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第49話:これを治療と呼ぶのか?

ガリアの工房までの道のりは妙に静かだった。

初めてここに来たときは、人混みで街を歩くのもやっとだったのに。


まあ、そのときは馬車に乗っていたから俺たちには関係なかったが、このオサスコの街は本当に人口が多い。ガブリエルが言っていた、この世界の出生率の高さも納得だ。


しかし、夕暮れ時になると人々は家に帰り、街は一気に閑散とする。たまに人影を見かけるくらいで、到着したときの賑わいとは比べものにならない。それが逆に落ち着いて心地いい。


俺はかなり社交的な方だが、こういう静けさや孤独も嫌いじゃない。

自分の考えを整理して、自分のことだけに集中できる時間だからな。


道中、ここ数日の出来事や自分のことをずっと考えていた。

普通ならあれだけのことを経験すれば、心が折れるか、気が狂うだろう。特に俺のような平和な世界出身ならなおさらだ。


だが、俺は何も感じない。俺は平気だ。

むしろ、気になるのは——あんなことがあったのに、全く動揺していない自分自身だ。


まあ、この件は後で考えよう。

今はもう工房が近い。いや、もう入口が見えてきた。


少し歩くと、工房の入口に着いた。

店内は妙に暗く、壁に取り付けられた黄色い石がぼんやりと灯っているだけだ。


他の店は同じ石で明るく照らされているのに、ここは違う。

今さらだが、この店はずいぶん古い造りだ。


光石もかなり古いのだろう。まるで接触の悪いランプみたいだ。

……まあいい、さっさと入ってエーテル結晶を置いて、宿に戻ろう。


今ごろガリアは契約通り、キウィの目を治しているはずだ。

ガブリエルもキウィも、そろそろ心配しているだろう。

元々は簡単な偵察任務のはずだったのに、もう二日半もかかってしまった。


扉を開けると、炉の扉を開けたかのような熱気が押し寄せてきた。

奥の工房から、何やら妙な音が聞こえる。


金属を打つ音に似ているが、鍛冶のそれよりも軽く、低い音だ。


ウゼン「……何だ? 何かを鍛えてるのか? 結晶だけ置いて帰るか。」


職人の作業中に邪魔をするな、という話をどこかで聞いたことがある。

それに、中はとんでもなく暑い。世間話をしている場合じゃない。


炉が稼働しているんだろうし、この音……やっぱり何か作っているな。


ウゼン「……あれ?」


念のため【メタ】は起動したままだ。

そのおかげでガリアの気配だけでなく、ガブリエルとキウィの気配も感じる。


ガリアは工房の片側に、二人は反対側にいる。

ガブリエルはキウィから二メートルほど離れ、キウィは横になっているようだ。

……その気配が不安定で、いつもより弱い。


何だこれは……。まあ、二人がいるなら入ってもいいか。


扉を通って工房へ。

石畳の床に足を踏み入れた瞬間、肌を焼くような熱気に包まれた。

水晶洞窟よりも暑いじゃないか……クソッ。


たぶん室温は四十五度くらいだろう。

何を作ればこんな温度になるんだ?

しかもキウィとガブリエルまでここに……。


キウィは横になっている。そりゃそうだ、こんな暑さじゃ具合も悪くなる。

俺は汗をかきながら奥へ進み、ガブリエルと目が合った。


ガブリエル「お、戻ったか。ずいぶんかかったな。」


ガリアは金床の前で、小さな金槌と同じ大きさの釘のような物を打っている。

ガブリエルは右手側の椅子に座り、鎧を脱ぎ、袖をまくり、汗だくになっていた。


ウゼン「まあな、俺もここまでかかるとは思わなかったが——」


ガブリエルに向き直ったその瞬間、キウィが目に入った。

右目を覆っていた布が外され、顔は血にまみれている。

その血は目から流れたもののようだ。


息をしていないように見えるほど静かに横たわっている。

その光景を見た瞬間、胸の奥で何かが燃え上がった。俺はガリアに向き直る。


ウゼン「テメェッ……何をした!!」


ガリア「うわっ!?」


俺は即座に石の剣を創り、怒鳴りながら突進した。

ガリアは作業に集中していたが、俺の気配に気づき、椅子から転げ落ちる。


殺すつもりで横薙ぎに振る——

だが、ガブリエルが突然割って入り、片手で剣を受け止めた。


ガブリエル「待てウゼン! 誤解だ!!」


ウゼン「黙れッ! お前、守るって約束しただろうが!!」


俺は剣を手放し、炎を纏った拳をガブリエルの顔面へ叩き込む。

しかしそれももう片方の手で受け止められた。

部屋全体が震え、足元の石畳にヒビが走る。


ガブリエル「言ったろ! 待てって! キウィは無事だ! ガリアは約束を果たした!」


歯ぎしりをやめ、力を抜く。

……そうだ、俺は彼女の気配を感じている。死んでいたら、もう感じられないはずだ。

完全に忘れて、衝動で動いてしまった。


構えを解き、一歩下がる。


ウゼン「……わかった。悪かった、頭に血が上ってた。まず、あのクソジジイが何をしたのか説明しろ。」


ガリア「クソジジイだと!? 口の利き方に気をつけろ、このガキが!」


ウゼン「黙れ、嘘つき! あの任務は簡単だなんて言いやがって……洞窟に何がいたのか知ってたくせに黙ってやがったな。ギルドにも報告せずに……おかげで遠征隊は全滅寸前だったんだぞ!」


