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第52話:白狼(はくろう)

その夜、俺たちは宿に戻って少し休んだあと、もう一度外に出て何か食べることにした。




通りは魔石の灯りで賑やかに照らされている。この街に来てから、こんな景色をちゃんと見たのは初めてだ。




まるで前の世界みたいだ。夜なのに明るくて、人通りも多くて、酒場も大盛況だった。




俺たちは「豚脂の夜明け」という小さな店を見つけた。




名前だけなら全然美味そうに聞こえないけど、中は盛り上がってて、人が叫んだり踊ったりしてる。酔っ払いばっかだ。




とはいえ、食べ物と飲み物があって座れる場所があるなら十分だ。けっこう探し回ったし、キウィももう疲れてる。




……いや、たぶん肉体的な疲れじゃなくて魔力の消耗だ。確かガリアが言ってたけど、あのブーツは動く間ずっと魔力を消費して、使えても一日四十分くらいらしい。




それじゃ少ないけど、魔力は鍛えれば伸びる。いずれ長く履けるようになるはずだ。




席を確保して料理を頼むと、出てきたのはアニメに出てくるような骨付き肉だった。まんまの形。




この世界に来てから、まともで美味い飯はこれが初めてだったから、俺は遠慮なく豪勢に頼んで腹いっぱいになるまで食いまくった。




でも、俺が一番驚いたのはビールだった。この世界には飲酒年齢の概念がないらしく、俺とキウィは瓶を何本か注文して、ガブリエルはワインを選んだ。ケチくせぇやつめ。




前の世界でもビールや酒を飲んだことがあるが、それだけに味の違いが気になってた。




前の世界のビールは酸味が強くて、後味も悪くて、正直クソだった。でも、こっちはマジで美味い!




あっちは大量生産で化学薬品まみれだから仕方ないけど、こっちは自然に発酵させたまま瓶に詰めてるんだろう。風味も強くて、アルコールもそのまま残ってる。




ヤバいなこれ、調子乗ったらハマりそうだ。




そして驚いたことに、キウィは何本飲んでもまったく酔ってなかった。俺は二、三本で軽くフラついてるのに。




一方、あのクソ気取り貴族はワインを一本半飲んだだけでふらふらして、店の演奏グループに混ざって踊り出しやがった。




正直、クソダサい。でも、キウィは楽しそうに笑ってるし、客たちも歌ったりして盛り上がってる。




——この空気、悪くない。




ウゼン「なあキウィ、明日さ、服でも買いに行かね?」




キウィ「……えっ? なんで急に? まあ、正直すごく嬉しいけど……でも、これ以上迷惑かけるのは……。ガリアさんのためにお金取っておかないとでしょ?」




ウゼン「気にすんなって。俺も自分の服買うつもりだし。今のはほとんどボロボロだしな。お前のも拾っただけのだし、そんなにいい状態でもねぇし。」




ウゼン「できるだけ出費は抑えるつもりだけど、服や装備は必要だろ。ガリアの仕事が終わったらまた旅だしな。」




キウィ「……わかった。お願いします……。」




(うつむきながら少し顔を赤らめる。可愛いな)




そのあともしばらく、くだらない話をしながら食べたり飲んだりしていた。思ってたよりずっと楽しい夜だった。




またこんな風に、賑やかで楽しい場所に戻って来られたらいいな……。そんなことを考えながら、俺たちは勘定を済ませて店を出た。




ガブリエルはなぜか歩けなくなってて、俺が背負って帰ることに。ワイン一本半しか飲んでねぇのに……本当にこいつ、筋力しかねぇな。







帰り道、とある路地の前に人だかりができていた。みんな、不安そうに固まってる。……何があった?




ウゼン「どうしたんですか?」




(近くの観客に声をかける)




女性「……また白狼の襲撃よ。今回は冒険者三人と、一般人一人が命を落としたらしいわ。本当に恐ろしいわね……」




ウゼン「白狼……? それって何ですか?」




女性「……知らないの? もしかして、あなたこの街に来たばかり?」




ウゼン「はい。数日前に来たんですが、ずっと街の外にいたので……」




女性「なるほどね。どう説明すればいいかしら……。白狼っていうのは、強かったり才能のある冒険者を狙って襲う魔物なの。詳しいことはわからないけど、ギルドに行けば教えてくれると思うわ。」




ウゼン「……なるほど。ありがとうございます。」




(そう言って歩き出そうとしたとき、キウィが一歩も動いていないことに気づく)




彼女は、血まみれの路地を怯えた表情でじっと見つめている。




人混みのせいで遺体は見えないけど、壁には大量の血痕と引っかき傷が残っていた。




ウゼン「……キウィ、もう帰ろう。もう遅いし。」




(俺が声をかけると、彼女はビクッと小さく跳ねてからこっちを向いて、俺の後をついてきた)




——早く帰った方がいいな。冒険者を狙うって話が本当なら、次は俺か、ガブリエルが標的にされるかもしれない。







宿に戻って、キウィに「おやすみ」と声をかけて、それぞれの部屋へ。




酔いつぶれたガブリエルをベッドに放り投げて、ブーツを脱ぎ、自分のベッドに倒れ込む。




考えることは山ほどある。でも、全部明日だ。今夜は休もう。マジで……濃い一週間だった。




明日は装備と食料の買い出し、あと白狼についての情報収集。




それが終わったら、ガリアの武器完成まで丸々一週間空く。




……何しようか。ま、それも明日考えればいいか。

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