許されざる者
僕はシェイドが「向かえ」と言った方角をひたすら突き進んでいるのだが、その方向に進めば進むほど嫌な感覚と、不思議な感覚が強くなっていく。
そして感覚が強くなっていくにつれて、この二つの感覚が何なのかハッキリと感じ取れるようになった。
(コレは……強い憎しみに呼ばれている?
いや、それだけじゃなさそうだ)
僕の持つ神遺物は、自分の憎しみを増大させる以外に、相手の憎しみを感知する事が出来るようで、過去にもこの力のお陰で相手の位置を把握出来た事があった。
だけど憎しみ以外の何かを探知するのは、初めて経験する事だ。
憎悪|する闇を単純に魔道具として考えて、何かと交信できるなら、その対象は同等か同質の存在にだろう。
「じゃあこの先で待っているのは……」
もし僕の読みが当たっているなら、やっと僕はこの事件の黒幕の
いや、僕の真の敵の足掛かりを掴めるのだろう。
そして遂に強い憎しみを放ちながら、僕を呼ぶような感覚を放つ”何か”が居る場所へと辿り着く。
そこはこの街の最北に位置し、この街の生活になくてはならない水源であるダムだった。
ーーーー時は少し遡るーーー
「……そんな」
目の前で大爆発が起きて多くの人が逃げ纏う中、私は呆然と立ち尽くして目の前の光景を眺めることしか出来なかった。
あの大爆発は中央広場の特設会場が跡形もなく消し飛ばしただけでなく、会場内に入っていた人達の痕跡すら一切残さなかったから、どうしても目の前で起きた事を私はすんなり受け入れる事が出来ない。
だからあの大爆発が起きても「会場に入っていたあの人は実は無事なんじゃ?」なんて僅かな期待を抱いてしまったのかも。
だから私は、僅かな期待に縋るようにあの人を、ルーサ・ルカ様を探そうとした。
「……ルーサ様は?」
「……先程会場に入った」
「そんな……じゃあルーサ様は」
ウィルさんが爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた警備の騎士さんを介抱しつつ、あの人の所在を尋ねた答えは、私の僅かの希望を粉々に打ち砕いた。
「……嘘」
私はその場で崩れるように膝を付き、ウィルさんと警備の騎士さんの話を口では否定した。
だけどいくら口で否定しても、ついさっきまであった物が”跡形も無くなっている”という現実を突き付けてくる。
こうして私はやっとルーサ・ルカ様が死んだという現実を思い知った。
「私が…私がもっと早くあの封筒をウィルさんに見せていたら…」
私はこの時自分の行動を激しく後悔するしかなかった。
だって私がもっと早くウィルさんにあの封筒を届けていたら、ルーサ・ルカ様は死なずにすんだ。
私は自分の行動を激しく後悔するしかなかったけど、同時もっと強烈な感情が私の中で激しく燃え上がる。
「……許さない!
絶対に許さない、アーサニーク!!」
私の中で激しく燃え上がった感情、ソレは今まで抑えていたアーサニークに対する激しい怒りだった。
八年前に大切な家族や家臣達を殺された怒りと憎しみは、いつかあの男に復讐する時までしまい込んでいたけど、今の私はこの燃え上がるようでとても冷たい感情を抑える事が出来なかったから、ウィルさんに何も告げる所じゃなく、只怒りに身を任せてあの男がいるあの場所に一秒でも早く辿り着くために、私はこの街を風の如く駆け抜け、モーリス・タウンに戻る。
そして家に隠してあるママの形見のウィッグを被り、銀青の泥棒猫と世間に呼ばれる姿に変え、私は8年ぶりに生家に向かう。
あの男、アーサニークを倒す為に!
「おい、何かこっち向かってきてないか?」
「ったく誰だよ?
今からひと暴れしようって時に」
「さぁー?」
「とりあえず久しぶりの俺等の楽しみを邪魔する奴は」
「ぶっ殺しとくか!」
何人ものファミリーが私に向って敵意を向けて来た。
そんな状況と共に私の目に入ったのは、八年ぶりに見た私の家。
だけど私の家は、もはや単なる悪の巣窟だった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
もうこの家は、私が知っているあの家じゃない。
だけど、この家には確かに私が思い出を育み、幸せを感じていた家でもある。
そんな場所がこの街で最も憎い奴等の住家にされている。
その事実をハッキリと認識した私の怒りは、頂点に達した。
だから私は、怒りの籠った叫びをあげながらアイツ等に、憎しみを込めた蹴りをお見舞いしたのが戦いの合図になった。
「外が騒がしいが、何があった?」
屋敷の外が騒がしい事に気が付いたアーサニークは、側近に尋ねる
「どうやらあのコソ泥が、殴り込みをかけてきたみたいですね」
「へぇ、あいつコソ泥から鉄砲玉に転職したのか?」
「さぁ?
一人であの人数相手に頑張って持ちこたえているみたいですけど、多勢に無勢ってヤツです。
後数分もすればケリは付くでしょうから、アーサニークさんは気にせず”祭り”を初めてください」
大勢のマフィアをマリン一人で相手取って十分以上持ちこたえているのは、大健闘していると言っていいのだろう。
だが側近の言う通り現実は多勢に無勢も良い所であり、既に銀青の泥棒猫ことマリンの息は上がり切っており、もう限界を迎えている。
そんな様子をアーサニークは何気ない様子で眺めていた。
「ん?
なぁ、お前あのコソ泥の顔ハッキリ分かるか?」
「……いや、多少距離があるし、髪が顔を隠してるのでハッキリは解りませんけど?」
「そうじゃなくてだな、コソ泥の顔の形が分かるのかって意味だよ!
ここから正門の入り繰りまで距離があるにしても、普通なら顔の形ぐらいなんとなく分かる距離だろうが!」
「…そう言う事ですか。
確かに髪が浮いても、あのコソ泥の顔はどことなくボヤケますね」
側近が自分と同じようにマリンの顔が認識できない事を確認したアーサニークの顔が、突如ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「おい、俺達も正門に行くぞ」
「態々アーサニークさんが出て行かなくても」
「ちょっと祭りの前に、あのコソ泥と楽しく遊べる”良い余興”を思い付いた」
そう言ったアーサニークは、誰が見ても醜悪と評する笑みを浮かべながら正門に向かうのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




