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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
サンバナの町~爆炎の暴れ馬~
12/97

11,開戦

まさかの野宿の夜を過ごし、翌日の朝。森林地帯とあってか虫が多く、若い兵士達の大半は、血を吸われて痒い思いをする事になった。これもタムサンのせいだ、と冗談めいて兵士達は言うものの、責任感が強かったタムサンは、真に受けてしまい励ます事に、朝から時間を使ってしまう。

 その後、ソリディア兵士長の言葉で締めくくられ、タムサンも元気を取り戻す。決戦は近いが、早めにサンバナの町に到着した事もあり、しばらくは自由時間が設けられ、兵士達は初めて訪れる「町」というものを堪能する。再集合時は、宿泊している宿屋である。

「さて……、私は戦場となる地形でも視察してくるか」

「さすがだな。だがアンタも少しは、遊ばないと気が滅入ってしまうんじゃないのか?」

「当然、全ての事が終わったら私も遊ぶよ。ティーダにはわからんかもしれんが、大人の時間、というものが世の中にはあるのだよ」

 普段の真面目な顔つきが、一瞬ながら締まりのない顔が出たようにも見える。

「……そういうものなのか?」

「そういうもんだよ。ティーダもどこかに行くのなら、今の内に用件を済ませておけよ」

 ソリディアの言葉に、軽い返事で返す。そのままソリディアは、戦地を確認する為にどこかに歩いていく。今更ながら気づいた事だが、こんな町でさえもソリディアの存在感が伺える。どこか気品のあるその姿は、どこかの皇族だったのではないかとも連想させる。

(まぁ仮にそうだったとしても、今のソリディアとは何の関係もない。無論、俺とも……)

 ティーダはソリディアの言う通り、サンバナの町にある用件を片づけに行こうとする。その用件というのは、唯一心残りになっていた「ワセシアの花」の存在である。前回この町を訪れた時は、手持ちの金額が不足していて購入に至らなかったのである。

(確かあの時の道具屋は、この辺りにあったはずだが……。どうも町というのは、無駄に大きくて好きになれないな)

 朧気(おぼろげ)な記憶を頼りに、ひたすら歩き回っていると、目的の道具屋が見えてくる。相変わらず女主人が威勢良く商売をしている。周辺の店の中では、一番の活気があるのではないだろうか。

 遠目にワセシアの花の値段を確認する。しかし金額は変わらず、相変わらずの1200マーネである。しばらく見ていると、女主人がこちらに気づき大声でティーダを呼ぶ。

「旅人さん、また来てくれたのかい! そんな所で突っ立ってないで、こっちへおいでよっ!」

 あまりの大声で呼ばれた人はどの人だろう、と興味本位の視線が、ティーダに直撃する。その痛い視線が耐えられずに、仕方がなくティーダは女主人に近づいていく。

「アタシはパーチャ。アンタは?」

「……ティーダだ」

「そうかいティーダ。人が二回も会えば何かの縁ってね。相変わらずワセシアの花かい?」

「っ……!」

 ティーダは、この女主人パーチャが苦手である。どこが苦手なのかは本人もわからない。

「ティーダは良い人そうだから、この花を売っても良いんだけどねぇ……。でもアタシも商売だからね」

「それはそうだ。それに俺はどうしてもほしいとは――」

「しかし花がほしいなんて野郎の趣味じゃないでしょ? もしかしてコレかい?」

 ティーダが喋る暇もないぐらいの早さで、パーチャの会話が進んでいく。おまけにパーチャは自分の小指を立ててティーダに向けた後、例えようのない嫌な笑いを浮かべている。会話速度は商売柄としても、この笑いはいただけない、ティーダの率直な感想だ。

「……俺にそんなものはいないっ!」

 立てられた小指に、軽い苛立ちを感じて、ティーダは小指を叩くように視界から消す。

「ならアンタの趣味か。……かっこいい顔してお花とは、(おとこ)の時代も流れたねぇ……」

「……もう知らん」

 勝手に遠い目になっているパーチャに挨拶もせず、ティーダは道具屋から離れていく。何よりもあのペースに巻き込まれている自分が、酷く嫌になってくる。

(そうだティーダ。パーチャの言う通り、あの花をどうしたいっていうんだ? アイツとは別に何も無いはずだぞ)

 心の中の不思議な葛藤と戦いながら、ティーダは宛ても無く、サンバナの町を歩き続ける。


 その頃、ソリディアは一人戦地を見ていた。今見ている所も、かつては森林地帯と呼ばれていた場所であるが、その面影は全く無いといっても過言ではない。まるでカザンタ山岳地帯の白の戦荒野のように、木も草もなく、植物や動物、あらゆる生命がそこには存在していないのではないかとも、考えさせられてしまう。何よりもその光景で奇怪な点がある。それはただ荒野になっているだけではなく、まるで何かが爆発したような後が、多々見られるという事だ。

