだが、地上の文明はそこまで発展していないようだな。これは離れた相手とでも連絡が取り合えるアイテムなんだ」

「離れた相手とでも……? 凄いアイテムじゃないか」

「だろ? 但し永久に使える物ではないからな、無駄な連絡を取り合っていたらすぐに使えなくなる。だからこれを使うタイミングは、俺が攻め時だと判断した時だ」

「……ふむ。お前の合図があるまで、私は地上で軍力を備えろ、という事だな」

「そういう事だ。俺の掴んだ情報によると、シークレットウェポンでもある火の騎士ティーダが、レジスタンスの仲間になっているはずだ、そいつを捜し出し、タイミングさえ完璧なら一気に攻め落とせる! そうなれば城国の支配の歴史は終わるんだ!」

 少しの間を置いて、ソリディアは口を開く。

「……そう上手くいくものだろうか」

「上手くいかせるんだよ! 俺達は何の為に、こんな無駄な戦いをしているんだ。終わらせて平和にする為だろう。勝機と見たら一気に攻める、戦いの基本だぜ?」

 再びソリディアが口を開こうとした時、一発の空砲音が空に響き渡る。

「……敵か!」

「いや、俺の所属している軍のものだ。俺は今、この周辺に攻撃をかけている、水氷の騎士デュアリスの指揮する部隊に配属されているんだ」

「水氷の騎士デュアリス……?」

「そう、火の騎士ティーダと同じ、シークレットウェポンだ。最も女の子で可愛いもんだがな。しかし戦闘力に関しては、人間で勝てる範囲のレベルじゃねぇ。情報によるとデュアリスはシークレットウェポンの中では最弱らしいが、それでも人間を殺す分には問題ない戦闘力を有しているからな」

 考え込むソリディアに、クリムは続けて言う。

「とりあえず死にたくなかったら、すぐにここから離れるんだ。戦場で会っちまったら、俺とお前は戦わないといけなくなる。もしも体調が悪いのなら、ここから少し西に行けば、レジスタンスの集落がある。そこで休んでとっとと離れるんだ、良いな!」

 クリムは捲し立てるように、言葉を出し切ると、ソリディアを置いて走り去っていく。空砲が呼び出しの信号だと判断したソリディアは、特に止める事もせずに、クリムの背中を見送った。

「……お前も死ぬなよ、クリム」

 渡された無線機を握りしめ、ソリディアは、戦友クリムを案じた――。

名前 ティオ

種族 ヒューマン

性別 女

年齢 15

階級 一般

戦闘 100

装備

Eワセシアの花飾り

Eデュアリスのピアス


名前 デュアリス

種族 アルティロイド

性別 女

年齢 15

階級 水氷の騎士

戦闘 ???

装備

E赤いゴム紐



ティオ&デュアリス

赤いゴム紐と青いピアスを交換。


ソリディア

クリムよりボタン型無線機を入手。


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