10,剛力丸のバース
~サンバナ攻防戦主要メンバー~
名前 ティーダ
種族 アルティロイド
性別 男
年齢 16
階級 火の騎士
戦闘 3000
装備
E深紅の剣ヴェルデフレイン
Eティーダ専用戦闘防護服
E火の聖獣エンドラ
名前 ソリディア
種族 ヒューマン
性別 男
年齢 45
階級 パーシオン兵士長
戦闘 1000
装備
E鋼の剣
E戦闘用防護服
E鋼の肩当て
名前 タムサン
種族 ヒューマン
性別 男
年齢 21
階級 パーシオン兵士
戦闘 500
装備
E鋼の剣
E戦闘用防護服
「――それではな、後を頼んだぞ、ハリス副兵士長」
「お任せください。みんなの帰る場所は、必ずや守り抜いてみせます!」
昨日の会議の結果、サンバナの町への救援の為に、ソリディアとティーダ以下数名の兵士達は、まだ空も暗い内にサンバナの町を目指す事にする。兵士達は装備の点検をし、家族のいる者は、挨拶を済ませている。援護と言いつつも、立派な戦闘になる事に変わりはない。次にこの土地を無事に踏める保証は、どこにもないのだ。それ故に、今生の別れになる人間も事実上いる事になる。
「ティーダ、私は行けないけど……無事に帰ってきてね?」
「……とりあえず、了解したと言っておこう」
だがティーダには、生きて帰る確証がある。第一にアルティロイドは、人間の起こす戦争ではどうあっても殺されない。アルティロイドを殺すには、同等の力を備えたアルティロイドぐらいのものなのだ。
「では行くぞ、全員四方の確認をしつつ、気配を殺して進んでいくのだ!」
ソリディアを先頭に、レジスタンスグループ「パーシオン」の兵士達は、サンバナの町救援の為に、命を賭けた戦場へと歩いていく。
パーシオンから南に進んでいくと、まるで洞窟のように鬱蒼と茂る森林地帯に出る。朝方であり、少しずつながら光が漏れてきているが、サルバナ森林地帯に入り込むと、途端に真夜中のように暗くなる。
ティーダは、共に進む兵士達の顔を見てみるが、その表情はどこか思い詰めている。無理もないだろう。若い兵士達は、いまだに大規模戦闘を経験した事は無い。命を賭けて平和を勝ち取ろうという、覚悟はあったかもしれないが、いざその状況になってみると、やはり畏縮してしまうのが普通であろう。言葉には出さないが、ほとんどの兵が死の恐怖を感じている。
「ソリディア、他の兵士は大丈夫なのか? 全員が畏縮してしまっているようにも見えるぞ」
「うむ……。ティーダは大丈夫なようだな、さすがだ」
「アンタは怖くはないのか?」
「私は若い頃に、こいつらと同じように戦いを経験した。怖くないといえば嘘になるが、ある程度は大丈夫だと言えるさ」
その口ぶりから、ソリディアの心境は非常に落ち着いているように見える。さすがはベテラン兵士といったところだろうか。
「ティオが教えてくれた情報に頼ると、ここでサンバナの町まで半分といったところか……。兵士達も緊張からか疲れが見える。そろそろ休憩するとしよう」
まだ急ぐ時間でもないと判断し、ソリディアは休憩するように伝える。やはり死の恐怖という緊張が、兵士達に取り憑いていたのか、兵士達は疲労困憊の様子が伺える。普段からの訓練で、この程度の事で疲れるようなヤワな鍛え方はしていない。やはり死の恐怖は、生きた人間では鍛えようのないものなのだ。
「ティーダ、すまないが城国軍の兵士が来ていないか、周囲の警戒をしてもらっても良いか?」
「構わない。アンタも少し休んでおくべきだ」
「いや私は良い。それよりも警戒しつつ、私はティーダと少し話したい事があるのだが?」
ソリディアとティーダは、休んでいる兵士達の安全を確認できるぐらいの距離を保ち、且つ話の内容が聞かれない場所へ移動する。
「それで、一体何が聞きたいんだ?」
「……単刀直入に聞きたい。君は一体何者なんだい? こんな時にすまないと思うが、こんな時だからこそ聞いておきたいのだ」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
ティーダのこの問いに関する返事は、すぐには返ってこない。ティーダはソリディアの表情を伺うが、森林地帯の薄暗さで、はっきりとした表情は見る事はできない。
「……どうもしない。ただ君は普通の人間とはどこか違う。例えば今もそうだ、君はまだ十五、六歳といった歳だろう。どんなに冷静な性格だったとしても、死がつきまとう戦場へ行く事に、恐怖しない人間はいないはずなのだ。現に私も死の恐怖は拭い去れない」
「なるほどな、だが人間のアンタがこれから言う事を、理解し納得できるとは限らないぞ?」
「理解はしないといかんと思うが、納得する必要はない。私は君を信頼している」
ソリディアの言葉を聞き、ティーダはゆっくりと話し始める。
「……俺は、城国軍の兵士だ。今となっては元城国軍というべきかもしれないがな」