「これは……、一体人間が何をしたら、大地がこんなに歪んでしまうというのだ……?」

 ソリディアはその光景を見て、ただ絶句する。

「――問題点はそこだ、ソリディアよ」

「……その声、バースか?」

「あぁ久々だな、ソリディア。確か十年ぶりぐらいだな」

 ソリディアのすぐ後ろに、剛力丸のバースは立つ。二人は若い頃に、共に大きな戦争を戦った、いわば戦友である。大戦を生き延びた後、ソリディアはパーシオンを、バースはコロセオンを作り、今も終わる事のない、城国軍との戦いを続けている。

「……十年、か。私達も歳をとったものだな……」

「そりゃそうだ。鬼神のソリディアも、軍神のバースも、歳には勝てねぇやな……」

 バースとの会話を、悲壮感溢れる表情で聞く。今までの戦いの全てが、疲れとなって押し寄せているようにも見える。

「こんな大地の姿を見る度に思う。私達は一体何をやっているのだろう、と」

「実際の所、城国軍の支配戦争は、俺達が生まれる前から続いていたが、俺達は二十年前の戦争で、かけがえのない大地の生命を奪っていったな……。いや俺達だけじゃない、先人達も、そしてこれからの若者も、この長い人間の戦いの連鎖を断ち切らない限りはな」

「……私は今度こそ、終わりにしたいと思うよ。この美しい自然溢れる大地は、人間が壊して良いものではないのだ」

 ソリディアとバースは、ただ黙ってかつて森林地帯だった場所を見つめる。

「しかしバース。お前は大地をここまで歪める事ができる武器を知っているか?」

 バースは少し考えた後、静かに口を開く。

「……いや、俺のベースキャンプの近くで、タイホウという兵器が見つかった事があってな。そいつの威力と、この荒野の状態を計算してみたが、全くといって威力の計算が合わねぇ!」

「計算が合わない? ……と、いうのは?」

「つまり森林地帯を無茶苦茶にした武器の方が、タイホウよりも圧倒的に火力で勝ってるって事だ。タイホウの数が五十、いやもっと必要か。……とりあえずそんぐらいの数で、次々にぶっ放さないとこんな状態にはならないんじゃないか」

 見た目通りの大ざっぱな計算だが、長居付き合いのソリディアは、一応その言葉の意味を理解する。簡単な話、城国軍が持つ武器は、バースの持つタイホウという武器よりも、圧倒的な火力を持つ武器を所持している。

(――だが一体どんな武器だ。これ程の荒れ果てようは、大戦の終結に匹敵する)

 そこまで考えて、ある答えがソリディアの頭の中に、蘇ってくる。


 ――最近になって人智を超えた兵士が現れた。


 この話は直接、被害を受けているサンバナ町長から聞いた話である。

 そして、ここにきてソリディアは、もう一つの話を思い出していた。それはティーダから聞いたアルティロイドの存在である。

(――王が現在の科学力を使い誕生させた、違法な生命体だ。体のほとんどに強化骨格に強化筋肉を用いている上に、生き物としての核の部分に、幻の聖獣の核を融合して作られた命だ)

 サンバナの町に来る前に、ティーダ本人から聞かされた一つの事実である。

(人智を超えた兵士、アルティロイド。私がティーダに会った時期、そしてサンバナの町が襲われた時期、ある程度の辻褄は合う。……しかし、しかしこの有様が、アルティロイドの力だと言うのか!?)

 ソリディアは再び、その荒れ果てた大地を凝視し、顔を青ざめさせる。

「おい、どうしたソリディア? 一人で真っ青な顔しやがって。いくら歳をとったといっても、戦いの前でびびるんじゃないぞ」

「……い、いや、大丈夫だ」

 恐らくは、第三者が見ても、ソリディアの表情は大丈夫に見えないだろう。事実、ソリディアの脈は、信じられない早さで、鼓動を刻んでいる。気づかない間に、額からも汗が流れている。

「そういや、サンバナの町で先の楽しみなガキを見つけてよ。長くて黒い髪に、見た事もない赤い服を着てたな。おまけに特殊な紋章の刻まれた剣を持った奴なんだ。……ったく、どこのグループがあいつを所持してるんだろうな、俺が直々にしごいてやりたいぐらいだぜ!」

(……ティーダ、か。この光景を見る前には偉そうに、信頼している、なんて言ってはいたが……、君の見る目が変わってしまいそうだよ、仮にこれがアルティロイドの仕業だというのなら、同じアルティロイドのティーダも、その気になればできてしまうという事だからな……)

