13,サンバナ攻防戦終結
~レジスタンス連合~
名前 ティーダ
種族 アルティロイド
性別 男
年齢 16
階級 火の騎士
戦闘 3000
装備
E深紅の剣ヴェルデフレイン
E火の戦闘法衣(赤)
E火の聖獣エンドラ
~城国軍~
名前 ラティオ
種族 アルティロイド
性別 男
年齢 13
階級 爆炎の騎士
戦闘 2800
装備
E陽黄の鉄拳ダイナアクス
E爆炎の戦闘法衣(黄)
E爆炎の幻獣ヴァルサス
「――オラオラオラァ!」
周りにお構い無しに、ラティオは黄色い光弾を放つ。その光弾は着弾すると爆発する性質があるようだ。その性質から、天空攻防戦にてラティオが使用した技と同じか、あるいは近しい性能を持った技だと推察できる。
ティーダとラティオによる、アルティロイド同士の戦闘。ティーダは他の兵士の事を考え動いているのに対し、ラティオは敵味方関係なく、その爆発する光弾を投げつけている。いや敵味方の判別というよりも、その目にはティーダしか映っていない。
「ラティオ……! それ程の力を、何も考えずに使用するなっ!」
「何を言ってるんだ兄貴、地上に降りてから考えが甘くなっちまったんじゃないのか!? ただ己の力を開放し地上の人間を、完全に大地から消し去るのが俺達の使命だろう!」
ティーダの言葉は、火に油を注いでいるようなものであり、ラティオはティーダの言葉に強く反発し、その能力開放をより顕著にする。
(……俺が戦わない事に、ラティオは怒っている。そしてその怒りを、八つ当たりにして発散する事によって晴らしているな。……やはり、戦うしかないか)
「――ラティオ!」
今まで防戦一方で、攻撃をする事が無かったティーダは、ようやく一撃目の攻撃を繰り出した。ヴェルデフレインを持つ右手とは反対の、左手から火の聖獣エンドラの力を借りて、火球を放つ。
「ようやく兄貴にも火がついたかっ! 兄貴、最高の戦いにしようぜぇ!」
ラティオも同じく、右手から黄色い光弾を繰り出す。二つの弾は、二人の中心でぶつかり合い、激しい爆発と火の粉が辺り一帯に降り注ぐ。この際に発生した熱風でさえ、生身の人間にとっては、致命傷になりかねない程の高温である。
「う、うわぁぁぁぁ!」
「邪魔だ、どかないと貴様達もぶち殺すぞぉ!」
ラティオは自分の進行に邪魔だと判断した兵士を、傍若無人に薙ぎ払っていく。その勢いのまま、ラティオはティーダに向かい、再び高速の拳の雨を浴びせてくる。衰える事のないラティオの拳は、やはり非常にコンパクトかつスピーディであり、ティーダでさえも長くは避けきれない。
「――ハァッ!」
避けていくのは、これ以上は無理だと判断し、ティーダもいよいよヴェルデフレインを振るう。油断していたわけではないが、この鋭い剣撃をラティオは咄嗟に避けられず、ダイナアクスを用いヴェルデフレインの一撃を、固く強固な防御で受け止める。
「何だかんだ言いつつ、その殺す事に躊躇いが無い攻撃。やっぱり俺が尊敬する兄貴だぜ!」
説得しても、戦っても、ラティオにとってはどちらも火に油らしく、ティーダの鋭い一撃は、ラティオの闘志に火を点けた。大きく後方へ吹き飛んだラティオは、大地を蹴り飛ばし、吹き飛ばされた距離と同じ、いやそれ以上の飛距離で飛んでくる。その蹴り足の速度は、既に生身の人間の目に追いつく速度ではない。
「……す、凄ぇ、あれがシークレットウェポン『アルティロイド』の能力だってのか……」
「この戦い見てるとさ……、俺、むしろ怖くなってくるよ……」
そこにいたのは、城国軍の偵察兵である。ラティオのアルティロイドとしての性能を確認する為に、現地に送り込まれた兵士である。しかし味方であるはずのラティオを見て、兵士二人は何故か、背中に悪寒が走り、死を覚悟させられる。ティーダとラティオの戦いが、いやアルティロイドの戦いがそう感じさせたのだ。
「爆っ発っ!!」
ラティオは右手と左手をティーダに向け、通常の光弾よりも圧倒的に大きいものを放ってくる。地面に着弾したその光弾は、地面そのものをえぐり取ってしまうのではないかとも思える程の威力であり、その衝撃の余波だけでもティーダに僅かながらのダメージを与える。
「くぅ……、ラティオ!」
火のオーラを体に纏い、その衝撃に耐えようとするが、ラティオの技の衝撃は、展開した防御網さえも突破してくる。その隙をラティオは見逃さず、一気に攻勢に出て行く。
「兄貴、俺は勝つぜ!」
一気に懐に入り込み、その自慢の高速拳を連打するラティオ。ティーダもヴェルデフレインで、できる限りの迎撃を試みるが、その適正距離から攻撃の回転率は、どうやってもラティオが有利。いよいよ迎撃行動が追いつかなくなり、ラティオの拳はティーダの左頬を、力の限り殴りつけた。
