表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
レジスタンス~地上に住む人々~
2/97

1,漆黒の空を舞う

 漆黒の天空。雲の上遥か上空にまで伸びる城国。地上にいる人間には想像もつかない場所で、たった一つの轟音が鳴り響く。建物内部からの爆発、そして人影が姿を現す。

「――これが、世界、か」

 再び轟音が鳴り響く。今度は建物の中そのものが爆発したようだ。黒煙が行く場所を求めて、壊れて空いた穴から勢い良く飛び出していく。

「――行くか」

 黒煙が静まると、その人影が姿を現す。腰には不思議な紋章の刻まれた剣が下ろされている。腰にまで届く長い漆黒の髪を首もとで束ね、鋭い眼光と黒衣が天空に現れる。その見た目から十代半ばの少年であろう。その少年は躊躇いもなく、天空の夜空に舞う。

「元気で暮らせよ――。願わくば、理想郷へ……むっ!?」

 少年の周りが突然、赤い球体に包まれる。その瞬間、少年を包んだ球体は大爆発を起こす。間違いなく死んでしまうであろうその爆発の中から少年は、剣を盾にするようにして爆発を防ぐ。

「この能力……ラティオか!?」

「爆ッ発ッ!」

「チィ……!」

 黄色の法衣を身に纏うラティオと呼ばれる少年は、掌から黄色い光弾を飛ばす。その光弾は黒衣の少年に向かっていくと、次々に爆発していく。その光弾を鞘で弾き返していく。どうやら少年の武器には、強大な衝撃すら吸収あるいは受け止めてしまうような、特殊な素材でできた武器であるようだ。

「兄貴ッ、どうしてだ、どうしてこんな事をするんだ!?」

「ラティオ、お前は戻れ!」

 黒衣の少年は、ラティオに戻るように指示するが、ラティオは説得を聞くどころか、手にはめた特殊な紋章の刻まれたメタルナックルを、拳と拳を合わせる事により、激しい金属音を鳴らし一気に間合いを詰めてくる。

 このラティオの接近に、黒衣の少年も鞘で受ける姿勢を取る。この少年の鞘に刻まれた紋章と、ラティオのメタルナックルの紋章はどこか似ているが、少しばかり紋章の形が違う。黒衣の少年の紋章は、剣と炎を合わせたような紋章。ラティオの紋章は悪魔のような手に、爆発そのものが描かれたような紋章がついている。

「ウオオオォォォォォ!!」

 気合いと共に、拳を繰り出してくるラティオ。その攻撃を鞘を盾にして受け流していく。金属音に似ているが、少し違う音が空に反響していく。

「ぜ、全部防いだか!」

「――お前には無理だ、ラティオ」

 少年は、ラティオに向かって蹴りを繰り出す。油断していた為か、ラティオは腹部に蹴りを受け、大きく後退させられる。少年は蹴った衝撃で、更に落下速度を上げて落ちていく。

「兄貴、待てぇ! 絶対に連れ戻す!」

「――その通りよ、兄さん。絶対に連れ戻してみせます」

「……っ!?」

 突如、上空から一人の少女が身の丈以上の大きさの槍を、少年に突き立てながら落ちてくる。

「デュアリス姉ぇ!」

「デュアリスか、クソッ!」

 デュアリスと呼ばれる少女は、青い法衣を纏い、青い三つ又の槍を備える。この槍も同じくして、不思議な紋章が刻まれている。槍を中心として、水と氷の紋章が刻まれている。

 突き立てた槍と共に急接近し、落ちてくるデュアリスの攻撃を、ラティオと同じく鞘を盾にして捌ききる。ラティオの際と同じく、特殊な金属音が響く。あまりの衝撃に、漆黒の夜空に火花が散る。

