銀青色の子猫は、悪党から金品を取り戻す
「「「「「今日も隊長のお世話をしていただき、ありがとうございました!
ウィルフレッドさん」」」」」」
聖騎士隊のメンバーはそう言った後、ウィルさんに揃って頭を下げる。
「そんな大げさな。
僕はただ愚痴を聞いてただけで、そんな大したことはしてないよ」
「いえ、隊長の愚痴をウィルフレッドさんが聞いてくれるだけで、明日の隊長の機嫌は天と地ほど差がありますから、毎度ストレスが溜まった隊長のケアをして頂いて、大変助かってますよ」
「アハハハ……パラディン・ナイツの皆様も、エレンの扱いには苦労してるみたいですね……」
「そうでもないですよ、ウィルフレッドさんのお陰で」
「それなら良いんですけどね……では、パラディン・ナイツの皆さん、本日もお勤めご苦労様でした。
またこんな街の外れにあるバーで良ければ、いつでもお越しください」
ウィルさんはそう言って、酔いつぶれる手前まで飲んだくれたエレンさんを介抱しながら、お店から出ていく聖騎士隊の人達を見送っていた。
・・・
・・
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そして店から私とウィルさん以外誰も居なくなったことを、ウィルさんは確認した後、この店唯一の従業員である私の前にやってきた。
という事は、今日もあの件でお説教かな?
「……マリリン、君はどうしてここ最近毎度の如く、エレンに必要以上に突っかかっていくのかな?」
今日もウィルさんため息を付きながら、私が最近エレンさんにしつこく突っかかている理由を尋ねてくる。
「……別に、ただ私はエレノアさんに現状を、ハッキリと伝えてあげただけです。
だから私は、間違った事を言ったつもりはありませんよ、ウィルフレッドさん」
ウィルさんにそう淡々と伝えた後、再び黙々とバーの片付けの続きを始めた。
そんな私を見て、頭を抱えつつ困った表情を浮かべるウィルさん。
私がこのバーで働くようになってからしばらく経つけど、ここ最近毎度の如く、私とエレンさんがひと悶着起こしているのが、ウィルさんにとっては悩みの種みたい。
だけど私としては、ここ最近毎度の如くエレンさんと繰り広げている茶番劇こそ、私が聖騎士隊から”情報収集をしやすい状況が整っている状況”なのか!
その事を確認するための必須事項だから、私がエレンさんに突っかかって行くのは、私にとって必要な事なんです。
そもそも、酒に飲まれていない状態のエレンさんなら、私みたいな小娘の挑発に乗っかってこないと思うし、いくら私が泥棒稼業で鍛えた身のこなしと、私の得意な風魔法を駆使したって、本来ならあの狭い空間でエレンさんから、私が捕まらず逃げる事なんて出来る訳ない。
それなのに、あの人が私を捕まえる事が出来ないという事は、相当お酒が入った証拠であるし、私とエレンさんの追いかけっこを、本来なら「聖騎士が一般人を追い回すという聖騎士としてあるまじき事態」を、聖騎士隊の人達が、面白がって止めないで見ているという事は、聖騎士隊の面々も相当お酒が回っている状況ですから。
それはつまり私が、このバーで次に狙うターゲットの情報を、収集しやすい状況に入った合図なのだ。
お酒って人の判断力を鈍らせるから、いくら職務に忠実な聖騎士とは言え、酔いが回った状態だと、公の場では決して【口にしてはいけない情報】を、完全ではないにしても、うっかり断片的に話してしまう事が増える。
後は聖騎士達の話に聞き耳を立て、気になる話題が聞こえてたら。それとなしにその話題について触れる。
すると面白い事に、その内容に関する核心までは話してくれなくても、私が只の小さな町娘だと思って油断している事もあって、聖騎士達は断片的だけど、私が求める情報をうっかり口にしてくれる事が増える。
後はその僅かな情報をかき集めて、私が次に狙う悪党に狙いを定めた後、聖騎士達がターゲットの元に行く日取りを予測した上で、私が悪党からお金を奪うタイミングを見定める。
これこそ私事、銀青の泥棒猫が、誰にも捕まる事なく盗みを成功させている秘訣だ。
(って言っても、この流れで安定して盗みが成功するようになったのは、このバーで働くようになって、騎士と悪党が直接ぶつかる情報を、収集できるようになったからなんだよね)
だから、そこに関しては、このバーで働く事を条件付きで許可してくれたウィルさんに、とても感謝している。
*
私はこのバーで働く前から、悪党専門の泥棒稼業を初めていた。
