意地とプライドの結果
四日後──……
グィードに課された分厚い問題集は、睡眠時間を削りに削って何とか終わらせた。
何度か挫けようになったが、その度にほくそ笑みながら馬鹿にするグィードが脳裏に浮かび、意地とプライドでここまでやって来れた。
一生分の頭を使い果たした感で完全燃焼しかけたが、肝心なテストが終わっていない。
「おやまあ、酷い顔ですね」
「誰のせいでしょうね?」
窪んだ目を向けながら恨み言を言っても、グィードは素知らぬ顔。
「それでは、お手並み拝見と参りましょうか?」
そう言いながら用意してきたテスト用紙を目の前に置いてきた。
少しだけ……本当に少しだけ労いの言葉が掛けられるんじゃないかと、期待していた自分を殴りつけてやりたい。
「……ねぇ、合格点が取れなかったらペナルティって言ってたわよね?」
ジッと答案用紙を見つめながら呟いた。
「それだと私にメリットがないわ。ちゃんと公平に決めてちょうだい」
睨みつけながら言えば、面食らったような顔をされた。グィードにだけ都合のいい賭けなんて冗談じゃない。こちらにもそれなりの見返りが欲しい。
「ふふっ、貴女の言う通りですね。すみません、フェアじゃありませんでした」
あっさりと要求が通り、これにはロゼが驚いた。
「そうですねぇ」と首を捻りながら考えていたかと思えば、ポンッと手を叩いた。
「では、こうしましょう。もし貴女が合格点を取れたら一つだけ願いを聞きます。どうです?」
「いいですよ」
『もし』を強調する時点で、自分の勝ちを確信しているんだろう。本当に腹立たしい……
だが、こちらだって三日間死ぬ気で頑張ったんだ。負ける訳にはいかない。
そう意気込み、挑んだ。
***
「まあ、貴女にしては頑張った方ですね」
眼鏡を外しながら答案用紙を返された。返された用紙を見て手が震える。
結果は……不合格。僅かに一点足りなかった。
「な、な、なんでぇぇぇ!?あんなに頑張ったのにぃぃ!!」
クシャクシャの答案用紙を握りしめ、机に突っ伏すロゼをグィードは黙って見下ろしている。
正直、見返りとかどうだって良かった。この男にやれば出来るって所を見せつけてやりたかった。
生まれて初めて感じる悔しさと敗北感。
「うぅぅぅ~……」
突っ伏したまま唸り声をあげるロゼに、グィードは「やれやれ」と息を吐き、未だに上がることの無い頭に手を置いた。
「言ったでしょう?貴女にしては頑張った方だと。私の予想より遥かにいい点数でしたよ」
褒められているのか貶されているのか分からないが、慰めてくれているという事は分かった。
「まあ、次はもう少し頑張りましょうね」
「次!?」
思わず顔を上げて聞き返した。
「えぇ。まさか、今回限りとでも思いましたか?学ぶことはまだまだありますよ」
散らかる机の上を片しながら、粛々とした態度で言い返してくるグィードに愕然とする。
「ともあれ、今回は残念な結果となりましたので、約束通りペナルティを課しましょうか」
溢れんばかりの笑顔を向けられているはずなのに、その笑顔が怖い。何を考えているか分からないから余計に怖いと言うのもある。
「い、命だけは……」
顔を青ざめ、涙目になりながら命乞いをする。
「ふはっ、命なんて取りませんよ。もっとも、貴女の命にそれほど価値があるとも思えませんしね」
「ンな!!」
あまりの言い草に、溢れかけた涙も引っ込んだ。
「貴女には一ヶ月の間、妃教育の合間に私の仕事を手伝って頂きましょう」
「なんで!?」
「こう見えて私は多忙なんですよ。いくら馬鹿でも書類整理ぐらいは出来ますでしょう?」
「ばっ──」
馬鹿ってはっきり言った!そこはもう少しオブラートに包むべきじゃないの!?
ムゥと頬を膨らませて目を吊り上げていると「クスクス」と子気味いい声が聞こえた。
「期待してますよ」
グシャと優しく頭を撫でられ、一瞬息が止まった。
「ハッ」と我に返った時には、既にグィードの姿はなかった。
ドキドキと激しく脈打つ音が耳につく。不意打ちの優しさは心臓に悪い!
「なんだよ、もぉ~……」
熱くなる顔を誤魔化すように顔を伏せた。




