表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/61

第51話:静けさの中で

ガブリエル「いつまで俺の女王を抱きしめてるつもりだ!?」

ガブリエルは苛立った様子で俺をキウイから引き離す。

「ぐるる……」


キウイ「うふふふ」

彼女は可愛らしく無邪気に笑った。


ウゼン「黙れよ。こんな感動的な瞬間に水を差すとは、なかなかの度胸だな。」


俺たち三人はしばらくの間、仲間としての心地よい雰囲気に包まれていた。

穏やかで、癒されるような感覚だった。


あの胸の中に渦巻いていた怒りは、ほとんど消え去っていた。

多少の苛立ちは残っているが、もはやあの時のように暴力的で衝動的な自分ではない。


一体、何があったんだ?

まあ今は考える必要もない。結果的には、全てうまくいったのだから。


キウイ「そういえば、さっきウゼンは苦しそうな顔してたけど、大丈夫?」


え?俺、そんな顔してたか?


ガブリエル「ああ?俺は全然気づかなかったな。むしろずっと無表情だったろ?なぁ、ガリア?」


ガリア「そうだな。明らかに怒っていたが、顔には何も表情が浮かんでいなかった。

それに気づいた君はすごいな、少女よ。」


俺、そんな顔してたのか?妙だな。


ウゼン「……ガリア、さっき殴って悪かったな。ちょっと苛立ってたし、お前にも原因はあったが……

結局、問題は解決したし、あんなことする必要なかった。」


ガリア「おいおい、どうした急に?今のお前の状態で謝罪できるなんて、あり得んぞ?」

ガリアは俺と同じ目線になるように膝をつき、じっと俺の目を見る。

「ちょっと見せてくれ。」


まただ。

その目がほんのり光り、俺の背筋をぞわりと寒気が走る。

勝手にやるなっての……気味が悪い。


ガリア「な、なんてことだ!これは……!」


ガリアは勢いよく立ち上がり、髭を触りながら考え込む。

そして今度はキウイの方を向き、再び目を光らせた。


……だから勝手に見るなって!