っと言っても、実際は【悪党を専門的に狙っていた】というよりは、私個人の【復讐】のためだけに、悪党から金品を奪って、自分の【復讐心】を満たしていただけ。
そしてこの街の人達の中には、私が「盗んだ金品を、弱き者にバラまいている義賊」と言って、私の事を応援している人達がいるみたいだけど、その事だって実際に私が盗んできた金品を渡しているのだって「弱き者」と言うより、私の生家である”モーリス家”が、以前管理していた土地に住んでいた人達、要は本来の持ち主達に返しているだけだしね。
なんでこんなことを、私が始めたのか……私の生家であるモーリス家は、この街こと、サナッタ・シティの領主を代々務めているオーウェン家や、騎士の家系であるバーキン家のように、大きな力を持つ家系じゃない。
だけど、この街の有権者の中でモーリス家は、有権者が管理している地域に住まう人達と、最も上手に付き合えていたし、この街で最も多くの住民が住まう地域を管理していた事もあって、モーリス家が管理する地域は、この街で唯一”モーリス・タウン”という有権者の名前使って命名されるほど。
それだけ多くの人達から、信頼を得ていたモーリス家の事は、当時七歳だった私にとっても誇らしかったし、モーリス家と共に、モーリス・タウンで一緒に仲良く暮らしている人達の事も、自分の家族の次に大好きな人達だった。
だけどその状況が、ある時仇となってしまうなんて、この時の私は全く考えてもいなかった……
この街で最も広大なモーリス・タウンを治めてはいるけど、大した武力を持たないモーリス家は、八年前に起きた、この街とマフィアにおける抗争において、真っ先にマフィアに狙われてしまう。
マフィア達は、確実にモーリス家が管理するモーリス・タウンを奪う為に、サナッタ・シティを構成する13の地域に対して、攻撃を仕掛けた。
こうする事で、各地域を治めている有権者達が、簡単に「モーリス家に救援を送れない状況」を作っただけでなく、街に抗争を仕掛けてきたマフィア達の中で、最も強い勢力を持っていた”アーサニーク”が、モーリス・タウンを侵略する役割を以て、攻撃を仕掛けてきた。
「この街で強い力を持った有権者は、自分の管理地域での対応に追われている為、スグに救援に駆けつける事が出来ない」
そんな状況でも、モーリス家と、モーリス家を慕う住民達は、マフィアの侵攻に抵抗の意思を示した。
だけど、いくら抵抗の意思として自警団を結成してアーサニークに立ち向かう姿勢を見せても、モーリス・タウンが結成した自警団と、アーサニークが有するマフィアの部隊では、あまり力の差があり過ぎて、モーリス・タウンの皆が結成してくれた自警団は、簡単にアーサニークが率いる部隊に抑え込まれてしまう。
こうしてアーサニークは、いとも簡単にモーリス家の屋敷を占領してしまったのだけど、その際パパとママは、私と、私と歳の近い専属侍女だったキャサリンを屋敷から逃がす為に、あえて屋敷に残って最後までアーサニークに抵抗して、私が出来るだけ遠くに逃げれるように時間を稼ごうとした。
だけど、アーサニークは直ぐにモーリス家の屋敷に居る人間を皆殺した後、逃げた私の存在を察知し、私を殺す為に、逃げる私とキャサリンを追ってきたのだけど、まだ遠くに逃げれていなかった私達は、直ぐにアーサニークに追い付かれてしまった。
なんとか身を隠しながら逃げてはいたけど、このままだと見つかるのは時間の問題。
そんな絶体絶命の状況の中、私の専属侍女だったキャサリンが
「お嬢様、私がお嬢様の代わりとなり、あの者達を引き付けて時間を稼ぎます。
ですからお嬢様は、お母様が逃げる際に渡してくれた物を使って、何とか逃げ延びてください!」
そう私に言った後、キャサリンは私を逃がす為に、あえて私の影武者となって、アーサニークに捕まり、その命を私の代わりに使ってくれたから、私は何とか今日まで生き抜くことが出来た。
こうしてモーリス家は、マフィアに逆らった者に対する見せしめの如く滅ぼされ、この街とマフィアとの抗争おいて、最初に滅ぼされた有権者となり、モーリス・タウンはアーサニークに支配されてしまった。
だけどモーリス・タウンに住む人たちは、マフィアにモーリス・タウンが支配されても「マフィア達の侵攻には屈しない!」という意思を示すように、その場に留まって抵抗する姿勢を未だに見せくれている。
だけど、そんな住民の些細な抵抗などアーサニークは意にも介していなくて、未だにモーリス・タウンをモーリス家に変わって支配し続け、モーリス・タウンを我が物顔で掌握し続けている。
そんな私にとっては、憎くて仕方がない存在、アーサニークファミリー!