「デュアリスも退けっ、無駄な戦いはするな!」

「兄さん……どうして……?」

「デュアリス姉ぇの言う通りだぜ、兄貴! 何でなんだよ!?」

「……世界が見たい。俺達は生まれた時から与えられたレールを歩かされている。それで良いのか、俺達は? 何で俺達のような存在がいるんだ。俺は知りたい、世界をっ!」

 少年は暴風が荒れ狂う天空で叫ぶ。ラティオとデュアリスは黙ってそれを聞いている。

「でも、でも、それならそれで王に頼めば良いじゃねぇか!」

「王は、聞き入れはしない。俺達に世界は見せない。俺達は何の為に存在しているのか知っているのか?」

「……兄さん。私はその理由も知りません。でも私は兄さんに一緒にいてほしいです、兄さんお戻りください」

「そうだぜ、兄貴! 理由はいらねぇ、俺達は俺達で、兄貴を連れ戻すだけだぜ!」

 ラティオとデュアリスは、揃って構えを取り、攻撃姿勢を作る。デュアリスは冷静に物事を見ているように見えるが、ラティオは今にも襲いかかってくるようだ。

「行くぜ、兄貴! 初弾装填、一撃目の衝撃(ファーストインパルス)!」

 ラティオは右手に力を込め、左手で右手を支えるように構える。すると、支えられた右手が黄色の閃光に包まれていく。その閃光は少しずつ強さを増していき、まるで火花のように爆発し始める。

「ラティオ……本気のようね……」

 ラティオの閃光を、静かに見つめるデュアリス。ラティオの攻撃力を知っている為、デュアリスは巻き添えを食わないように、軽く後方へと移動する。

「ラティオ、援護する」

「おうよ、デュアリス姉! そして、行くぜ兄貴!」

 右手に閃光を纏い、躊躇う事無く接近してくるラティオ。そのラティオの動きに合わせるように、盾にする鞘を構える。

「兄貴、俺のインパルスはそんなもんじゃ防げないぜぇ!」

「来い、ラティオ!」

「――水の(アクアウィップ)!」

 少年とラティオのやり取りを冷静に見ていたデュアリスは、隙を見て技を繰り出す。手に持つ槍の先端から、水の線のようなものが伸び、少年に向かっていく。

「アクアウィップ!? ……デュアリス」

 デュアリスの放った水の鞭は、少年の持つ剣に巻き付いて離さない。それどころか、水の鞭を使いデュアリスは少年の剣を奪おうとする。

「これで盾にはできないわ。兄さん、早く投降してください」

「――そんな必要はないぜ、デュアリス姉! 兄貴は殴ってでも連れ帰るぜ!」

「ラティオ……!」

 ラティオの閃光拳は確実に、少年を捉える。放った拳からは、今までの爆発の比ではない程の大爆発が起きる。あまりの爆発ぶりに、その技の使用者でさえただでは済まないであろう。

「ラティオ、大丈夫?」

「あぁ、デュアリス姉。だがさすが兄貴だ、まだ止められないぜ」

 爆煙の中から、少年は姿を現す。今の爆発により、少年が着ていた黒衣は完全に燃え尽き、代わりにラティオやデュアリスのような赤い法衣が外に出てくる。何よりも今まで鞘の中に収まっていた、刀身が現れている。刀身にも鞘と同じく、特殊な模様が刻まれている。

「チッ、兄貴が剣を抜いた。マジィな……」

「ヴェルデフレイン……兄様……」

 少年の持つ剣――ヴェルデフレインは刀身が赤く、まるで炎を纏った剣のように見える。そしてその刀身が抜かれた瞬間から、漆黒の少年の眼が、深紅の光を帯びている。

「ヴェルデフレインを抜いてしまった。……こうなってはある程度の力を放出しなければ、力は収まらない、死ぬなよ……ラティオ、デュアリス!」

 少年は自分の左手を、右から左に振り払う。すると少年の目の前の空間に炎が発せられる。その炎により、漆黒の夜空は、深紅の夜空へと変わる。

「グワッ!?」

「キャア!」

 炎の波を咄嗟に防御するラティオとデュアリス。その炎は二人にとっては目隠しにもなり、少年の姿を一瞬で見失ってしまう。

「ラ、ラティオ、気を付けて、あの状態の兄さんは、力が暴走してるわ。私達相手にも攻撃を仕掛けてくるわよ!」

「わかってるぜ、デュアリス姉! ……兄貴!?」

 炎のブラインドの向こうから、一瞬で間を詰める少年は、ラティオを標的として捉える。鋭い斬撃を、ラティオに向けて放つ。その斬撃をメタルナックルで防御するが、大きく後方へ弾き飛ばされてしまうラティオ。吹き飛ぶラティオに容赦なく、左掌から火球を飛ばす。

