私は、『愛の女王』の娘である
「カメリア様の娘様はいらっしゃらないのよね」
「もしかして娘であることを隠していらっしゃるのかしら?」
そんな噂を聞いても私は素知らぬふりである。私はお母様がとても有名人であることを知っている。
だからこそその娘として入学すれば大変なことになるだろうと分かっていたのだ。
私はお母様のことも、お父様のことも、他の父様たちも、それに兄や弟たちのことも好きだ。私の家族の形態が普通とは異なることは知っているけれど、それはそれだと思っている。
ただ私は……結婚するなら相手は一人がいいなと正直思っている。お母様に夫が五人もいるから性に奔放だとか、誰とでもそういう深い仲になるとか勘違いされることは多々ある。とはいえ、お母様は私の目から見ると一途だ。いや、まぁ、五人も相手がいる時点で人によっては眉を顰めるだろうけれど、その五人の夫だけなのだ。
お母様もたまに嫌な思いをしたことも知っている。
表舞台にほとんど出ない私にだって、男性を幾人も侍らせようとしているのだろうとそんな風に思われているのか釣書がやたらとくる。それは一夫多妻だったり、多夫一妻だったりが多い。確かに私はあのお母様の娘なのだ。そう言う偏見が向けられることは当たり前と言えばそう。
それでも私は……出来れば一人でいいなと思う。私はお母様ほど器用ではない。複数人を相手にするのは私は出来ない。それに大切な人は、独占したいって思う。恋愛小説なども好きだから、一途な愛に憧れる。
ただお母様とお父様達の愛も、十分に素敵なものだというのは知っているけれどもね。
私の顔立ちはお母様とよく似ている。それにお父様の見目も整っているから一般的に見て美しい顔立ちであると言えるだろう。
そのままの姿で入学でもすればすぐに気づかれるし、面倒な人達に絡まれる可能性があった。
だからお父様の作ってくれた魔道具で目立たないようにしている。私の髪色はお父様そっくりの濃い桃色。瞳の色はお母様譲りの黒い瞳。目の色はともかくとして髪の色は目立ちすぎるからこの国で一般的な茶色に変えている。あとは眼鏡をかけて、顔を隠しているのだ。
正直隠していることが露見すれば家の権力や見た目目当ての人が幾らでも寄ってくるのが想像出来るので、ちゃんとばれないようにしておかないと。
そういうわけで身分も公爵令嬢という立場ではなく、分家筋の子爵家令嬢ということにしてある。親戚もこの学園に一名いるので、彼女には私のことが知られているけれどその程度だ。
私の家族はとても過保護だ。私がたった一人の娘だからこそ皆、可愛がってくれている。私の知らないところで護衛などは普通にいるんじゃないかなとは思っている。……自分の身ぐらい、自分で守れるんだけどなぁ。なんてそうも思う。
まぁ、こうやって私のことを心配してくれるのはとても嬉しいけれど。私は貴族令嬢の多く通う貴族科ではなく、魔術科を選んだ。お父様みたいに魔術をもっと使いたいから。それに私は魔術の研究をするのが好きなのよ。魔法陣の美しさを見ると、それだけで幸せなものになるから。
お母様は魔術が得意な方ではあったけれども、此処まで熱心ではないタイプだった。どちらかというと天才肌で、ある程度は夢中にならなくても魔術を使えるとかそんな感じ。同父のお兄様もそうなのよね。私とお父様と違って魔術に関する関心がそこまで強くない。
私とお父様は魔術や魔法陣を愛する趣味というものが似ている。だからこそ、よく話が弾むのである。
家族はそんな私達を見ていつもにこにこしていた。もちろん、研究に熱中してご飯を食べたりすることを疎かにするとすぐに注意はされたけれど。
お父様が言うには、こうやって何かに熱中しすぎる様子は人に引かれることもあるらしい。お父様はとても美しい方だけど、お母様に出会う前は身だしなみを整えることを蔑ろにしていたりしたんだって。
魔術に熱中しすぎて、他なんてどうでもいいといった態度だったお父様はお母様に出会ってから色々ときちんとするようになったんだとか。
だからね、お父様は「カメリアと会えたのが奇跡なんだ。彼女に会えなかったら今の幸せはなかっただろう」っていつも言っている。
というか、他の父様たちもそうなの。
お母様が見いだした才能というか、輝かせた男性達がお父様達なのだと私は思っている。
うん、そう考えるとお母様ってやっぱり凄いわ。
学園では『愛の女王』の娘が入学する年頃だからとお母様の話題が沢山語られている。
お母様に憧れている様子の女子生徒達を見ると嬉しくなるけれど、自慢するわけにはいかないわ。私は今は、お母様の娘としてここには居ないのだから。
逆にお母様のことを悪く言う人たちの名前と顔はきっちり覚えている。後でお父様達に言っておくの。
お母様のことを愛してやまないお父様達は、国の中核に居るのだもの。それなのにお母様を悪く言うなんて……本当に嫌な感じだわ。