それにアイツ等は
「今の土地に住み続けたいなら俺らに従え!
もっとも従わなかったら只じゃおかないし、だからと言って俺達から逃げようたって絶対逃がさないから覚悟しろや!」
と言って、ファミリーに逆らう者には容赦なく暴力で訴えかけ、逆らう者には重税を課したりと、様々な非道な方法を使って住民を従わせ、強引に支配者としての地位を手に入れた。
こうする事で、他の地域の有権者達にも、表面上は住民が文句を上げず従順にしているように見えるので「住民からそれなりに信頼を得ている」かのように見せかけている。
こうして表面上は問題を浮き彫りにさせないようにする事で、アーサニークファミリーは、モーリス・タウンの支配権を維持し続けている。
だけどその裏では、今でも亡きモーリス家を慕ってくれている人達の生きる気力を、徐々にかつ着実にアイツ等は非道な方法で削ぎつつ私腹を肥やし続けているから、私は絶対にアーサニーク・ファミリーを許せない!
そんなこの町状況を、私は当初怯えつつ、お母様から屋敷から逃げる際に渡された、銀青の輝きを放ち、見る者の認識を大きく変えてくれる特殊な効果を持ったウィッグを使って、その身を隠しながらその状況を見ているだけだった。
だけど、あまりに見るに耐えれない状況を間近で見続けていた私は、モーリス家唯一の生き残りとして、パパとママがマフィアの手に掛かる直前まで心配していた町の人達を「何とかして救いたい!」と強く思うようになり、一人でもアーサニークファミリーと戦う決意を固めた。
だけど、私がいくら魔法八階位における高位属性である【第三位の風属性】に適合があっても、その属性をどれだけ上手く扱えるのかは扱う人次第。
正直に言って私は、今までロクに争いごとに魔法を使った経験もなければ、モーリス家がマフィアに滅ぼされてからずっと息を潜めつつ世間から隠れるように生きて来た。
だから私の風魔法は、非力かつ逃げる事に特化した方向に育っていたため、戦闘には不向きな性質の風魔法になってしまった。
私の魔法の性質がこうなってしまったのは、生きる為に泥棒行為をあえてアーサニークと関りがある人間から盗みを行い、盗みの現場からスグに逃げる為に風魔法を多用していたから。
だから私は、今さら戦闘用に魔法を鍛えるよりこのまま逃げに特化された私の風魔法を活かして、私の大切な家族と私にとって姉妹のように育った侍女であるキャサリンや、モーリス・タウンで穏やかに暮らしていた人達。
私が大切だと思っていた人達の命を奪った奴らに、何とか一泡吹かせてやれそうな事と言ったら、精々未だに続けている奴らの活動資金を、より多く奪ってやる事ぐらいしか思い付かなかった。
だから正直、”こんなコソ泥じみた事”ぐらいしか出来ない自分に、不甲斐なさを感じながらも、本格的に始めた悪党専門の泥棒稼業だけど、世の中がお金で回っている以上、私の地道な泥棒活動は、思いの他アーサニークファミリーにとって痛手だったようで、私の事をファミリーが警戒し始めた時は、少しだけ奴らに対する復讐心が満たされた気がした。
それに私のやっている事はこの街の住民が称賛してくれるから、私は自分のやっている事が正しい事だと思うと同時に、こう思った。
「もっと大きな事をして、もっとアーサニークファミリーを痛い目に合わせてやらないと!」
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。
作品の設定において些細な変更と追加を行ってます。
まず魔法の階位を”七階位”としてましたが、諸事情で”八階位”に変更してます。
そして街の名前がようやく思いついたので、前話まで「この街」と言っていた町の名前は「サナッタ・シティ」としてます。
もし、この作品を読んで何か気になる事や、分からなかったことがあれば、遠慮なく言ってください。
そして、この作品が面白いと思ったり、続きが気になったら、良いねや、ブクマ等で応援して頂けると
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