悩んでいる間に、『愛の女王』の再来とか言われる女子生徒が遅れて入学した
私とヒューゴ先輩の距離感は変わってない。
ヒューゴ先輩に恋した私だけれども、どうやって行動を起こしたらいいか分からないままもだもだしてしまったりしていた。
お父様やお兄様達なんかは「ウィローラが大好きって言うだけでいちころ」とか、弟たちは「姉上に好かれて断る人なんていません」なんて言ってたけれど、それはただの娘バカと姉妹バカでしかない。
人の心なんて分からないものなので、幾ら私が家族にとっては可愛くてもヒューゴ先輩の好みかも分からない。
……どうなんだろう?
ヒューゴ先輩はどういった相手と結婚したいと思っているかな。
そんなことばかり考えている私である。ちなみに私の気持ちは、友人達にもばれてしまっていた。
案外私は分かりやすいらしい。ただ肝心の先輩には悟られていないけれど。
私とヒューゴ先輩は相変わらず研究ばかり。浮ついた話なんて全然していない。……そんな中で、一つの転機が訪れた。
それは一人の令嬢が遅れて入学を果たしたこと。どうやら家の事情で、夏になってからの入学になったそうだ。
とても優秀だとかで、見た目もとても愛らしかった。ちらっと見かけたけれど、男性受けしそうな見た目だったわ。
そのこと自体は正直どうでもよかった。ただ気に食わないことがあるとすれば――、
「あんなに男性を侍らせているなんて……」
「婚約者がおられる方に近づくのはどうなのかしら」
「『愛の女王』の再来なんて言われているらしいけれど」
そう、彼女が学園に通う子息に近づき、親しくしていること。相手が婚約者の居ない相手ならば問題がなかっただろうけれども、そうじゃなかった。
……その女子生徒は、婚約者の居る子息ともべたべたしているらしい。勝手にすればと思うけれど、お母様の名を出されるのだけは嫌だ。
だってお母様は……きちんとしていたのだ。婚約者の居る相手には近づかなかったらしい。それにそもそもいたとしても円満に解消した後に関係を持った。そう、お母様はちゃんと手回しをして、周りから許可を得た上で複数の夫を持った。
だからこそ、お母様に対する反発なんてほとんどなかったのだと聞いている。寧ろ関係者全員が祝福した婚姻だったと。
全然お母様と違う。
それなのになぜ、お母様の再来呼ばわり? 私はお母様のことが何だかんだ大好きなのだ。だから、嫌で仕方がない。
それに……、
「ヒューゴ先輩、私に魔術を教えてくれませんか?」
その令嬢が、ヒューゴ先輩に近づこうとすることも。
なぜそんなことになっているかといえば、私とヒューゴ先輩で研究した論文が学会に認められたから。
二人で一緒に研究をするのは楽しかった。趣味の延長線上で、そうやって結果が出ると嬉しかった。
私はヒューゴ先輩が侮られているのが嫌だったのだ。
だからこそ一緒に研究をした。
……そうして私の目論見は成功したのだけど、そうするとヒューゴ先輩に近づいてくる者が出てきた。
ああ、ヒューゴ先輩に近づかないでほしい。
なんて恋人でもないのに思うのは間違っているかもしれない。
ただそれでも嫌だと、私は嫉妬でいっぱいだった。
ヒューゴ先輩は拒絶しているけれど、あの可愛い顔で迫られたら惚れてしまうのではないか……などと考えてしまう。
私の素顔は整っているけれど、今は目立たないようにしているし……。
あとヒューゴ先輩に令嬢が近づくと、その結果その取り巻きと化している男子生徒達が煩い。
なんだか、ヒューゴ先輩を睨んでいたりする。
うん、全然お母様の再来なんかじゃない。だってお母様は、お父様達を大切にしている。それにお父様や父様たちって互いに尊重し合っている関係なのだ。互いに認め合っている戦友みたいな? だからこんなことあり得ない。
それはお母様がちゃんと間に入っているからというのもあるだろう。
そういうことが、彼女は全く出来ていないのだ。……お母様の再来なんて勝手に呼ばれていることも含めて、私は彼女に対して悪感情を抱いてならなかった。
あときっと論文が発表されていなければ、彼女はヒューゴ先輩に近づかなかっただろうと分かるから余計にちょっと嫌。
そんなことを思いながらモヤモヤ過ごしていた私は、ある日、部室で彼女がヒューゴ先輩に抱き着いているのを見てしまった。
私はそれを見た瞬間、物を落とし……、そのまま逃亡してしまった。