ガリア「すごいぞ……想像を遥かに超えていた!!」


キウイ「な、何がですか!?わ、私何かしちゃいましたか!?」


ガリア「聞きなさい、少女よ。君が得たその“魔眼”は、俺が予想していたよりもはるかに優れている。

その本質は俺の目に似ているが、君の力はさらに上位互換だ。」


ガリアはキウイを抱えて再び机の上に座らせる。


ガリア「俺の力は対象の状態を“ほぼ全て”見通せる。だが、君の目は――

相手の“隙”や“弱点”を視認し、それを突くためのルートを映し出すことができる。」


「つまり、魔法でも意志でも、攻撃すべき“一点”を正確に捉えられるということだ。」


キウイ「そんな……私にそんなこと、本当にできるの……?」


ガリア「ああ。そして、君はさっきそれをやってのけたんだ。

君はウゼンの心にあった、【権能・憤怒】による怒りと苦しみを見抜き、

最も脆い部分を“感情”で癒した。」


ウゼン「……本当に? でも、彼女がやったのは、ただ……俺を抱きしめただけだぞ?」


ガリア「外から見れば確かにただの抱擁だった。だが実際は、それ以上に複雑な作用があった。

そして……本人すら無意識だったようだな。」


俺は驚きながらキウイの顔を見る。

彼女の瞳は希望に輝いていて、まるで本当に嬉しそうだった。

……気づけば、俺の頬に微笑みが浮かんでいた。


ガリア「まあ、簡単に言えば、君の中の【憤怒】の副作用は、ほぼ完全に取り除かれた。

それは確かに喜ばしいことだが――忘れるな。

“既に壊れた部分”は、もう元には戻らん。」


「つまり、怒りは消えたが、心にはまだ“傷”が残っているということだ。

もう【権能・憤怒】は使うな。癒せばいいなんて簡単に考えるな。

お前の心は使うたびに、確実に削れていってる。」


ウゼン「……忠告、感謝する。」

ガリアの言葉が重く、思わず唾を飲み込んだ。


ガリア「さて、これを君に。――少女よ。」

ガリアはキウイにブーツ/グリーヴを手渡す。

「これは謝罪のしるしだ。受け取ってくれ。」


キウイは無垢な顔でそれを受け取る。


キウイ「ありがとうございます、ガリアさん。

そんな、お気遣いなくても……」


ガリア「これは魔法装備だ。俺の傑作の一つ。

君の“もう一つの問題”も、これで一時的に解決できるはずだ。

さあ、履いて立ち上がってみろ。」


° ° °


……俺たち三人はガリアを呆れた目で見つめる。

いや、マジでこいつ、何考えてんだ!?


ガブリエル「貴様……正気か!? なに考えてんだ!!」

ガブリエルがガリアの胸倉を掴み、怒鳴りつける。

……珍しく、俺と完全に同意見だ。


キウイ「ありがとうございます、ガリアさん……でも、見ての通り、私は……

自分の足を動かすことができません……」

彼女は悲しそうに俯いた。


ガリア「心配はいらん。とにかく試してみなさい。」


キウイは小さく頷き、急いでグリーヴを履こうとする。

少し苦戦していたので、俺が手伝った。


装着を終えた瞬間――彼女の瞳が見開かれ、

「う、嘘……」と小さく呟いた。


そして――

俺とガブリエルの目の前で、

彼女の脚が、かすかに動いた。


少し躊躇いながらも、彼女は机から飛び降り、

床に自分の足で立った。


その瞬間、俺たちは(ガリアを除く)完全に唖然とした。


キウイ「ガリアさん、これは……どうして私、立てるんですか!?」


ガリア「これは、今さっき完成したばかりの“魔法装備”だ。

使用者の魔力を吸収し、思考した通りの動きを実現する。」


ガリアは、いつも通りの誇らしげな笑みを浮かべる。


ガリア「つまり、足の筋肉は使わなくていい。

ただ、“動きたい”と“思えばいい”だけだ。」


「ただし、かなりの魔力消費がある。君の現在の魔力では、

持続行動はせいぜい40~50分が限界だろう。」


キウイ「……ほんとうに!?

ありがとうございます……!」


喜びの涙が頬を伝い、彼女は心からの笑顔を浮かべた。


俺とガブリエルは、彼女の姿に心が温まるのを感じていた。


ガブリエル「よかったな、俺の乙女よ!」

満足げに軽く手を振ってみせた。


ガリア「さてと……彼女も歩けるようになったことだし、

街を少し散策でもしてきたらどうだ?

ウゼンの武器が完成するまで、一週間はかかる。」


ウゼン「……それもいいかもしれないな。

ガリア、本当に色々とありがとう!」


俺は頭を下げ、二人と一緒に店を出る。


ガリア「礼などいらんさ。また会おう。」



---


店の前――

キウイは跳ねるように歩きながら、まるで子供のように喜んでいた。

……可愛いな。


ガブリエル「さて、最初はどこに行く?」


ウゼン「まずは宿に戻ろう。

この汚れた服を脱いで、風呂に入りたい。

もう日も沈みかけてるし、夜の店もそろそろ開くだろう。」


ガブリエル「確かに。お前、遠征から帰ったばかりだし、休みたいだろ?

無理せず明日にするか?」


ウゼン「気にすんな。……それに、あいつが“待つ”わけないだろ?」


俺は前を跳ねながら進むキウイに目を向け、軽く手を振る。


ガブリエル「……だな。」


キウイは振り返って笑顔を見せたその瞬間――

彼女はつまずいて、派手に転んだ。


ガブリエルは慌てて駆け寄り、

俺は……ただ、笑って見守った。


――本当に、今は平和で心地いい。


でも……残念ながら。


俺はようやく“地獄”から抜け出したばかり。

だが、なぜか――またすぐに“次の地獄”が待っている気がする。


……だからこそ、この時間を大切にしよう。


――せめて今だけは、全力で休ませてもらうぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