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二人の子悪党

 【闇が深くなる時、漆黒の髑髏の騎士が悪を裁く】


 この街の住民達が、口を揃えてそう称える存在がいる。

 

 ヤツは漆黒の甲冑でその身を包み、素顔覆い隠している兜には、髑髏を模るという、強烈な意匠を凝らしていたので、その身を救われたという人達は、見たら決して忘れようがない意匠に従って髑髏の闇騎士(ダークナイト・スカル)とヤツの事を呼ぶようになった。


 ヤツは、私がこの街に戻ってくる前から、人知れず悪事を働き、住民達の平和を脅かしていた悪党達を、成敗していた。

 そんなヤツの活動方針は、その見たら嫌でも覚えてしまうような印象深い姿とは違って、誰にも知られないようにひっそりと活動していたので、その存在を知ってはいても、実際にその姿をお目に掛かれた人間は、極僅かだったため、その素性は、誰も知らない謎の存在だった。

 派手な格好をしておいて、人知れず行動しようとする少々不可解な部分もあるけど、ヤツの活動は、この街の各地に根付いてしまった悪党共を、各地で人知れず成敗して回っている存在であるため、この街に住民に【悪に堂々と立ち向かう闇の存在】として、称えられている。

 そんな人知れず悪党を裁いて歩く人間だから、ヤツは悪しき存在ではない事は分かっている。

 だけども、我々パラディン・ナイツとしては、ここ最近のヤツの活動方針が、非常に気に食わないのだ!


 ココ最近ヤツが取っている行動は、決まって私達が()()()()()()()()()の元に、私達より先に現れ、私達が悪党の元に辿り着く前に、襲撃し終えてしまっている。

 つまり私達が決死の覚悟を持って悪党の元に辿くと、そこに広がる光景は、不正取引に関する数々物的証拠と、ヤツによって打ちのめされて無力化された悪党達が、セットで転がっているという物! 

 ヤツは毎度の如く、私達が狙っている犯罪者を虫の息まで追い詰めてくれた後に、ご丁寧に犯罪の証拠まで揃ってる状況を作ってくれるのは、我々からすると”美味しい状況”なのは結果だけで言えば間違いない。

 これもヤツが、「自分に悪を裁く権利がないから、悪は法の下において裁かせようとしている」からだと思う。


 だけど、この行為を()()でやってのけるという事は、この街を守る為に王国から任命された我ら”パラディン・ナイツ”の事を【犯罪者を自分達で捉える事が出来ない無能】と皮肉っていると同じである。

 それに捜査権を持たないヤツがやっている事は、立派な不法侵入行為に値するし、公務執行妨害かつ、捜査の権限を持たない者の危険行為、かつ越権行為にも値するし、何より現場を混乱に招いている以上、ヤツのやってる事は、我々からすれば十分軽犯罪である以上、ヤツも子悪党になる。

 つまりは「労を課して悪党を捕らえるべき存在が、労を課さずして悪党を捕らえている」理由が、子悪党によって()()()に作られてしまっているこの現状は、我々パラディン・ナイツという特務部隊の沽券と、存在意義に大きく関わってくる以上、パラディン・ナイツはヤツこと、髑髏の闇騎士の存在を、決して認める訳にはいかないのだ!


 と言っても、ヤツの腕は確かなので、私達も過去に何度かヤツに対して「協力者として共同戦線を張れないか」という提案を持ち掛け、こちらからヤツに歩み寄る姿勢を試みた事もあった。

 だけどヤツは、こちらの提案を断るかのように、こちらの声明に対して「応じる必要ない!」と言わんばかりに逃亡し、その後も相変わらず私達より先に、悪党を裁こうとする姿勢を貫いている。

 よって私達とヤツは【決して相成れない関係だ!】とパラディン。ナイツは結論付けた。


 そして今日の捜査も、いつものようにヤツに先を越され、悪党を先に成敗されてしまっている……この不甲斐ない現状を思いしれば思い知る程、私は「この街に蔓延る悪党を成敗する」という己の職務を全う出来ない現実を突き付けられ、惨めな気持ちにさえなってくる……