「やはりか……。その特殊な法衣と剣は、どう見ても地上の物ではないからな。いつしかティーダと剣を交えた時に感じた事だが、その剣は鉄とは違う材質が使われているのか?」
「あぁ、アルティロイドの使う武器は、全てオリハルコンという材質を使っている」
「……オリハルコン。かつて何かの本で読んだ事がある、神が人類に与えた最強の材質オリハルコン。神話のような代物だと思っていたから実在しているとは、まさか思っていなかった」
最強の高度をもつオリハルコン製の剣、それがティーダの持つヴェルデフレインである。地上に住む人間には、まずお目にかかれない武器に、ソリディアの目は輝いている。
「しかしオリハルコンは良い。だがアルティロイドとは何だ、そんな言葉は古い書物を見ても、一切聞いた事は無かったが……?」
「そうだろうな。ここ数年の間で、王が現在の科学力を使い誕生させた、違法な生命体だ。体のほとんどに強化骨格に強化筋肉を用いている上に、生き物としての核の部分に、幻の聖獣の核を融合して作られた命だ」
「せ、聖獣に、強化骨格!? そんなオカルトめいたものが、実在するというのか!?」
「信じられないかもしれないが事実だ。地上の人間は、自分達の頭の中の科学で納得できないと、何かと文句を付けたがる傾向にあるらしいな。この世界には、そんな既存の常識などで解明できないものが、そこら中にあるというのに」
「む、むぅ……、確かにそうかもしれんな。しかしこれでやっとわかったよ、ティーダから感じた異常なまでの強さの秘密がね。……今は何故ティーダが地上に味方しているのかは聞かない、だが今は仲間として信じて良いのだな?」
「それは構わない。今は城国との縁は切れた身でね、別に躍起になって地上を守りたいという気持ちは無いが、今は地上の住人だ。地上に生きる者として戦っては良いと思っている」
そのティーダの発言に、ソリディアは手を差し伸べる。ティーダもそれに対して手を伸ばし、二人はお互いの手を強く握る。
「理由や、元々どこにいたのか、種族の違いなど、今は関係ない事だ。今はアルティロイドとして生きているティーダも、人間として生きる私も、共に戦う同志であり仲間だ」
「ソリディア……」
握手した二人の手は、更に強い力で握っていた。
そのまま二人が、周囲の警戒を兼ねて休憩を取っていると、向こうで休んでいた兵士の一人がやってくる。準備は完了した為、いつでも出発できるという旨の内容であり、それを聞いたソリディア指導の下、パーシオンの兵士達は、再びサンバナの町へ向けて歩き出していく。この休憩時に、太陽も大分昇ったようで、その木漏れ日が木々の間から優しく降り注いでいる。
――そこから明るくなった事により、更に周囲を警戒しつつ、四十分ほど歩いていくと、いよいよサンバナの町が見えてくる。ティーダ達と同じく、サンバナの町を目指したレジスタンスグループが多数集結しつつあるようで、以前サンバナの町を訪れた時よりも、雰囲気は重々しくなっている。
「……こ、これは凄いな。パーシオンからこれ程あるいた場所に、こんな凄い町があったとは……。それにこれ程の兵士の数、まだ私達と同じく城国軍と戦うレジスタンスはこんなにもいたのだな」
ソリディア含めたパーシオンの兵士達は、全員がその集結した圧倒的な人員と軍力に、ただ圧巻のままに見据えているだけだった。
「見取れている場合ではないな。タムサン、私は町長に挨拶をしてくる。お前は全員分の宿を確保しておいてくれ」
「ハッ、了解しました、ソリディア兵士長殿!」
タムサンという兵士に、宿屋の確保を命じて、ソリディアは町長の元へと歩いていく。
「よ、よし、宿屋の確保だ、全員行くぞ!」
あまり指揮する事に慣れていないのだろうか。タムサンという兵士は、やや緊張しているのがわかる。他の兵士もそれがわかっている為か、タムサンを補助するように、迅速に行動していく。ティーダもタムサン任せにして、とりあえずついていく。
「イ、イテッ……!?」
「――このガキ、気をつけて歩きやがれ、馬鹿野郎!」
先頭の方が騒がしくなる。どうやらタムサンが、どこかの兵士とぶつかった挙げ句、大声で怒鳴られ文句を言われているようである。文句を言ってきている相手は、かなり大柄な男のようで、非常に威圧的な態度で怒鳴り散らしている。
「で、でも、当たってきたのは、そちらではないですか」
「何だとっ、ガキがぁ! テメェらはどこのレジスタンスだ、この仕事が片づいたら真っ先に、ぶっ飛ばしに行くぞ、コラッ!」
どうやら注意深く歩いていたタムサン達と、大柄な男がぶつかったらしいのだが、ぶつかってきたのは、完全に大柄な男らしい。男のかなりの喧嘩腰に、パーシオンの兵士達は、大分気圧されているようだ。
「で、でもですね……」
「でも、も、へちま、もあるかってんだっ! それ以上ゴチャゴチャぬかすんなら斬り殺すぞっ!」
