第47章:決着
前を見据えて構える。確かに意識を取り戻す前にいくつかのスキルを手に入れていたが、今は一つ一つ試している時間はない。説明を確認する余裕もないし、全部まとめて使ってやる!どうせ悪影響なんてないはずだ!
助走の体勢に入り、[flare Accel]を発動。足元が爆発し、一気にアグリスへと突進する。
[tōki]を起動すると、濃厚なオーラが体を包み込む。そして、[Hametsu no Ken]も同時に発動。両拳に青い炎が灯る。
この二つは、[aura Burst]や[Rage Fist]より遥かに強化されたバージョンだ。その力は明確に感じ取れる。
この新たなスキル二つがあれば、[Wrath]を使用していた時と同等の力があるはず。これなら、あの化け物とも渡り合える!
落下してくる巨大な岩を避けながら前進していくと、アグリスが口の一つに魔力を集中し、クリスタルを放った。それは無数の破片に分裂しながらこちらへ飛んでくる。
止まるつもりはない。構えを取り、連打を叩き込むことで多数の破片を防ぐことができた。だが、脚にだけはダメージを受けてしまう。
地面を強く踏みしめて前を見据え、もう一度[flare Accel]。すでに十分距離は近い。一気に詰め寄る。
至近距離でアグリスに連打を浴びせる。
アグリス ―「グルァアアアア!」
混乱した様子で身を縮め、回転を始めた。だが今度は、正面で突っ立ってはいない。すかさず後方に跳躍。
距離が近いため、止まる気はないようだ。左拳に魔力を集中し始める。青い炎が巨大に膨れ上がり、自分の体をも凌駕するほど。
ここまで魔力を圧縮するのはとてつもなく難しい。以前の自分では到底無理だった。だが、今の自分には[Magic Flow Control]がある。やろうと思えば、これ以上だってできる。
アグリス ―「グラァアアアア!」
拳を構え、渾身の一撃を叩き込む。高速回転とトゲに覆われたアグリスの体は、拳を粉砕するが、それでも回転体勢を崩すことに成功し、アグリスは地面に叩きつけられた。
すぐに拳を再生し、次の攻撃に移る。今度は[ダンザイの剣]を使う。
名前からして、剣を強化するタイプのスキルだろう。でも今、手元に剣はない。
すると、手の中に振動する灼熱の光剣が現れた。その魔力の暴力性は手を焼き尽くすほど。これ、素手で使うもんじゃないな。
アグリスの上へ跳びかかり、光剣を回転させながら振り下ろす。アグリスは噛みつこうとしてきたが、それをかわして剣を高く振り上げる。
ウゼン ―「オラァアアア!」
首元に剣を叩きつけ、頭の一つを切り落とす。
アグリス ―「グラァアアアアア!!」
激怒したアグリスが体を回転させ、尻尾で攻撃してくる。光剣で防ぐが、耐えきれず砕け散り、俺の体は反対側の壁まで吹き飛ばされる。
空中で体勢を整え、着地する。
ウゼン ―「クソッ!出口の反対側に飛ばされた……。戻るには、またアイツを突破しなきゃいけない。」
後ろを見ると、来た時の通路は塞がれており、その前にイアオンが立っている。
前を向くと、アグリスが再び魔力レーザーを構え始めている。
「何? 二つの頭が必要だったんじゃないのか? ……いや、よく見ると体が歪んでいる。今は全力じゃないってことか!」
そうか、これが最後のチャンスだ。反撃して抜けるぞ!
腕を掲げて魔力を集中。赤く振動するエネルギー球が手の前に形成される。[hōneppō]だ。
すぐさま[flare Accel]を準備。撃ち合いの直後、即座に飛び出せるように。
ウゼン ―「……行くぞッ!!」
アグリス ―「ラァアアア!!」
再び互いに同時発射。だが、アグリスの魔力はどこか歪んでいる。魔力レーザー同士がぶつかるが、今回は俺の方が押し切り、アグリスの胸を貫く。大きな傷が露出した。
[flare Accel]で脱出しようとするが、その傷を見て思う。
「今しかない……このチャンスは逃せない!」
目を閉じ、[Magic Flow Control]と[Meta]を駆使してMCの位置を探る。……あった、やっぱり胸だ!
