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第45章:生存者の怒りと弱さ

目の前に広がるのは絶望だった。守ると誓った仲間たちが、一人、また一人と踏み潰されていく。




アグリスに食われている三人――ミニ、ラウス、オグナ。皆、いい人たちだった。今はもう、死んでしまった。




またしても、俺は大切な人たちを守れなかった。




……いや、今は嘆いている場合じゃない!


レット、リジー、オリャはまだ生きている。助けなきゃ!




ウゼン「うああああああっ!!!!!」




怒りの叫びが洞窟に響き渡る。俺は持てる限りの魔力を込め、自身の体を再構築し始めた。




??「まさか……あの新人、あんな状態でまだ生きてるのか?」




??「嘘だろ……!?」




レット「気を抜くなっ!!」




レットの叫びに反応して、二人の冒険者がアグリスに向き直るが、時すでに遅し。一人は前脚で叩き潰され、もう一人は後ろ脚で踏み潰され、肉片と化した。




その光景を見て、俺は言葉も出ず、体中を無数の虫が這い回るような苦痛が走った。




ウゼン「やめろ……」




アグリスがリジーを脚の下で押し潰しながら見下ろす。空いていた口が下がり、彼女の残骸を貪り始めた。




ウゼン「やめてくれ……お願いだ……」




冒険者を咥えた左の頭が噛み締め、彼らの身体はバラバラになって口から落ちていく。




その視線が、隣で蒼白になっているレットへと移った。血に染まった歯の塊から、まるで嘲笑するかのような歪んだ笑みが浮かぶ。




レットは自身が次の標的であることを察し、叫びながら逃げ出そうとする。だが恐怖で足がもつれ、何度も転ぶ。




俺の耳にはもう彼の声が届かない。恐怖のあまり声が出ないのか、それとも俺の身体が限界で、意識が壊れかけているのか。




ただ立ち尽くすことしかできなかった。叫んでも、震えても、助けることなどできない。




俺は……無力だ。




アグリスは目の前のレットへと迫る。恐怖の中、レットはイアオンの斧を投げつけるが、それは液状に溶け、アグリスに吸収される。恐慌状態の彼は、手当たり次第に物を投げつける。




アグリスが前脚を高く持ち上げる。涙を流しながら、レットは最後の力で逃げようとする。




ウゼン「やめろおおおおおおおおっ!!!!!」




その脚が振り下ろされ、レットの半身を押し潰す。血飛沫が宙を舞い、彼の身体は動かなくなった。




俺の頭の中は嵐のように混乱し、膨れ上がる思考に押し潰されそうになる。




……でも、そのどれもが、俺を救ってはくれなかった。




レットは、この世界で最も長く一緒にいた、そして……おそらく最も信頼できる友だった。




それなのに、俺は何もできなかった。ただ、無力に見ているだけだった。




……昔もそうだった。この世界でも、前の世界でも……誰かのために何かできたことなんて、なかった。




俺の周りにいる人たちは、皆不幸になっていく。大切な人が、俺の目の前で傷ついていくのを、ただ見ることしかできない。




母さんも、部下も、リンドンの仲間たちも……そして今もまた。




俺は、勝ちたかった。許されたいと思った。だから、たとえ死んでもここに残っているのかもしれない。


だからこそ、キウイを助けたいと思ったのかもしれない。


だから俺は、ダンジョンからの撤退を強く言わなかったのかもしれない。




だから、彼らを守ると誓った――だけど、また失敗した。




アグリスは振り返り、出口を塞いでいるクリスタルを破壊しようとしている支援職と使者たちへ向かって歩き出す。




そして、アグリスのそばから離れたことで、俺はレットの微かな動きに気づいた。彼は震える手を、俺の方へ差し伸べようとしていた。




違う!


全ては俺の選択だった。今起きていることは、俺の判断と失敗の結果だ!




リンドンの皆が死んだのは、俺が恐れて逃げたから。


このパーティの皆が死んだのは、俺が強く言わなかったから!




これが俺の行動の報いならば、俺は顔を上げて、全ての責任を背負わなければならない。死んだ仲間たちの記憶を、この身に刻んで生きていかなければならない!




そのために俺はこの力を持っている――生き抜き、愛する人たちを胸に抱き続けるために!




そして、俺が持つもう一つの力は――


俺の大切な人たちを踏みにじった者を、粉々に砕くためにある!




ウゼン「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」




獣のような怒号を吐きながら、俺の意識は揺らぎ、朦朧とする。それでも俺は魔力を増幅させ続けた。




俺の身体が燃え上がり、各部が一気に再構築されていく。これは二度目の使用――危険は承知の上だ。それでも、あの化け物を倒すためなら、何度だって使う!




壁を蹴り、俺はミサイルのようにレットのもとへと飛ぶ。彼の手を掴み、顔を持ち上げる。




ウゼン「すまない……本当にごめん……助けられなかった……許してくれ、レット……!」




レット「ウ……ゼ……ン……に、逃げて……」




彼の手から力が抜け、落ちた。


本当に、君はいい奴だった。こんな場所で死ぬなんて、本当に……生きていてほしかった。




俺はレットの身体を抱き上げた。その瞬間、俺の周囲の炎が激しく燃え上がり、レットの身体は瞬く間に炭となり、灰へと変わった。




ここが君の永遠の眠りの場所だなんて、申し訳ない。




さっきまでの穏やかで黄色がかった炎は、暗い赤色の激しい怒りの炎へと変貌した。




ウゼン「アグリス……貴様を絶対に殺す!!!!!」




アグリスは仲間たちを追い詰め、口を開け、食おうとしていた。




だが俺は高速で移動し、彼らの間に割り込む。そして空中で回転しながら、炎を纏ったキックをアグリスに叩き込んだ。




アグリスの巨体は何メートルも吹き飛ばされた。




すぐに振り返り、出口を塞ぐクリスタルに拳を叩きつけた。




ウゼン「行け! 俺がこいつを足止めしてる間に逃げろ!」




仲間たちは驚いた表情で俺を見て、顔を見合わせた。




支援職「一緒に逃げようよ! 今なら混乱してるし、全員で脱出できるかもしれない!」




俺は首を振り、彼らを真っ直ぐに見つめた。




ウゼン「ダメだ。絶対に俺たちを追ってくる。今すぐ行ってくれ。俺には、こいつとやらなきゃならない理由があるんだ」




俺は振り返って戦闘態勢を取り、アグリスが怒りに満ちた顔で立ち上がるのを見据える。




使者が支援職の腕を掴み、引っ張った。




使者「もういい、置いていけ! さもないと、俺たちも死ぬぞ!」




俺が振り返ると、彼らの姿はすでに見えなくなっていた。




……一つだけ嘘をついた。




俺は彼らの囮になるつもりなんてない。俺には三つの理由がある。




一つ目は――俺には、この場所に来た目的がある。地獄のような苦難を越えてきたんだ。何も得ずに帰るつもりはない。




二つ目は――これから使う力は俺を暴走状態にし、敵味方の区別もなく襲わせる。




そして三つ目は――俺は必ず、あの化け物を殺す。首を引き千切るまで、この場を離れるつもりはない!

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