 なんせ今日の捜査だって、必死に積み重ねた捜査や、このバーでウィルが拾い集めてくれた情報を元に、入念に準備を進めきた。

 そしていざ、「悪党共を捕らえる時が来た!」、と息巻いて現場に向かってみれば、ご丁寧に無力化された悪党共と、不正取引の証拠がセットで転がっている。

 こうして「今日もアイツに先を越された……」という現実を思い知らされると同時に、アイツにまた逃げられてしまった。

 挙句の果てに、今回の捜査の対象となっていた闇取引に使われる資金は、この街の人間が銀青の泥棒(シィーヴィング)(コラット)と呼んでいるコソ泥に奪われてしまうという、何とも屈辱的な結末を迎えてしまった事も、私達パラディン・ナイツにとっては、非常に頭が痛い。


 私達が、髑髏の闇騎士の次に【厄介者】として、敵視している銀青の泥棒猫!

 アイツは闇夜にて、まるでコラットの美しい毛並みのように、銀青色に輝く髪を靡かせながら、その異名の違わぬ猫のような俊敏さを持って、悪党達から音もなく資金を奪うと、その資金を悪党から不当に搾取された街の人間達に返すかのように、資金を悪党に虐げられた人達にバラまく。

 そんな”悪党専門のコソ泥”の姿に、大いに魅了されたこの街の人達が付けた銀青の泥棒猫の愛称は、いつの間にかこの街ですっかり定着する事になっただけでなく、多くのファンまで会得している。

 それに私達としては、本来悪党から回収した資金は、我々捜査権を持った騎士が責任を以てその出所を調べ、本来の持ち主に返すのも、私達騎士の立派な仕事なのだが、その責務を果たせないどころか、コソ泥が我々に変わって行っている事実もまた、私達にとって非常に由々しき事態でもある。



 アイツが行っている行為が、いくら義賊行為かつ出所が不正な資金(というけど、実際は街の人達から不当に奪った物だろう)を、悪党に苦しめられた人達に与えていようとも、アイツがやっている事は、ただの泥棒かつ捜査現場を荒らしている行為である。

 だから私達聖騎士隊からすると、このコソ泥も”ヤツ”と同様に、パラディン・ナイツが捉えるべき対象としている。

 だけどこのコソ泥、非常に俊敏かつ狡猾な所が厄介で、ここ最近悪党から資金を持ち去ろうとするタイミングが、我らパラディン・ナイツが悪党達と争っている隙や、漆黒の闇騎士が現場を荒らし「私達がヤツ追っている」タイミングという「悪党と私達が共に警戒が弱まったタイミング」を狙って、悪党の資金を音もなく根こそぎ奪っていく。


 オマケに資金を奪われる前に、コソ泥の存在に気が付けば、コソ泥はすぐさま逃げる様子を見せるし、追いかけて捕まえようにも、このコソ泥が得意とする魔法属性”風”の魔法をアイツは駆使して、建物の僅かな隙間を縫うような立体的な動きで逃走してしまう。

 そう考えたら、逃げる事に関しては、こっちの子悪党の方が質が悪いと言える。 


 そんな訳で、私のイライラは今日も最高潮!! コレはもう仕事終わりに飲まないと、やってられない気分だった!

 だから仕事を終えた私は、部下達を引き連れ、今日も私を最大に癒してくれるウィルが、領主の仕事の傍ら、領主の目が届かない街の状況を知る場所として、営んでいるバーにお邪魔して、今日もヤケ酒に入り浸っている。

 そんな私にとって最高の癒しの場に、最近唯一気に食わない存在が現れたのだけど、その子はいつも決まって私がお酒をそれなりに入れた時、私の前に現れる!

 そんな事を考えていると、私にとってこの場において唯一気に食わない存在が、相変わらず素っ気ない態度で私の元にやってくると、酒が入ったグラスを私に差し出してきた。

 そして今日もいつもの如く



「……今日も辛気臭い顔してますね。

 もしかして今日も髑髏の闇騎士と銀製の泥棒猫でも取り逃したんですか?」

 (この子は~! 今日も私にとって腹立つ存在×2に関する余計な一言を、平然と入れてくれるわね!!)