[Hametsu no Ken]を発動し、さらに[flare Accel]で加速。瀕死のアグリスに手刀を叩き込む。
その手が胸を貫き、MCを引き抜くことに成功。すぐに離れて出口へと走る。
手を見ると、バスケットボールよりも大きな、黒紫に輝く巨大な石が握られている。
ウゼン ―「これが……エーテルクリスタル……? こんなもののために、どれだけの命と苦しみが……。ふざけるな!」
そのまま握りしめ、全速力で通路を駆け抜ける。
だがその時、轟音が響き渡る。これは……聞いたことがある。洞窟全体が崩壊するときに鳴る衝撃音だ!
さらに加速するが、天井が割れ始め……そして崩落が始まる。
ウゼン ―「グアアアアアア!!」
全身が押し潰されるような感覚と共に、意識が闇に沈む――
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~~~~クラウス~~~~
ギゾウ ―「早く行こう、クラウス。街に戻ってギルドに報告しなきゃ。」
クラウス ―「でも、あの人を置いていくなんてできない! 何とか助けないと!」
ギゾウ ―「無理だって! あの化け物を見ただろ? あの新人が時間を稼いでくれなかったら、俺たちだって逃げられなかったんだぞ!」
……確かに。逃げられたのは、ほんのわずかな差だった。でも、彼を見殺しにはできない。俺より若いのに、俺たちのために犠牲になった。
こんなの、不公平だ……! 俺たちは支援役としての役割すら果たせなかったのに!
17人いたパーティーは全滅。生き残ったのは、俺たち4人だけ。今、俺たちは洞窟の外にいる。
ギゾウと他の二人は、ウゼンさんを助けに戻るべきか、俺と議論している。
ギゾウ ―「どうしても戻りたいなら、一人で行け。俺には伝令の任務があるし、あの二人も戻る気はない。死にたいなら勝手にしろ。」
クラウス ―「でも――」
反論できない。正論だ。バカなのは俺の方なんだ。
クラッシュ!!
突然、背後で大音響が響き、洞窟が完全に崩落した。
皆、驚愕して振り返る。その中でギゾウが口を開く。
ギゾウ ―「ほらな!? 戻ってたら死んでたぞ! あいつはあの化け物ごと崩落させて倒そうとしたんだ。今更応援を呼んでも、もう全部瓦礫だ。行くぞ。」
そう言って三人は背を向けて歩き出す。俺はその場に膝をつき、頭を垂れた。
命を救ってくれた彼が、今、目の前で死んだ。何もできなかった……クソッ!
数分間、悔しさに打ちひしがれていた。そして、立ち上がって帰る決意をする。
バキィッ!!
帰ろうと背を向けた瞬間、後ろの崩落した壁が割れ始めた。
振り返ると、煙が立ち込め、そこに人ひとり通れるほどの穴が開く。傷だらけで血まみれの男が、荒い呼吸とともにそこから現れた。
ウゼン ―「……出られたか? はあ……助かった。」
膝をつき、手に持っていた大きな黒い石をそっと地面に置く。
クラウス ―「ウソだろ……出てきたのか!?」
ウゼン ―「ん? ああ、君は脱出できた支援役か。無事でよかった。」
クラウス ―「無事って……あんたの方がボロボロだろう!」
ウゼン ―「ああ、これか? 問題ないよ。再生能力を止めて、土魔法で脱出口を作るのに集中してただけさ。」
クラウス ―「はぁっ!?」
ウゼン ―「まあ、説明してもわからないだろう。とりあえず、街はどっちの方向か教えてくれるか?」
そう言って立ち上がろうとしたので、慌てて支えた。
クラウス ―「今は休んでくれ! 俺が治癒魔法で回復させるから、じっとしてろ。今モンスターに襲われたら、本当に死ぬぞ!」
クラウス ―「街まで俺が連れていく。だから今は……休め。」