第29章:脱出戦略
攻撃態勢に入り、いざ斬り込もうとした瞬間、不吉な予感が頭をよぎる。俺の直感はいつも正しい。それを疑うのは常に悪い考えだった。
バストゥの顔を見ると、彼は耳まで裂けるように笑っている。何かがおかしい。こいつは山賊なのか?こんな森で一人で生き延びるのは不可能だ。
王国の国境地帯だ。戦争が終わったばかりなのに、この男が一人でいるなんてあり得ない。どれだけ強かろうと。
だが、なぜこんな嫌な予感が?スキル【メタ】では何も感知できない。この薄笑い……まさか本当に一人で俺を倒してキウィを奪えると思っているのか?
待て、そうか!こいつは何らかの方法で俺の探知スキルを欺いていたんだ。なら仲間がいる可能性が――
(ウゼン)「なあ、お前一人じゃないだろ?仲間が潜んでるんだろ?」
(バストゥ)「ほう、感が鋭いな小僧。我々の【気配隠蔽】を感じ取るとは。年齢の割に腕は立つようだが、経験が足りん」
彼が言い終わる前に、後方の茂みから槍を持った上半身裸の男が現れる。くそ、やはりいた。おそらくさらに多いはずだ。
考えなしに突っ込んでいたら、キウィが無防備になっていた。2対1だ。一人なら【ラース】で瞬殺できたが――
問題はキウィまで攻撃してしまうことだ。俺は甘かった。「守るものがあれば強くなれる」なんて簡単に考えていた。
この遭遇がそれを否定した。いや、決めた。たとえ鼠のように逃げようと、彼女を守り抜く!
二人のレベルを確認する。バストゥはレベル24、槍持ちはレベル22。
これがこの世界の標準か。自分を強いと思っていたが、ようやく戦士と呼べるレベルに達しただけだ。
数歩下がり、馬車の荷台に近づく。キウィは恐怖の表情で槍持ちを見つめている。
(ウゼン)「キウィ、大丈夫だ。作戦がある。俺の言う通りにしてくれ」
小声で伝えると、彼女は躊躇いながら頷いた。
(ウゼン)「囮になる。その隙にカゼは全速力で走れ。この位置では戦いにくい。包囲を抜ければ勝機はある」
(キウィ)「でも私を置いていくんですか?」
(ウゼン)「大丈夫。追いつく。追って来たら倒す。確実に勝てる」
(キウィ)「確実じゃないでしょう?私は――」
(ウゼン)「聞け。止まるな。俺が勝てば追いつく。負けても次の街まで走れ。人間の脅威には傍らの金貨を使え」
(キウィ)「私……足手まといですね」
涙を浮かべ俯く。
(ウゼン)「違う。君がいなきゃ、これは復讐の旅でしかない」
彼女は混乱したが、泣き止んだ。異世界のジョークは通じないか。
(バストゥ)「何を密談してる!こっち来いと言っただろう!」
剣を向け怒鳴る。挑発しなくても短気な奴だ。
(ウゼン)「作戦会議だ。覚悟しろ!」
剣を振り上げ、周囲に20個の火球を出現させる。槍持ちに4発、バストゥに6発、残りは森中に放つ。
魔法の炎なら消せる。火球が爆発し、槍持ちは軽傷を負う。バストゥは直撃と衝撃波に巻き込まれる。
カゼの尻を叩き、馬車は疾走する。キウィは荷台に掴まる。俺は並走する。
槍持ちが追いかけてくるが距離がある。煙幕を通り抜ける時、バストゥの怒号が響く。
「卑怯者め!!」
煙中で斬りつけてくる。【メタ】で位置を把握し、盾になる。
煙幕を抜けた。包囲は突破だ。だが追跡が始まる。止めねば。
(ウゼン)「キウィ、頼んだ!すぐ追いつく!」
走るのを止める。カゼは距離を開ける。
二人が煙幕を抜け突進してくる。さらに火球で炎の壁を作る。
(ウゼン)「さあ、本番だ!相手は俺だ!」
構える。マナは残りわずか。【レイジフィスト】のため温存だ。
槍が突く。かわし、大剣を振るう。バストゥは跳び、槍持ちは後退。
(バストゥ)「この野郎!!」
斬撃を石の大剣で受ける。金属音が響く。
剣を振り上げ突く。バストゥは剣先に乗り、首を狙う。大剣を振り回し、彼を放る。
槍持ちの攻撃も【メタ】で感知。槍の柄を掴み、体を旋回させ大剣で斬りつけるが――
バストゥが足元を斬る。攻撃を中断し跳躍。木に足をかけ、蹴りつけて突進。
二人は後退。くそ、二人が相手では厳しい。
再び構える。
絶対に勝ち、キウィのもとへ駆けつける!