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第43章:オロギス?

ダンジョンの終わりが近づいている。進むにつれて、感じる気配がどんどん強くなる――まるで巨大な獣の口の中に入っていくような感覚だ。


皆が極度の緊張と恐怖に包まれている。ただし、イアイオンを除けば、だ。


俺は「ジョルネスの魔物図鑑」を読みながら、これから相対する敵を理解しようとしていた。しかし、オロギスについて書かれている情報は、すでに知っている内容と同じだった。


その図鑑には、オロギスは“上級モンスター”であり、群れを作らない単独行動の魔物だと記されている。


だが、このダンジョンの最奥にいる存在は明らかに「上級」の域を超えている。しかも、アンデッドを生み出してダンジョンの番人にしている。


これは、ジョルネスの記述と完全に矛盾している。ギルドに警告した生存者が間違っていたのか? それとも錯乱し、幻覚を見ていたのか?


どちらにせよ、この場所を支配し、ダンジョンを生み出した存在はオロギスではない――それだけは確かだ。


だが、一つだけ引っかかることがある。なぜ「結晶」なのか? 生存者の証言にも、ジョルネスの本にも、それらしい記述はない。結晶ナメクジだけは例外だが――。


そもそも、スケルトンやゴーレムも図鑑に載っていない。つまり、このダンジョンのボスは、ジョルネスすら記録していない“未知の種”である可能性が高い。


そんな内心の疑念を抱えていると、やがてトンネルの終わりに光が見えた。結晶に反射した光で、通路全体が明るくなっている。さらに奥はもっと強く輝いていた。


俺たちは無言で互いに視線を交わす。


イアイオン「……進もう。」


レット「待って、イアイオン。少し休んで装備の確認をしない? 前の戦闘で、みんなまだ疲れてる。」


彼は立ち止まり、仲間の顔を一通り見渡し、自身の肩の傷にも目を落とす。


イアイオン「……そうだな。あの魔物は、領域に入らなければ攻撃してこないようだ。少し休もう。俺が見張りに立つ。」


皆は装備を確認し始め、しばらくすると、何かを書くために鉛筆のようなものと紙を取り出した。


そして、それを書き終えた者たちは、使者メッセンジャーたちに手紙を渡す。


冒険者「……もし俺が戻れなかったら、家族に届けてくれ。」


冒険者「これも頼む。妻に……“ごめん”って伝えてくれ。」


ウゼン「あれ……遺書か?」


レット「たぶんね。帰還できるのはメッセンジャーだけかもしれないから。仲間たちは彼らに、最後の伝言を託すの。」


レット「……もし私たちが勝てなくても、せめて彼らがギルドに情報を持ち帰る。それだけは果たさなきゃ。――そういえば、あなたも何か書いておかなくていいの? ウゼン。」


ウゼン「……そうだな。念のために書いておくよ。君はどうなんだ? レット。」


レット「……私の死を悲しむ人なんていないから、いつも書かないの。」


ウゼン「……そうか。」


俺は、キウイとガブリエルに謝る言葉を書き、ガリアの工房に届けてくれと頼んで、メッセンジャーに手紙を託した。


もちろん、簡単に死ぬつもりはない――これは、ただの保険だ。


三十分ほど休憩した後、俺たちは再び立ち上がり、ダンジョンの最奥へと進む。もう誰一人、迷いや後悔の色を浮かべてはいなかった。


そして、通路を抜けた先には――とてつもなく広く、まばゆい光に包まれた部屋があった。


突然の明るさに、目を細める。つい先ほどまで暗闇の中にいたせいで、光が眩しすぎたのだ。


その部屋は、直径200メートル以上はあるだろう。山の内部にあるにもかかわらず、天井は崩れる様子もなく、無数の白く輝く結晶が広がっていた。


俺は専門家ではないが、一目見ただけでこの結晶が非常に高価なものだとわかる。道中にあった紫の結晶とは比べものにならない。


これがダンジョン攻略の報酬なのだろう。だが、その前に越えなければならない“試練”がある。


部屋に入った瞬間、それまで感じていた“喰らわれるような気配”が一気に消えた。そして――部屋の奥で、もっとも異様な存在が動き始めた。


最初は、ただ紫とピンクの結晶の山にしか見えなかった。しかし、それはゆっくりと立ち上がり――二つの頭を高く持ち上げて、あくびをした。


その体は、紫の岩のような鱗に覆われ、背中には鋭利なピンクの結晶が突き出している。尾は体の二倍以上の長さを持ち、地面を這うように伸びている。


その姿は、四足のドラゴンに酷似している。だが――翼がない。正確には「ドレイク」と呼ばれる種だ。


ただ存在するだけで、空気が重くなる。そして、俺たちを見つめるその眼差しには、まるで“踏み潰されるような”威圧感があった。


ジョルネスの図鑑にあるオロギスの説明と完全に一致している――紫色と結晶を除けば。だが、その異質さが、この存在を“別の何か”に変えている。


[エイドン]「アグリス――“アバター上位”クラスの魔物。オロギスの血を引く希少な亜種であり、周囲の大地を圧縮して結晶化する能力を持つ。灼熱の怒りと恐るべき知性を併せ持ち、獲物を弄びながら恐怖と死を与える。」


……嘘だろ。


ウゼン「ア、アバター上位……だと……?」


思わず声が漏れた。その瞬間、仲間たちの顔から血の気が引いた。二人の冒険者と三人の支援職が、その場に膝をつく。


レット「まだ諦めないで! 私たちはこういう事態も想定してたはず!

あの奥を見て! あの魔物の後ろに――通路がある!」


レット「あそこが脱出口かも! メッセンジャーを守って脱出させれば、ギルドに知らせることができる! いい? イアイオン、指示を――……イアイオン?」


俺は視線をアグリスから逸らし、イアイオンの方を見る――その瞬間、言葉を失った。


俺たちのリーダーであるはずの男。オザスコ最強のEランク冒険者(実質Dランク相当)が――震えながら、後ずさっていた。


イアイオン「……あれは……勝てない。あれは、死そのものだ……」


声がかすれ、囁くように言った。

なぁおい……ついさっきまで、「任務が最優先だ」って言ってたのお前だろ?


イアイオン「ああああああああああっ!!」


彼は背を向け、逃げ出した。来た道を戻ろうとしたが、直後に地面から巨大なピンクの結晶が突き出し、出口を塞ぐ。


イアイオン「ふざけんなああああ!! 開けこのクソがあああああ!!! 出せよおおおおお!!!!」


そのみっともない姿に怒りが湧くが――今はそれどころじゃない。俺は再び視線をアグリスに向けた。


……まずい。動き出す!


視界の端で、イアイオンが「クラスター・アッシュ」を結晶の壁に放とうとしているのが見えた。完全にモンスターへの警戒を失っている。


ウゼン「皆、気を抜くな! 今すぐ避けろ!!」


俺の叫びに驚き、皆が即座に横へ飛び退いた。跪いていた者たちすらも。


次の瞬間、地面から結晶の槍が何本も突き出し――さっきまで皆がいた場所を貫いた。


ほとんどが間一髪で避けられたが、一人の支援職だけが避けきれず、腹を貫かれた。


俺は地面に着地し、しばらくその苦しむ姿を見ていたが……やがて動かなくなった。


そして、後ろを振り返ると、イアイオンも十本以上の結晶の槍に貫かれていた。


呆然としたまま顔を上げる。アグリスが、二つの頭を天に向けて――雄叫びを上げた。


耳が痛くなるほどの轟音。


……あれは、絶対に勝てる相手じゃない!!

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