聖女の悲しみ
「私が人を救う理由ですか……そうですね、その事を一言でお伝えするなら不要な悲しみを生みたくないから、という思いからです。
ですが恐らくマリリンさんが私から聞きたいと考えているのは、私が『そう思うようになった切っ掛け』ですよね?」
ルーサ・ルカ様は、私の言葉足らずの質問から私が聞きたいと考えてる本質を察してくれて、私が本当に聞きたいと思っている部分を抜き出してくれたから「はい!」と答える。
「分かりました。
ですが、これから話す事はあまり面白い内容でもなければ、話を聞く側からすると少々酷な内容になるかもしれません。
それにこの話を聞けば、マリリンさんが抱いている私のイメージを大きく壊す事になるかもしれませんよ?
それでもマリリンさんは私の話を聞きたいと思いますか?」
「はい、聞かせてください」
念押し気味にルーサ・ルカ様に話を聞くのか尋ねられても、私の答えは変わらない。
前に髑髏の闇騎士から助けてもらった時に、髑髏の闇騎士は復讐の為に悪と戦っているって言ってたのを聞いて、きっとあの人も自分の為に悪と戦う事が、結果的に誰かを救う事に繋がっているんだと思った。
そして、以前モーリス・タウンの人達と一悶着あった後、バーでヤケ酒を煽って泥酔したエレンさんからウザ絡みされた時
「私はこの街の平和を守る為に活動してるってのにぃ~! なんで街の人に文句言われなきゃいけないのよぉ~!!」
「そんな事状況を見てない私に言われても――」
「つべこべうっさいわよぉ~、マリリン!」
「五月蠅いって言われるような事は何も言ってませんけ――」
「あ~もう、私だって何となく理由は分かってるのよ!
結局私がこの街を守ろうとする根源が、過去に情けない姿を晒した事で取り返しの付かない仕出かしてしまった自分への贖罪でしかないから、それが街の人の為に何かしらの形で伝わってる事ぐら……うっぷぅ」
「……とりあえず吐くならお手洗いでお願いします」
そんな一方的なやり取りが前あったんだけど、あの時エレンさんが言ってた事って「自分の為に戦う事が結果的に誰かを救う事になっている」という趣旨だった。
私もそうなんだけど、私の身近な人で「誰かの為になる事をしている人」って、自分の為に動いたら、結果的に誰かを救う事に繋がっている行動を取っている人が多いと思ったけど、ふと思ったのが皆自分にとって親しい人が傍にいたり、自分にとって親しみのある場所を守っているような気がした。
(じゃあ”自分の為じゃなくて”本気で誰かの為”に動いてる人って、どんな想いで動いてるのかな?)
そんな疑問を抱いたタイミングで”誰かの為に、とても広い世界で動いている人の代表”のような人であり、その活動に対して尊敬の眼差しを向けれる人と話す事が出来るんなら、誰だって「なんでそんな事ができるのか?」その理由を聞いてみたくなると思うんだよね。
つまり私は、ルーサ・ルカ様がどうして「全く知りもしない多くの人を救うために各地を回っているのか?」その理由を聞いてみたいだけなんだと思う。
「分かりました、マリリンさんのお望みである以上、お答えさせて頂きます。
私は元々小さな港町に住んでいました。 その町はこの街のように大きくもなければ、王都のような華やかさもない何の変哲もない町でしたが、私は小さくても町で暮らす人々が協力し、懸命生きている人達と、そんな人達が作った町を心から愛していました。
そして今では『南部の大津波』と呼ばれている大災害が起きた日、私はたまたまその当時の親しくしていた町の人から『話したい事』があると言われ、彼が『指定された時間に街の灯台の展望台に来てほしい』と緊張しながら言ってきたのを今でもハッキリ覚えています。
それに彼が私を灯台に呼び出した理由が、私にプロポーズしようとしていた事を知っていた私は、ちょっと彼に悪戯をしてやろうと思って、指定の時間より早く灯台の展望台に上り『展望台の隅に隠れておいて、彼が来たら飛び出して彼を大いに驚かしてあげよう』
そうと思って指定した時間より早く展望台に上った時です。
『南部の大津波』が突如発生したのは!」
「じゃあ、ルーサ・ルカ様が助かったのって……」
ルーサ・ルカ様が南部の大津波での被災者唯一の生存者だとは知っていたけど、生き残れた理由を知ると何とも言えない気持ちになった。
「違います! 私が助かった理由は灯台の展望台に居たからではないんです。
私は大津波に直ぐに飲まれなかっただけで、私の故郷が津波に飲まれていく光景をしっかりとこの目で見た直後に、灯台もろとも私も津波に飲みこまれてしまいました。
そして津波に飲みこまれた時、私の中に強く生まれていた感情はとても強い悲しみでした。
生まれ故郷が目の前から消えていった悲しみ、家族や想い合っていた人、親しくしていた町の皆ともう共に過ごす事が出来ない悲しみ。
沢山の悲しみにの感情が私の中で渦巻く中、私『はこのまま世界の最果てまで流されてしまうのでしょう……』と悟った時、私の水魔法の力は皆様から「神域」と評されるレベルまで覚醒を果たしたのです。
そして私は深い悲しみの感情の力で覚醒した力のお陰で、大津波の影響で激しく荒れ狂う海から陸地になんとか辿り付く事が出来ました」
「……」
私はルーサ・ルカ様の言葉を聞いて、何か声を掛けたかったけど掛ける言葉が見つからなかった。
「皮肉な話だと思いませんか?
