第8話: リンドン首都ハルテナス
旅の果てにたどり着いた首都。そして見えてくる戦争の爪痕。
日が暮れかけた頃、ついにリンドンに到着した。遠目に見ていたが、近づいてみると確かに美しい街だ。異世界の都市にふさわしい。
広大な平原の真ん中に、分厚い城壁に囲まれている。幸い、道中では何も起こらなかった。ただ、あの流星のような光の筋がまた空を横切っていただけだ。
リーズに聞いてみたが、彼も正体は知らないらしい。「襲撃以来、毎日のように現れる」とのこと。それを聞いて、俺まで不安になった。あれはいったい何なんだ?
**(リーズ)**
「着いた。ここがリンドン王国の首都――ハルテナスだ。開門!」
リーズの叫びと共に、城門がきしみながら開き始める。よく見ると、門の左上部分に巨大な穴が空いている。城壁も所々崩れ落ち、焼け焦げた跡が残っていた。
「戦争だったとは聞いていたが…これは災害レベルだ。あの女騎士の魔法ですら、ここまで破壊できんだろう」
門が完全に開くと、中へ進む。すぐにわかった――ハルテナスは「遠目に美しい」だけだった。多くの家屋が倒壊し、至る所に焼け跡が広がっている。
街路を歩いていると、包帯を巻いた負傷者たちとすれ違う。皆、絶望的な表情を浮かべていた。
**(リーズ)**
「歓迎もできず申し訳ない。状況はわかってくれるだろう」
**(ユゼン)**
「ああ…酷いもんだ。帝国がここまでするとは。人間の所業とは思えねえ」
**(リーズ)**
「今できることは、互いを支え合うことだけだ」
通り過ぎる人々を見ると、子供から老人まで全員が武器を携えている。
**(ユゼン)**
「反撃を考えているのか?」
**(リーズ)**
「察しが早いな。そうだ。亡き仲間へのせめてもの…無意味な復讐だ」
**(ユゼン)**
「だが、それで全員死ぬかもしれない。それでもいいのか?」
**(リーズ)**
「最初から死んでいるのと同じさ。せめて敵を道連れにしたい。皇帝が市民を生かしたのは、亡き家族の重荷で苦しめるためだ」
**(ユゼン)**
「考え方は理解できないが、決意なら尊重する。ただ、助けてくれた人々の死を喜べるほど俺は強くない」
**(リーズ)**
「はは、優しいな。我々は誇りを貫くまでだ。君は違う道を行け。街を出た方がいい」
俺は苦い表情でうつむく。
**(ユゼン)**
「すまない…決意を侮辱するつもりはなかった」
**(リーズ)**
「気にするな。さあ、宿泊場所を案内しよう。後で食料も持ってくる」
弱々しくうなずくと、俺たちは一行から離れ、別の場所へ向かう。到着した建物の看板には、異世界の文字でこう書かれていた。
**《明日への宿》**
「これが宿屋か…」
**(リーズ)**
「以前は街一番の名宿だった。今は…見ての通りだ」
四階建ての建物の右半分が崩れ落ち、魔法による爆撃跡が生々しい。
**(リーズ)**
「夜も更けた。中に入ろう。そのボロボロの服では風邪を引く」
確かに言われてみれば、肌が露出しているのに妙に寒さを感じない。
宿屋の中は、ドアが破られた部屋が並び、床には血痕が残っていた。
**(リーズ)**
「遺体は全て火葬した。アンデッドや亡霊の発生は防いである」
「死体から魔物が生まれるのか…覚えておくべきだな」
**(リーズ)**
「ここには多くの冒険者が泊まっていた。戦争に巻き込まれ、無残に殺されたが…必要なら戦利品を取っても構わん」
血まみれの部屋は、避難した冒険者たちの最後の隠れ場だったのだろう。
**(リーズ)**
「ここだ」
案内された部屋は無傷で、血の気もない。戦禍を免れたようだ。
**(ユゼン)**
「本当に使っていいのか?避難民のためじゃないのか?」
**(リーズ)**
「心配無用だ。ゆっくり休め」
リーズが去ると、俺はベッドに腰を下ろし、焼け爛れたシャツを脱ごうとする。苦労した末、思い切って引き裂いた。
腹巻きにしていたジャケットを確認する。
「無事で良かった…あの世界の部下たちからの贈り物だ。ナックル同様、失いたくない」
リーズの勧めに従い、宿屋を探索し始める。血の付いた部屋を一軒ずつ調べ、有用な物を集めた。
**戦利品**:
- 黒の都市風シャツ
- 厚底の黒ブーツ
- 頭巾付き焦茶色マント
- 片刃剣(ドイツ式らしい)
- 薬品入りポーチ
- 小銭入り袋(他部屋分も追加)
- 書籍1冊
- リュックサック
- 地域地図
「まあまあの収穫だ…今夜はこれで十分か」
少しシリアスな展開でしたが、右善の心の変化も注目です。次回もお楽しみに!