第3話 深淵へ
前回は突如として異世界へと転移した右善。今回はその新たな世界での一歩目が描かれます。
森へと進みながら、思考に沈む。
「これは少し変だ…専門家とは言えないが、転生もののマンガならいくつか読んだことがある。普通なら転生してゼロから人生をやり直すんじゃないか?確かに俺は死んだ…でも、元の体のままだ。それに、死ぬ前に着ていた服や装備もそのまま…」
腰周りを探ることにした。
「全てが死ぬ前と同じ場所にあるなら…ナイフとナックルダスターもここにあるはずだ」
手を上げて確認すると、やはりそこにあった。疑問はさらに膨らむ。普通なら特殊能力や伝説の武器を手に入れるものじゃないか?でも、このファンタジー世界で俺を守ってくれるのは、小さなナイフとナックルダスターだけだ。
不安そうにため息をつく。
「襲われたらどうする?格闘技の経験はあるから、人間同士の戦いならなんとかなるかもしれない。でも、ファンタジーのモンスター相手じゃ無理だろ。はぁ…安全より深刻な問題がある。腹が減って死にそうだ」
(ウゼン)「ウサギとか捕まえられるかな…?」
空を見上げ、再びため息。
「狩りの仕方も、火をおこして肉を焼く方法も知らない。喧嘩は強いけどな…現代人から原始人に退化するとは思わなかった」
ふと見上げると、空高くを二つ…いや、三つの光の束が横切るのが見えた。
「あれは何だ?飛行機には速すぎる…流星みたいだ」
その美しくも奇妙な光景に見とれていると、森中に響き渡る苦悶の叫びが聞こえた。
「今度は何だ…?間違いなく人間の声だ」
少し躊躇した後、叫びの方向へ向かうことにした。速度を上げ、障害物を避けながら走る。音の源に近づくと、慎重に進むべきだと判断。ナイフとナックルダスターを構え、木陰に身を隠しながら近づいた。
その先で見た光景に驚愕する――異なる二つの集団が戦っていた。その残虐さは狂気的で、今まで映画でしか見たことがないレベルだ。重装備の集団が無慈悲に敵を斬り伏せ、手足を切り落としていく。
もう一方の集団は、数的有利にもかかわらず圧倒されていた。10人の騎士対50人のボロをまとった長マントの集団…まるで盗賊のようだ。
「何てこった…あの声の主は『この世界は平和だ』って言ってなかったか?なぜ武装集団同士が殺し合ってるんだ?」
危険を感じ、そっと距離を取ろうとする。
「格闘戦には自信あるって言ったけど…これは無理だ。あの騎士たち、普通の人間じゃない動きしてる。剣の刃すら見えない速さで振ってる。こんな高度な技…盗賊たちに勝ち目はない。戦いというより虐殺だ」
突然、盗賊たちの陣形の真ん中で爆発が起こる。何事かと目を凝らすと、軽装鎧を着た女性騎士がサーベルを構えているのが見えた。
(女騎士)「今だ!私の魔法で敵の陣形が崩れた!」
思わず耳を疑う。
「今…魔法って言ったか?あの威力が魔法?! ルール違反だろ、ありえねえ!こんなの対抗できるわけない!」
次の瞬間、女騎士がこちらの方へ振り向いた。
「まさか…気づかれた?! どうやって?かなり離れてるし、音も立ててないのに!」
(女騎士)「木の陰にいる!蛮族の一人が包囲しようとしてる!」
額に冷や汗が流れる。
「この女、ヤバすぎる…感覚が鋭すぎる。いや、問題はそこじゃない!俺を敵だと思ってるのか?! なぜだ?!」
(騎士)「キウィ隊長、任せてください!あの蛮族の首、刎ねてみせます!指揮に集中してください!」
キウィの横にいた騎士が熱く宣言した。長い髪を一つに結び、浅い顎鬚を生やした男だ。殺気立った目でこっちを見ると――そのまま猛スピードで突進してくる。
慌てて背を向け、全力で逃げる。
「移動術と逃走スキルには自信があるんだ…舐めるなよ!」
振り返ると、彼との距離がかなり縮まっている。
恐怖に顔を歪め、猿のように頭上の枝をつかんで木に登る。
「簡単には逃げられそうにない…パルクールで全力を出すしかない。幸い、足場はたくさんある!」
騎士は依然として執拗に追ってくる。この時点で、すぐ真下まで迫っている。木がなければ、とっくに捕まっていただろう。進み続ける中、騎士は眉をひそめて叫んだ。
(騎士)「卑怯者のクズが!男としての誇りはないのか?! 逃げ回ってないで戦え!…無視するつもりか?! ならば死ね――【衝撃波】!!」
必死に無視して逃走に集中しようとするが、最後の言葉で凍りつく。「【衝撃波】」と叫んだ瞬間、彼の剣が蒼白に輝き、そのままこちらへ振り下ろされた。白い軌跡が刃に沿って広がり、直線的に飛んでくる。
「嘘だろ…数メートルも離れてるのに、剣が届くのか?!」
悪い予感がして、急停止する。白い軌跡――いや、斬撃が目の前を通過する。もし止まっていれば、真っ二つにされていただろう。しかし、急停止の反動でバランスを崩し、木の上から地面へ転落する。
(ウゼン)「クソが――!」
地面に尻餅をつき、痛みで叫ぶ。横を見ると、騎士はもうすぐ目の前まで来ている。慌てて後ずさりするが、騎士は一瞬前にいた空間を斬り裂く。なんとか体制を立て直し、構える――左手にナイフ、右手にナックルダスター。騎士を鋭い目で睨みつける。
「逃げるのは無理か…選択肢はない。戦うしかない。幸い、奴の仲間からは離れた。一対一なら勝てるかもしれない」
逃げる意思がないと悟った騎士は、傲慢な笑みを浮かべながら構えた。
(騎士)「やっと戦う気になったか?良かろう!地獄へ送ってやる!!」
右善のキャラが少しずつ明らかになってきましたね。これからの成長や出会いにご期待ください!