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第44章:絶望

耳がまだ痛む。あの咆哮は明らかに威嚇だった。まるでゴリラが胸を叩くようなものだった。




まるで「抵抗は無駄だ」と言っているようだ。俺たちの意思なんて、ただ弄ばれているだけだ!




ウゼン「みんな!動き続けろ!その場に立ち止まるな!地面から狙われるぞ!!」




イアオンを見て怯えていた残りの冒険者たちと支援職たちは、慌てて部屋中に散らばって走り出した。




レット「今はとにかく奴の気を引いて時間を稼ぐぞ!メッセンジャーたちは、奴がこちらに集中している間に回り込んで脱出しろ!」




命令を出した後、レットは全速力でアグリスに向かって突進し、槍を回転させながら跳躍、一撃を叩き込もうとする。




それは悪くない作戦だ。あの鱗を貫ける武器なんて想像もできないが…でも、それじゃダメなんだ。




ウゼン「一人で突っ込むな!」




その瞬間、信じられないことが起こった。レットの槍がアグリスに当たった瞬間、水のように溶けて消えたのだ。




アグリスは不機嫌そうにレットを睨みつけ、尻尾を回転させて攻撃してくる。レットは残った槍の柄で防ごうとしたが、吹き飛ばされた。




ウゼン「レット!!」




走るのを止め、レットが投げ飛ばされた場所へ駆け寄る。彼は地面に倒れ、荒い息をしていた。




ウゼン「耐えろ。[ライトヒール]」




回復魔法をかけると、レットはゆっくりと起き上がり始めた。




ウゼン「これがアバターレベルってやつか…。防いでも一撃で戦闘不能になるなんて。」




とんでもない力だ。でも、俺ならあの攻撃を受けてもまだ戦えるかもしれない。




そのとき、レットが俺に向かって腕を伸ばし、小さな鉄の棒を見せてきた。




レット「防げてなかった。あいつの尻尾は、俺が盾にした槍をすり抜けた。」




なるほどな。




ウゼン「あの化け物の体って、触れた瞬間に鋼鉄を溶かすほど熱いってことか?」




レット「いや…そういう感じじゃない。」




ウゼン「ん?どういうことだ?」




レット「俺の槍が奴に当たったとき、まるでスライムに溶けるように分解されて…その破片が鱗に触れた瞬間、吸収されたように見えた。」




分解?それってスキルか?…待てよ、ずっと目を離さずに見てた。俺がそのスキルを見たってことは、イードンに何か情報があるはずだ。確認しよう。




[イードン] – スキル【メタリックソース】:使用者は、素材となる物質を吸収し、その性質を取り込むことができる。




マジかよ…!?つまり、武器が効かないってことか。触れた物を吸収して、その分だけ強くなるなんて…!




なるほど…つまりそういうことか。こいつは元々オロギスだったが、この異常なスキルを手に入れて、金属や魔力結晶を吸収しまくって、珍種に進化したってことか。




だから今まで情報が錯綜してたんだ。でも、それがわかったところで意味がない!武器が効かないことはわかっても、どう戦えばいいかわからない。




…いや、まだ方法はあるはずだ。もし吸収できるのが金属や結晶などの素材だけなら…拳での打撃なら通じるかもしれない。




それに、俺の武器は素材じゃなく石でできてる。吸収はされないはずだ!




よし、これで行こう!




ウゼン「レット、もし動けるなら支援職のところに行って、俺のよりマシな回復を受けて来い。それからイアオンの斧を持って戻ってこい。何もしないよりマシだ。」




ウゼン「みんな!聞け!金属製の武器はこの化け物に効かないぞ!!」




俺はアグリスに向かって走り出し、石の剣を抜く。うまく叩き込めば、勝機はあるかもしれない。




アグリスがこちらを睨むと、進路上にいくつもの結晶のトゲが地面から飛び出してきた。




それを全て避けながら、さらに加速する。そして奴の目前まで近づいた瞬間、大きな火球を放ち、煙幕として視界を遮った。




火球はアグリスの顔面で炸裂したが、全くダメージは与えられなかった。しかし、一瞬目くらましにはなった。俺はその隙を突いて煙の中を突っ切り、一つの頭部に石の剣を全力で叩きつけ、もう一つには[Rage Fist]を放った。




そのまま大きく跳躍して距離を取る。




…その時、手に鈍い痛みを感じた。見ると、手が潰れていた。




右腕も異様に軽い。見下ろすと、剣の刃が折れて柄だけになっていた。




なんて硬さだ…!二撃とも全力で叩き込んだはずなのに、ダメージを受けたのは俺の方だった!




気を取られていた俺は気づかなかったが、アグリスは一瞬で俺の目前に跳んできていた。こいつ、信じられないほど速い!




ウゼン「ぐああああ!!」




奴は俺を噛みつき、上へと持ち上げた。下半身は奴の口の中、上半身は外に垂れ下がっている。胃に牙が突き刺さり、まるで玩具のように振り回されていた。




ウゼン「ぐぅ…離せ、この野郎!!」




俺は無傷の手で[Rage Fist]を奴の目に叩き込んだが、それでその手も壊れた。




奴は俺を振り回してから空中に放り投げ、落下中に長い尾で俺の腰を強打してきた。[Pain Absorber Lv: Max]があっても、凄まじい痛みが襲う。




部屋の反対側まで吹き飛ばされ、壁の結晶に激突した衝撃で部屋全体が揺れた。俺の体は壁にめり込む。




ウゼン「ぐっ…ゴホッ…ゴホッ…」




吐血し、視界が赤く染まる。体が冷たく感じ、足を動かそうとしても動かない。




なぜか…脚の感覚がない。あの激痛すら感じなくなっている。なぜだ?




下を見て、理由が分かった。




俺の下半身が――なくなっていた。




ウゼン「あ…あああああっ!!」




叫ぼうとしても声が出ない。落ち着け、落ち着け、俺…。状況は最悪だが、まだ死んでない。大丈夫、回復さえできれば…。




[Aura Burst]を発動し、回復魔法を使う。[Tenaci]は自動的に発動していた。もしそうでなければ、今頃死んでいた。




[Tenaci]は生存特化型スキル。筋力と速度を強化し、何より――あらゆる損傷を再生する無限再生能力を持つ。




さらにこの再生と組み合わせて俺をほぼ不死身にしているもう一つの効果が、「死ににくくなる」という性質だ。




普通の人間なら、喉を切られたり身体を串刺しにされれば死ぬだろうが――俺にはそれじゃ足りない。




俺を殺すには、少なくとも頭を潰すか切り落とす、あるいは心臓と肺を完全に貫通するしかない。




つまり、真っ二つにされただけじゃ死なない。でも、痛ぇのはマジだ。クソッ、早く再生しねぇと。




幸い、切断された下半身はすぐそばにある。吹き飛ばされてなかったのは助かった。なら繋げ直せばいい。新しく作り直すよりずっと早い。




でも再生中は自由に動けねぇ。まあ、アグリスは俺を倒したと思ってるだろうし、その間は狙ってこないはずだ――




…そう思っていた俺が、甘かった。




俺が自分のことばかり考えている間に、アグリスは他の仲間を襲っていた。奴の口には3人の仲間が噛み砕かれかけていて、残る3人の冒険者は恐怖に凍りついていた。




2人の支援職と2人のメッセンジャーは、もう一つの出口へ続く通路の前にいたが――その先は巨大なピンク色の結晶に塞がれていた。




俺が自分のことで手一杯になっていたその間に――状況は完全な絶望へと変わっていた。

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