第35章:エーテル結晶
扉の先にはガリアの工房があった。天井は先ほどの部屋より少し高く、部屋自体も非常に広い。壁は店と違って木ではなく石でできている。
周囲を見渡すと、6つの異なる炉がある。おそらく、それぞれ別の作業のためだろう。俺の身長に近い大きさの金床と、その隣にテーブルがあり、上にはハンマーのようなものが置かれているが、高すぎてよく見えない。
彼は金床の後ろに座り、俺を見つめた。
ガリア「まず最初に、君たちは一体どうしたんだ?なぜその子を抱えている?」
ウゼン「あ、すみません。彼女は歩けないんです。背骨をひどく負傷して、足が動かなくなってしまって…」
ガリア「ふーむ、まあいい。ところで、あのクソ野郎のアイロンはどうしてる?まだ不機嫌か?」
その言葉を聞いて、俺はうつむいた。侮辱の言葉ではあるが、そこには思い出が詰まっている。彼らは親友だったに違いない。
ウゼン「それが…」
ガリア「ん?なんだその悲しげな雰囲気は、坊主?」
ウゼン「残念ですが…アイロンは亡くなりました。」
ガリア「なに!?誰がそんなことを!!?」
ガブリエル「おいおい、ドワーフのおっさん、最近のニュース知らねぇのか?帝国がリンドンを襲って、首都を地図から消しちまったんだぞ。」
俺たちが街を歩いている間にもこの話はよく聞いたし、すでに噂は広まっているようだ。ガリアは口元に指を当てて俯き、思案した後、小さく呟いた。
ガリア「……つまり、帝国は本当に動いたんだな。彼らが言ってた通りに…」
ウゼン「ガリアさん?」
ガリア「いや、気にするな。あいつはウザい奴だったが、それでも友達だった。少しショックだ。」
ウゼン「…分かります。」
ガリア「だが、泣いても何も解決しない。で、お前は帝国に復讐するつもりか?」
俺は少し考えた。あの時、俺は怒りに任せて「復讐する」と言った。でも今思えば、それは感情に飲まれていただけだった。でももちろん、アイロンやキウイにあんなことをした奴は許せない。
アルロゼはどうやら皇帝の命令で動いていたようなので、俺の怒りは彼だけでなく、皇帝にも向けられる。
だけど、どちらも倒せる相手じゃない。アルロゼは圧倒的に強く、皇帝は触れることすらできない存在だ。どう考えても俺には無理だ。
……いや、俺の本当の敵は邪神じゃなかったか?カルマディオスに比べれば、皇帝もアルロゼもただの蟻みたいなもんだ。
ウゼン「それが主目的じゃないけど……うん、俺はアイロンとリンドンのために必ず復讐する!」
ガリア「なるほど。お前なら帝国を打ち倒して、あの戦争狂いを倒せると信じてるぞ。」
ガリア「アイロンの手紙にはこう書かれていた。お前はとても強く、凄まじい潜在能力を秘めているってな。それゆえに、俺はお前にふさわしい武器を作らなきゃならん、と。」
彼は俺に向かって腕を伸ばした。握手でも求めてるのかと思って手を上げた瞬間、彼は腕を振って俺の後ろの何かを掴んだ。
キウイ「きゃああああっ!?」
ウゼン「おい!何してんだよ!?」
彼はキウイを赤ん坊のように抱えて、テーブルの端に座らせた。
ガリア「あいつの頼みは受けるさ。友の最後の願いを断れるわけがないからな。だがまずお前を分析しないといけない。彼女は邪魔だ。」
つまりキウイをどかしただけか。ビビった…まあ、俺の武器を作るんだし、仕方ないか。
ウゼン「あー、その、俺の情報が必要なんですよね?」
ガリア「いや、必要ない。[アナリシス]!」
彼は眼鏡を外すと、右目が強い緑の光を放ち始めた。なんだこれ、スキルか?
しばらく俺を見つめたあと、眼鏡を戻し、また先ほどと同じように考え込む姿勢を取った。
ウゼン「ガリアさん、今のは何ですか?」
ガリア「俺の“情報魔眼”さ。対象を観察することで、必要な情報を全て把握できる。もうお前の戦闘スタイルやその他のことも分かった。」
ガリア「お前はバランスが取れている。力、速さ、機動力、技術、魔法を融合させたスタイルだな。ひとつ言うなら、お前のマナはレベルに見合わないほどとてつもなく大きい。」
ガリア「だが魔力そのものは量の割に普通。そこに再生能力の高さを加えると、お前は“耐久型の戦士”ってところだな。」
ガリア「なるほど、やるべきことは決まった。大剣使いのお前に合った理想的な武器を作るため、最高級の素材を使う。ただし、金はめちゃくちゃかかるし、素材集めもめっちゃ大変だぞ。」
ウゼン「俺が素材を集めるんですか?」
ガリア「そうだ。こっちでも魔法金属は多少使うが、一番重要なのは、お前の“魔力・体格・戦闘スタイル”にぴったり合う“魔物の魔核”だ。ただの魔物じゃダメだ。」
ガリア「幸運なことに、ちょうどその種の魔物が近くに現れたところだ。そいつを狩って、倒して、魔核を手に入れてこい。その素材の名は『エーテル結晶』だ。」
ウゼン「えぇぇっ?」
ガリア「ちなみにこれは、お前がこのレベルの武器にふさわしいか試すための“試練”でもある。だから、その横のうぬぼれ野郎を連れて行くのは禁止な。」
ガブリエル「はぁぁぁん!?!?」
ガリア「その魔物の名は『オロギス』。水晶のドラケだ。お前より強くて危険だが、助っ人を一人くらいなら許す。」
ガリア「今、冒険者ギルドが討伐チームを組もうとしているから、そこに参加して一緒に行け。」
危険な魔物か…楽じゃないな。でもその後に強力な武器が手に入るなら、やる価値はある。あ、そういえば、聞きたいことがもうひとつあったんだ!
ウゼン「分かりました。絶対に素材を持ち帰ります。ただ、もう一つ聞きたいことがあります。」
ガリア「言ってみろ。」
ウゼン「キウイの足の件です。この街で治せる場所はありますか?」
ガリア「あるにはある。教会だな。だが、俺はあまり勧めない。そこでは魔法で治療をしてくれるが、料金がバカ高い。しかも、治せるのはせいぜい彼女の潰れた目までだ。」
ガリア「脳や脊髄みたいなものになると難しい。高額を取られて、結局『目しか治せません』って言われるのがオチだ。もし本気で治すなら、教会の本部がある聖国アレクシオスまで行くしかないな。」
ウゼン「それでも構いません。とりあえず目だけでも治せれば十分です。」
キウイ「ダメ!ウゼン、あなたは分かってないの?もし教会に行ったら、武器を作る資金がなくなっちゃうのよ!」
あ、そうだった……俺の持ってる金は武器のためだけのものだ。武器か…キウイの目か…
キウイ「私のことは心配しないで。今は武器のほうが大事。後でアレクシオスに行って、完全に治してもらおう。」
ウゼン「でも、キウイ…!」
俺には決められない!どうすればいいんだ…!
ガリアが真剣な表情でキウイの方を向いた。
ガリア「[アナリシス]……ふむ、なんとかなりそうだな。」
そう言って、彼は俺の方に向き直り、腕を組んだ。