第40章:死の連鎖
ダンジョンの奥に進むにつれて、モンスターの数は増えていった。だが、出現するのは基本的に三種類だけだった。クリスタルスパイダー、クリスタルスライム、そしてスケルトンだ。
Letの話によれば、俺たちが来る前に多くの冒険者がこのダンジョンで命を落としたらしい。それなら敵が多いのも納得だ。ただ、問題なのはその数であって、強さではない。
実際、奴らはかなり弱い。正直に言えば、もう少し強ければ俺にとっても丁度よかった。そうすれば多少は苦戦して、俺も強くなれるからだ。
それもこれもスキル[Infighter]のおかげだ。このスキルの効果で、俺は戦いを通して強くなることができる。だが、それは困難や危険が伴う戦闘でなければ意味がない。また、魔法の概念を理解することでさえ強化の糧になる。
例えばAlroseとの戦いでは、俺は一気に10レベル近く上がった。だが今の状況では、クラス「上級」のOrogisでさえ、俺を成長させられる唯一の存在だろう。
ちょうど今、俺たちはクリスタルスライムとの戦闘を終えたところだが、俺は一切戦闘に加わっていない。Gariaはこの任務が、自分の武器を託すに相応しい存在かどうかを見極める試練だと言っていたが、このままではあまりに簡単すぎる。
……Kiwiと変なことをしていなければいいが。
魔力核――いや、「MC(Magic Core)」を回収したあと、俺たちは再び探索を再開した。このあたりではクリスタルの密度が非常に高く、壁に近づきすぎると切り傷を負ってしまうほどだ。
以前のように壁の近くでスケルトンに不意を突かれないよう、Iaionは皆に警告していた。そのおかげで壁から距離を保っている。
隊列は三列縦隊で進んでいる。スペースを取りすぎないためと、隊が分断されないようにするためだ。この陣形により、不意打ちはなくなり、敵の排除も迅速に進んでいる。
……と、そんなことを考えていると、突然空気が重くなった。俺が感じる魔力も一気に濃く、粘ついたものに変わった。俺は顔をしかめ、冷や汗が頬をつたう。
Let「これは……アビサル……! ものすごい魔力、それに悪意と殺気が混じってる!」
反射的に全員が立ち止まり、震え始める。俺の体中に痺れが走り、背筋に強烈な寒気が走った。
まるで「ここから立ち去れ。さもなくば死ぬ」とでも言われているようだった。
クラス「上級」の存在が、こんなに濃密なオーラを纏えるのか?
この突如襲ってきた理不尽な恐怖のせいで、俺のスキル[Tenaci]が自動的に発動した。このスキルはもともと生存に特化したもので、命の危機に自動で作動するようになっている。
だが、これはつまり――この先にいる「何か」は、とてつもない力を持っているという証拠だ。
Iaion「い、行こう……せめて、その姿だけでも確認しないと……」
Iaionの命令に従って、仲間たちは戸惑いながらも歩みを進める。だが、俺の足は動かない。前に進もうと、足に力を込めなければならなかった。
なぜだ? 俺はこんなにも怯えているのか?
??「み、みんな……うしろで、なにかが……動いてる……」
ドォォォォン!!
爆音が背後で鳴り響く。全員が即座に振り返り、武器を構えた。そして、爆発の発生源を見た瞬間、俺たちは凍りついた。
巨大な拳が地面に突き刺さっていた。その下には血の海と一本の脚。後方にいた仲間が、完全に押し潰されていた。
俺は呆然と立ち尽くした。どうすればいいかわからなかった。仲間が目の前で死ぬのを見たのはこれが初めてだ。それも、あまりにも残酷で生々しい死だった。
胃が強烈にきしみ、吐き気に襲われる。しかし、体中の筋肉が硬直していて、食道すら動かない。
俺はゆっくりと視線を上げ、その拳の持ち主を見ようとした。だが、目に映ったのは岩だった。バスケットボールほどの青い岩から、肉片が伸びて巨大な青い腕に繋がっている。
いや、それだけじゃない。後方にはもう一本の腕があり、下には筋肉質な巨大な足が二本……この化け物は、見るに堪えないほどグロテスクだった。
[Eidon]
『アンデッド・クリスタル・ゴーレム』
クラス:上級。奇怪な魔力を取り込み、死体から蘇ったモンスター。上半身を持たず、四肢のみで構成される。魔力核(MC)が露出しているため弱点は明白だが、その代わりに耐久力と防御力は通常のモンスターの10倍。生前の肉体が強ければ強いほど、モンスターとしての種別も高位に分類される。
こ、これも冒険者の成れの果てか? つまり、スケルトンの上位互換で、しかも元はさらに強い冒険者だったってことか……!
しかも「上級」クラス……つまり、これはとてつもなく厄介な相手だ。
これは調査任務だった。ここに来ているのは「上級」レベルの冒険者ばかりのはず。なら、単なる「上級」モンスターなら問題はないはずだった。
だが、これはモンスターから生まれた別のモンスター。なら、普通は元の存在よりも弱くなるはず……だが、今目の前にいるこの異形がすでに「上級」ならば――このダンジョンの主は、それより上の存在!
俺たちには、これに対抗できる戦力も人数もいない! 今すぐ撤退しないと――だが、目の前にはすでに巨大なモンスターが立ちはだかっている!
Iaion「くっそぉぉぉ! 全員、攻撃開始!!」
リーダーの怒号と共に、仲間たちは雄叫びを上げながらゴーレムに突進する。
Uzen「待てっ! そいつは上級クラスだ、気をつけろ!」
俺の声を聞いて彼らは立ち止まろうとしたが、すでにゴーレムの攻撃範囲内だった。奴は腕を一振りし、冒険者の一人を壁に叩きつけた。
全員が凍りついた。
Iaion「うおおおおおっ!!」
Iaionは怒りに任せて突撃し、斧で攻撃する。だが、ゴーレムは片腕でそれを受け止めた。
そのままIaionを弾き飛ばし、彼の体はものすごい勢いで後方へ吹き飛ばされる。だが、彼は上手く着地し、鎧にはひびが入っただけで済んでいた。
そうだ……Letは言っていた。Iaionは「上級」とも戦える実力があると。彼が時間を稼いでくれれば、俺たちも態勢を立て直せる……はずだった。
だが、その希望はすぐに打ち砕かれる。影から、もう一体のゴーレムがIaionの背後に現れたのだ。
最初の攻撃はかろうじて避けたが、続く蹴りを斧の柄で受け止める。
Iaion「みんな……こいつは任せた……俺はもう援護できそうにない!」
そうだ……まだ希望はある。皆で力を合わせれば、きっと……!
バキィッ!! ドォォォン!!
だが、俺の希望は再び踏み砕かれる。隣の壁が崩れ、さらにもう一体のゴーレムが姿を現し、俺とIaionの間に立ちはだかった。
三体……!?
これじゃあ、勝ち目なんてない……!
Let「Uzenっ! 気をつけて!」
俺の頭の中は混乱の嵐だった。全員を生きて脱出させる方法……何かないのか?
――あった。卑怯な手かもしれないが、今はそれしかない!
Uzen「Let、俺がこいつを引きつける! その間にあっちの奴を倒して、終わったらすぐに助けに来てくれ!」
Letは一瞬目を見開いたが、すぐに頷いた。俺はゴーレムに向き直り、剣を抜いた。
Uzen「さあ、やろうか……このクソでかい化け物が!」