「ぐっ……!?」
「まだだ、まだだまだだまだだぁ!」
その一撃から活路を見出したラティオは、そのまま左拳による返しの一撃、腹部などに容赦のない連打をティーダに浴びせていく。そして両拳を組んだ状態で、そのままティーダに振り下ろす。為す術なく攻撃を喰らい続けたティーダは、そのまま地面に激しく激突する。
(……くそっ、まさかラティオにこれ程まで苦戦するとは)
ラティオの攻撃は、ティーダにダメージを与えた。その攻撃力はやはり侮れないものがあり、ティーダはすぐには動けない程のダメージを負ってしまう。
「どうした兄貴? 兄貴は俺達アルティロイドの中でも最強だ。この程度でくたばるはずは無いよな?」
「…………当たり前だ」
「立ってこいよ、兄貴。兄貴はまだ本気じゃねぇ、そんな兄貴と戦って勝っても、俺は全く嬉しくねぇんだ!」
「……ったく、この戦闘馬鹿が。人をこれだけ殴っておいて言う事か」
ティーダは剣を支えにして、何とか起きあがってみせる。しかしラティオとの戦いの優位性は明確である。確かにラティオの言う通り、ティーダはどこか本気になりきれてはいない。だがそれを差し引いてもラティオは強い。それは戦っているティーダ本人が一番わかった事である。
「……ラティオ」
「何だよ、兄貴?」
「お前は、王の命に従ってどうするつもりなんだ? 今は良いかもしれない、だが王の目的が達成し終わった後、お前はどうするんだ?」
「……そんな先の事はわかんねぇよ。俺達は王の命に従うように造られて、それ以上は何も求められていないんだ。その時になったら、王からまた命令が出るだろうさ。そしてそうなったら俺達アルティロイドは従い、王の命を遂行するのみだ」
「……そうか」
ティーダはゆっくりと立ち上がり、ヴェルデフレインを構える。今までの構えと違い、その雰囲気は攻撃的である。
「俺は、俺はな、地上に降りて俺なりに見てきたものがある。地上の人間は、王が言う程に腐ってはいない。……俺は地上に降りて良かったと思っている」
「だから何なんだよ、兄貴?」
「王の命令もクソも無い。俺は俺の感じるままに戦う。そして俺が感じられたものは、倒すべきは城国軍という事だ!」
体に残るダメージを気迫でかき消し、一気に間合いを詰めるティーダ。今までの動きは様子見だと言わんばかりの速度で、ラティオを斬り伏せにかかる。
「ぐおっ……!?」
ダイナアクスでティーダの剣撃を防ぐが、やはりティーダの攻撃力も高く、ラティオは再び大きく後方へと飛ばされてしまう。バランスを取り、姿勢を直してから反撃に転じようとするラティオ。
「だが、一撃でこのラティオは倒せな――」
ラティオが反撃に出る速度よりも速く、ティーダは一気に二撃目の攻撃を繰り出す。速度、いや動きそのもののキレが、明らかに増している。そして何よりもその斬撃には、目の前の敵は斬る、という姿勢が現れている。
「クソッ、兄貴、手加減していやがったな!?」
「俺はできる限りなら、お前達とは戦いたくはないというだけだ。それに対しての多少の迷いもあったさ、だが俺はこの地上を破壊する、城国軍の全ての敵と戦う決心をしただけだ!」
「地上を破壊しているのは、地上の連中だろうが!」
「お前の目で確かめてみろラティオ! 王ではない、ラティオとしての目でそれを確かめてみろ!」
ティーダの攻撃は更に荒々しく鋭さを増してくる。今度はラティオが防戦一方になる。攻めるきっかけが、まるで見つからないのだ。
「……く、そ、がぁ!」
この状況を打開したいラティオは、考え無しに起死回生の一撃を放つ。
「攻撃する時は、相手をよく見ろラティオ。考え無しの破れかぶれの一撃で勝てる程、戦いは簡単なものではない」
ラティオの一撃を、さも当然のように回避したティーダは、その鋭い斬撃をラティオの胸板に向かって走らせる。完全に懐が空いていたラティオは、この剣線を呆気なくくらってしまう。ラティオの鮮血が飛ぶ。
「ぐ、あああああぁぁぁぁぁ――!」
焼けるような痛みが、ラティオの胸部に襲いかかる。ヴェルデフレインの切れ味を以て、ラティオの強化皮膚を紙くずのように裂く。ラティオはただ悶絶し、その場に倒れ込む。
「深く斬った、もう十分だろう。一度城へ帰り、傷を回復させ、そしてお前自身の正義を模索してみろ」
「ぐぅっぅぅぅうう……!」
焼けるような痛みの次に、斬られた鋭い痛みが走っているのだろう。その綺麗に切り裂かれた傷口からは、いまだに大量の血液が流れ出ている。
「お前は強い。だからこそ、その力を命じられるままに使うべきではないんだ」
