かつて街が地獄となった理由
(イルミナーテン…ようやく尻尾を掴めたか!)
ずっと探し求めていた憎き組織の一員が、今目の前に居る。
正直目の前のコイツを「今すぐ切り捨ててやりたい!」と、僕の中で黒い感情が激しく蠢き、今にも襲い掛かろうとする自分の負の感情を必死に僕は抑える。
(まだコイツに攻撃を仕掛けるな。
完璧な復讐を成し遂げる為にも、引き出せる情報を引き出すんだ!)
僕は必死に自分自身にそう言い聞かせ、己の中で激しく蠢くドス黒い感情を抑える事で平静を装い、目の前にいる宿敵にあえて話を続ける。
「…実態は誰も掴めないと言われる”幻の組織”の名前をこんな場所で聞く事になるなんてね。
そもそもお前は、本当にイルミナーテンの一員なのか?」
「幻の組織ですか…イルミナーテンの存在を知っていても、組織の実態を知る人物はこの世界に僅かしかいませんから、そう噂されているのも仕方ありませんが、イルミーテンはこの世界、『イノセントワールド』が生まれた頃から存在する実在の組織です。
そして私がイルミナーテンの一員なのかは、もう十分な情報を与えたので照明する必要はないと思いますが、まだ私がイルミナーテンの一員ではないと思うのでしたら、私と共に来て頂けば真実は直ぐに分かります」
「じゃあ仮に僕がお前に付いて行った場合、お前達は僕に世界を救う為に何をさせるつもりなんだ?」
「その質問にお答えする前に、一つ確かめさせて頂きたい事があります」
イルミナーテンの一員と名乗る者は、そう言った後にゆっくりと手を僕の方に翳すと
”バババババ!”
「!!」
手をかざした瞬間、突如無数の”透明な何か”を僕目掛けて飛ばして来た!
咄嗟に闇魔法で漆黒のシールドを展開するも、僅かに防御が出遅れてしまった為、何とか相手の攻撃は防げはしたが、結構ギリギリのタイミングだ。
「お見事ですね。 ではコレはどうでしょうか?」
奴がそう言いながら手を横に振ると、僕を人の顔程度の大きさの無数の球状の物体が囲んだ! そしてその直後に、無数の球体が一斉に僕を押し潰すように迫ってくる。
(今度は本当に逃げ道なしか!)
先程は不意を突かれたから攻撃を防御したが、今度は全方位かつ逃げ道のない攻撃だ。
コレは普通に避ける事は不可能と判断した僕は、予め仕込んでおいた影から影に転移する闇魔法を使って、その場から瞬時に離れる事で全方位の攻撃を回避した直後に、
”バーン!!”
という激しい炸裂音が、先程まで僕が居た場所に鳴り響く。
初撃の時点で油断は一切していなかったにも関わらず、回避行動に専念するしかない状況の連続は、流石にこっちは冷や汗をかかされたというのに、相手は攻撃後も平静を保っている。
つまりこの時点で相手はかなりの手練れ、いや、”今まで戦った誰よりも強い”相手だと思える実力を持っている。
(ふぅ…相手が相当な実力者である以上、正面から攻めるのは得策ではなさそうだね)
否応もなくそう思わされた僕は、一旦転移した場所にそのまま身を潜め、相手の出方を伺う事にする。
「コレも無傷で躱しましたか。
どうやら神遺物から力を引き出す者としての資格、イネーブラーとして第一段階には至っているようですね」
そう言いながら奴は、僕が身を潜めているダムの管理棟に体を向けてきたので、
(……「居場所は分かっている」という事か)
「さて、髑髏の闇騎士様、そのまま影に隠れたまま聞いて頂いて構いませんので、先程尋ねられた質問にお答えしましょう。
我々が貴男に求める物、それは聖遺物を扱える資格を持つ者である『イネーブラー』として神遺物を覚醒させ、その力を存分に引き出して欲しいのです」
つまりさっきの攻撃は、僕が今どれだけ「神遺物を扱えているのか」を確かめる為の力の攻撃だったと言っているのと同時に、僕に「まだ神遺物の力を完全に扱えていない」と言いたいのだろう。
これまで闇の神遺物を己が暴走しないで扱えるようになるために、多くの時間を費やしてきたつもりだが、イルミナーテンからすると「初期レベルでしか神遺物扱えてない」らしい。
流石にこれまでやってきた文字通り血が滲む努力を否定されるのは、僕としても癪だった事もあって、僕が今抑えているイルミナーテンに対する憎悪が、更に僕の中で蠢き出そうとするが、僕は「まだその時ではない」として、必死に憎悪の感情が表に出ないように抑える。
「……僕の神遺物の扱いが初期段階なら、お前はもっと上の段階に進んでいると言いたいのか?」
内なる憎悪を抑えつつ、既に居場所が割れている事を悟った僕は、得物を構えて戦闘態勢に入ったまま表に姿を現してそう尋ねたのは、僕の神遺物を扱えているレベルが「何故初期レベルだと評されたのか?」
その情報を得る為にも、あえて攻撃はまだ僕から仕掛ける事はしない。
「その通りです。
私はイネーブラーとして、既に第二段階まで神遺物の力を引き出す事ができます」
「だったら、見せてもらおうじゃないか! その第二段階の力という物を」
「それは今後の貴男の対応次第ですよ」
「つまり今の僕には「本気を見せる価値などない」と言いたいのか?」
「そんな事はありませんよ。 なんせ歴代の闇の神遺物のイネーブラー達は、闇の神遺物を第一段階に覚醒させる事すら出来す、命を落とす者しかいなかったのですから、あなたは過去の闇のイネーブラー達より優秀なイネーブラーです。
ですから貴方には、是非我々イルミナーテンの元に来て頂き、共に世界を救う道を選択して頂きたいですよ」
「つまり世界を救う為には”神遺物をより高い段階まで覚醒させる必要がある”とでも言いたいのか?」
「その通りです。
と言うよりは、それが出来なければ、この世界はそう遠くない未来で破滅の力に呑まれてしまうのですから、嫌でもやって頂きます!」
(この言い方だと、世界が破滅の力に呑まれるのは、思った以上早い段階にくるという事なのか?
