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指南役とお妃教育  作者: 甘寧


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妃教育1日目

 覚悟を決めた次の日。早速、その覚悟が揺らぐ事態に陥っている。


「………」

「………」


 冷ややかな視線を向けるグィードに、顔を引き攣らせながら視線を泳がしているロゼの前には、沢山の計算式が書かれている教本と、赤ペンまみれのノートが……


「一応聞きますが、学園での成績は?」

「ん?」

「あぁ、いいです。大体察しは付きました」


 頭を抱えながら聞かれたから、笑顔で誤魔化そうとしたが駄目だった。


「ロゼさん、貴女……私にあれだけの大口を吐いておいてこの有様ですか?」


 呆れ果てるグィードに弁解の余地もない。


「この問題は初等科レベルですよ?学園で何を学んで来たんですか……」


 肘をつき、頭を抱えながら盛大な溜息を吐かれた。


 何を学んだかと問われたら「勉学です」と即答で来たら良かったが、残念なことに授業のほとんどが私の頭では理解が追い付かず、気づけば昼寝の時間に成り代わっていた。それでも卒業できたのは学園の七不思議だと思ってる。


「このままでは妃どころか、令嬢としての立場も危ういですよ……まったく」

「申し訳ありません……」


 とりあえず謝っておくが、そもそもこんな事態を想定して学園を卒業したんじゃないし。こうなる未来が分かってたら、もう少し努力してたよ。……多分。


「なんです?不満そうな顔ですね」

「いいえ!とんでもない!」

「貴女に正攻法で教えるのは無理……無駄という事が分かりました」


 わざわざ言い返さなくても良くないか?


「この問題集を三日で覚えてください」

「は!?」

「この程度、二日で十分ですが、貴女の能力を鑑みて三日としましょう」


 ポンと置いた手の下には分厚い問題集が数冊……これを三日で!?


「四日後、テストを行います」

「はい!?」

「合格点が取れなかった場合はペナルティを課しましょう。そうですねぇ……一枚ずつ生爪を剥がしましょうか?」

「ッ!!!!」


 指をそっと撫でながら言われて、全身の血の気が一気に引いた。


 私の顔色を見てすぐに「冗談ですよ」とクスッと笑いながら言い返してきたが、相手が相手なだけにまったく冗談に聞こえない。


(無理無理無理無理!!)


 悪魔とか死神とか見た事のない怪物より、今目の前にいる人物の方が余程怖い。


「では、四日後。楽しみにしてますね。精々足掻いてみなさい」

「あ、ちょ──!!」


 引き止める声も無視して部屋を出て行った。


 残されたのは机の上にある問題集だけ……



 ***



「あら、ロゼさん?」


 二日後、城の中を歩いていると中庭から呼び止められる声に足を止めた。見るとそこにはアネットがベンチに座っていた。隣には指南役の司書官が挨拶をするように頭を下げている。


「どうしたの?酷い顔ね」

「ええ……ちょっと……」


 目の下に色濃く付いた隈とゲッソリとして生気を失ったロゼに声をかけたが、手に持った沢山の問題集に気が付き「ああ……」と憐みの表情を浮かべてきた。


「アネット様は何を?」

「アネットでいいわよ。彼が天気がいいし折角だからって、お庭で勉強会なの。ね?」


 問いかけるように視線を向けた。


「ご挨拶が遅れました。司書官のヨアン・ルサージュと申します。以後、お見知りおきを」


 ヨアンは黒髪眼鏡の、見るからに博識の司書官という面持ちだった。実際にその通りで、書庫の本が全て頭の中に入っているんじゃないと思うほど物知りで、教え方も丁寧で分かりやすく覚えやすいとアネットが絶賛している。


「わたくしの相手がヨアン様で本当に良かったわ」

「僕は大した事してませんよ。アネット様の本質が良いのでしょう」

「まあ!お口が上手いこと」


 仲睦まじく笑い合う二人を見て、私は何を見せられているのかと自問してしまった。


 羨ましくないと言ったら嘘になる。私だって、相手が()()()()じゃなければ今頃……


 ロゼはキュッと唇を噛み締めた。


「じゃあ、私はこれで……」


 こんな所にいたら、どんどん卑屈になってしまう。そう思って、足早に立ち去ろうとした。


「お待ちください」


 引き止めてきたのはヨアンだった。


「グィード様は厳しい方ですが、他者に目を配り導く事が出来るのは彼の専売特許。今は納得出来ないかもしれませんが、必ず実を結びますよ」


 何かを見透したように声をかけてくる。


「彼を信じてあげてください」


 軽く頭を下げられ、反射的に下げ返してしまった。


 長い廊下を歩きながら、ヨアンの言葉が繰り返される。そして、行き着いた結論は──


「ないな」


「へっ」と鼻で笑ってしまった。


 奴にどんな幻想を抱いているのか知らないが、導く者が『妃の器じゃない』なんて簡単に切り捨てるか?


 それに、納得できないじゃない。受け入れる事が出来ないが正解。


「悪魔の方が可愛く見えるってどんな人間よ……」


 ブツブツと文句を口にしながら、重い足取りで自分の部屋へと戻って行った。




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