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第50章:感情

ウゼン「よく考えろ、この馬鹿!」


俺は再び椅子に座り、腕を組む。まったく、どうしてこいつはこんなに無神経なんだ。


ガブリエル「はぁぁぁ(ため息)。本当に我慢できないんだな?あいつがやったことは確かに酷かったけど、結局は無事に終わったんだ。何が問題なんだ?」


ウゼン「ふん!」


ガブリエルは立ち上がり、ガリアを支えて立たせる。その後、二人とも再び座った。ガリアは怒った顔で俺を見て話し始める。


ガリア「正直、怒っているのは分かるが、あんなに強く殴る必要があったか?お前が“憤怒”に影響されているから許してやるがな。」


ウゼン「それで、“大罪”について話したいことって何だ?」


ガリア「もうほとんど話しただろう。ああ、そうだ。お前の権能ってスキルのレベル制なんだろ?」


ウゼン「ああ。」


ガリア「なら、最大まで上げれば世界中の他の大罪の存在を感知し、その正確な位置を知ることができるらしいぞ。」


ウゼン「なるほど…それは有用な情報だな。でも、どうやら俺の権能は使わないとレベルが上がらないらしい。そして、使うたびに状況が悪化するから、上げない方がいい。」


ガリア「ところで、どうやって“憤怒”を得て生き延びたんだ?」


ウゼン「さあな…俺より遥かに強い敵と戦って手に入れたんだ。多分、あいつに敗れたことで憎しみから解放されたんだろう。」


ガリア「ふむ…おかしいな。本来ならそれはお前の全エネルギー、いや命すらも消費し、体が破壊されても動き続けさせるはずなんだ。」


(そういう仕組みか…)

実際、アルローズとの戦いはほとんど覚えているが、二人には黙っておく。恐らく俺を救ったのはあいつの最後のコンビネーションだ。


使ったスキル名ははっきり覚えている──[Antithesis]と[Exorcising Blade]。前者はエイドンでも解析できなかった。後者は刃に聖なる力を宿し、触れられない“悪”すら断ち切る剣技だ。


キウィも初めて会った時、似たようなことをしていた。魔法を使い、それをスキルで強化していた。


つまり、あいつも剣技をスキルで強化したのだろう。そして俺を救った本当の力は[Antithesis]だ。これをガリアに話せばもっと情報を得られるかもしれないが、口に出すのは危険な気がする。


…しばらくは秘密にしておこう。


ウゼン「何か特別な理由があったんだろうな。」


ガリア「ああ。それにお前も十分特別だ。“異世界人”だろ?」


俺はガバッと立ち上がる。こいつ、なんで知っているんだ!?


ウゼン「お前、なんでそれを!?」


ガリア「忘れたのか?お前を解析した時、色々と見えたんだ。最近の記憶もな。」


ウゼン「…それなのに全然驚いてないな。お前、あっちの世界について何か知っているのか?」


ガリア「この話はこれ以上やめておく。お互い十分情報交換しただろう?これ以上は金を払え。」


ウゼン「この野郎──!」


ガブリエル「まあまあ、落ち着け。」


ウゼン「ちっ!」


俺は再び座り、顔を背ける。まあいい。旅を続ければいずれ分かるだろう。


ガリア「よし、話は終わりだ。この最後の作業を終えたら、お前の武器作りに取りかかる。

──エーテル結晶を手に入れたなら、そこに置け。それと大事な思い出の品や、お前にとって価値のある物があれば持ってきてくれ。武器に融合させれば品質と威力が上がる。」


(…思い出したのは二つ。)

一つ目は、アイアンと一緒に初めて作った石の剣の残骸。魔力も込めたし、何よりあいつの唯一の形見だ。


二つ目は、腰のポケットから取り出した溶けたメリケンサック。向こうの世界で部下からもらった物で、ここでの初戦を勝ち抜く助けとなった。キウィに会った後、熱で溶けてしまい使えなくなったが、俺にとっては大事な品だ。


三つ目もあるが…正直、手放したくない。


腰に巻いているジャケット──母さんの形見だ。母さんがいつも着ていたもので、死んだ後、俺が譲り受け、それ以来ずっと身につけてきた。もうボロボロで焼け焦げてもいるが、ここまでよく耐えてくれた。


…だが、武器の素材にすれば、ずっと大事に守れるかもしれない。


俺は三つの品をエーテル結晶の横に置き、ガリアの作業を覗き込む。作っているのは鎧のブーツ…?注文品か?