これ以上は戦う必要は無いと判断し、ティーダはラティオに背を向け、その言葉を言い放つ。ラティオを止めた事により、しばらくはサンバナの町への、城国軍の攻撃は収まるはずだ。
「……王の、命に従う事が、俺達アルティロイドの、いやっ、俺の正義だ!」
「ラティオ!?」
「初弾装填。行くぜ兄貴、この戦いは俺が勝つっ! 一撃目の衝撃!」
ラティオの右手に黄色い火花状の閃光が纏われている。天空攻防戦の時にも見せたファーストインパルス。通常の技よりも長いタメが必要なその技を、痛みに耐えながらエネルギーを集約させていた。火花状に具現化される程の強い爆炎のエネルギーを、一直線にティーダに向け殴り放つ。
ティーダも予期していなかったファーストインパルス。攻撃なのか防御なのかもわからない動きで、ティーダもヴェルデフレインを振るう。エネルギーを纏ったラティオの右拳に、剣は当たるものの、名前の通りのその衝撃により、ヴェルデフレインは弾かれる。
「――くっ!?」
「貫けぇぇぇぇぇ!!」
ラティオの拳はティーダへ。しかしここでラティオにとっても、ティーダにとっても予想しえなかった事態が起きる。ラティオの右拳に弾かれたヴェルデフレインは、そのままラティオの左目を切り裂いた。
――ファーストインパルスの攻撃により、今までの戦いによる被害が、霞んでしまう程の大爆発を引き起こす。天空攻防戦時と違い、地上に足を踏ん張っての完全な一撃。その時とは比較にならない爆発の衝撃がティーダを襲った。
――その地帯には、しばらくの間、黒煙が晴れる事がなかった。その煙だけではなく、焼け付いた大地がまるで炭のようになっており、かつて森林地帯と呼ばれていた場所は、その名とはうって変わった、黒の大地へと変貌していた。
「……お、俺の、目がっ! うっ、ゲホッ!」
ファーストインパルスは諸刃の剣。その術者にさえダメージを与える攻撃力を持っている。ラティオの体はほとんど死に体だった。胸部を斬りつけられた傷跡は、お世辞にも大丈夫とは言えず、己自身で放ったファーストインパルスの衝撃により、体全体に大きなダメージを抱える。何よりも戦士としては最も重要な、片目を失う。とてもではないが、ラティオには戦える程の体力は残っていない。
「無様だな、ラティオ……!」
自分の有様を見て、ラティオは自分で自分を戒める。決してティーダを甘く見ていたわけではない。アルティロイドとしてでもなく、王の命令でもなく、ただ一人の男としてティーダに良いようにやられたのが、ラティオにはどうしようもない程に悔しかったのだ。
「…………決めたよ、兄貴。馬鹿な頭を働かせて、馬鹿なりの答えを出した。アルティロイドとしてではなく、王の命でもなく、俺は俺で兄貴をこの手で倒す為に戦ってやる!」
突発的かもしれないが、ラティオは決意する。男としての真剣勝負に負けたのが、ラティオの人生観を狂わす程に影響を与えていた。
「死ぬなよ兄貴、アンタを倒すのは……、この俺、爆炎の騎士ラティオだ!」
ラティオは城国軍に撤退の信号光を放つと、そのまま城国には戻らずに消えていく。ラティオを見た者は誰一人としていなかった。
サンバナの町の南側でも、同様に命懸けで戦う兵士達の姿があった。ティーダ達が戦っていた東側程ではないが、それでも敵味方問わず死体、あるいは重傷者が転がっており、人間ができる事だからこそ、その光景はどこか生々しいものがある。
ソリディア、バース、タムサン達も自分にできる全力の戦いをし、何とかここまで生き残っている。仲間は誰が生きているのか、あるいは死んでしまったのか、それさえもわからない状況だった。しかし直後、黄色い閃光弾が黒煙が支配する空で光る。それと共に城国軍の兵士は、驚愕しながらも少しずつ撤退していく。
「……終わった、のか?」
「いやまだわからんぜ。ソリディア、油断するなよ」
「うむ。しかし先ほどの大きな地響きと爆音は一体……。ティーダは無事なのか!?」
城国軍の撤退により、倒れている兵士を回収しようと後方より衛生兵がやってくる。それを見て、どうやらサンバナの町における攻防戦は、集結を迎えた事を確認する。
「タムサン、ティーダのいる東側へ向かうぞ。先ほどの爆発、ティーダに何もなければ良いのだが……」
「行きましょう、兵士長!」
「バース、後を任せても構わないか?」
「あぁ、行ってこい行ってこい。俺もあのティーダって野郎は気に入ってるからな」
南側における戦場跡をバースに任せ、ソリディアとタムサンは、ティーダのいる東側を目指す。いまだ黒煙が晴れぬ東側からは、熱いと感じさせられる熱気が、ソリディア達に襲いかかる。呼吸をする事さえも困難に感じさせるその場所は、まさしく地獄を超えた地獄と化していた。