「――じゃあ、俺はもうちょっと町を堪能してくるぜ。この戦いで仮にも死んだら、浮かばれねぇや!」

 バースは大きな手で、軽くソリディアの肩を叩き挨拶すると、サンバナの町へと戻っていく。

「仮にも死んだら、か。そうだな、この戦いが私の死に場所になるかもしれんな……」

 ソリディアは首から提げた、いくつかの飾りの内の一つを手に取る。それは兵士が持つには、気品があるペンダントである。そしてペンダントを開けると、中には小さな写真が入っている。写っているのは、若い頃のソリディアと、一人の女性である。

「……マルシャナ。この戦いで私も、お前の元へと行けるのかな?」

 いつの間にか、空は暗くなりつつある。その中の一つの小さな星が、ソリディアの問いに答えるかの如く、力強い光を放っていた。



 再びソリディアが、サンバナの町へ入った頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。次の戦いで町が攻め落とされ、死ぬかもしれないという気があるのだろうか。町の民も、レジスタンスも、悔いを残さないように、精一杯に生きている様が伺える。

 ティーダは、そんな中で一人たたずんでいるソリディアの姿を確認する。

「ソリディア、一体どこに行っていた? 全員がアンタの事を心配していたぞ」

「あ、あぁ、ティーダか。……いや何、旧友に出会ってな、少しばかり感慨に耽ってしまっていた」

 ソリディアが何をしていようと、気にしていないティーダは、特に問いつめる事もしなかった。ティーダが宿屋に戻ろうとすると、後ろからソリディアに話しかけられる。

「――敵は、君と同じアルティロイドの可能性がある。戦地を見てきて、私はそう予想した」

「……それで?」

「もう一つだけ聞きたい事がある。君達アルティロイドは、その強大な力で何をしたいのだ?」

「……別に何も、王が命令したからそれに従うまでだ」

 ティーダの淡々とした口調と、その内容に怒りを買ったのか、ソリディアは声を荒げる。

「王の命令で、誰かの命令があったから、それ程の力を振り回すというのかっ!?」

「そう怒るな。俺達アルティロイドは、そもそもそういう目的で王に造られたんだ。俺達だって、元々そんな力を望んでたわけではないんだ」

「……すまなかった、ティーダの気持ちも考えないで」

「別に気にしてないから、気にするな」

 その言葉に冷静さを取り戻したのか、ソリディアは静かに話し始める。

「だが、そう造られたのなら、何故ティーダは地上の味方をするのだ? 本来の目的ならば、私達の敵になるはずだったのではないか?」

「……現存するアルティロイドは四人。俺はその内の一人、俺の性質は四人の中で最強の戦闘能力を持っている事、代わりに四人の中で最低の精神力である事だ」

「精神力が弱いと、一体どうなるというのだ?」

「精神力とは、王からいうところの精神コントロールだ。俺はこの精神コントロールの値が、戦闘力を高めた代わりに大幅に低くなった。だから偶然的にも、王に反逆する道を選んだのかもな」

 ソリディアは、ティーダとの会話で貴重な情報を手に入れた。現存するアルティロイドは四人。内一体はティーダである事を考えると、敵になりえているアルティロイドは三体。そしてサンバナの町を襲っている兵士というのも、この三体中の一体と考えて良いだろう。

 だがティーダはもう一つの情報を教えなかった。それは最近になってティーダ自身も知った、命の騎士ティアナの存在である。もしもティアナが今も生存しているのなら、現存するアルティロイドは五人になる。だが当然の話だが、生存しているのかもわからない上に、敵か味方になるのかもわからない。あるいは、敵にも味方にもならず中立の立場でいる可能性もある。いずれにしても、今は余計な混乱を招くだけだと判断しての行動だった。

「……ティーダ。私は自分から君を信頼していると言った。だが、あの戦地を見てアルティロイドの力の凄さを知ったつもりだ。だからこそ聞きたい、私達はティーダを信頼して良いのか?」

「はい、とも言い難いが、俺は俺なりの正義をアンタ達から学んだつもりだ。それが今の質問の答えだ、都合が悪いか?」

 ティーダの問いに、ソリディアは微笑を浮かべて答えた。

「……いや、十分だ」

 ソリディアの返答に、ティーダは鼻で笑う事で返した。


 ――そして日が昇ろうとしている早朝。

 無数の爆音が、サンバナの町一帯を包み込んでいた。町から周りを見ると、まだ遠くの位置ながら、燃え盛るような赤い閃光が大地を走っている。雇われたレジスタンス達は、各々が武具を装備し、戦いに備えている。

 そう、開戦である。

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