プロローグ
短めの話のため、毎日投稿予定で終わらせる予定です。
この国で最も有名で、権力を持つ女性が誰かと聞かれれば誰もが迷いもせずに答えるだろう。
カメリア・ビダーソン。
それこそが、我が国だけではなく他国にまで名が広まっている女性の名だ。
――『愛の女王』。
彼女はそう呼ばれている。ただ彼女は、実際に女王というわけではない。身分的に言えば、公爵家当主である。
美しい黒髪と、黒い瞳を持つ彼女がなぜそう呼ばれているかと言えば……夫を五人も持っているからだ。
幼い頃より美しかったカメリアは、多くの男たちを魅了した。元々は公爵位を継ぐ予定はなかったものの、不幸な事故により兄が亡くなり、女性の身でその地位を継ぐことを彼女は決めた。
兄が亡くなった時より、公爵領を栄えさせるためにと一生懸命であった。その功績は順当に認められた。
美しくも、成果も出し続けている彼女に求婚する者はそれはもう多かった。
カメリアが誰を選ぶのか。
誰もが注目する中、彼女は言い放った。
――権力を持つ男性が何人も妻を持っても許されるのならば、私だって愛する人を全員、夫に迎えても許されるべきよね?
当然のことだが反発もあった。そもそもこの国だと、男性が何人も妻を持つ事例はあったが、女性が複数の夫を持つなどということはなかったのである。
しかし、そこからが『愛の女王』の凄まじいところだった。
反発する者達を全員黙らせ、王国に貢献し、国王陛下に直訴し、女性の身でも本人たちが納得しているのならば多夫一妻制を認めさせたのである。ちなみに国王陛下が許可した一つの要因に、カメリアと深い仲になっていた一人が自分の息子だったからというのもあるだろう。
ただしカメリアは望まぬ婚姻などを嫌っている。本人が愛する人、全員と結ばれる未来を掴み取ったからというのもあるだろうが……望まぬ恋愛関係で苦労しているものがいるとすぐに救い出していた。例えば無理やり何かを人質に取られ、嫁がなければならない状態なども事情を聞いた後、口出しをしなければと判断するとすぐに行動に移す。
カメリアはとても行動力があり、自由気ままである。それでいて愛に生きている。
とはいっても愛を優先して公爵家当主としての仕事を放棄するなどという愚かな真似は行わず、寧ろ彼女は「夫たちが居るからこれだけ頑張れるのだわ」と言ってはばからない。
そんな『愛の女王』が居るからこそ、他にも多夫一妻制の家は産まれている。ただし複数の伴侶が居るからこその問題が起こることもあり、結局のところ一夫一妻の方がいいのではと思うものも少なくはない。
見目麗しくも、有名な五人の男性を夫としたカメリアに憧れる者は多い。
ただし、上手く行っているのはカメリアだからであるともいえるだろう。
――さて、そんな『愛の女王』には六人の子供がいる。
五人の息子と、一人の娘。
二番目の息子と、一人娘は同じ父親である。それ以外は、違う父親だが、異父兄妹である。
上の三人の子息は既に学園を卒業し、社交界の場にも顔を出している。下の二人の子息も学園に通う前から同様にパーティーなどで度々見掛けられる。
ただし、一人娘に関しては基本的に社交界の場に顔を出すことなく、噂が流れているだけだ。知る人ぞ知る、『愛の女王』の娘。
その娘が王立学園に通う年頃になった。それもあり、一部では騒がれているというのは私も知っている。
「十位か。まぁまぁ、の出来」
さて、入学試験の結果を見ながらそう呟く私の名前はウィローラ。
――『愛の女王』カメリア・ビダーソンと、王宮魔術師である父親を持つ噂の一人娘である。