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生き様コレクション  作者: 雛形ひなた
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僕の名は。

「名は体を表す」という言葉がある。

 読んで字のごとく、名前こそがその人を言い表すというもので、藤井聡太は文字通り「聡」明な人であるし、スティーブ・ジョブズは……まあ、たくさんのジョブ(仕事)をこなしたことだろう。


 僕がこのような前置きをしたのには理由がある。それはずばり、これを読んでいる皆さんにクイズを出題したいからだ。その内容は、シンプルにして難関。

 問題、僕の名前はなんでしょう。


「レイちゃん、なんだか大変なことになったわネ……」

 ヒントとしては、今しがた耳打ちをしてきた三十路のオネエが言うように、レイという名前と、大変なことになっている点。

……ちなみに、この人がオネエであることは直接的にも間接的にもヒントにはならない。無論、答えにもならない。


「おいお前! 何コソコソ喋ってんだ! まさか通報してんじゃねぇだろうな!?」

「別に! どのアイスにしようか選んでただけ!」

「お前っ……! 俺がいま何してんのか分かんねぇのか!」

「おそらくコンビニ強盗ね、おそらくだけど」


このやり取りも、これといってヒントにはならない。

 僕のことを抜きにして特筆すべきことがあるとすれば、男がゴルフクラブを持って周囲を威嚇しているということ。ただし、腰元にピストルのようなものを用意しており、万が一にもそれが本物であれば油断も隙もない。そんなわけで、一応の警戒をしているわけだ。僕たちを含めた5人の客と、カウンターの2人の店員が。


「おそらくぅ? てめぇ舐めてんのか!」

「舐めてないわよ! だってそれゴルフクラブでしょ? アンタの手にかかれば、300ヤードは下らないわ。ファー! よ、ファー!」

「やっぱり舐めてんじゃねぇか! おらぁ!」

「正当防衛キック!」


 またたく間に男はダウンした。強盗犯を手にかけたのはオネエだ。女になる過程で、大事な部分を攻撃された際の痛みを忘れたとは言わせまい。僕はすかさず強盗犯の肩を持った。

横島(よこしま)さん、思い出して。男はあそこを蹴られると痛いんだよ」

「知ってるわ。アタシはまだタマ取ってないからね」

「だったらなおさら共感してほしい。……あの、大丈夫ですか?」

男は股間を抑えたまま土下座のようなポーズをとっている。オネエに……もとい、横島さんにゴルフクラブを振りかざしたはずが、玉を打たれたのは自分のほうという結末を噛み締めているらしい。


「正当防衛とはいえ、やりすぎちゃったわね……皆さぁん! この人のことは、通報しないでくださらない?」

「え、なんでですか?」

「悶絶してる今がチャンスなのに」


 横島さんの提案に、行く末を見守っていたその場のみんなが困惑している。僕も、局部に強烈な一撃を食らった不憫な男とはいえ、脅迫罪と威力業務妨害罪が適用されるに値する彼を許すという発言には拍子抜けである。


「理由は大きく分けて2つあるわ。1つは、彼が一見すると整った容姿をしていて、好青年に見えるから」

「……もう1つは?」

「一見すると整った容姿をしていて、好青年に見えるから」

「時間返せコラ」

まったくこの人は、悪食にも程がある。


「うっ……だ、誰が、整った容姿だ……ふざけんなっ!」

「あら、どうしたのよ」

「俺が、何もかも上手くいかねぇのは、この顔のせいだろうが!」

「……アタシね、このあたりに行きつけのお店があるの。お話を聞かせてもらえないかしら?」



「レイちゃーん、強盗のお客さんにカフェモカいっちょ! 小学生のお客さんにはオレンジレンジねっ」


 僕は今、先ほどコンビニにいた3人の客、そして強盗未遂犯とともに、とある喫茶店にいる。横島さんが「行きつけの店」と称したのは、何を隠そう、彼自身が店主を務める喫茶店であった。時刻は17時をまわっており、今日のところはすでに店じまいを済ませたわけだが、今回は特別にみんなを招き入れたとのこと。要するにサービス残業ってやつだ。


「おい、もういいだろ。未遂だけど俺は強盗犯だぞ?」

「あ、そうそう。ようこそ、『純喫茶ヨコシマ』へ!」

「会話できねぇのかお前は!」

ナックルをお見舞いする横島さんと、なんとか拾って投げかえす強盗犯の声を聞きながらオレンジジュースを注ぐ。


「あの、なんで私たちまで集められたんですか?」

と、女子高生が。

「これから戻って片付けなきゃいけない仕事があるのに」

と、サラリーマンが。

「このめぐり合わせは偶然か、はたまた必然か……」

と、小学生が、それぞれに言葉を残す。

 このメンツを集めた張本人たる横島さんはカウンターに立つと、両手をタンと置いて本題に入った。


「今からここにいるみんなで、この強盗ちゃんがイケメンかどうかを議論していこうと思うの!」

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