ガリアは俯き、少し黙る。

本当は罪悪感があるはずだ。もしアグリスじゃなくオロギスだと事前に知らせていれば、ギルドはもっと強い人材を送っていただろう。


俺がいなければ、伝令部隊ですら帰れなかったかもしれない。

つまり、あいつは間接的に死者を出した張本人だ。


ガリア「……理解している。だが、それでも情報を隠した理由がある。自己中心的かもしれんが、そうした方が良いと信じていた。」


その男……。


俺は一歩前に踏み出し、敵意と殺気を放つ。しかしガブリエルがまた俺の前に割って入った。


――落ち着け……落ち着くんだ、ウゼン。最近、お前はすぐ爆発している。冷静に考えろ。


ガリア「その爆発的な怒り、その短気……また権能を使ったな?」


……何だ? こいつ、〈憤怒〉の権能を知っているのか?


ウゼン「お前……どうやってそれを知った!?」


ガリア「お前を解析した時、全てが見えた。お前のステータス、魔力量、筋力、能力、そして最近の記憶までな。これが俺の魔眼とスキル【解析】だ。そしてお前は七つの大罪の一つ――この世界で最も強大な力の権能を持っている。」


ウゼン「は……? それって何だ?」


ガブリエル「どういうことだ?」


ガリア「知らなくても無理はない。世間じゃほとんど話題にならない。俺が知っているのは、長く生きてきたからだ。七つの力……〈憤怒〉、〈暴食〉、〈傲慢〉、〈色欲〉、〈強欲〉、〈嫉妬〉、〈怠惰〉。それぞれが世界の法則の一部を支配し、極限まで高めれば世界の理すら覆せる。」


それらはシステムの一部を支配し、最大まで高めるとこの世界の法則すら打ち破れる。


ガブリエル「で、ウゼンはその一つを持っているってわけか?」


ガリア「そうだ。しかも最も不安定で攻撃的な……〈憤怒〉の権能だ。」


ガブリエル「へぇ……意外だな。」


ウゼン「喧嘩売ってんのか? で、〈憤怒〉について他に知ってることは?」


ガリア「ない。」


……は? こいつ本気で殴られたいのか!

知ったかぶって肝心なところは何も知らねぇじゃねえか!


ガリア「〈憤怒〉の権能に関する記録は存在しない。他の大罪については多少知っているが、〈憤怒〉に関しては、持ち主も敵も誰一人として生き延びたことがない。」


俺の知る限り、大罪の権能には様々な違いがある。持ち主の精神に影響を及ぼすものもあれば、単なる能力だけのものもある。しかし〈憤怒〉は違う。手に入れた瞬間から持ち主の精神を完全に蝕み、支配するんだ。


歴史上、〈憤怒〉の持ち主は皆、怒りと憎しみに呑まれ、周囲を破壊し尽くし、最後は力を使い果たして死んだ。つまり……お前は史上初めて正気を保ったまま生き延びている持ち主というわけだ。


ウゼン「……マジか?」


ガリア「だが、それも長くは続かんだろう。お前は最近、妙に攻撃的で短気になってるはずだ。」


……そうか、それで俺は洞窟での出来事に何も感じなかったのか。

――待て。


ウゼン「いや、違うな。少しずつ蝕まれてるんじゃない。権能を使った後、一気に悪化してるんだ。」


ガリア「……なるほど。興味深いな! これは初めて聞く情報だ!」


ガリアは興奮気味に椅子を引き寄せ、腰を下ろす。


ガリア「つまり徐々にじゃなく、使うたびに精神を削るってことか? 面白い! もっと詳しく聞かせてくれ、ほら、座れ!」


ウゼン「それもいいが、先にキウィのことを教えてくれ。心配なんだ。」


ガブリエル「大丈夫だ。もうすぐ目を覚ますだろう。」


ウゼン「……何があった?」


ガブリエル「簡単な手術だ。壊れた目を治す代わりに、ガリアが作った金属の義眼を入れた。どうやって視力が戻るのかはわからないが、ガリアは保証していた。」


ウゼン「どういうことだ、このクソジジイ!」


再び怒りが込み上げ、ガリアに掴みかかろうとするが、ガブリエルが押さえ、何とか落ち着く。


ガリア「お前の協力が必要になる。あれは人工魔眼だ。視力を回復させるだけでなく、何らかの能力も与えるだろう。手術は本人の同意を得て、麻酔なしで行った。だから途中でショックで気を失ったんだ。」


ガブリエル「あれは……本当にきつかった。あんなに女性を傷つけたのは初めてだ。悲鳴が耳から離れない。でも彼女は続けると言った。だから止めなかった。やがて彼女は気を失った。」


……胸が悪くなる。そんな姿は想像したくもない。

少し怒りが湧くが、爆発しないよう必死に抑える。


ガリア「後はお前の莫大な魔力を義眼に流し込み、人工魔眼として完成させるだけだ。ただし、起きている状態でやる必要がある。だから待たねばならん。」


ウゼン「……納得はできないが、それでキウィのためになるならやる。ありがとな、ガリア。」


俺は左手を差し出し、笑顔で握手を求める。

ガリアも笑みを返し、その手を握った。


――その瞬間、俺はその手を強く掴み、引き寄せ、顔面に拳を叩き込む。


ガリア「ぐはっ!」


ウゼン「次からはちゃんと説明してからやれ、このクソジジイ!」

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