「ウ、ウワアアァァァァ!」

「ラティオ!」

 火球はラティオに直撃する。炎が爆発し、その爆煙でラティオの姿が見えなくなる。

「キャアッ!?」

 間髪入れずにデュアリスに蹴りを放つ。その蹴りを槍で受け止めるものの、蹴りの攻撃力が凄まじく、その衝撃で、ラティオと同じくデュアリスも飛ばされる。

「……うぅ、兄さん……?」

 少年はデュアリスに、左手を向けそこに力を集約させ、赤い球体を作り出す。

「消えろ、デュアリス! 今からでも撤退するならば、攻撃はしないでおいてやる!」

「兄様……!」

 更に力を集約させ、球体を大きくさせる。間違いなく当たれば、大きなダメージ、あるいは死に至る威力を持っているだろう。

「――デュアリス姉……」

 ダメージの残る体を押して、デュアリスに合流するラティオ。その二人もろとも、滅ぼしてしまわんばかりの気迫で、球体を更に大きくしていく。

「終わりだ……ラティオ、デュアリス!」

 そして集約させた球体を、無情にもラティオとデュアリスに放つ。二人は逃げられないと悟ってか、死を覚悟し、何もしないままに身を強張らせる。しかしその炎の球体は、二人に当たる直前に真っ二つに割れる。二人から逸れるように、割れた球体が地上へと落ちていく。その炎の球体が地上に激突したのだろう、着弾したと思われる場所から巨大な火柱が、雲を突き抜けて姿を現す。



「――さすがだな、ティーダ。僕達の中で最強の戦闘能力を備えているだけはある」

「……ジューク」

 目の前で火球を斬った男が、深緑の法衣を纏い現れる。その法衣と同じく、深緑の刀身の剣を持つ。その見た目から、恐らくは四人の中では最も歳は上であろう。冷静でいて無表情な顔つきで、ティーダと呼ばれた少年を見つめる。

「ジューク兄さん!」

「ジューク兄貴、何をしに来たんだ! 俺達に任せておいて大丈夫だって言っただろ!?」

 安心した表情を見せるデュアリスに対し、ラティオはどこか気にくわないといった表情で、ジュークと呼ばれる男を見る。そんなラティオの怒気を浴びせられながらも、全く動じずに表情を崩す事がないジューク。

「……フッ。その割に随分とボロボロにされたものだな、ラティオ?」

「う、うるせぇよ! これから本気になるところだったんだ!」

「仮にラティオが本気になってもティーダには勝てない。……あいつは僕達の中でも特に戦闘能力において高く創られたアルティロイドだ」

 ジュークの説得に応じたのか、納得するようにおとなしくなってしまうラティオ。

「デュアリス、まだ動けるな? ラティオを連れて先に戻るんだ」

「ジューク兄貴、俺はまだやれるぜ!?」

「ラティオ! ……でも兄さんはどうするのですか?」

「……フッ。知れた事、僕がティーダを連れ帰る。だから先に戻れ。ラティオもデュアリスも、雲の向こう側をまだ見てはいけない」

 デュアリスはともかく、ラティオは渋々納得する。デュアリスの手を借りながらも、城国へ帰還の軌道を取る。

 二人がある程度離れるのを確認したジュークは、改めてティーダと向き合う。ティーダを見るジュークの瞳は、何を考えているのか全く読めないものがある。

「ジューク……俺はお前の説得にも応じる気はない。俺は世界が見たい」

「それは構わない。僕はラティオとデュアリスと違い、ティーダを個人的には止めるつもりはない」

「……!? では何の為に、お前自らが来た?」

「個人的には止めるつもりはない……が、王が命令している。僕達アルティロイドにとって、王の命令は絶対なのだ。僕は王の為に、ティーダを連れ帰る」

 ジュークが深緑の剣を構える。風をイメージされた紋章が刻まれている。まるでティーダの剣――ヴェルデフレインと対を成しているかのような剣である。

「……しかし個人的な感情もあるさ。久々にティーダと全力の戦いをしてみたい」

「…………。俺は手加減をするつもりはない」

「……フッ。それで構わない。……雲を突破するまで残り千メートルといったところか。その雲までだ、そこまでに僕が勝てばおとなしくティーダは城へ戻るんだ。もしも僕が負けたら地上へ降りると良い」