ウゼン「それは何だ?」


ガリア「“グリーヴ”だ。あの娘への謝罪の品だ。」


ウゼン「気持ちは分かるが、彼女の役には立たないだろう。逆に悲しませるかもしれない。」


ガリア「分かっている。」


(こいつ…本当に彼女を苦しめたいのか?)


キウィ「んぐ…」


ガリアと話していると、キウィが唸り声を上げて動いた。ガブリエルと俺は驚き、すぐに駆け寄る。


ガブリエル「お嬢様!」


ウゼン「キウィ、大丈夫か?」


彼女は左目をゆっくり開け、困惑した顔で俺を見る。


キウィ「…あれ?ウゼンさん、戻ったんですか?…いった…!」


そう言って頭を下げ、右目に手を当てる。痛そうだ。回復魔法を使うべきだ。


ウゼン「ちょっと待ってろ。[ライト・ヒール]!」


右目が淡く光り、手を離すと痛みは和らいだようだ。…まったく、この連中は施術後に回復魔法すら使ってなかったのか?


ウゼン「少しは楽になったか?」


キウィ「はい、少しだけ…。あの…いつもご迷惑ばかりかけてすみません、ウゼンさん。」


ウゼン「何言ってるんだ。お前は何も迷惑なんかかけてない。それに、そんなに敬語を使うな。前みたいに“ウゼン”でいい。」


キウィ「…はい、ウゼン。」


頬を赤らめる彼女。…可愛いな。


ウゼン「ところで、目の具合はどうだ?」


キウィ「はい。」


右目を開けた彼女の瞳は、金属の球に変わっていた。


ウゼン「これで何か見えるのか?」


キウィ「いえ…。暗闇が見えていた以前とは違って、“視界”という感覚自体がない感じです。」


ウゼン「おいガリア!これが魔眼になって、見えるようになるって言ったじゃないか!」


ガリアは作業を止め、こちらに歩いてくる。


ガリア「まだ完成してないと言っただろう。魔眼になるには魔力が必要だ。

──少年、彼女の目に手を当てて、魔力を注ぎ込め。そうすれば魔眼になる。」


ガブリエル「変だな…魔眼って、生まれつき持ってるか、祝福や呪いとして与えられるもんじゃないのか?」


ガリア「その通りだ。だがこれは俺が生み出した技術だ。誇り高き職人として誰にも教えたことはない。さあ、やってみろ。」


ウゼン「分かった。これで駄目なら首を刎ねるぞ。」


俺は右目に手を当て、新スキル[Magic Flow Control]で魔力を流し込む。ゆっくり、慎重に。十分注いだ後、手を離す。


…息を呑む。


彼女の瞳は、左が淡い赤、右が鮮やかな緑に変わっていた。見事なオッドアイだ。


ウゼン「…見えるか?」


キウィは周囲を見回し、俺の顔を見て──


キウィ「すごい!本当に見える!」


胸をなで下ろす。駄目だったらどうしようかと…。


すると、右目が淡く光り、ガリアの解析のような輝きを放ったかと思うと、涙を浮かべた。


(え…何か不具合か!?)


次の瞬間、彼女はテーブルから飛び降り、俺に抱きつく。そのまま床に倒れ込んだ。


ウゼン「キ、キウィ!?どうした!?」


キウィ「大丈夫…もう、大丈夫です…ウゼン。」


その言葉と、優しく頭を撫でる仕草に、胸が震える。


…このところずっと、怒りに任せてばかりで、立ち止まって考える余裕もなかった。

俺は、そんな人間じゃない。


ウゼン「…ああ、ありがとう。」


俺も彼女を抱き返し、少しだけ涙がこぼれた。

さっきまでの苛立ちは、すべて消えていた。

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