大柄の男は、その体躯に見合った大きな剣を構える。周りにはサンバナの町で暮らす一般の人間もいるが、そんな事は関係ないと言わんばかりの大振りをする。その場にいた男女問わず、思わず悲鳴を上げてしまう。幸いな事は、その大振りな抜刀で怪我人が出なかった事である。
「――ふぅ。やれやれだな……」
それを黙って後ろで見ていたティーダだが、男も抜刀して穏やかではない為、タムサンと男のいる前に歩いていく。
「オラッ! 今なら土下座と持ってる武具を、置いていけば許してやるって言ってんだよ、馬鹿野郎!」
「ど、どど、土下座をしろというのなら、いくらでもします……。し、しかし武具は置いてはいけません。この武具は兵士長と僕達の結束の印です。どんな事をされても渡す事はできませんっ!」
「そうかいそうかい、ならここでお前と後ろの兵士もろとも切り伏せてやるっ!」
「……っ!」
臆病者だが、タムサンは必至に勇気を振り絞った。パーシオンの兵士として、ソリディアと培ってきた兵士の魂を明け渡す事の方が、もっと辛い事だと判断しての事である。
男は言葉通り、タムサンを切り伏せる為、その大剣を振り下ろす。しかし大剣はタムサンに当たる事はなかった。
「――それで良い。こんな野郎に武器を渡す必要は無いぜ?」
男の大剣は、男よりも圧倒的に小柄なティーダに止められている。どんな屈強な男が使う大剣でさえも、オリハルコンで作られたヴェルデフレインの前では、鉄屑も同然である。
「ティーダ、何で……!?」
ティーダはタムサンに、後方を見るように指差した。
「えっ……!?」
タムサンが後ろを向くと、そこにはパーシオンの兵士達が、タムサンを守る為に徹底抗戦しようと構えていた。
「み、みんな……?」
「兵士長は、今、タムサンに指揮を任せてる!」
「いわば、今のリーダーはタムサンだ!」
「タムサンが戦うのなら、俺達も戦うぞ!」
恐竜と蟻のような構図だが、兵士達の気合いは凄まじいものがある。その気合いだけで、大男を倒せそうな勢いさえ漂っている。
「雑兵共が、団結したところで、この俺に勝てるものかっ!」
「それはどうかな、ここにいる奴等は、みんな簡単にやられる程の命じゃない」
「何をっ……、うぅ……!?」
男は対峙したティーダから、圧倒的な何かを感じた。それはソリディアが対峙したティーダに、何かを感じ取ったように。
「こ、小僧……! 貴様、何者だ!」
「何者でもないさ。ただ神に愛されていない命を持つ程度のものさ」
「……チッ!」
男は今までティーダに止められていた大剣を、背中に担ぐように納める。それと共に、ティーダもヴェルデフレインを腰の位置にまで戻す。
「小僧、名は……?」
「……ティーダだ」
「ティーダ……。俺はレジスタンスグループ『コロセオン』のバースだ。この大きな相棒、剛力丸のバースと言えばちっとは知れた名よぉ」
その「剛力丸のバース」という名を聞き、周辺にいた人々はざわめき始める。その反応から、良くも悪くもそれなりの有名人であるようだ。
「雑兵共、命拾いしたな!」
バースはその捨て台詞だけを残し、その大柄な体で町中へと消えていく。
「す、凄いな、ティーダ! あの剛力丸のバースを戦いもせずに退けるなんてっ!」
「そんなに有名なのか、あいつは?」
「そりゃそうだ。剛力丸のバース――その巨体と、体躯に見合う大剣剛力丸を利して、一騎当千の強さで、城国軍の兵士を退けたっていう。その圧倒的な強さから、軍神なんて別名もあるって噂だぞ」
ティーダは、人は見かけによらない、という人間の言葉を思い出していた。
「しかし、あの剛力丸のバースまで来ているとは……、今回の戦いは予想以上のものかもな……」
兵士達は今まで脅されていた事も忘れ、バースの存在に心躍らせている。
(――だが確かに、あの男からは単純明快な強さを感じた。本当に単純な戦闘力でいえば、ソリディアの能力を圧倒的に超えているだろうな)
ティーダは冷静に、バースという人物を分析する。
「おぉ、全員いるか? 早く見つかって良かったぞ。さぁ、宿屋に行って休もうか!」
いつの間にか、ソリディアが戻ってくる。やる事を終わらせて、気分も軽くなったソリディアの表情は、非常に晴れやかである。
「……あぁっ、しまった、忘れてたぁっ!」
突然の大声を出すタムサンを、みんな揃って見ると、一人で青ざめている。そうソリディアに頼まれた宿屋探しは、全く進んでいなかったのである。
「何と、まだ見つけていなかったのか?」
「は、はいっ、申し訳ないです、兵士長……。その、色々とありまして」
「ふむ……。これだけ人が増えてくると、空いてる宿は無いかもしれんな。そうなると今日は野宿か」
パーシオンの兵士達は、全員が一致団結して宿屋を探す。これもパーシオンの団結力なのだ。
――しかし、楽しい野宿の時間が始まってしまった。