慈悲深き聖女
「...…まさかこんな事になるなんてね」
ウィルフレッドはルーサや護衛の聖騎士隊共に、サナッタ・シティ内において治安が最も良くないとされる地区であるモーリスタウンを訪れたのだが、まさか治安が悪い地区の中でも最も治安が荒れている場所に、重役を連れて回る羽目になるなんて思ってもいなかっただろう。
ウィルフレッドはルーサに「モーリス・タウンまで案内してほしい」と頼まれた際、その理由を尋ねると
「この街の中でこの場所が最も悲しみに溢れているのを感じたので、私は少しでもその悲しみを癒してあげたいです」
そんなルーサの言葉を聞いたウィルフレッドは、驚きを隠せなかった。
なんせルーサはこの街に初めて来て、特にこの街の内情を伝えた訳でもないのに的確に現在この街で最も治安の荒れている場所を指定してきたからだ。
だからこそルーサの願いを聞いたウィルフレッドとエレノアは、正直にエレノアが向かおうとしている場所がどんな場所なのか伝えた。
だが、それでもルーサは毅然とした態度で
「そんな事関係ありません!
いいですか、人は苦しんでいるからこそ心の余裕がなくなる事で他人に対して強く当たり、拒絶の意思を示してしまうものなのです。
私はそんな人たちを一人でも多く救う為にこの地に赴いたのですから、例え貴方達にどれだけ反対されようとも、私は私の使命を果たす為に!
私自らの足を使ってでもモーリス・タウンに向かわせて頂きます!」
そう言って頑なに自分の意見を譲ろうとしなかったので、危険だと感じたら直ぐに引き返す事を条件でモーリス・タウンにルーサを連れてきたのだが、モーリス・タウンに辿り着くや否やルーサが向かったのはこの町で最も治安の悪い四番通りだった。
ここ最近アーサニーク・ファミリーの活動が以前より大人しくなった事もあって、以前よりはモーリス・タウンの住民が外部の人間を受け入れるようになったとはいえ、まだまだ治安が荒れている事には変わりない為、己の身を守る術を持たない神官であるルーサとって四番通りは危険な場所だ。
その事を考慮して、ウィルフレッドもエレン達聖騎士隊も直ぐに引き返せるように、最新の注意を払ってルーサの警護に当たるが
「この地に住まう皆様、私教会本部よりこの地で苦しんでいる人達を救う為に訪れた神官ルーサ・ルカと申します。
私に出来る事はほんの僅かもしれませんが、よろしければ皆様のお話をお聞かせください」
と、高らかに堂々と大声で四番通りで呼びかけたので、ウィルフレッド達はルーサの無謀な行動に焦りと危険を感じ、直ぐに四番通りからルーサを連れて退散しようとすると
「.本当に……ルーサ・ルカ様なんですか? お願いです! どうかこの町の現状を聞いて頂けないでしょうか?」
「もし良かったらウチの娘に会って頂けないでしょうか?」
「ウチのおばあちゃんもルーサ・ルカ様に会えたら、きっと喜びます」
ルーサの声を聴いた人達の反応は、ウィルフレッド達の予想に反して誰もが好意的にルーサの来訪を喜ぶ声で溢れていた。
こうしてルーサな悩みがある者には親身なって話を聞くし、それが例えどんな話であっても話を蔑ろにすることは無かった。
そして体の不調や外傷を負った者には、得意の水魔法で治癒能力を活性化させて治療に当たる。
そんなルーサの行動が、普段なら決して「良い雰囲気を醸し出してるとは決して言えない」四番通りの燻っていた空気を大きく変え、いつの間にかルーサの周囲にいる住民達は、笑顔の絶えない明るい空気が流れていた。
その光景を目の当たりにしたウィルフレッドとエレノアは、自分達がありとあらゆる手を尽くしても作れなかった本来のこの場所にあった光景を、短時間で作り上げてしまったのを目の当たりした事で、ルーサが「水の聖女」と呼ばれる真の理由を漸く知る事になる。
「本当に偉大な人だね、ルーサ様は。
あの人の街の住民に接する姿を見てると、僕はこの街を治める領主として、まだまだこの街に住んでる人達の声を真剣に聞けていなかったのが良く分かるし、まだまだ僕はこの街のリーダーとして至らない部分が多々あるというのを思い知らされたよ」
「私も似たような事を感じたわ。
私騎士の仕事は治安を守る事だし、そのために何をすべきなのか分かりきっていたつもりだけど、そのためにはただ悪党を懲らしめるだけじゃなくて、もっとこの街の人達の声にも耳を傾けながら行動する必要があるって思い知らされた所よ」
ウィルフレッドもエレノアも、ルーサが外部の人間に対して閉鎖的になっていたこの町の住民の心を、いとも簡単に開いてしまったのを見て、自分達の活動について色々と考え直す必要がある事に気付かされたようで、顔は晴れやかな表情を浮かべているが内心は複雑な感情が渦巻いているようだ。
そして水の聖女がモーリス・タウンで慈悲を施しているという噂は、瞬く間にモーリス・タウン中に広がり、ルーサと直接話したいと願う住民が次々とルーサの居る場所に押しかけてきた。
そして次々と押しかけて来る住民達を見てもルーサは
「出来る限り多くの方の話聞き、私が施せる治癒を多くの方に施したいと思っていますので、ご協力頂けないでしょうか?」
という願いを申し出せれてしまったため、急遽ウィルフレッドとエレン達聖騎士隊はモーリス・タウンの最も広い広場のある公園に、ルーサがモーリス・タウンにて多くの人達と触れ合う為の特設会場を即興で設置する事になったのだが、この会場の設置も先程ルーサに慈悲を施された四番通りに住む職人達の協力で、突貫で作った会場とは思えない出来の施設が完成してしまったとのは、いかにルーサと言う人間の人徳が高い人間なのかを物語るには十分過ぎる逸話だろう。
そして一人当たりの時間制限を設け、ゲリラ的に始まったルーサとの対談を待つ列には、フード被って顔を隠しているが、フードの下では「憧れの人と話せるチャンスを逃すまい!」と息巻いているマリーンの姿があった。
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