私の水魔法が大いに覚醒して私の命が助かったのは、これまで私にとって全てだった世界が滅ぶ光景を目の当たりにしたからなんです。
だから私のこの力は、私にとって大切だった物全てを失ったから得られた力なんです」
「でもルーサ・ルカ様の故郷や大切な人達を奪ったのは、津波のせいで――」
「皆そう言ってくれますが、私は一人だけあの津波から生き残った時に、自分の醜さと愚かさに気が付いてしまったので、そのような言葉をかけて頂く資格なんてありません。
なんせあの時私は自分が助かる事を優先するあまり、覚醒した私の力を使って他に生きている方が残っていないか確認さえしなかった罪深い人間なのですから……」
私に大津波で唯一生き残れた時の心情を伝えるルーサ・ルカ様の感情は、本当に悲しそうな表情を浮かべていたのを見ると、私はもの凄く居た堪れない気持ちになった。
「フフフフ……可笑しな話だと思いませんか?
【深い悲しみを持って多くの人間を澄んだ水のような心で、多くの人に慈悲を施している聖女】等と評さ私れる私の真の姿は、所詮醜い人でしかないというのに……」
「それはルーサ・ルカ様が多くの功績を残してきたからですよ!
だからそんな悲しい事……言わないでください」
「そう言って頂けるのはありがたい事ですが、実際私はそのような経緯で生き残っている人間なのです。
しかしそんな醜い一面を持った私であっても、最低限の良心という物は持ち合わせていたみたいで、「神域」と称される私の水魔法が、私に多くの悲しみを与える切っ掛けとなった犠牲の中で生まれたのであれば『私はその悲しみに報いる必要がある』
私はそう強く感じました。
だからあの災害で生き残った私が、生涯をかけて果たすべきことは、この力で少しでも多くの人達の悲しみを癒し、私が経験した悲しみの渦に一人でも多くの方が飲まれないようにすべきだと!
これが私が各地を回って人々を助ける活動を始めるようになった経緯ですが、マリリンさんは納得がいく答えを得る事が出来ましたでしょうか?」
・・・
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ルーサ・ルカ様の話を聞き終わった後、私は結局ルーサ様の話に内容に圧倒されて何も答える事が出来なかった。
そして今何とも言えない気持ちのまま家に戻ってきた。
「……なんというか、色々とレベルが違い過ぎたなぁ」
ルーサ・ルカ様から私の知りたいと思っていた事を聞いた感想は、その一言に尽きると思う。
色々と考えて見たけど、私はきっとモーリス・タウンの人達が突如目の前から消えてしまったら、きっとルーサ・ルカ様みたいに”全く関係がない人達を救おう”なんて考えに思い至らないと思うし、ルーサ・ルカ様の話を聞くまで自分の事で精一杯過ぎてサナッタ・シティどころか、モーリス・タウン事もちゃんと考えた事さえなかったから。
そして、もしそんな事が本当に起きてしまった時を想像したら、私は泥棒を始めたあの時みたいに、私は例え【自分の為でも】もう一度と立ち上れる気がしない……
結局の所、今日私がはルーサ・ルカ様の話を聞いて知れたのは、周囲の人達は「自分以外の多くの事を考えて動いている」っていう周りの人の偉大さと、私は「自身の事しか考える事が出来ない」という、私の視野の狭さを思い知る事になった一日だったなぁ。
最後までこの話を読んで頂きありがとうございました。
ちょっと小難しい話になったかもしれませんが、人は自分の為に動いてるけど、その理由と目的は人それぞれです。
ですから自分より偉大だと思う人の話を聞いても自分が委縮する必要はない、と言いますが、誰かの話を聞いて自分の小ささを知った時って、委縮しちゃった経験ありませんか?
ちなみに私は結構あります(笑)