それともイルミナーテンとしては何が何でも闇の神遺物を手元に置いておきたいと考えているのか?)
奴から断片的に得た情報から、イルミナーテンが本当に闇の神遺物を欲する理由を推測してはみるけど、なんだかしっくりこないが、例えどんな理由があっても僕は、イルミナーテンと共に歩むつもりは無い!
だからと言って今すぐ奴に切りかかるには、早い。
なんせ僕は、コイツにまだ”確認しておきたい”事があるから、会話を続ける。
「お前達が『どうして僕も自分達の手元に置いておきたいのか』その理由は良く分かった」
「では、私達と共に世界を救う道を歩んで頂けますか?」
「その答えを言う前にもう一つだけ聞いておきたい事がある。
8年前にこの街、サナッタシティが大勢のマフィア達による襲撃事件において、マフィア達に指示を出しあの事件を裏から操っていたのは、お前達なのか?」
「私達は彼らを一切操ってなどいません。 私達がやったのは、ある依頼をマフィア達に出しただけです」
「ある依頼だと?」
「はい。 この街サナッタ・シティに眠る神遺物を探すように依頼しました。
それと同時に、多くの人間に強い憎しみを抱かせるべく、この街の人間達を大いに苦しめる依頼を出しはしましたが、マフィア達がこの街で大いに犠牲者を出したのとは別物です。
なんせ彼等は行動は、依頼に対する判断から生まれたのですから」
「つまりお前達に責任はない……と?」
「はい」
「ふざけるな! あの事件…いや、お前達がマフィア出した指示の所為で、多くの人間が命を失ったんだぞ?
それなのに『自分達に責任はない?』だと! ふざけるのも良い加減にしろ!」
僕は目の前に居る人間に対して強い怒りを顕にした怒声を浴びせたが、相手は僕の怒りの声を聞いても何の反応もみせる様子はない。
「私達も失った命には申し訳ないと思っていますよ。
ですが、コレも我々の目的を達成する為であり、世界を救う為には仕方がない犠牲です。
なんせそのお陰で、我々の目論見通り『髑髏の闇騎士様という、過去最高の闇の神遺物のイネーブラー』が誕生したのですから」
「なっ!……貴様、その言葉本気で言っているのか?」
「もちろんです。 なんせ八つの神遺物の中で、闇の神遺物の覚醒度合いは、一位、二位を争うほど遅いのですが、その理由も、闇の神遺物の覚醒の為のキーが『増悪』である以上、あえて強い憎悪を生む環境を作り、その環境の中で憎悪に完全に飲み込まれない強い魂を持った者を見つける。
その実験が成功した時点で、この実験は世界にとって”とてつもない幸運な出来事”と言えるでしょう」
淡々と悪びれもなくこの街をかつて地獄に追いやった理由を話すが、その姿を見て僕が”今後どうすべきなのか?”その方針は確定した。
「……ふざけるなよ」
「ふざけるも何も、我々は世界を救い、より多くの人々を生き残らせるのが私達イルミナーテンの使命であり、その為ならば私達は幾らでも己の手を汚す覚悟があります!
その結果どれだけの犠牲が必要となったとしても、我々は決して世界と人類を救うまでは止まる訳にはいかないのです!」
そう答える姿は、今まで淡々と言葉を口にしてきた姿勢と違って、初めて”言葉に熱が入った”と思える姿だったので圧倒される。
が、だからと言って僕はコイツの、いや、イルミナーテンの主張を認めるつもりはない。
「より多くの人を救う為に、多くの人を犠牲にしても良い? そんな道理がまかり通って良い訳がないだろ!
何より『こんな物』を覚醒させるだけの為に父さんや母さんだけでなく、既に多くの人達が犠牲にしてるんだ! そんな他人の命を平然と犠牲にして作るような救いなど、まやかしに過ぎない。
そして人を殺して置いて何とも思わないような奴等に、そもそも世界が救えてたまるものか!
そもそも、そんな奴等と共に歩むなんて出来る訳ないだろ!」
「つまり『我々と共に歩むつもりはない』という事ですか?」
「……言うまでもない!」
そう言い終えた後、僕は目の前の敵を倒す為に、己の内に押さえていた憎悪を解き放つと同時に、怨敵に向かって駈け出した。
「ああ……この世界が破滅の危機に瀕しているというのに、その事を理解してもらえないなんて……こんなにも哀しいことはありません」
目の前の敵は、両手で顔を覆いながら己の独善が伝わらない事を嘆いているが、その姿に妙な哀しさを感じてしまうのは、気のせいだと思いたい…
最後まで読んで頂きありがとうございます。