「お前はそれで良いのか?」

「あぁ、良いのさ。何よりも深緑の剣――フルーティアが戦いに飢えている……さぁ、無駄話はここまでだ。行くよ、ティーダ」

「……来い!」

 誰も知り得ない雲の上。暗黒の天空。ティーダとジュークの戦いは静かにその幕を開ける。

 先に攻撃を仕掛けたのはジューク。ラティオとは比べものにならない速度で、あっという間にティーダとの間を詰める。逆袈裟の斬撃を、深紅の刀身ヴェルデフレインで受け止める。

「さすが風の術者であるジュークだ。風を使い攻めてくるか」

「風はいつでも僕の味方だ。僕は生まれた時から風と友達だ。……そしてこれからも……行くよ、フルーティア!」

「……っ!?」

 まるで突風に飛ばされるかのように、ティーダは吹き飛ばされる。追撃を防ぐ為に、火の球をジュークに向け放つ。

「無駄だよ、ティーダ」

 放たれた火球は、まるでジュークに当たる事を、意志を持って避けたかのような動きで逸れる。

「風は僕を裏切らない。その程度の攻撃は、僕の纏う風の障壁(ウィンドウォール)が全てを流してしまうよ」

「――ならば、その風の障壁もろとも、叩き斬るまでだ!」

 今度はティーダから接近戦を仕掛け、深紅の刀剣をジュークに向け斬りつける。その斬撃は風の障壁を斬り伏せ、ジュークに向かうが、深緑の刀剣を以てその斬撃を受け止める。二つの刀剣からは刀身がぶつかり合う度に、火花が散りあう。

「さすがだティーダ。その強さ……本物だ」

「……。もう雲の突破が近い、お前も戻れ!」

「フフフ……わかっているよ。しかしティーダ、世界を見て何をするつもりなんだ?」

「なんだと?」

「君は下界……いや地上に、この世界で生きる生命体にとっての理想郷(シャングリラ)があるとでも思っているのか?」

「…………俺は理想郷(そんなもの)に興味はない。昔の人々の望みなんてものにも興味はない。……だが、もしもあるのか、無いのかわからないものならば、創れば良い」

「フッフッフ! それでこそ、ティーダだ」

 ジュークは一足先に、深緑の刀剣――フルーティアを鞘に収める。ティーダも同じくして深紅の刀剣――ヴェルデフレインを鞘に収める。刀身を鞘に収めるとティーダの深紅の眼は、元の漆黒の眼に戻っていく。

「……このまま行けば、地上に激突するだろうな……ティーダが決めた事、僕は助けはしないぞ?」

「構わん。落下の衝撃で死ぬようなヤワな体はしていないつもりだ」

「……フッ。そうか……ラティオとデュアリスは僕に任せておけば良い。お前は世界を見てこい。何を見て、何を感じ、どう動くかは、地上では自分自身が決める事だ。……そして、次に会う時は、地上で会う時は、僕達兄弟は、殺し合う運命だ。……下界は夜明けだ、一日という新世界が始まる」

「さっさと行け、鬱陶しい!」

「……フッ。また会おう、ティーダ」

 それを別れの言葉にし、ジュークは雲の上の天空へと飛びさっていく。ただ落下していくだけのティーダは、そんなジュークの後ろ姿が消えるまで見ているだけである。

「――ウッ。……あれが、太陽か」

 雲を突破した先には、自然界の王である太陽が、その眩しいばかりの光を、ただひたすら照りつけていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