元の世界、今の世界
「世界の真実?……はぁ、妄言も良い所だな」
僕は正直コイツと話すのもうんざりして来た。
誰もが知るこの世界の成り立ちを語った後に、この世界の真実は”違う”などと言い出され、これ以上話してもロクな情報は得る事はなさそうだ……
「妄言?
いえ、私がこれから話す事は真実だけですよ」
自信満々にそう答えてはいるが、どうにも胡散臭いと僕は感じてしまう。
「では、真実を話す前に一つお尋ねしましょう。
貴男はこのイノセントワールドが徐々に削り取られていく中で、考えた事はありませんか?
『果たして削り取られた大陸は何処に消えたのか?』と」
「……消えたも何も海に沈んでのであれば、沈んだ物は海の底にあるに決まっている」
「普通はそう思うでしょうね。
ですが実際は違います。
先程も言いましたが文字通り削り取られているのですよ。
この世界は」
例え海に大陸が削り取られたのなら、削られた大地は海の底に沈むだけだ。
だがソレが違うと言われても、コレは自然の摂理なのだから、変わりようがない。
だから益々コイツの言っている事が、僕には理解できなかった。
「悪いが言ってる意味が分からないな」
「そのままの意味ですよ!
貴男の言う通りもし土砂が水に沈めば、沈んだ土砂は水の底に積もります。
ですがこれまで沈んでいった大陸の痕跡は、沈んだハズの海域から『一切見つかっていません』
この事実をご存じでしょうか?」
「いや。
だが、そんな馬鹿げた話を誰が『はい、そうですか』と納得すると思うか?」
「でしたら、一度削られた大陸部分を調べてもらえれば分かります。
どれだけ海中を探そうとも、その場所には『大陸の一部が沈んだ痕跡など一切残っていません』から。
もしくは大陸が”破滅の力”に引き込まれる瞬間を目の当たりにすれば。私の言っている事が虚言でもなければ、妄言でもないという事が良く分かるでしょう」
普通に聞けば大げさな事を平然と穏やかに答える姿は、逆に怪しくも見える。
だけど僕にはコイツは嘘を言っている自覚はなかった。
なぜならコイツがこの話を始めた瞬間、コイツの憎しみが増大したのを感じたからだ。
それに自分が”その瞬間を直接見てない”と言えない言い表し方をするのは、直接その場を見た者にしか出来ない。
そのせいか僕は先程コイツの話を聞くのは、「うんざりして来た」と思っていたのとは打って変わって、コイツの話に真剣に耳を傾けるようになっていた。
「その言い方だと、お前は直接見たのか?
お前が言う『世界が削られる瞬間』を」
「ええ、その通りです。
私は実際にこの目で見たのですよ。
突如大地が何の前触れもなく海に呑まれるように沈み、沈んだ先にはこの世界の最果てである、エンドレスと同じ闇よりもドス黒くて、一寸先も見えないような暗黒が全てを飲み込んでいくのを……」
相変わらず口調は平静を装ってはいるが、やはり実際に体験した事に関する言葉には、説得力が乗るし、コイツがこの話で過去を思い返した事で”内心抑えていた何かに対する憎しみが溢れ出てきた”から、コイツの憎しみは増し、心境にざわめきが生じているのが何となく想像できてしまうのは、今の僕は憎しみを敏感に感じ取る事が出来るのもあるけど、強い憎しみが原動力の一つになっているのは、ある意味コイツと僕は同じ穴のムジナなのかもしれない。
「世界は削られていると言ったが、その理由を知っているのか?」
「もちろんですよ。
なんせ世界が削られているのは、そもそも私達『人』が原因なのですから」
「人が原因だと?」
「そうです。
元々この世界には世界の最果て”エンドレス”なんて存在しませんでした。
元々の世界は果てしなく広大の海が広がり、海の上には元のイノセントワールドより大きな大陸がいくつも存在しているぐらい世界は広大だったのです。
ですが、人がある事を諦めたことによって、世界は今の形へと変化してしまいました」
「……にわかに信じがたい話だ」
全く想像の付かないスケールの話だった為、呆気に取られてしまう。
「そう思われるのは仕方がないかと。
なんせこの事は、ある事情を踏まえてこのイノセントワールドに生まれて来る者にあえて記録に残さなかったそうです。
ですから今やこの真実を知る者は極僅かしかいません。
そもそも私も神遺物に選ばれなければ、この真実を知る機会すらなかったでしょう」
「ある事情とは?」
「それは髑髏の闇騎士様が、私達と共に道を歩みと仰ればお答えしましょう」
何でもペラペラ話してくれる訳ではなく、どうやら自分達の仲間になると言わない限り、最重要と思われる情報は話してはくれないか事か。
「悪いが今の時点で『お前達の仲間になる』と判断するには、判断材料が足りなすぎる」
「そうですか。
でしたらいい返事を頂く為にも話を先に進めましょう」
「その前に、もう一つ聞きたい。
人が諦めてしまった事とは?」
「世界の破滅を防ぐことです」
「なんだって?」
「正確言えば、破滅を防ぐのを諦め、”破滅から逃げる事で破滅を先延ばしにした”と言った方が正しいのかもしれませんね」
「その結果『この世界が出来た』とでも言うのか?」
「はい。
元々世界では、常に予測出来ないタイミングで世界は『破滅』という未曽有の危機に晒されていたそうです。
ですが元々の世界の住人は破滅と『対を成す力』を使い、何度も世界の破滅から世界を守り抜いていました」
「破滅と対を成す力?」
「はい、それは精霊神の力です。
世界が破滅の危機に陥った時、元々の世界の人達は八つの精霊神が与える試練を乗り越える事で、精霊神の力を自在に使いこなし、世界を破滅の危機から何度も救ってきました。
しかしこの世界が生まれる前、つまり1000年前に発生した破滅の力の侵攻を、元々の世界の人々は食い止める事が出来なかったのです。
止める事が出来ない破滅の力は、次々と海や大陸を破滅の力の一部として取り込み始め、元々の世界で人が住める場所は一つの大陸とその周辺の海域だけとなってしまった時、生き残っていた人々は破滅に抗う事を諦め、破滅から逃がれる為に破滅の力に侵されていない世界を残す方法を選びました」
「世界を別の世界に移したって……これまた更にスケールの大きな話になって来たね」
まさかこのイノセントワールドの誕生が途方もないスケールの話だと誰が予想できる?
全く、さっきから話の内容が壮大過ぎておとぎ話を聞かされているような気分だ。
「今までの話を要約すると、元々の世界の一部を別の世界にする事で生まれたのが、このイノセントワールドだと言うのか?」
「その認識で大方間違いはありませんが、先程私が言った事を覚えていますか?」
「確か……『破滅を先延ばしにした』と言っていたかな?」
「その通りです。
ソレが意味する事を分かりますか?」
これまでの話の流れから世界の真実を知ると言う者が、この先言わんとする事を予想するのは難しい事ではなかった。
「……つまり、結局人は破滅の道から逃れ切れていない?」
「残念ながらそうなのですよ」
内心当たって欲しくはなかったが、この答えからコイツが「人は破滅の道を進んでいる」と言い、「世界は削られている」と言っていた意味と原因が僕にもハッキリと見えてきた。
「じゃあ世界が削られているのは……」
「どうやら察したようですね」
そうコイツに言われると、僕は頭を抱えたくなった。
つまりこの世界が削られているというのは「未だ世界は破滅に浸食され続けている」という事は、いつかこのイノセントワールドは、完全に破滅してしまうという事なのだから……
最後まで読んで頂きありがとうございます。