「……だったら何なのよ?」

「……いえ、別に」

「言いたい事があるならハッキリ言ったら?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて。

 エリート騎士である『聖騎士』かつ、魔法七階位第一位の光属性持ちのエリートの中のエリートで『光の騎士』なんて大層な称号を頂いてるだけでなく、『聖騎士隊』なんていう特務部隊の隊長を務めいる人が、子悪党と罵る人間を未だに一人も捕まえられない。

 もしかしてエレノアさんの実力って、言うほど大した事ないんじゃないんですか? って思いました」

「へぇ……今日も好き勝手言ってくれるじゃない?

 いいわ、今日こそあなたが小馬鹿にした”シャイン・ナイト”の実力が、どの程度のものか、その身を以て教えてあげるから、今すぐ表に出なさい!」

「……業務中なのでお断りします」


 カッッッチーン!!!!!!!!!!!!!!!!


 毎度私の事を挑発してくれるこの店の新人かつ、どうにも最近「いけ好かない」と思ってしまう子である”マリリン”に対して、今日と言う今日は、この小娘が馬鹿にしてくれたシャイン・ナイトの本当の実力を教えてやろうと思い、マリリンを取り押さえてやろうと思って、私はつい手を出してしまう。

 だけどこの子は、思いのほか身のこなしが軽く、無表情で私の出した手を躱して来るので、ムキになった私は、席を立ちあがってマリリンを追いかけ始めた。

 っていっても、既にお酒が回っているのもあって、普段より数段動きの鈍っている私。

 そんな状態の私が相手とは言え、上手く私の手を躱し続けるマリリン。

 そんなマリリンの姿が、どうしても昔よくウィルと共に遊んでいた()()()の面影が重なってしまうから

(もしかしたらマリリンがあの子なんじゃないのかな?)

 と思ってしまう事がある。

 だからマリリンが、私を侮辱するような事を言ってくるのは腹が経つけど、それでも私はマリリンを本気で捕まえる気になれないでいるから、この子が私に対して調子付いている一要因なのかも……

 そんな事を考えたせいか、私はマリリンに手を出すのをいつの間にか止めて、マリリンと対峙したままその場で固まっていた。

 そんな私の様子を見たマリリンは、相変わらず無表情のまま


「……もしかして、もう疲れたんですか? やっぱり聖騎士の実力なんて、口だけなんじゃないんですか?」

(前言撤回! こんな可愛げのないガキが、あの子の訳がないわ!!)

 こうして今日もこのバーにて、私とマリリンの壮絶な追いかけっこの続きが始まろうとした時


「二人とも……いい加減にしなさい!」

 そう言ったウィルが、私とマリリンの間に入る!

 そして私とマリリンの頭に、同時にチョップを振り下ろすと、私とマリリンの頭から、『ゴツン』という音が、同時に響き渡った!


「ううぅ……お酒が回った頭にチョップが響くぅぅぅ~……ちょっと、ウィル!

 酔いが回って弱ってる人間の頭に攻撃を入れるなんて、騎士を目指していた者としてあるまじき、恥すべき行為と知りなさい!」

「い゛、だぁぁぁい……ウィルフレッドさん! 何するんですか!?

 か弱い女の子に手を上げるなんて、人として、男として最低だと思わないんですか!?」

「はぁ~……二人とも、お店で暴れたら他のお客様の迷惑になりますよね?」

「「え……っと」」

 すみませんが、最低限のマナーが守れない方は、どんな方で誰であっても、今すぐこのお店から出て行って頂きますが……」


 『それでよろしいでしょうか!? お嬢様方!!』


 ウィルは顔こそ笑顔だけど、かなり本気で怒っているようで、何とも言えない圧力を放ちながら、私とマリリンに詰め寄ってきた。


「「ご……ごめんなさい……」」

 私とマリリンは、つい先程まであれだけ不仲な様子を見せていたハズなのに、ウィルに対して謝罪を入れるとなると、まるで事前に打ち合わせしていたかの如く、息をピッタリ合わせてウィルに深々と頭を下げ、ウィルに許しを請ってしまっていた。

最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。


この話で一端エレノア視点が終わり、次回からは別のキャラの視点で話を進めていきますので、次は誰の視点が話が進むのかは、次回のお楽しみという事で(笑)


もし、この作品を読んで何か気になる事や、分からなかったことがあれば、遠慮なくどうぞ。

そして、この作品が面白いと思ったり、続きが気になったら、良いねや、ブクマ等で応援して頂けると幸いです。

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