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【連載版】 愛しの旦那様は次の春までにわたしを殺すようです  作者: 御鷹穂積


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2/10

1◇出逢いの前から

 



 夜。


 何かから逃げ回るように路地裏を駆ける男がいた。


 月の監視さえも届かぬ、闇に溶けた街の裏側。

 石造りの建物の壁にぶつかり、地面に転がるゴミに躓き、時に行き止まりに焦りながら、男は逃げる。


 顔が少し整っている点を除けば、どこにでもいるような格好の男だ。

 二十代半ばほどで、髪はくすんだ金。


「誰か! 誰か助けてくれ!」


 最初、男は自宅で寝ていた。しかし目覚めると、枕元に信じられないモノが立っていた。

 慌てて家を飛び出したが、それは男を追いかけてきた。


 隣人に助けを求めた時、男は異常を悟った。

 自分のすぐ近くに立っているそれが、出てきた隣人には、見えていないとわかったからだ。


 その後も行きつけの酒場や巡回の衛兵にまで助けを求めたが、酔っぱらいや狂人と間違われるばかりで事態は好転しない。


 ――なんでこんなことに!


 男は理不尽を嘆きながら、息を乱し走り続ける。

 どこへ行けばいいかは分からない。

 だが立ち止まってしまえば、自分を追う存在に、捕まってしまう。


「クソ! クソクソクソが!」


 何度目かの行き止まり。

 慌てて振り返ったところで、男は気づく。


 引き返す道に、誰かが立っている。

 だが自分を追っている存在ではない。


 ランタンを下げた謎の人物で、辛うじてローブを羽織っているのだと分かる。

 こんなところに自分以外の人間がいる不自然さなど気にもせず、男はローブの人物に近づいた。


「なぁ、あんた! 助けてくれ! 化け物に追われてるんだ!」


「化け物? それは剣呑だな。一体、どんな化け物なんだ?」


 自分の言葉を初めてまともに聞いてくれたローブの人物に、男は縋るように言う。


「お、女の化け物だ! 真っ白い顔にうつろな目! 全身を濡らしてぶつぶつと何かを言ってやがる! 恐ろしいったらねぇよ!」


 そんな恐ろしいものが、真夜中、自分の枕元に立っていたのだ。

 駆け出して周囲に助けを求めたくもなるだろう。


「化け物というよりも、それは悪霊なんじゃないか?」


 予想外の訂正の言葉に、男は戸惑う。

 自分を変人扱いしないことが、逆に不気味に思えてくる。

 だが、今の自分に救いの手を選り好みしている余裕はない。


「あ、悪霊……? と、とにかく助けてくれ! そ、そうだ、あんたの家にでも匿っちゃくれないか!」


「それは無駄だろう。霊はお前を、もう見つけているのだし」


 ローブの人物は、諦めろとばかりに首を横に振った。


「……は?」


「まぁ、あのお嬢さんにお前さんの居場所を教えたのは、俺なんだが」


 ようやく、ローブの人物の異様さに、男は気づく。

 小さな明かりに揺れる、ローブの人物の影が、化け物よりも恐ろしく見えた。


「なんだ……なんなんだ、あんた!」


「俺は、まじない師だよ」


「ま、まじない師?」


 返ってきた答えは、だが、こちらを納得させるものではなかった。


「お前、少し前に女性を詐欺に掛けただろう。結婚の約束をして、だが借金を返すまでは一緒になれないと芝居を打った。女性はお前の為に金を用意したというのに、それを持ち逃げしたな?」


 男は恐ろしくなった。

 ローブの人物が自分の悪行を知っていたこともそうだが、これから明かされる真実を予感し、恐ろしくてならなかった。


「酷い男だよ、まったく。結婚の約束をした相手を見て――化け物だなんて」


「あ、あ……」


 風の噂で、耳に入ってはいた。

 詐欺に掛けられたことを知った娘が、川に身を投げたとかなんとか。


 では真っ白な顔も、濡れた身体も、その女の――。


 気づけば、ローブ男の隣に、その女が立っていた。


 うつろな目で、それでもしっかりと自分を見ている。

 ひたひたと、濡れた素足で近づいてくる。


「ま、待て! 待ってくれ!」


 震える足で後ずさりするが、すぐに行き止まりの壁にぶつかってしまう。


「な、なぁあんた! 誰に頼まれたか知らないが、倍額払う! この化け物をどっかやってくれよ!」


「まじない師は、霊を操っているわけじゃない。霊と対話できるだけだ。考えてもみろ、自分を自殺に追い込んだクズが目の前にいるんだぞ? 今更、他人の説得なんて耳に入ると思うか?」


「そ、そんな……あ、あぁ……!」


 最期まで、男は謝罪の言葉を口にしなかった。

 自分が悪いなどとは、欠片も思っていないのだろう。


 翌日、路地裏で男の遺体が発見される。

 それは不気味なことに、まるで川に身投げしたかのように、ずぶ濡れの溺死体だったという。



 まじない師にして、殺し屋。

 それが、ディーナと出会う前の、ロランの職業であった。




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